whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
・・・・・
・・・・・・・・・・・・
同日、午後21時過ぎ――
・・・・・・・・・・・・
『緊急速報をお伝えします』
和やかなバラエティ番組が一変。
知的な印象を受けるアナウンサーが画面に映ると、ラーメンを啜っていた男は、ボーッとニュース画面に視線を送る。
『東京都知事に立候補した、薬師寺康介氏の第一秘書、リー・アキさんが
暴行を受け、殺害されました―――』
テレビ画面に映るのは薬師寺康介の映像。熱烈な演説を行う人物の背後に佇むリーの姿がハッキリと映されていた。
「……ん…?」
ズルズルと啜っていたラーメンを口に含んだまま、動きを止める男。
『犯人はネット上で犯行声明を出し、リー・アキさんの人種に関わるヘイトスピーチを主張しています。』
その瞬間、テレビ画面に食いついていた男は驚きのあまり、口に含んでいたラーメンを派手に吐き出すと、家の持ち主の女性が即座に怒鳴り散らす。
「うっ…………ぶぇっ!!!」
「汚ぇぞ!クソ梓澤!!」
デスクで作業を行っていた小畑は、傍らに置いていた大きなぬいぐるみを思いっきり梓澤に投げつけると、見事に頭部にヒット。
ポカンと口を開けたままの梓澤。かなり呆気に取られている様子だった。
「…え…何で?どゆこと…」
手に持っていたカップラーメンの器をテーブルへと置くと、ジリジリとテレビに近寄っていく。
「……下手な襲撃、下手なリレーション……
……"セカンド・インスペクター"の仕業かな?」
"コングレスマンの誰かが、セカンドをプランに引き摺って、襲撃させた……か"
梓澤はニヤッと笑みを浮かべていると、再び頭部に衝撃が走る。今度は硬い鈍器なようなもので殴られると、さすがの痛みに頭を押える。
「おい!てめぇが吐いたもんは、てめぇで片付けろ!」
「……痺れるねえ……小畑ちゃん……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・
――地下施設――
・・・・・
「誰の伏せ札が、薬師寺陣営を襲撃したのかしら?」
「仮にだ、どちらかが"私のです"と宣言しても、君は信用しないだろう?裁園寺君…」
裁園寺の言葉に、代銀は含み笑いを浮かべながら言葉を放つ。そして、中央で炯々と光るホログラムにとある画像が浮かび上がる。
裁園寺はその画像に映る"2人"の人物を睨みつけるように見据えると、チラッと法斑へと視線を向ける。
「そして、都合よく現れたのは外務省行動課の人間。…一体、誰の差し金かしらね?」
「……………」
法斑は動じない。相変わらず無表情で真っ直ぐと前を見据えていた。
「世論誘導用のAIボットにインベスト。リレーションブロックの処理は後回しだ」
「こちらも同じく、世論誘導にベット」
代銀、裁園寺、それぞれがこのゲームに対して、新たな"投資"を行い"賭け"
ていく。しかし、法斑は全く違う方法をとる。
「―――私は、公安局刑事課一係のプライオリティー再設定を提案します」
「反対よ、リスクが高すぎる。再び私たちの存在を、シビュラに知らせる結果になりかねないわ」
「同意見だね」
かたくなに、公安局刑事課一係に執着するような様子を見せる法斑。その様子に、裁園寺と代銀は苦渋の表情を浮かべる。
「では、自分がアセットを処理します」
「あらあら、親は大変ね?」
「処理に失敗すれば、ラウンドロビンに執行されるのは君だぞ?静火君」
「――お構いなく」
法斑は、まるで先を見越しているかのように、じっと前を見つめていた――
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
――翌日 昼過ぎ
公安局ビル 刑事課一係オフィス――
・・・・・・・・・・・・
オフィスに揃った一係の監視官、執行官たち。
その視線は、雛河デスクのモニターへと向けられる――
『薬師寺康介が都知事になれば、我々は外国人に職も権利も奪われる。移民肯定派にこの平和な社会を破壊させては、絶対にならない―――』
悪趣味なアニメーション動画。
薬師寺が所属する移民肯定派に反対する意見動画が拡散されていた。
誰がどう見ても悪意のあるアニメーションで、薬師寺が悪魔のような怪物になったイラストに、日本地図が描かれた爆弾など…
見るだけで色相が悪化しそうな映像だった。
そしてプツッと映像を切ると、雛河は口を開く。
「ネット上では、やはり小宮カリナ支持者の仕業、という見方が強いです。」
その言葉に、入江は両腕を組むと、椅子に深く腰掛けると仰け反るような体勢をとる。
「薬師寺も、やつを推薦した優生党も、入国政策を歓迎してるからな。」
「野郎みてえなサラブレッドにとっちゃ、遺伝子さえ優秀なら人種は関係ねえんだろうよ」
廿六木は"やれやれ"とした様子で、入江と同じく怠そうに椅子に座っていた。
「――しかも、後ろについてる企業連合は、入国者を大量雇用し、安く働かせることしか考えてねえ、クソみたいな団体だしな」
廿六木のデスクのモニターには、その企業連合の社名が並んだデータが表示されていた。それに睨みをきかせていると、執行官の空きデスクの椅子に腰をかけていた霜月がゆっくりと立ち上がる。
「……実際のところ、背後に小宮陣営がいる可能性は?」
ポケットからメンタル剤を取り出し、いつもの様に口に放り込むと噛み砕く。そして霜月の問いかけに慎導は顎に手を添え、悩む様子を見せる。
「うーーん…でも、小宮候補の秘書官、入国者でしたね」
不意に、デスクのキーボードを操作し、モニターに小宮の秘書官のID情報を表示させる。
"アン・オワニー"
先日、小宮と面会した際に付き添っていた女性だ。
すると、雛河はその画像を見ることなく、過去の記憶を遡る。2年前、当時監視官だった舞白とペアを組み、小宮とアンに接触したことを思い出していた。
「小宮候補が独立した時から、…新人時代の時からの付き人でしたね」
「え?雛河さん知ってたんですか?」
雛河の、まるで知っていたかのような口ぶりに、慎導はくるっと椅子を回転させると、雛河へと視線を向ける。
「えっと……、数年前、まだ小宮カリナが新人議員だった時に、既に一緒に居たのを見てます。」
"なるほど〜"と、こくこくと頷く慎導。
「移民の秘書官…党の方針には逆らってるってこと?」
それまでだんまりだった如月が小宮達の矛盾を口にすると、霜月は"本音と建前よ"と呟く。
「実際、肯定党も低賃金労働者の存在は黙認してる。課長の言う通りです」
本音と建前。
結局のところ、両党は似た者同士だと、イグナトフは遠回しに言葉を放つ
「……何であれ支持率は逆転、薬師寺リード…。小宮陣営が不利です。」
如月のモニターに表示される2人の支持率。
小宮カリナを支持する、というパーセンテージは26%。それに比べ、薬師寺康介を支持するパーセンテージは一気に上昇し、63%まで跳ね上がっていた。
すると、霜月は慎導とイグナトフのデスクの前へと歩き向かい、"フッ"と慎導に笑みを向けていた。
「結果的に大正解だったわね。慎導監視官の読みは。」
「俺の読み?」
「テロの可能性ってやつ。さすがね?」
霜月に褒められるものの、慎導の表情は曇ったまま。なんにせよ、昨日あの場所で人が死んでしまったのは事実だった。
「……喜べませんよ。加害者も被害者もどんな理由であれ、ああいうふうに人が死ぬのは悲しいことです。」
リー・アキの死体が脳裏に浮かぶと、さらに苦しい顔つきを見せ、眉を潜めていた。
「逮捕した男達は背景を何も知らず、襲撃犯は全員戸籍停止中で廃棄区画の住人……」
「街灯スキャナの死角を縫って移動するにしてもだ、こんな広範囲を潜在犯が堂々と動き回るなんてできんのかよ?」
「…ましてや、ホテルに侵入するなんて普通無理です。」
「明らかにおかしいな…」
慎導と廿六木の会話。
それをじっと静かに聞いていた入江は、ため息を漏らす。
「ハァ…。薬師寺陣営の選挙事務所は3か所。池袋、水道橋、そして国会内。連中に街灯スキャナーをかわす手があったとしても、見つかるリスクは避けたいはずだ。…俺が犯人なら、できるだけ近い位置に拠点を置いて計画を立てます……」
カタカタとキーボードを操作し、都内のマップをモニターに映し出す。池袋、水道橋、国会議事堂……
その3つの箇所から、とある地域が浮かび上がる。
「その2つにアクセスしやすいのは――」
ひょこっと慎導は入江の脇から顔を出すと、同じくモニターに視線を向ける。
「――茗荷谷。」
「あそこの廃棄区画、確かお前が昔、縄張りにしてたところだな?入江」
廿六木に"昔の縄張り"だと言われると、入江は両手を組み、険しい顔つきを見せる。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
――同日 午後17時過ぎ
公安局ビル 課長室――
・・・・
霜月のデスクの背後の大窓は夕日で橙色に染まり、どことなく寂しげな空気が室内に漂っていた。
じっとデスク上のモニターに視線を向けていると、5コールほどで友人へと電話が繋がる。
『……美佳ちゃん?どうしたの急に』
モニターに映るのは友人の舞白の姿。
シャツに黒ネクタイ、長い白銀の髪の毛はいつもの様に結われており、なにやらガサガサと手元からビニール音が聞こえてくる。
「今、大丈夫?」
霜月は両肘をデスクに立て、手に顎を乗せると微かに笑みを浮かべながら、いつもの相手の様子を見て安心している様子だった。
『うん。大丈夫だよ。ちょうど休憩してた所だし……』
すると舞白はパクッとクッキーを口にくわえると、モグモグと口を動かす。
「うちの部下達が迷惑かけたみたいね」
ゴクッとクッキーを飲み込み、コーヒーカップを手に取る舞白。"うーーん"と悩む素振りを見せる。
『え?なんの事?』
「とぼけないで?あんた達でしょ?最強夫婦」
『……人違いじゃないですか?』
舞白はモニターから目を逸らし、"なんのことかしら〜"と誤魔化すように、コーヒーカップに口をつける。
国内の事案に手を出すな、と再三言われており、こちらとしても霜月に迷惑をかけたくないと心の底から考えていた。
「……はぁー……
……とにかく、あんたたちが"たまたま"居合わせてくれたおかげで、犠牲者は出たものの、こちらが調べてる事件に関して進展があったわ、感謝してる。」
『………………』
予想外の霜月の台詞に言葉を失う舞白。
いつもだったら……
"あんた達の力は不要!二度と国内の事案に首を突っ込まないで!あのいけすかない金髪に――"
……となるはずなのだが……。
『……なら、良かった。』
「本当に感謝してるのよ。報告によれば、あんた達がいなかったら、かなり危なかったって。」
やけに素直な霜月。
それは日々の心労が影響しているのか、微かに疲れている様子が見て取れる。
『まあ私たち最強なので』
「……調子に乗らないでよ?」
"へへへ〜"と後頭部を掻く仕草を見せる。すると、やはり霜月の顔色が優れないことに敏感に気がつくと、舞白は眉を下げ困ったような瞳を向ける。
『大丈夫?最近ちゃんと休めてるの?』
その発言に、ピクっと目の下が痙攣する感覚を感じれば、小さく息を吐く。どうやら、彼女には見破られているらしい。
『都知事選。なにか厄介事にでも巻き込まれてるんでしょ?昨日の襲撃の件からして、刑事課に大きな何かが起こってる』
「……まあ、そんなところよ。」
『……踏み込む気は無いけど、ちょっと私も気になってるの。』
「その言い方だと、何?……何か掴んでるの?」
モニターに映る舞白は肩肘を立てて、霜月と同じく手のひらに顎を乗せて、口を尖らせる。
『昨日、ホテルに現れた襲撃犯。……私が見る限りだけど、共通点があったの。』
彼女の話は聞いて損は無い。それは今までの経験から霜月は分かっていた。どんな些細な、常人が気づかないような事まで見逃さない舞白の洞察力。それに何度も助けられてきた事実――
『美佳ちゃん。格闘技とかで使う"スタンス"っていう言葉、聞いたことある?』
「スタンス?……格闘技での、その言葉の意味なんて知るわけ無いでしょ?私は実戦向きじゃないの、分かってるでしょ?」
"まあ、そりゃそーか"と呟かれると、少し腹が立つ。
『簡単に言うと"姿勢、軸"の事なんだけど。…例えばボクシング選手とムエタイの選手を並べたとして、何か違和感とか感じない?』
「違和感……」
霜月は肘を退け、椅子の背もたれに寄りかかると腕を組んで頭のなかで想像する。かといって、自分は戦闘術に関しては無知に近い。何となくイメージしかできない……
「そうね……ムエタイは、なんていうか……細かく、小さく、小刻みにいつも揺れながら戦ってるイメージ。ボクシングは体全体を大きく開いて、地面を踏み込んでるような……」
『そうそう。そういうこと!
何かしら格闘技をやってる人とか、それ専門に何年も鍛えてる人って、構えとかちょっとした癖で"あ!この人はシラットやってる人だ!"とか分かるものなの』
舞白は左手の人差し指を画面に向け、"そうそう!"と指を振るう。
「……それは、あんたが昔から、空手やらボクシングやらやってるから分かるんでしょ?普通分かるはずがない」
『まあその通り、やってる人にしか分からないことだとは思うんだけどね?』
「…で?それで何が分かるの?さっさと話しなさいよ」
再びデスクに肘を付くと、じっと画面に映る舞白を見据える。
『体格は勿論なんだけど、全員ガッチガチに鍛えられてた。で、その"スタンス"なんだけど……』
舞白は椅子から立ち上がると、画面にしっかりと全身映り込むように後退していき、格闘技らしい構えを見せる。
すると何やら同じオフィスに居る、舞白の行動を見た同課の職員に、"何やってるんだ?"と笑われているようで、舞白は若干恥ずかしそうな様子を見せる。
『足幅のスタンスは広く、重心は低め――』
足を大きく開き、かなり低めの重心をとる。
『――ちょっと流石にステップは恥ずかしいから踏まないけど、ボクシングみたいにステップは多め。』
「…………この構えが?」
『総合格闘技、通称"MMA"――』
サッと体勢を戻し、素早く席に戻れば再び画面に視線を向ける。
『攻撃手段の制約を最大限排除された格闘技。基本的に何でも"アリ"。ほかの格闘技で禁止されてる、絞め技とか組技も寝技もOK。……だからこそ、鍛えることも、選手として対戦するのも、かなり大変な格闘技なの』
「襲撃犯4人全員がその構えをしていた、と?」
『うん、そういう事。』
「それが何に関係するわけ?偶然の可能性もあるでしょ?」
すると、舞白はクッキーを口に咥えると、カタカタとキーボードを動かし、霜月に"何か"を送信する。
そして自分のモニターにメッセージが来たことを告げる通知が目に入ると、霜月はすぐにそのデータを開く。
パクッと咥えていたクッキーを口に入れると、一気に噛み砕き、飲み込む。
『これは私が1年前くらいに手に入れたデータ。ちょっとこっちで調査してたことがあってね?』
霜月のモニターに映し出される1人の人物のID情報。そして、そこに記載されていた地域の名前は、入江が口にしていた"茗荷谷"という文字があった。
『榎宮春木(えのみや はるき)
"茗荷谷"近辺の廃棄区画を取り仕切る闇のドン、ブローカー。そして元プロアスリートの"元女性"』
映し出された榎宮の顔写真は"とても女性には見えない"。歳は50〜60代だろつか?やけに長いウェーブがかった髪の毛。顔に皺も多く、目つきはまるで男性のようで鋭く恐ろしい――
男性ホルモンの過剰注射、肉体改造の果てにプロを引退。
プロアスリートという肩書き、それは薬師寺との繋がりも示唆できる。
『で、今は知らないけど、当時は怪し〜い場所に格闘場を作って、色相が思わしくないアスリートを闘わせまくってた……っていう調査結果があるの。』
霜月は送られてきたデータに隅から隅まで目を通していく。
『そして、榎宮は"総合格闘技"のプロだった。…そんな人物が、そんな危ない格闘場で鍛えさせた人間を送り込む……なーんて私の想像――』
「じゃあ、そんな危険な廃棄区画の人間を、街灯スキャナの目をかいくぐって、街まで送り込む方法についてはどう説明する?」
襲撃犯達の犯罪係数は全員が200から300オーバー。廃棄区画からホテルまではかなりの距離があり、どう考えても街灯スキャナを誤魔化しながら移動することは不可能。
すると舞白は、画面にじっと近づき、コソッと呟く。
『もし、私が犯人側で仕向けるとするなら――
……"仮死状態"にする。それならスキャナーも読み込まないし』
「仮死状態?……どうやって?」
舞白は画面から体を離すと、椅子を回転させながら言葉を続ける。
『そんなのいくらでも方法はあるよ?薬品使えば仮死状態から蘇生することもできるし。……まあ、体にかなりのリスクを背負うことになるけど、あれだけガタイのいい男の人だったら少しくらい余裕なはずだよ』
「だとしたら、それを運ぶ人間は?色相悪化は否めない」
ピタッと回転する椅子を足で止め、再び霜月が映る画面へと視線を向け、人差し指を立てる。
『運搬者は"中身を知らなければ"色相悪化はしない、でしょ?銃の弾を何か知らずに作らされる人間と、それを使う人間とじゃ、全く違う意味合いになるのと同じ――』
信ぴょう性が高そうな彼女の発言に、思わず言葉が止まってしまう霜月。様々な視点から物事を見据えるその力は、やはり本物だった。
『あと、これは余談なんだけど。襲撃犯達と対峙した時、微かに彼らの体に冷たさを感じたの。だから、やっぱり仮死状態になってた、っていう可能性は高いと思うよ?』
"冷凍保存"的な?と呑気に口にすると、舞白はそっと霜月に耳打ちするように声をかける。
『国内の事案には口出ししない――。でもね、私は美佳ちゃんの為なら影武者になってもいいの。』
「……何言ってんのよ、」
『だから今回のこの私の見解は誰にも言わないでね?2人だけの秘密ね?何だかんだ、優秀な新人監視官2人組と執行官達が解決するだろうけど。』
「…………その部下たちは、ちょうど数時間前に茗荷谷に向かったわ」
『だったら私のこの見解は要らなかったかもね?』
"なーんだ"と呟く舞白。その姿を見つめる霜月は、クスクスと笑みを浮かべていた。
『美佳ちゃん。ちょっとは元気になったみたいで安心したよ。私との会話、そんなに楽しかった?』
「……言いたくないけど、昔を思い出したわ。あんたに振り回されて、死にかける毎日――」
『でも、楽しかったんでしょ?』
画面越しに向かい合う2人。
まるで一緒に働いていた頃を思い出させるような状況に、霜月は悔しながらもついつい笑みを浮かべてしまう。
「悪くなかったわ」
"楽しかった"ではなく"悪くなかった"と言う言葉選びに、いつも通りの霜月の様子が浮かべば、舞白は安堵のため息を漏らしていた。
『もっと話してたいけど、残念ながら休憩はもう終わり!』
「今日は残業なのね?ブラック外務省行動課……」
『ちょっと暫く忙しくなりそうで。今日はこの後ミーティングがあるの。』
「へー……お互い忙しくなりそうね?」
霜月は、ぐーーっと伸びをすると、若干寂しげな様子を見せる。
その様子を敏感に察した舞白は、最後に残していた切り札を霜月に伝えることを決断する。
『それでは最後に、"霜月課長の影武者"から助言を残そう!』
『――――六合塚さん、"廃棄区画の運搬業務"について調査してたみたいだよ?……お願いしたら、協力してくれるんじゃないかな?』
"じゃっ!"と手を振るポーズをすると、遮断される通話。だらだらと名残惜しい会話を続けると余計寂しくなる、と考えた彼女の気遣いだった。
「ったく……あんたには助けられっぱなしね――」
デスクに置いていたメンタル剤に手を伸ばすも、途中で引っ込める。
そして、デスクの隅に密かに飾られている1枚の写真に目を向けると、ニッと強気ないつもの表情が蘇る――
「こんなところで項垂れてる場合じゃない。
――公安局のエース、霜月美佳の名が廃るじゃないの……」
すると、霜月は勢いよく椅子から立ち上がり、ジャケットを羽織ると課長室から飛び出して行く。
デスクに飾られた一枚の写真。
ひまわり畑で笑う2人の姿が、やけに輝いて見えていた――
・・・・・・・・・・・・・・・・・