昼過ぎ、お日様も真上から少し傾き始めた頃に目覚めた。
ショートスリーパーというわけでもないのに2〜4時間寝れば完全回復を果たすこの身体は実に使い易い。
その代わりに人間として証明できるものをいくつか失ったが、個人としても人間でない事を指摘されれば反論するつもりは毛頭ないので無問題なのである。
記憶や人格を造られた身体に移し替えて改造や特殊なナノマシンを注入した結果、兵器としてはまずまずな性能のバケモノが生まれた。
その最初の被験体が自分である。
この身体に移し替えるきっかけとなった事柄が発生したのは今から10年前...。
電波塔事件だ。
当時戦場となったあの場所で居たのはリコリスやテロリストだけでは無く、我々ハウンドも民間人の保護と危険物の撤去を名目にフュンフクラス(15歳)の時の自分とドライクラスの先輩男性ハウンドとツーマンセルで任務に当たっていた。
生存している民間人の反応はなかった。
あれだけ激しい弾の嵐で生きている民間人がいればそれは奇跡と言っていい程だ。
危険物も担当したルートには存在せず、銃撃戦の中を掻い潜っていた時にそれは起きた。突然銃撃戦が止んだかと思いきや次の瞬間、爆発音と主に建物の崩落が始まったのだ。
自分はその任務が初陣と言うこともあり、訓練はされていたが咄嗟のことに対応できずその場から動けないでいた。すると先輩ハウンドがこちらに突っ込んできて自分を突き飛ばした。
尻餅をついたと同時に目の前で大きな衝突音が発生し砂埃が巻き起こった。
そして、恐る恐る目を開けるとそこには先輩ハウンドが瓦礫に押しつぶされ物言わぬ肉塊に変わっていたのだ。
あの光景は少しトラウマになっている。
そこで足を止めていたら自分は先輩のあの行動を無駄にしてしまうと思い立ち上がろうとした。
だが強烈な腹部の痛みとともに立ち上がることができなかった。
腹部に目を向けると深々とパイプが突き刺さっており、そこから血がドクドクと漏れ出ていた。
どこから飛んできたかは不明だが少なくとも自分がここで生を終えると言うことだけは理解できた。
ただ、今でも理解できない点がある。なぜあの時ドライクラスの先輩ハウンドが自分を命を張ってまで助けたのか。フュンフクラスはハウンドの中で下っ端に位置する存在、代わりはいくらでもあると言うわけでもないがドライクラスと比べると価値はほぼないに等しい。
それとも先輩は自分に何かを見出したのだろうか。
...あの後別のハウンドに自分は回収され、LA(last attack)の研究機関に送られた。研究機関と言っても医療がメインの施設でウイルスの開発をしていると言う場所では無い筈だった。
実際の所は死にかけの自分の意識と記憶を別の身体に移行して兵器に仕立て上げると言う研究機関として真っ当なことをやっていたのだから驚きである。
LAはDAと比べて隊員に隠していることは少なく、研究機関の件も教えられていた情報が真実だと思い込んでいた。
とはいえそれが理由でLAを信頼しなくなったという事ではない。
正直前の身体と比べて便利さが桁違いであるため、研究機関の独断とはいえ感謝している。独断で行ったことに関して本部から慰謝料が送られてきていたが、どのみちあのままではベッドの上の生活しか道がない可能性があったので感謝という意味で慰謝料は受け取らなかった。
唯一不便な点があるとすれば、身長が大幅に縮んだので体術主体の戦い方から射撃主体の戦い方に変える必要があり、訓練のやり直しに手間取った事くらいだ。
夜中歩いていて警察に話しかけられたとしてもハウンド隊員証を叩きつければ解決なのでロリになったとしてもそこまで不便な点はないと言う事だ。
さて、自分の人外な点について振り返っていこう。
まずは異常な移動速度だ。
人間並みの走りや歩きはもちろん可能だが全力で走れば時速60kmまで出すことができる。トップスピードまで3秒かかるのが少し残念な点かもしれないが...。
次に身体の頑丈さ。これは免疫力だけでは無く衝撃や身体へのダメージを減らす事を指す。電車に撥ねられたとしても吹っ飛びはするが、多少痛い程度で済む。
銃弾や打撃、斬撃には強い。だが、炎の耐性はないのでそこには注意が必要である。普通に火傷はするからね。
自然回復能力。常人の数倍の速度で傷が治っていく。
普通なら跡が残るような傷の深さでも転んでできた傷並みの速さで治る。
擦り傷程度なら数秒で治るかもしれない。
あとは...動体視力や思考速度、反応速度、筋力などいろいろな面でおかしい所がある。その分代謝が増えたから食べる量も増えた。それは仕方がない。
この身体は身長が147cmで体重64kgと釣り合いがないが、それは別に太っているとかではない。内臓や骨の構成する物資が変わり、密度も向上しているため重くなっただけなのである。見た目は小さいのに重いと言う、正に隕石。
研究機関は見た目にもこだわったのか煌びやかな銀髪で恐ろしく整った顔立ち、可愛らしくはあるがどこか不自然な...そんな容姿をしている。紫色のアメジストのような瞳は妖しく輝き、その目を見たものは......何かあるわけではない。ただ綺麗なだけだ。
そんなこんなで少し燃費の悪い身体で生活している自分なのだが、早速お腹が空いたようで腹の虫が鳴いている。
ベッドから降りてシュシュを拾い上げ、腰まで届く銀髪をポニーテールにする事で纏め上げてキッチンに向かう。
冷蔵庫の戸を開けて中を見る...。
(今日は甘めのもので何か...ん?もやししか無い...だと...!!)
もやしも調理次第で絶品料理になるのだが丁度米を切らしていたため、意味がない。
ため息を吐くと同時に今日は外食する事と買い出しをする事が決まった。
休日とはいえ着るものは特に変わらず、ハウンドの制服(シャツにネクタイ、防弾チョッキにブレザー、そして下はスカート)をラフなものにした(ブレザーを普通の白いパーカー)だけである。ストッキングはもちろん履くし、ゴツくて可愛さ皆無なブーツで出掛ける。容姿が整っている分多少雑なファッションでも無問題だ。
財布や端末を入れた普通のなんの仕掛けもないリュックサックを背負うが一応護身用武器としてボールペン型の銃とポケットナイフを忍ばせておく。
お出かけ準備を終えた自分は、外の世界へと足を踏み出した。
─────────────────────