whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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"怖い人"

 

 

 

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―――11月中旬

脳科学者 及び

小宮カリナメンタルケアスタッフ

土谷荒城の死から数日後―――

 

 

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千代田区 永田町

肯定党本部―――

 

 

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「小宮カリナです」

 

 

"小宮カリナ"と名乗る女性、目の前の人物と握手を交わそうと手を差し出す―――

 

 

 

明るいブラウンのミディアムヘアー。整った容姿。服装も良い意味で政治家っぽくなく、金の刺繍が施された、鮮やかなブルーのカーディガンに細身の白いパンツ、と

正に"アイドル政治家"らしい見た目をしていた。

 

入江はそんな彼女を、"キラキラしている"と口にしていた。

 

シビュラ判定に従い4歳で芸能界入り。

9歳の時にはギャランティー管理を巡って両親は離婚、その後は事務所移籍や、シビュラ公認アイドルグループに属したり、かなりの苦労人だった。

 

 

2年前、まだ新人だった時の彼女は金髪で派手な印象を受けていたが、今は洗練された女性、政治家へと成長している様子だった。

 

 

 

「はじめまして。公安局刑事課、慎導灼です。今日はお忙しい中お時間―――」

 

「すごい!本物の刑事さんですね?」

 

握手を交わす慎導、その背後で静かに様子を見守る入江。やけに嬉しそうに興奮する小宮の様子に、2人は驚いた様子を見せる。

 

 

「あ〜、はい!一応刑事さん……」

 

「私、昔ドラマで演じたことがあるんです!あと―――」

 

慎導の言葉を遮るように次々と口を開く小宮。そして彼女は手を離すと右手の指を顎に添え、何かを思い出すような素振りを見せる。

 

「新人の時、ある討論会でね?"銀髪の女の子"の刑事さんに身体検査された事があるんだけど……、その時にブローチを渡したんだけど……まだ戻ってきてないのよね?」

 

過去の刑事との遭遇話を口にすると、背後の秘書官に"ね?"と声を掛ける。

 

 

「((……銀髪の女の子、刑事……

……恐らくは宜野座舞白さん―――))」

 

慎導と入江は、先日 有明空港で対峙しあった行動課の舞白を思い出す。霜月の話によると、短期間だけ刑事課に出向していたと聞いていた。

 

 

「あの刑事さんに伝えておいてください。"いつになったらブローチ返してくれるの?"って」

 

"運良く、貸し出してくれたスポンサーにはバレてないけど!"と両手を腰に添え、ふんっと口を尖らせる。

 

「はい、伝えておきますね。」

 

慎導はニコッと無邪気な笑みを向けると、小宮もつられるように微かに笑みを向ける。

 

 

「でも……やっぱり刑事さんを目の前にすると、緊張しちゃいますね」

 

「俺こそ緊張しちゃいます」

 

慎導は目の前の可愛らしい女性に、まるで照れるように呑気に笑っていた。

 

すると、小宮の背後に佇んでいた秘書官"アン・オワニー"が口を開く。

 

「それで、公安局の方々が何のご用ですか?」

 

オワニーは少し怪訝そうな表情を浮かべると、慎導と入江を交互に見据える。すると慎導は呑気な表情から一変、真面目な緊張感漂う表情へ変わる。

 

 

 

 

 

「土谷荒城博士、ご存知ですね?」

 

小宮の表情が微かに固まる。そして少しうつむき加減になるも、再び視線を慎導へと向ける―――

 

 

「……はい。」

 

その様子にオワニーは心配そうな視線を向ける。

 

 

 

 

「ゆっくり、お茶でも飲みながらお話しましょう?どうぞ、そちらにおかけになってください―――」

 

 

慎導と入江はオワニーに促されるまま、傍らのソファ席へと腰掛ける。

 

 

 

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カラン、カラン―――

 

 

小宮が手にするオレンジジュースのグラスから、氷がぶつかり合う音が響く。ストローで混ぜる仕草を見せながら、小宮は土谷について語り始めた。

 

 

 

「メンタルケアスタッフとして、事務所のみんなが頼りにしてました、……悲しいです」

 

 

小宮の瞼に深い哀愁がこもる。深い悲しみに覆われているような様子が感じられていた。

そして、小宮の隣に腰掛けるオワニーが2人に問いかける。

 

「土谷博士、自殺の可能性があるんですか?」

 

「…それが、よく分からないんです。何かトラブルとかありませんでしたか?」

 

「……トラブル?」

 

オワニーは微かに眉を顰める。

その様子に慎導は、困ったような笑みを浮かべる。

 

「いや、今のはナシで……」

 

「え?」

 

「あったら、正直には言いませんよね」

 

慎導とオワニーのやり取り。

小宮はじっと様子を伺うのみだったが、キリッと目付きを変えると、小宮はジュースの入ったグラスをテーブルへと置き、口を開く。

 

「言えます―――」

 

素直に話そうという意思が感じられると、慎導は驚いた様子だった。

 

 

「土谷博士は優秀な方でしたが、私のストーカーみたいになっていたところがあって……。それで色相が思わしくなかったんです。」

 

彼女の発言から辻褄が合う点があった。

土谷博士が転落した場所は、宿泊型の都内の高級メンタルケア施設の真下にあった、工事中のプールの中。水は張られていなく、そのまま硬いコンクリートに叩きつけられていた。

 

どうやら、小宮と何かあったのか、それを引き金に色相悪化し、メンタル治療を行う為に入所。

 

治療のかいなく色相悪化を苦にして自殺―――

それが普通の考え方だとは思うが、慎導はそうは思わなかった。

 

宿泊していた部屋はすでに調査済み。

 

室内には床に転がった携帯端末、画面の割れたテレビ、散らばった瓶の破片……部屋の窓にはビッシリと土谷の指紋、手形が残っていた。

 

"窓から飛び降りようとした"

"あるいは部屋から出ようとした"

 

慎導とイグナトフはそのように土谷の行動を予想し、慎導はその部屋でメンタルトレースを行った―――

 

 

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酷く荒れる土谷。

部屋の外へ出ようと扉に触れるも、何故かロックされ開かない。

 

 

そして、彼はとうとう窓をこじ開け、高層ビルから落下―――

 

 

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「ストーカー、ね……」

 

入江は目の前の彼女が放った言葉に不意に呟く。そしてその隣でニコニコと微笑む慎導もそれについて彼女に言葉を放つ。

 

 

 

「可愛い子には付き物ですね?

……"ストーカー"―――」

 

その慎導の発言に、小宮はムッとした表情を向ける。

 

 

「それ、褒めてるんでしょうか?」

 

同じく、隣に座るオワニーも眉を顰める。

 

 

「土谷のために高額なケアを用意したのは、小宮の優しさなんです。」

 

明らかに不服そうな2人を前に、慎導はニッコリとした呑気な表情を変えることはなかった。

 

「うんうん、ですよねぇ……」

 

 

オワニーの表情がさらに曇る。

 

 

 

「……申し訳ありませんが、都知事選で忙しく、これ以上は」

 

すると、慎導と入江はゆっくりとソファから立ち上がる。

 

 

「ええ。ご協力ありがとうございました。」

 

 

そして、秘書官のオワニーと小宮は部屋から立ち去る―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"怖い人"ですね?小宮さん」

 

「え?」

 

「俺とだけ話して、入江さんは見ようともしなかった。呼ぶ時も"刑事さんたち"じゃなくて"刑事さん"って」

 

「潜在犯には、触れるのも嫌ってか?」

 

「―――入江さんが執行官だなんて、ひと言も言ってませんよ?」

 

「確かに……そうだな……」

 

2人も部屋から出ていくと、横並びで歩くと会話を続ける。

 

 

「彼女は過去に1度だけ、刑事、恐らくは"宜野座舞白"さんに遭遇してる。でも、その時だけ。そんなに深く関わってはいないはずなんです。」

 

「……あの外務省の……」

 

「…そうだとしても、ほとんど予備知識がない中で片方が潜在犯だと見抜いた。」

 

慎導は歩きながらデバイスを操作すると、小宮の過去の経歴を再び確認する。

 

―――シビュラ公認4人組アイドルグループ、"イグジステンス"に所属するも、他のメンバー全員の色相悪化でグループ解散―――

 

 

 

「仲間全員が潜在犯になっても、自分1人はクリアでい続けた。意志の強さだけじゃない。……メンタリストの才能がある。」

 

「……もし、犯罪者だとすれば……」

 

入江は隣を歩く慎導へと視線を向ける。

 

 

「手強い相手です」

 

 

「……おっかないねぇー……」

 

やれやれ、と

入江はため息を漏らす。

 

するとその瞬間、慎導のデバイスから通話を知らせる音が鳴り響くと、すぐに応答する。

 

 

 

「……炯?何かあった?」

 

相手はイグナトフ。

彼は別で、事件調査のため、もう1人の都知事候補、優生党の薬師寺康介の元へと訪れていた。

 

『小宮カリナは?』

 

「……もう話が終わって、俺と入江さんは戻るとこ―――」

 

『…………しまった……』

 

何故か慎導の言葉に落胆するような声色のイグナトフ。何かあったのか?と、2人はその場に立ち止まり、慎導は慌てる様子を見せる。

 

 

「炯、どうしたの?……もしかして、何か事件に繋がる事が……」

 

 

 

『小宮カリナのサインを―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イグナトフから放たれた言葉に、慎導と入江は目を点にする。

 

 

 

「……サイン?」

 

「イグナトフ監視官、小宮カリナのファンだったのかよー」

 

『ま、待て!そういう意味じゃない……』

 

変な誤解を生み出してしまったと、イグナトフは後悔していた。

 

そう、イグナトフの目的は宜野座舞白の口封じ。予め慎導に頼んでおくことを忘れていたと頭を抱えていたのであった。

 

「またどこかで会えたら貰っておくね、炯?今日はもう無理そうだからさ?」

 

『別に、俺が欲しいわけじゃないから大丈夫だ。知り合いに頼まれて……』

 

「苦しい言い訳っすねぇ〜。素直になったらいいじゃないっスか?」

 

『……入江……』

 

"入江"という言葉に、微かに含まれる怒りの感情。それに怯える入江、そして隣で面白そうに笑う慎導。

 

 

 

「炯。小宮カリナのファンになる理由が分かるよ」

 

『灼まで……、だから違うと……』

 

「俺も、ちょっと気になるんだ。"小宮カリナ"」

 

慎導の口振りから、何かを掴んだのだろうと察したイグナトフ。彼は含み笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

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公安局刑事課一係は、土谷荒城、そして小宮カリナ。都知事線の裏で動く怪しい影――

 

外務省行動課は"狐"を追うために、彼ら独自で行動を――

 

 

 

全く違う捜査を行う刑事課と行動課。

それはいずれ、1本の道へと、"狐"へと繋がることは互いにまだ知る余地もなかった―――

 

 

 

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