whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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運命の音

 

 

 

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「お兄ちゃん、まだ来れないみたいです。」

 

舞白の姿はとある場所にあった。

厳重に警備されたその場所に舞白は何度も足を運んでいた。唯一、そのことを知るのは兄の狡噛。花城も少しはその様子に気づいているものの、特に何か口を挟む訳でもない。

 

 

『狡噛さんらしい…』

 

相手の穏やかないつもと変わらない声が、機械を通して舞白の居る空間へと響き渡る。

 

その声の持ち主は、大きな扉の先に隔離されていた。扉に数十cmの長方形の窓枠があり、唯一そこから互いの姿を見ることが出来る。舞白は扉の先にいる人物にいつもの様に笑みを向けていた。

 

「朱さん、元気そうでよかった。ちょっとバタバタしてなかなか来れなくて…」

 

『私、体は人一倍丈夫よ?…舞白ちゃんは?無理してない?』

 

常守の心配そうな笑みに、舞白はニッコリと満面の笑みを返す。

 

「元気です。今日も投薬してきて、バッチリですよ?」

 

『ふふっ…なら良かった…

――狡噛さん、宜野座さん、須郷さんは?』

 

「みんな元気です。変わらずですよ。」

 

そして、舞白は新制一係について、ふと思い出す。

 

 

「そういえばついこの前、新任の一係の監視官達、それに執行官達にも、美佳ちゃんにも会いました」

 

"ちょっと特殊な出会い方でしたが…"と付け加えると、常守は知っていた様子で言葉を放つ。

 

『話は雛河君に聞いてるよ?狡噛さんと宜野座さん、それに舞白ちゃんも持ち前の強さで捩じ伏せた、とか?』

 

「…へへへっ…」

 

『美佳ちゃんも、無理してなければいいんだけど…。色々大変そうで』

 

「メンタル剤の消費が軒並み増えつづけてるとか。でも、なんだかんだ頑張ってるみたいです。…私も負けていられないな〜…」

 

常守は舞白の様子から、いつも通り、変わらず霜月と良い関係性であると感じ取ると安堵の息を吐いていた。

 

『今後も、よろしくね、舞白ちゃん』

 

「はい。勿論です。…私は朱さん、美佳ちゃんの為なら影武者にだって、なんだってなります。さすがに行動課の皆には秘密ですけどね。」

 

行動課のメンバーにも、霜月本人にも悟られないように、舞白は密かに暗躍を担っていた。事が上手く進むように、言葉の通り影武者だった。

 

「六合塚さんにもこの前連絡をとったんです。美佳ちゃんにもコソッと喋ったので、そろそろ合流するんじゃないかと。」

 

『六合塚さんと志恩さんが揃えば、情報戦に怖いもの無し。……そこに目をつけるなんて、さすがね、舞白ちゃん……』

 

「そんな事ないです。実は、これから少しだけ、私が忙しくなるので……こまめに美佳ちゃんに連絡が取れなくなっちゃうんです。その為にも、六合塚さんの力は欠かせないかと」

 

『うん。六合塚さんがいるなら安心だわ。……こっちはこっちで、雛河君からは定期的に連絡を貰ってるし。』

 

2人は視線を合わせると、互いに真剣な瞳を映していた。すると、舞白は扉に背中を預けると、ふと常守に言葉を放つ。

 

 

「私、朱さんの為なら何だってやりますよ。影武者だろうが、なんだろうが……」

 

視線を手元に落とし、俯く。

 

「朱さんがいなかったら、私は今ここにいません。本来であれば、私はシビュラの一員でしたから。」

 

『……』

 

常守も同じく扉に背を預ける。

 

 

「私の運命を変えてくれた朱さん。……次は私が、朱さんの為に動く番なんです。」

 

俯きながらも、舞白は口元に弧を描く。

常守もまた、クスッと笑みを零すと、言葉を呟く。

 

 

『…ありがとう、舞白ちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

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公安局ビル――

――執行官宿舎

 

 

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「はあ?停職処分?」

 

如月の驚きの声が室内に響き渡る。

 

それと同時に、ビリヤードの手玉とキューがぶつかり合い、球達が"カツン、カツン"と心地よく室内を鳴らす。ビリヤード台の傍らでキューを握る入江と廿六木。そして離れたソファで何やらPCをカタカタと操作する雛河。それを横目に如月は言葉を続ける。

 

「イグナトフ監視官が停職…ってことは、あの規格外の慎導監視官だけで襲撃事件を捜査をするの?」

 

如月はひとり、カウンター席に腰掛け、グラスを片手に眉を顰める。

 

「…冗談でしょ?」

 

如月のため息が聞こえてくると、入江は呆れたように笑みを浮かべ、キューを構えると、ビリヤードボールに狙いを定める。

 

「騒ぎを大きくするのが得意だよな?あの2人。着任早々、頭のネジ外れすぎだろ?」

 

カツン、カツンと音が再び鳴り響くと、入江の言葉に雛河が反応を示す。

 

「あれほど事故にこだわるなら、"前任監視官の事件"の件もちゃんと調べてくれるかも…」

 

雛河はそんなネジの外れた新任の監視官2人に希望を抱いていた。既に打ち切られた"とある事件"。あのふたりならきっと――

 

「いきなり変なこと言わないでよ。もう課長が調査を打ち切ったでしょ?…調べたところでまた、潜在犯の私たちが巻き込まれるだけよ?」

 

やれやれ、と眉を下げ雛河に言葉を向ける如月。雛河はその言葉に返すことはなく、傍らに置いていたオレンジジュースに口をつける。

 

 

 

「それより、…なあ?オタク小僧。まだ2人の調べは終わんねぇのか?」

 

廿六木が口にした"オタク小僧"=雛河

彼らは慎導とイグナトフのより詳細な情報を得るべく、雛河に探るように依頼していたらしい。

 

「…え?監視官のキャリアデータならとっくに見つけましたよ」

 

「早く言えよ〜先輩」

 

"待ってたぜ〜"と言わんばかりに入江はキューを手にしたまま雛河に近寄る。そして如月と廿六木も、雛河の元へと歩み寄る。

 

 

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モニターに見入る4人。見慣れたID情報画面には、慎導の顔写真と共に、彼の経歴全てが載せられていた。生年月日、学歴、家族の情報…ありとあらゆる彼の全ての情報が網羅されていた。

 

 

そしてその情報に目を通すと、如月は彼の経歴を口にしていく。

 

「慎導灼 24歳

高度な共感能力を持つ特A級プロファイラー。配属時の推薦者は――――あの常守朱!?」

 

「"人殺しの元監視官"じゃねえか?」

 

「超優秀だったけど、頭おかしくなっちゃったんだろ?」

 

如月、入江、廿六木の言葉に、雛河は微かに眉を顰める。

 

「…常守監視官は立派な人です。」

 

 

 

雛河に映る常守の姿は、まさに立派な人。

しかし、それを知らない3人の執行官からしてみれば異常な監視官だとしか認識されていなかった。

 

 

 

如月は再び慎導灼の情報を読み込んでいく。

 

 

「幼い頃に母親は重病で安楽死を選択。父親は自殺。父親の慎導篤志は元厚生省官僚のトップの1人――」

 

その先の情報を読み込もうと、雛河がキーボードをタップするも、赤いエラー画面が表示されるのみ。

 

 

「――自殺については閲覧不可。この先は無理そう?雛河さん」

 

「…機密レベル4です。さすがに読み出せません…」

 

うーーんと腕を組み、残念そうな表情を浮かべる如月。しかし、ここまでの経歴でさえ、異様すぎるものだった。

 

「何があったにしても、母親は安楽死、父親は自殺なんて…よく色相が曇らないわね?」

 

慎導灼に関しての情報はここまで。

すると廿六木はもう1人の監視官の情報をと、急かすように雛河に視線を向ける。

 

「イグナトフ監視官の方は何かねえか?」

 

「勿論、イグナトフ監視官のID情報、キャリアデータも入手済です。…どうぞ」

 

カタカタと操作すると、今度はイグナトフのID情報が映し出される。

 

 

「24歳のロシア系帰化 準日本人。母国で軍事訓練を受け、射撃、格闘、解析に優れた元兵士。――推薦者は霜月課長。」

 

入江は目を細め、その情報の中に既婚者であることが確認できる項目を目にすると、手に持っていたビリヤードのキューをそっと壁に掛け、口を開く。

 

「イグナトフ監視官、本当に既婚者だったんだな。」

 

つい先日、慎導から聞かされていた情報は本当だったのだと改めて驚く様子だった。

そして、イグナトフのID情報の隣に、妻の情報も表示される。雛河は彼女の名前を口にする。

 

「妻は舞子・マイヤ・ストロンスカヤ 24歳…」

 

「視覚障害者で現在治療中。目が見えない奥さんと2人暮らし…。苦労人なのね、イグナトフ監視官。」

 

如月は若い2人の情報に、微かに同情するような姿勢を見せる。準日本人といえど移民に変わりは無い。恐らく様々な事で苦労を強いられているだろうと考えていた。

 

 

そして、入江が目にしたイグナトフの親族の欄に、違和感を感じ言葉を放つ。

 

「イグナトフ監視官の兄、輝・ワシリー・イグナトフも帰化日本人だが、2年前に死亡……殺された?」

 

 

「輝・イグナトフ殺害の容疑者は…慎導篤志?

――つまり、慎導監視官の父親は、イグナトフ監視官の兄を殺して自殺した?」

 

如月もその情報に目を見開く。すると隣の廿六木は異様すぎる、その遺族達の事情に、新任監視官2人の狂った関係性に頭を抱えていた。

 

 

「何なんだ?この関係は。…被害者と加害者の遺族同士がバディーを組んでるってわけかよ」

 

「だいぶクレージーなのは間違いないな」

 

基本的に数多くの2人との危険な場面に立ち会ってきた廿六木と入江は、まるで呆れかえるように小さく笑みを零していた。それを横に、如月は神妙な面持ちで顎に手を添える。

 

「…離れられない訳がある。…それほどに強い絆が、あの2人にある…。

家族を失ったもの同士、むしろお互いを信じ合うしか無かったのかも。」

 

「さすが真緒ちゃん、ロマンチック〜」

 

「馴れ馴れしい呼び方しないで!」

 

「うっ!…あ痛っ!」

 

如月を"真緒ちゃん"と呼ぶ入江に、容赦なく蹴りを命中させれば、床へ転がり込む。

"イタタタタ…"と蹴られた腹部を押さえながら起き上がれば、思い出したかのように、突如ハッとした表情を浮かべれば、雛河へと擦り寄る。

 

 

 

 

「そういえば、俺が頼んどいた"あの外務省の連中"のID情報。どうだ?見れそうか?」

 

雛河は入江に詰め寄られると、小さく息を吐けは、別のデータを開いていく。

 

「…狡噛さん、宜野座さん、須郷さんの過去のキャリアデータを含めた情報。舞白さんに関しては、ここ数年のデータだけなら閲覧可能です。」

 

「んだよー、あの銀髪の女の過去の情報はやっぱり見れねぇのか?」

 

映し出される4人の顔写真、ID情報。入江は舞白の過去のID情報を開こうとキーボードに手を伸ばし叩いてみても、閲覧制限がかかり機密レベルは5と表示されるのみ。

 

 

「あの女、何もんなんだ?先輩は被ったことあんだろ?確か外務省から出向してきた時に」

 

「…僕が一緒に働いていたのは3ヶ月だけです。過去に関しても、本人の口から聞いた事しか…あとは課長と常守監視官から聞いた事…」

 

「それを知りたいんだよ、オタク小僧。…この狡噛、宜野座、須郷って男に関しては情報通りの奴らだってのは分かってる。隠された情報もないしな?」

 

「狡噛、宜野座…彼らは普通にシビュラに選ばれて公安局に入局でしょ?狡噛慎也は執行官落ち、その後に海外に失踪、そして今は外務省。宜野座伸元も同じく同時期に公安局に入局。そして執行官落ちして、外務省…」

 

如月は彼らの情報を読み込んでいく。

 

「須郷徹平…、この人に関しては、潜在犯落ちして無ければエリート中のエリート。国防省の軍事施設勤務、そして厚生省公安局の執行官適性、それで今は外務省。潜在犯だとしても、3つの省庁を股に掛けるなんて、普通のキャリアじゃ無理な話…」

 

「恐ろしい連中だよな〜…」

 

雛河を除く3人は、最後の最後に映し出された舞白のID情報に目を細める。

 

 

「…で、この女な?俺を軽々とぶっ飛ばしやがった女だ。榎宮の部下たちも、ひとひねりだぜ?」

 

入江は顔写真をじっと見据え、その時その時の状況を思い出していた。隣の廿六木は不気味な相手のID情報に苦笑いを浮かべる。

 

 

「外務省入省以前の情報は閲覧制限。…幼少期から高等教育期間に何かあった、それを何故か覆い隠す厚生省のネットワーク。おっかねぇ女だ」

 

「兄貴と一緒に海外に失踪したとか、パッと大まかな情報は聞いた事も、見たこともあるけどよ?…それ以外に関しては、あの課長も頑なに話してくれないんだぜ?」

 

彼らも色々とアーカイブは盗み見をしていた。それと、舞白と繋がりのある霜月に、なんとなしに探りを入れたこともある。しかし、霜月は言葉を濁すばかりで多くは話してくれる様子ではなかった。

 

 

「宜野座舞白 24歳、旧姓は"狡噛"。2118年未明に外務省に入省。同年7月に公安局に出向、有期間の監視官補佐として着任――」

 

 

「兄貴と旦那と外務省の同じ課で働くなんて、俺だったら絶対どっちの立場でも嫌だな。」

 

如月が読み上げていく情報に"ある意味変人だ"なんて口にする入江。しかし、雛河は先程の常守と同様、眉を顰め、PCに視線を向けたまま口を開く。

 

「舞白さんも立派な人です。」

 

直接関わったのは短期間ではあるものの、彼女を心底尊敬していた。

 

「しかもあれだろ?2年前の公安局広域重要指定事件。箝口令がどーのとかで公には出されてないが、その立役者だったとか」

 

「…そうです。カストルとポルックス事件、舞白さんの洞察力と推理力がなかったら、解決できなかった。」

 

「私覚えてるわよ?仮面を被った2人組がテレビ局を乗っ取って生配信した動画。渋谷のスクランブル交差点にトラックが突っ込んで、若者たちが巻き込まれて……。」

 

黒塗りされた報告書。

2年前に世間を騒がせたカストルとポルックスによる事件。入江、廿六木、如月、その3人もさすがにその事件に関しての記憶はまだ新しかった。

 

 

「…お兄さんの狡噛慎也の経歴と照らし合わせる限り、両親は早くに他界。祖母も持病で1年半前に亡くなってるみたいね。…キャリア組から潜在犯落ちした親代わりのお兄さんを持つのも、当時は苦労したんじゃないの?」

 

「で、兄貴と同期だった宜野座っていう男と結婚…、今の時代、健常者が潜在犯、むしろ当時執行官だった奴と夫婦になるなんて普通ならありえない思考だな。しかも歳も離れすぎだろ?」

 

「この女も、あの2人の監視官並に、いや…むしろそれ以上にクレイジーな奴だな――」

 

廿六木と入江は"ヤバい奴"だと分析するのみ。しかし、舞白のID情報に視線を向ける如月の表情、その2人とは違う。

 

雛河はそんな彼女の表情を横目で静かに見据えていた――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

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同日 午後19時過ぎ――

――イグナトフの自宅にて

 

 

 

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「え!?舞ちゃんに言ってなかったの?…引くなあ…」

 

「後で言うつもりだったんだよ」

 

「ホント…何を考えてるの?民間人に手を上げるだなんて信じられない!」

 

 

テーブルに並べられたロシアの色鮮やかな郷土料理。それを囲むのは慎導、イグナトフ、舞子。

 

まさか、自分の夫が定職を命じられ、その理由は民間人に手を上げたという事実を慎導によって漸く知らされた舞子は、珍しく怒りを露わにしていた。

 

 

「仲間の悪口を言われて怒ったんだって――炯は優しい」

 

モグモグと口を動かしながら、のほほんと笑みを浮かべながら言葉を放つ慎導とは別に、対面側に座る舞子はムッとした表情を浮かべていた。

 

「あなたは昔からすぐ頭に血が上るんだから。ちゃんと反省して。」

 

「…はい」

 

あのイグナトフも、さすがに妻の舞子に強く言われると、頭が上がらないらしい。素直に舞子の言葉に従うイグナトフの姿は貴重で面白い。

 

すると慎導は具だくさんのボルシチを完食すると、ふぅ……と息をつく。

 

「いつも1から手料理なんて…たまにはフードプリンターの方が、舞ちゃん楽じゃない?」

 

「作ってもらって何言ってるんだ?お前は……」

 

慎導は視覚障害を持つ舞子を気遣っての言葉だった。いくら介護ドローンがいるにしても、手料理を1から作るのは簡単なことでは無い。しかし、いつもイグナトフの家に赴いた際には、必ず舞子の手料理が振る舞われていた。

 

 

舞子はそんな慎導にニッコリと笑顔を向ける。

 

「プリンターじゃ故郷の味が出ない。母から終わった料理を忘れたくないじゃない?」

 

そんな舞子の様子を見ると、慎導とイグナトフは自然と笑みが零れていた。

 

「何より、合成料理よりおいしいでしょ?それに、今度宜野座さん達が来るまでに、もっと上達していないと」

 

「宜野座?……って、あの外務省の?」

 

「あぁ。今日病院でたまたま会ってな。ちょっと話したんだ。」

 

慎導は予想だにしていなかった人物の名前が飛び出すと驚いた表情を見せる。それとは裏腹に、舞子は嬉しそうな様子だった。

 

「私、本当に嬉しいの。こっちで親しい友人も居ないし、帰化移民に理解がある同性で同年代の友人ができて……嬉しいの」

 

「……良かったね、舞ちゃん。俺も嬉しいよ」

 

慎導はイグナトフに視線を向けると、安心した笑みを浮かべていた。こんなにも喜ぶ舞子の姿は、慎導も同じく、久しぶりの事だった。

 

 

 

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「足を引っ張ってすまない…………ッ……灼」

 

「気にしてないよ?犯罪係数も監視官適正の最診断もクリアだったんだから、シビュラシステムは分かってくれてるってことでしょ?」

 

「だといいがな…。……調査は順調か?」

 

「うーん…肝心なパズルのピースが見つからない。たぶん、小宮候補が隠してると思うんだけどね」

 

 

2人はトレーニングウェアに着替え、イグナトフの自宅の広いバルコニーでトレーニングを行っていた。軽々と懸垂をしながら、傍らでベンチプレスに勤しむイグナトフへと視線を向ける。

 

暫くすると慎導はストンっと体を下ろし、ぐーーっと両腕を伸ばせば椅子に腰かけ、置いてあったタブレットに手を伸ばす。

 

そのタブレットに表示されているのは、とある討論会の告知画像。

 

"第46回 東京都知事選挙 最終公開討論会 小宮カリナVS薬師寺・ヘラクレス・康介"

 

じっとその画像を眺めていると、イグナトフも同じくバーベルを戻し、慎導の隣に腰かけ、水分を口に含む。

 

 

「……ッ……公開討論会の警備は?」

 

 

「二係が担当だよ」

 

「…そうか」

 

「なーんか、2年前にも討論会の警備を経験したことがある監視官が居るみたいで、その人に指揮を任せるとか」

 

「二係……

確か、俺たちの着任と同時に、三係の監視官が二係に異動したとか」

 

「そうそう。"宮舘 薫"…たしかそんな名前だったな」

 

"挨拶する暇もなかったもんね?"と慎導は呟く。着任してから立て続けに事件が発生しているため、なかなか他の係と会えずにいた。たまに局内ですれ違うことはあったものの、ゆっくりと談笑する暇など、刑事課には中々難しい事だったのだ。

 

「……ふぁ〜あぁ……」

 

「最近は眠れてるのか?」

 

「ん〜どうかな…」

 

「お前のスキルは脳にも心にも負担をかける。そう頻繁に行っていいものじゃない」

 

「捜査に必要なら、無理してでもやらなきゃ」

 

「そうさせないのが俺の仕事だ」

 

「停職中のくせに?」

 

「…それは…そうだが…」

 

盛大なあくびと共に、涙目を浮かべる慎導。彼は長らく熟睡することはできていない。慢性的な睡眠不足……

それに加え、相棒のイグナトフは定職を指示され、負担は慎導に伸し掛るばかりだった。

 

 

 

「俺は、真実に手が届くなら何でもするよ?」

 

「お前だけがそう思ってるわけじゃない。

…俺がロープを握れない時にはやるな」

 

「うん。…無理し過ぎないように努力するよ」

 

へへっと呑気に笑う慎導を他所に、イグナトフは神妙な面持ちで夜空を見上げていた。

 

「お前に見えているものが、俺には見えない。ならせめて、バックアップは任せろ」

 

"任せろ"と同時に、真剣な眼差しを向けられるも、再び慎導は面白がるように相手を茶化す。

 

「定職中のくせに?」

 

「しつこいぞ?

…すぐに復帰してみせる」

 

昔から変わらないその呑気な慎導の言動に、思わず笑みをこぼしてしまう。しかし、そんな慎導に幼少期から救われてきたのは事実だった。

 

「舞ちゃんも、炯も俺も、なんで皆が家族を失わなきゃならなかったのか。――俺たち2人で見つけるんだ」

 

「ああ、もちろんだ――」

 

2人は視線を向け合うと、互いに拳をコツンとぶつけ合う。その表情は、まるで死地に赴く軍人のような表情を引き締め合っていた。

 

 

 

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翌日 公安局ビル――

――分析室

 

 

 

とある人物が分析室のモニター前に佇む。それを背後から見守る唐之杜は、どこか誇らしげで、嬉しそうな様子だった。

 

そしてその人物の隣に立つ霜月は、どことなく明るい表情を浮かべ、その人物に視線を向ける。

 

 

「イグナトフ監視官の穴を埋めるため、急遽、公安局と捜査コンサルタント契約を結んでる方に来て頂きました。――紹介します」

 

慎導、雛河、入江、廿六木、如月。5人の視線が一気にその人物へと向けられる。

 

 

 

「元一係執行官で、現在フリージャーナリストの…」

 

 

――六合塚弥生さんよ」

 

 

 

 

カジュアルなTシャツにパンツ、しかし上着はスーツジャケットを羽織っており、その当時の面影を微かに残していた。

 

漆黒の長い黒髪は艶を放ち、サラサラと揺れ動く。

 

 

 

「六合塚弥生です。よろしくお願いします。」

 

妖艶な雰囲気すら感じる彼女は、微かに表情に色を魅せる――

 

 

 

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