whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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待つもの、追うもの、護るもの

 

 

 

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―――有明空港 屋上ヘリポート

 

 

すっかり闇に包まれた景色に、ヘリのライトが周辺を明るく照らしつける。そのライトを背後に仁王立ちする人物。

 

その人物は目に角を立て、微かに不機嫌そうな様子が伺える。監視官ジャケット、そしてハーフアップに結っている髪の毛が、ゆらゆらと風に靡く姿に舞白だけはニコニコと笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「美佳ちゃん!久しぶり〜!」

 

狡噛と宜野座の間に佇む舞白は、呑気に嬉しそうに笑みを浮かべ、左手をブンブンと揺らせば、向かいの霜月は相変わらずの相手に小さく息を吐く。

 

 

「久しぶりだな、"監視官"」

 

その隣で舞白と同じく宜野座も声をかける。

狡噛はさっさと歩き出せば、霜月に挨拶することも無く横を通り過ぎ、待機していたヘリへと乗り込んで行った。

 

 

「…相変わらずで安心したわ、舞白。」

 

目の前で立ち止まる舞白に視線を向ける。そして隣の宜野座へも視線を向けるも明らかに違う態度で眉を顰める。

 

「宜野座さん。"監視官"なんて呼び方して、嫌味?」

 

「そのつもりはないんだが…」

 

舞白はそんな2人の様子にやれやれとため息を漏らす。そして痺れを切らしたかのように、霜月は声を挙げる。

 

 

 

「これで貸し借りなし!国内は私たちの縄張りよ?そうあの"いけすかない金髪"に伝えて?」

 

左手を腰に当て、右腕を2人へと突き出し、人差し指をゆらゆらと揺らす。その様子を見て、宜野座と舞白はクスクスと笑みを見せる。

 

「自分で話せばいいだろう?」

 

「そうそう。課長同士、対等に話せるようになったんだし?」

 

「だから!いけ好かないって言ったでしょ?」

 

ヘラヘラとする様子の2人に、ムッとした表情を見せる霜月。しかし腕を引っ込め、両腕を組むと2人から体を逸らし、どこか恥ずかしそうに次の言葉を発する。

 

 

 

「"優秀"な人間を引き抜かれて腹たってんの」

 

決まりが悪そうに顔をぱっと赤らめる霜月。

それに対し、宜野座と舞白は再び面白がるように相手をじっと見据える。

 

「優秀?」

 

「美佳ちゃん。やっぱりそう思ってたんだ〜」

 

"ねぇ?今の聞いた?"と舞白は宜野座の隣でコソコソと話す素振りを見せると、霜月は更に赤面し必死に誤魔化すような態度を見せる。

 

 

「あっ……言葉の"あや"よ!

潜在犯、それに元国外失踪犯がいい気にならないでくれる?」

 

フンっ!とついには2人に背を向けると、宜野座と舞白は視線を合わせ、笑みを浮かべる。そして霜月の横を通り過ぎ、狡噛と同じくヘリへと歩き出すのであった。

 

 

「こっちの課長には俺から伝える」

 

「じゃあまたね?美佳ちゃん。」

 

離れていく2人の背中をじっと見つめる霜月。すると、ふと次のような言葉を2人に言い放つ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ?先輩には会ったの?」

 

"先輩"、それは常守を指す。

気づけば、彼女が拘留されて数年が経っていた。

 

霜月の言葉に2人は立ち止まるも振り向かない。先に言葉を発したのは宜野座のだった。

 

 

「…その必要は無い。あの人のために、俺が何を成すべきかは分かってる」

 

そう言い放つと、宜野座はヘリへと乗り込む。そして、舞白はゆっくりと首を動かし、霜月へと笑みを向ける。

 

 

「目的は皆同じ。私も何を成すべきか、いつも考えてるよ。」

 

「……あんたはコソコソと、先輩の所に入り浸ってるのは知ってるわよ。」

 

「バレてないと思ったんだけど。」

 

「舞白。…来る時が来たら、先輩はそれ相応の裁きを受ける。分かってるわよね?」

 

神妙な面持ちでじっと霜月に見つめられると、舞白からも笑顔は消え、切れ長の瞳からは冷徹さが微かに感じられる。その瞳を久しぶりに見た霜月は、ゴクリと息を飲んだ。

 

 

「"為すべきことは熱を与えることではなく、光を与えること―――"私はそう考えてるよ、美佳ちゃん。」

 

アイルランドの劇作家、"バーナード・ショー"の遺した言葉を引用する舞白。その言葉の真意は読み込めないものの、霜月は右手で左腕を掴むと舞白から視線を落とす。

 

 

そして舞白もヘリへと乗り込むと、外務省のマークが印字されたヘリは空高く飛び立つ―――

 

 

 

 

 

「…光を与える、ね―――」

 

飛び立つヘリを見上げる霜月。

理性と本能が真っ向から対立しているような、心の葛藤を表すような表情で、ヘリが消え去ったあとでも、闇夜の空を見上げ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、背後の気配に勘づくと、霜月はいつもの様に険しい顔つきに変わると、パッと勢いよく後ろを振り向く。

 

 

 

 

「このクソバカども!戻れと行ったでしょうが!」

 

血相を変えて怒りをぶちまける霜月。

片手で拳を作れば、グッと力を込め、胸の前で震わせていた。

 

その様子に怯む様子のない、慎導とイグナトフ。

むしろ慎導は苦しい言い訳を口にする。

 

「えっと…通信が切れてしまいまして…」

 

へへへ…と頬を指で搔く仕草を見せる。

そして隣で冷静な表情を浮かべたままのイグナトフは、あの3人について霜月へ問いかけた。

 

「あの3人、何者ですか?」

 

相変わらずの2人の様子に、霜月も燃え盛る炎が鎮火するように、深いため息を漏らせば、呆れ顔で両腕を組む。

 

「…外務省行動課、狡噛慎也、宜野座伸元、宜野座舞白…。3人とも、元一係よ。宜野座舞白に関しては外務省からの出向という形で、短期間だけだったけどね。」

 

「元一係…」

 

慎導はその事実に驚いた様子を見せる。

 

 

「些々河が逃げようとした出島の会社は、行動課のトラップ企業。かなり前からあいつらは、トランスポート社を捜査してたのよ」

 

霜月は2人の間を抜け、ヘリポートから移動しようとエレベーターへと歩き始める。そして、不意に立ち止まると、2人に背を向けたまま台詞を放つ―――

 

 

 

「それと、監視官でいたいのなら―――」

 

 

 

ゆっくりと背後の2人へと振り向くと、真剣な眼差しでじっと見据える。

 

 

「上司の指示に…システムの利益に従いなさい」

 

いつもの冷徹な瞳と唇は、定まらぬ考えを反映するように、ぼやけて見えた。そんな上司である霜月の表情に対し、慎導とイグナトフは神妙で読めないような表情を浮かべていた―――

 

 

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―――同時刻

都内某所―――

 

 

 

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閑静な高級住宅街。

部屋の外からは美しい景観の庭が見え、手にしている酒が余計に進んでいく。

 

 

ソファに腰掛け、傍らに置いているモニターに視線を送る男の姿。その人物は、国際空港にてマニアと共に航空機の撮影を行っていた赤い傘の男―――

 

 

 

「あーあ…これは出張かな?」

 

モニターに映るのは機内で些々河が須郷達に確保される様子。そしてロビーで揉み合っていた狡噛達と慎導達の姿―――

 

そして部屋の奥では、1人のロリータチックな服に身を包んだ小太りの女性がカタカタとキーボードを操作していた。

 

「小畑ちゃん、余計な仕事がひとつ増えたよー」

 

小畑というその女性は、男の発言に苛立った様子を見せる。

 

「うるせーな、分かってるよ。梓澤!」

 

「そんな怒らないでよ〜…」

 

見た目にそぐわず荒い言葉を発する相手に"梓澤"という男は、どうやらその状況に慣れているようで軽くあしらう程度。

 

 

そして酒の入ったグラスを顔の前で揺らせば、梓澤はニヤリと妖しげに笑みを浮かべる。

 

 

 

「…本当に、面白いよ、君たちは―――」

 

 

気味が悪いほど光り輝く美しい月。

男はそれをじっと見上げると、酒を口に含む―――

 

 

 

 

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―――都内某所 地下施設

 

 

 

・・・・・・・

 

 

怪しげな雰囲気を放つホログラムを中心に、3人がそれを囲む。

 

 

『リレーション オーバー

コングレスマンはリゾルツを表明してください―――』

 

"ラウンドロビン"は3人のコングレスマンに指示を出す。

 

 

 

 

 

「"インスペクター"1名が行動課の手に落ちたか。これを読んだ静火君は大したもんだ」

 

代銀は視線を左へと逸らし、無表情で真っ直ぐと正面を向く法斑へと視線を向けると、微かに口角に弧を描く。

 

「これがラウンドロビンの意志であり、私たち"ビフロスト"の安泰に不可欠だったと?」

 

同じく裁園寺も法斑へと視線を向けると、優美に口元に指を添え、妖艶に笑みを浮かべていた。

 

 

法斑はまるで人形のように表情を変えない。2人と視線を合わせることなく、淡々とした様子で口を開く―――

 

 

「サブプライム・ダイヤグラムの崩壊も、行動課のトラップも自明。それだけです。」

 

感情が見えない相手に、代銀と裁園寺はそれに続けるように言葉を放つ。

 

「誰かを生け贄にしてトラップをあぶり出し、ダイヤグラムを組み直す必要があった」

 

「すべてはビフロストのため、インスペクターの犠牲など安いもの、お見事ね?法斑さん―――」

 

 

 

そしてその瞬間、中央のホログラムが眩しいほどに再び光を放つ。

 

 

 

『リゾルツ確認 配当を実行―――』

 

ラウンドロビンは3人それぞれに"配当"を実行する。代銀や裁園寺に比べ、圧倒的に多く法斑に配当されていく。法斑の目の前に積み重なれていくのは、まるでカジノのチップのようなもの。しかし、相変わらず法斑は無表情のままだった。

 

 

そして代銀は高揚したような気分を見せれば、法斑に向け口を開く。

 

 

 

「君が次の親だ。…楽しみだよ静火君」

 

 

「―――こちらこそ」

 

 

 

 

 

代銀と裁園寺は彼を警戒していた。

全くもって感情が読めない法斑。

 

そして、再び

次のゲームが始まる―――

 

 

 

 

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「ようやく、突破口が開けた」

 

 

外務省 行動課 課長室―――

 

花城はモニターに映る、霜月へと視線を向ける。

 

 

 

「この成果は、やはり彼女の…

常守朱の行動が我々を導いたと言っていい―――」

 

その話に、霜月は曇った、怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「その話はやめましょう。

…彼女もいずれ正当な裁きを受ける、それが彼女の望みよ」

 

 

「あなたの望みは国内の狐狩り。約束通りお任せするわ?気をつけてね、霜月課長」

 

 

「心配無用。必ず成し遂げる」

 

 

「頼んだわ」

 

 

花城は霜月との通信を切ると、目の前でその様子を静かに見守っていた舞白へと視線を移す。

 

 

 

「美佳ちゃん。随分大人しかったですね?課長」

 

久しぶりに声を荒らげない霜月との会話を耳にしたのは久しぶりだった。その言葉に花城は小さく笑みを零すと、デスクへ両肘を立て手を組む。

 

 

「彼女も重荷を背負って大変なのよ?私が"優秀な人間"を3人も引き抜いたから…、少しはこちらも考えてあげないとね」

 

「宜野座さんに聞きましたね?その言葉。美佳ちゃんが何回も言うものですから…」

 

2人は視線を合わせクスクスと笑みを浮かべていた。

 

 

 

「ところで舞白。また常守朱の所へ?」

 

「…そうですね。任務も一段落しましたし。」

 

「あなたはあなたで、そっちでも動いてなさい。」

 

「はい。勿論です、課長―――」

 

 

舞白は花城へ一礼すると踵を返す。

その表情は、誰にも見せない"猟犬の顔"

 

酷く冷たく、睨みつけるようなその視線は、何を考えているのか―――

 

 

 

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・・・・・・

 

 

 

 

 

 

―――サイコパス矯正センター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、……うん、受け取ってるよ、―――うん」

 

 

厳重に警備された施設最奥の部屋にて。

常守はPCを目の前に、誰かと会話をしていた。

 

「次の報告を待ってるわ―――

……ええ、2人を助けてあげて」

 

 

 

 

「―――ありがとう、雛河君」

 

 

 

常守は雛河との通信を遮断すれば、カタカタとキーボードを操作し始める。

 

 

 

 

 

 

―――私は今、いつ始まるか分からない裁きを待つ身だ。

 

だが、それ故にこの社会から初めて解放されたとも言える。

 

やがて判明するであろう、この社会の真実。

 

その時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は何を信じるのだろうか―――

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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