whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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公安局ビル 課長室―――
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課長室の中央に置かれたテーブル、そしてソファ椅子。対面同士で座る霜月と六合塚。すると霜月は、相手に敬意を表し、頭を下げる。
「―――今日はありがとうございました。六合塚さん。」
「そんな、お礼を言われるほどじゃないわ。ちょうど私も気になってた事だし。」
「お陰で、滞りなく捜査が進みそうです。廃棄区画の運搬業務について、ちょうど私も気になっていたところでしたから。」
六合塚は昔と変わらない、落ち着いたクールな笑みを浮かべる。その様子に、霜月は心做しかドキッと心を跳ねさせていた。
テーブルに置かれたティーカップに手を伸ばし、紅茶を口に運ぶと、六合塚は再び口を開く。
「"舞白ちゃん"、彼女から連絡が来たの。」
「……やっぱり、舞白が絡んでたんですね?……本当に自分のことだけで良いのに。」
「それだけ、美佳ちゃんが大切なのよ。"昔"と変わらずね?」
その言葉に、何故か恥ずかしさなのか、強がりなのかは分からないが、ムッと顔を赤くして六合塚から逸らす。
「お節介なんですよ、あの子は……。自分のことより、他人のことばかり。」
「……"他人に優しく、自分に厳しく"」
六合塚が発した座右の銘のようなその台詞に、霜月は不思議そうに視線を向ける。テーブルにティーカップを戻すと、六合塚はフッと口元に笑みを浮かべていた。
「あの兄妹の座右の銘よ。お兄さんも妹も揃って、自分のことより、どんな時も相手のことを考えてる。」
「……聞いたことないです、舞白からその言葉……」
「"あの兄妹"は、昔からそうよ。…美佳ちゃんだって分かってるでしょ?」
六合塚は片膝に肘を乗せ、手のひらに顎を添えると、変わらず微笑を浮かべ、霜月をじっと見据える。
「だから、自分には厳しいの。」
「…………確かに。そうでしたね。」
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数刻前―――
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「あーーっ!
あなたは元執行官から社会復帰した伝説の執行官!」
分析室に慎導の声が響き渡る。
思い出したかのように、目の前に立つ六合塚に指さすと、相手はクールな眼差しを向けたまま、表情を変えない。
「芸能界からの誘いもあったのよねえ?さすが、伝説の女デカ」
「もう……志恩」
傍らの椅子に腰掛ける唐之杜は、"ふふふん"と自慢げに口にする。それに対して、六合塚は唐之杜だけにかすかに笑みを向ける。
そして、"コホン"と咳払いをすると、改めて皆に向き直り、今回の目的を説明することに。
「今日は――
廃棄区画の運搬業務に関する調査報告を報告しに来ました」
六合塚の言葉に、慎導と霜月、そして唐之杜を除く執行官たちは驚いたように目を見開く。真っ先に食いついたのは如月だった。
「廃棄区画の運搬業務?……何でその調査を……」
「色相悪化者を安全に運ぶには、死んだことにするのが1番楽ちんだと思ったんです。……ね?霜月課長もそう思ったから、六合塚さんを呼んだんですよね?」
慎導はくるっと振り向き、椅子から立ち上がると、六合塚と唐之杜の間に立つ。ひょこっと横に立つ、陽気な様子の監視官の姿に、六合塚は"不思議な人"だと微かに考える。
「……まあ、そういう事よ。」
「((……舞白と同じことを……))」
やはり慎導は勘がいい。ただ、特A級レベルのメンタリズムを持っているだけではなく、舞白や常守と同じく、刑事としての洞察力に優れていた。
「つまり、仮死状態で犯人は街灯スキャナーから逃れていた……俺はそう考えます。」
「なるほどね〜……。確かに、仮死と蘇生は、薬品さえ手に入ればそんなに難しくない。ただし、相当体にリスクはあるけどね?」
"ふぅ〜"と吐き出される白い煙。慎導の推理に"一理ある"と納得する唐之杜に、続けて廿六木が声を上げる。
「おいおい。運ぶやつの色相だって曇るだろう?……あっ……てこたあ……」
「そう。運搬する人は中身を知らない。廿六木さん正解です♪」
へへへ〜と呑気に笑う慎導の隣で、六合塚はカタカタとキーボードを操作すると、分析室の大画面に情報を映し出す。
「――― それで事件当時の運搬記録を調査したの。」
手馴れたその様子は現役執行官の頃の姿そのままだった。傍らで腕を組む霜月、そしてそれを見守る執行官たちも、その姿に思わず見惚れてしまうほどだった。
「かなり複雑なリレーで運搬業者をつないでいたけど、予定とは異なる運搬ルートを通った業者を1社見つけました。……これよ、ブラウズするわ。」
タンッ、とキーを押す音と同時にモニターに映し出される。
"網元運輸"
本社の住所は茗荷谷の廃棄区画―――
「茗荷谷……、へっ……やっぱりビンゴか?」
「みたいですよ、入江さん?
―――やっと……尻尾を掴みました、榎宮さん――」
慎導と入江は互いに拳をコツンとぶつけ合う。すると、入江はニヤッと笑みを浮かべれば、そんな慎導に向かって何か言いたげに相手を見下ろす。
「こっちも、大きな手がかりを掴んだぜ?監視官。」
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東京都知事選挙
公開討論会まで残り1日―――
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同日午後22時――
―――外務省本庁 展望テラス
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「……"小宮カリナ"と"土谷博士"の秘密……」
冷たい夜風に髪の毛がサラサラと揺れ動く。スーツの上からウールの黒いコートに身を包み、片手にはいつものホットカフェオレの入ったカップが握られていた。
『そう。一係の入江執行官が、元々繋がりのあった廃棄区画の情報屋に"廃棄区画と通常区画の境界線上の怪しい場所を"……って』
「そこに、土谷博士は秘密の事務所を持ってた。恐らくは、名義も別人のものを使って……」
『さすがね。その通りよ舞白ちゃん。本当に兄妹揃って凄い洞察力ね』
「六合塚さんにそれを言われると、…なんだか嬉しいんですよね。」
へへへっ……と頬をかくと、白く輝く月へと視線を向ける―――
転落死をとげた土谷荒城。そして、小宮カリナ。
秋葉原の廃棄区画に、秘密裏に構えられていた土谷博士の事務所。名義はとある事件に巻き込まれ、死んだ娘の名前を使っていた土谷。
そして、その事務所の調査に訪れた慎導、入江、廿六木は、土谷博士のオフラインAIと遭遇。博士が思考誘導AIの"マカリナ"を作り、小宮はそれを使って選挙活動をしていたことが明らかになったのだった―――
『土谷の研究は脳科学、主に固定観念によるセルフコントロール。認知科学の応用によって、人の無意識を操って意思決定を誘導するAIを作り出し、それを利用して選挙活動を行う小宮カリナ……』
「そのAI、凄いですね?一時は薬師寺にひっくり返された支持率も、また小宮カリナが更にひっくり返してます。」
カリナとマカリナ
選挙活動を行う彼女を見てきたが、AIの姿など勿論分からない。それだけ、彼女達には1ミリのズレも無いのだろう。
『舞白ちゃんは、この一連の事件……どう考える?』
"あなたの意見も聞かせて"と六合塚は続けると、舞白はコーヒーを口に含み、思ったことを話していく。
「美佳ちゃんからの情報の限り、"殺しの証拠"とやらはどこにも見受けられません。……小宮カリナに選挙で勝って欲しいと願う人間、その人物が"マカリナ"の秘密を守るために、暴走した土谷を止めようとした、だけど、土谷は転落死……」
『小宮カリナが、選挙を有利にするために利用したAIを隠すために土谷を消したのか。それとも、都知事という立場を争う相手を陥れるために、薬師寺が土谷を消したのか……』
「恐らく、小宮カリナも薬師寺も犯人じゃない、私はそう考えます。2人は本当に何も知らない……。彼らはこの事件に一切関わっていない」
『……でも、誰かが計画して実行を命じない限り、こんな事件は起こらない、違う?』
舞白の言葉に大量の"?"が浮かぶ。
「有力候補者を通して、選挙そのものを操ろうとする者。……だとすれば、榎宮の存在はそこにつながってます。……でも……分からない」
空になった紙カップをゴミ箱に投げ入れると、柵にもたれ掛かる舞白。珍しく、かなり悩んでいる様子だった。
「榎宮にとって何が利点になるのかが分からない。この選挙を操作して……なんのメリットがあるのか…、後ろにまだ黒幕がいるのか。」
『…それが、舞白ちゃんの考えなのね?』
「すみません。私も色々考えては見たんですけど、そこまでしか考えられません。」
"お手上げです"と言葉を漏らすと。ふと、舞白は土谷のID情報に視線を移すと、とある事を口にする。
「にしても、土谷博士の娘さん。……2年前の、あの事件に巻き込まれて亡くなってしまったんですね。」
"2118年 10月
渋谷スクランブル交差点 爆発事件にて娘を亡くす"
備考欄にハッキリと記されていた。
『……ええ。秋葉原の事務所の名義人の名前は、その娘の名前が使われていた。』
「…………」
『舞白ちゃん。まさか、自分のせいだなんて考えてないわよね?』
「……正直、複雑ですよ。こういった情報を見ると、やっぱりしんどいです。」
あの場所で沢山の若者が死んだ。
その光景は今でも鮮明に覚えてる。
爆発に、火災に、トラックに飛ばされる……
その光景は嫌な程に、悪夢を見る事も。
『あの時、舞白ちゃんがいなかったら、もっと命は奪われていたわ。……あなたがいたから、救われた命もあることを忘れないで』
「……ありがとうございます。ごめんなさい、六合塚さん。」
なんとなく、六合塚の呆れた笑みが脳裏に浮かぶ。
そしてその想像通り、六合塚はフッと息を吐くと、デバイスに向けて、とある言葉を放つ、
『他人に優しく、"自分に寛容"でありなさい。』
いつか、遠い昔に
六合塚に座右の銘を話したことがあった。
それを覚えてくれていた相手に、思わず舞白は嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「自分を"許す"。……頑張ってみますよ、六合塚さん。」
白い月の光が、彼女を明るく照らす。
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