whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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茗荷谷 廃棄区画――
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慎導、イグナトフ、入江、廿六木は予め掴んでいた情報の元、茗荷谷廃棄区画のとある地下闘技場へ――
元廃棄区画の住人でもあり、そこそこ顔の知れていた入江が現れると、強面の輩達は怪訝な顔で入江を見据えていた。
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怪しい地下闘技場。
中央には柵で囲まれたリングがあり、観客達は歓声を上げながら試合を楽しんでいた。しかし、ここは廃棄区画。怪しげな連中しか姿はなく、まさに"闇闘技場"だった、
2階の人気のない場所で、4人はその様子を伺う――
「人間同士の格闘場…」
「ひぇ〜……みんな強そう……」
イグナトフと慎導はその様子にそれぞれの反応を示す。そして入江はキョロキョロと誰かを探す様子を見せ、とある人物を見つけると指を差す。
「薬師寺が表のチャンピオンなら……
…………あれが、裏社会のチャンピオンだ」
入江が差す指の先に佇む人物。
まるで民衆を見下ろすかのように椅子に座る王のようだった。
「廃棄区画のブローカー、榎宮春木。元プロアスリート、元女性。男性ホルモンの過剰注射と、肉体改造の果てに無念の引退。」
「じゃあ、薬師寺と面識があっても…」
元プロアスリート。
薬師寺と何か縁があってもおかしくないと、イグナトフは考える。
「不思議じゃない。榎宮は肉体の変化と成績不振で色相悪化。そして表舞台から退き、ここに城を建てた。」
「犯人ぽーい」
柵に体を預け、上層階で試合を観戦する榎宮を見上げる慎導。アニメや漫画、映画に出てくる悪役のような風貌の相手に、呑気に声を上げていた。
「なるほどな。何かしら理由があって色相が濁ったアスリートを闘わせ、ギャンブルの対象にしながら、利益も得て、兵隊を育てる……」
「その通りだ、監視官。」
勘のいいイグナトフの発言に、入江は見直すような視線を向ける。入江いわく"ぶっ飛んだ奴ら"だと認識していた目の前の新人監視官2人組。彼らの行動力や洞察力に廿六木も同じく、少しずつ見る目が変わっていく。
「あとは、街灯スキャナーに引っかからず格闘家を運ぶ方法だけ。さっそく容疑者候補の榎宮さんを連行しましょ〜」
「はあ?おいおい バカか?見りゃわかんだろ?こんだけデカい組織のトップだぜ?騒ぎになったらどうする?」
慎導の発言に、すかさず廿六木が言葉を言い放つ。しかし、隣のイグナトフは落ち着いた様子で口を開く。
「別に、戦争をしに来たわけじゃない。」
「そうそう、聞くだけだよ?」
二ヒヒと笑う慎導。
それに加え怖いもの知らずなイグナトフに、執行官の2人は内心やれやれと思いつつも、楽しげだった。
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「任意同行、だと?」
入江のツテを使い、榎宮へ接触する4人。地下の奥深くの怪しげな部屋のソファに榎宮の姿があった。
"元女性"
しかし、その面影はほとんど無い。
男性らしい体格、恐らく身長は180はあるだろうか。テーブルに乗せられた脚は驚く程長く、それだけで人を寄せつけないような、恐ろしいオーラを放っていた。
しかし、慎導達は怯まない。
「はい、御協力をお願いします。」
淡々と恐れをなさず任意同行を求める慎導に、榎宮はニヤッと怪しげな笑みを浮かべていた。
「面白い。君たち、いけるね?
……ここがどんな場所か分かっていないのか、異常な自信家なのか。どっちにしてもいい度胸だ。」
タバコを蒸かし、それを4人へと向ける。そしてイグナトフが1歩前へ出る。
「バカでも自信家でもない。怪しいヤツは話を聞く、それが刑事だ。」
「……ふふっ、そうか。」
イグナトフの真っ直ぐな視線をじっと見据える。すると榎宮は何かを思い出したかのように笑い出す。その様子に、イグナトフは睨みをきかす。
「……何が面白い?」
「……いや、少し昔のことを思い出したんだよ。君たちはまだかわいいものだが、頭のネジが外れた外からの人間が来たことがあってね?」
フゥー……とタバコの煙を吐き出すと、その時の状況を脳裏に浮べる。
「たった1人でこの場所に現れて、屈強な男たちをなぎ倒した"狼のような女"。あれは君たちのお仲間かい?」
「……狼のような女?」
慎導は榎宮の口にした"狼のような女"という人物像に首を傾げる。その様子を見た榎宮は残念そうな様子を見せる。
「なんだ、君たちとは関係ないのか?……公安局の人間が面白半分で何かを探りに入ったのかとてっきり思っていたんだが…」
"まあいい"と呟くと、榎宮はタバコの火を消し、再び4人に視線を戻す。
「質問くらいなら、答えてやってもいい。あの女がいれば、面白かったんだがな……」
イグナトフと慎導は互いに視線を合わせるも、相手の意図は読めなかった。
「……では、いくつか質問させてください、榎宮さん――」
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――外務省 東京本庁
47F 会議室にて――
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4人の特別捜査官を前列に、後方の席には行動課の一部の職員達の姿。そしてその人物たちの前には、課長の花城の姿があった。目の前には大型モニターが映し出されており、全員がそれに視線を向けていた。
「――――以上。全体のミーティングはここまで。前の4人以外は職務に戻りなさい。」
ひと段落ついたミーティング。
花城の言葉通り、ぞろぞろと後方に座っていた人物たちは会議室から姿を消す。
会議室にその4人だけが残ると、花城は順にゆっくりと視線を向ける。左から須郷、舞白、宜野座、狡噛――
見慣れた4人組の姿に、どことなく花城は口角を緩ませる。
「なんだ花城。俺たちだけに、まだ何かあるのか?」
全体ミーティング後に、4人だけを残すなんて珍しい。狡噛は両手を後頭部に回すと、若干怠そうな様子を見せる。舞白はテーブルに両肘を立て、両手に顎を乗せると、花城を観察するようにじーっと視線を向けていた。
「嫌な予感がするんですけど、課長」
「……同感だ」
口角を緩ませ、和やかな雰囲気だと思っていた矢先。表情が若干曇る様子の花城の姿を見過ごさなかった舞白と宜野座。
「ヘブンズリープの潜入捜査の日程を遅らせる……それ以外にも何かあるのですか?」
須郷のストレートな質問。
先程の全体ミーティングの内容について――
近々、潜入捜査を予定しているシビュラ公認宗教団体"ヘブンズリープ"。数日後に迫っていたが、それを少し延期するという話。そして他の諸連絡や、情報交換を行なっていた。
しかし、この4人にだけ、補足があるらしい。
花城は小さく息を吐くと、両腰に手を添え、言葉を放つ。
「日本国内に"奴ら"が潜伏してる。」
花城の言葉に4人は驚いたような様子は見せず、"やっぱり来たか"と言わんばかりの表情をしていた。
舞白は立てていた肘を崩し、椅子に座り直す。
「…なるほどですね、課長。だからヘブンズリープの件は一旦ストップ……」
「そうよ。今は都知事選で世間はバタバタしてるし、今まで雲隠れしていた彼らが、このタイミングで尻尾を出してきたわ。」
目の前のモニターに映し出される2人の"白髪の老婆と老爺"
その姿は全員見覚えがある。ずっと行動課が追い続けているピースブレイカーの残党。この前、海外に赴いた際に、舞白を重症にまで追い込んだ2人組だ。
「場所は足立区の廃棄区画。たまたま別の調査で動いてた時に見つけたものよ。どうやって日本に潜入したのかは不明。入国管理局で調べさせたけど、どこにも足跡は無かった。」
「……"予測していた最悪の事態"。何者かが彼らを手引きしている……」
須郷は顎に指を添え、考え込むような、険しい表情を浮かべていた。
4人が見つめる若干ピンボケ気味の画像。
しかし、それでもハッキリとわかる。あの2人だと――
「一先ず、彼らの動きが読めない以上、無闇に"あなたたち4人"を分裂させたくないの。それに結局、この場所で見つけただけで、また彼らは姿を消した。」
ヘブンズリープへの潜入捜査、1度その施設へと入った場合、長らく合流はできない。そこへ人員が持っていかれた時に、万が一派手な動きを彼らが起こした場合、かなりのリスクが伴う。花城はそれを恐れていた。
「かといって、ヘブンズリープの潜入捜査も蔑ろにはできない。長くても1週間以内には潜入する。……で、万が一に備えて潜入捜査の人員を変更させてもらうわ」
花城は舞白に視線を向けると、微かに嫌な予感を察知する。
「ヘブンズリープへの潜入。宜野座と舞白に変更よ。」
「………だと思いました。」
実は1度潜入捜査から外すと言われていた舞白。それに対し、密かに喜んでいたものの、再び振り出しに戻ったことに内心残念がっていた。長くその組織で偽りの人物を演じ、潜入するという事はあまり得意ではなかったからだった。
「課長、自分は?」
「須郷。あなたは私と狡噛と3人で別行動よ。少しでも力のある人員をこちらに待機させておきたいの。」
舞白と須郷は顔を見合わせる。
そして、微かに須郷からやる気に満ち溢れるようなオーラを、舞白は察していた。
「((……日々のトレーニングの甲斐あって……))」
「須郷さん、悔しいのでこの後トレーニング付き合ってください」
グッと須郷に体を寄せると、左腕に拳を握り、見せつけるような体勢をとる。
「ヘブンズリープへの潜入は宜野座と舞白。須郷と舞白ペアも悩んだんだけど、自由奔放な舞白を制御できるのは宜野座の方が適役だわ。」
「子守り扱いか、俺は」
「適任でしょ?それに、内部潜入には長けた人員配置だと思うけど?宗教団体の顧客データを抜くには、"それに"精通した人間じゃないと意味が無いし、……舞白、あなた過去に公安局の内部データをハッキングした事あるでしょ?」
「……………」
ふーん……と目を逸らす舞白に対し、隣の宜野座が詰め寄る。
「……おい、それはいつの話だ舞白」
2年前、確かに自分のPCから"行政特区サンクチュアリ"のデータを盗まれそうになったことのある経験を持つ宜野座。相変わらず油断も隙もない舞白の新情報にため息を漏らす。
「まあ、とやかく言わず"適材適所"よ。イレギュラーな事態が起こったからにはそれなりに変えることも必要なの。」
「そうそう、適材適所適材適所……」
"ね?"と宜野座から視線を逸らしていた舞白は左手人差し指を立てると、じーっと自分を見据え続ける相手に笑いかける。
「……仕方ないな。過去の過ちは今だけ目を瞑っておいてやろう」
「今だけ……」
"任務で挽回してやらねば"と心の中で自分に言い聞かせる舞白。そして花城は再び4人に向き直ると、言葉を発する。
「"ピースブレイカー"に……この国をめちゃくちゃにされる訳にはいかない。何とか私たちで抑え込むのよ。」
目付きを変える花城。その瞳には角が立つ。
彼女は敵意を剥き出しにしていた。その身体に、見えない針が一斉に逆立つのが、舞白には分かっていた。
そしてその瞳に見覚えがあった。
過去に、自分も同じ瞳をしていたのだから――
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