whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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二"狐"追うものは一"狐"も得ず

 

 

 

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「((……!?まずい……逃げられ……っ))」

 

 

 

 

 

2人の目の前に佇む男はそのまま暗闇へと消え、白髪の2人組も勘づいたのか、別方向へと逃げるように消えていく。

 

 

「ッ……!須郷さん!」

 

舞白は須郷に視線を向け、瞳を訴えかけるように炯々と光らせる。須郷は"それ"を察すると眉を顰め、首を振るう。

 

 

「舞白さん、危険です!」

 

すぐに舞白の元へ駆け寄り、相手の左腕を掴む須郷。しかし、舞白は必死に訴え続ける。

 

「課長の命令には従います!危険な戦闘は御法度、せめて痕跡だけでも……」

 

「やっと姿を捉えた、その気持ちは分かります。ですが今回は状況が悪すぎます。何かあった時、銃火器も携帯してないんですよ?こうなる事を予想した上で、課長は所持の許可を出さなかった……」

 

舞白は視線を逸らすと、男が逃げていった路地を見つめ、グッと堪えるかのように唇を噛みしめる。

 

「……ならせめて、あの2人の影にいた人物を追わせてください!」

 

「…………ッ……」

 

掴む腕に力を感じる。

再び向けられた舞白の必死な眼光に、須郷は一瞬目を逸らすと、同じく唇を噛み締める。

 

 

 

「須郷さん、お願いします。……私一人じゃ追いかけられない、須郷さんの力も必要なんです。」

 

"一人じゃ追いかけられない"

その言葉に、舞白を止めるか否か、2つの事柄が衝突し波を立てている。

 

いつもであれば、自分にそれを伝えることすらせず、1人で駆け抜けて行動するような舞白。しかし、今回はバディを組む自分に、わざわざ許可を求める行動を起こした。

 

それは即ち、自分を信頼してのことなのだろうか。彼女の真意は分からない。しかし、1人ではなく、共に行動してくれと懇願する彼女の瞳に、須郷は首を振り続けることは出来なかった。

 

必死に獲物に食いつこうとする、獣…、…狼のようなその様子に圧倒されてしまう。

 

 

 

「―――人を使うのも、貴女は上手い。」

 

須郷の口から呆れに近いため息と共に、いつもの彼らしくない言葉が飛び出す。その表情は一言で言えば"冷徹"。いつもの姿では無い――

 

「……須郷さん……?」

 

舞白の腕を掴む手を離すと、須郷も力強い眼光を向ける。舞白はそんな須郷を見るのは初めてだったかもしれない。誰よりも温厚で、どんな時も真摯な姿勢を見せる須郷の姿はそこには無かったのだ。

 

―――むしろ、この姿が彼本来の姿なのかもしれない。彼はあくまでも"潜在犯だ"。

 

 

 

「スピードは圧倒的に舞白さんの方が早い。あの人物を追いかけてください。自分は横槍が入らないようにフォローに回ります。あの2人組も逃亡したかと見せかけて、罠を張っているかもしれない。」

 

凛とした、芯のある須郷の声。どちらかというと控えめで、いつも後手に回るその人は、まるで別人だ。

 

 

"虎視眈々"

虎の如く、獲物を狙うその瞳。

 

「……お願いします。須郷さん」

 

「任せてください」

 

舞白はニッとした笑みを見せると、一気に駆け抜ける。同時に須郷も少し距離を保ちながら彼女の背中を追いかける。

 

 

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『来てんぞ、後ろ。』

 

「想定内だよ、小畑ちゃん。―」

 

 

薄暗闇を駆け抜ける。

背後から追われる感覚を敏感に察知するも、梓澤の表情は余裕だった。

 

 

「外務省が彼ら2人を追うのは当たり前のことだ。貴重なピースブレイカーの残党だからね。…"課長"さんは、何としてでも掴みたがってるよ。」

 

『……仕事増やしやがってクソ梓澤、……お前、何企んでんだ?』

 

「察しがいいね。強敵外務省行動課の人間を、1人くらい怯ませておいた方が何かしら今後に有利だろう?」

 

『それ、インスペクターのアタシ等がやる必要あんの?』

 

「手札は多い方が良い。そうでしょ?小畑ちゃん―――」

 

しばらくすると左右に分かれる路地へとたどり着く。息を切らすことも無く、ピタリと足を止めると、交互に視線を動かす。

 

 

 

「小畑ちゃん。ヴィクスン達はどっち側に行ったかな?」

 

『アイツらは東側に逃げた。……そこから先は電波悪くて追えねぇよ』

 

イヤホン越しに聞こえるキーボードを叩く音。小畑は高度なハッキングの力を使い、様々な情報を管理していた。ピースブレイカーの2人組の信号、そして梓澤の現在地をモニタリングし、的確に指示を送っていたのだ。

 

『後方、50m圏内に2つの信号。はやくしろよ、見つかるぞ。』

 

梓澤を追う2つの信号。それは舞白と須郷だった。早く逃げろと急かされるも、梓澤は腕を組み首を傾げる。そして瞼をも閉じると、何か悩む仕草を見せる。

 

「……さて、と。ここは完全に運任せだね。」

 

『おい!早く逃げろって!お前が捕まると、色々面倒……』

 

組んでいた腕を解放し、右手人差し指を顬にトントンと当てると、パッと目を見開く。

 

「頼むよー……"君"は俺を追いかけてくれないと、今日のこの舞台は台無しだ」

 

すると梓澤は西側―――左へと進む。

 

 

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「……ッ……分かれ道……」

 

ほんの数十秒遅れてたどり着く舞白と須郷。2人は左右に伸びる暗闇へと進む路地を見据えると、互いに顔を見合わせる。

 

「舞白さん、デバイスの様子がおかしい。足跡の解析ができません。」

 

どちらに怪しい人物が逃走したのか足跡を読み込もうとするも、何故か上手くデバイスが機能しない。本来、この規模の廃棄区画であれば、そこまで電波に支障は無いはずだ。しかし、何故か使えないデバイスの機能に、明らかに不自然さを覚える。

 

「通話機能は生きてますね。……問題はどっちに逃走したのか―――」

 

舞白はキョロキョロと左右に伸びる道を見据える。しかし、時間は無い。こうしている間に相手との距離は広がっていくだろう。

 

「須郷さん。私は西側、左に向かいます。須郷さんは右側から……上手く追い込むことが出来れば、この場所で挟み撃ちに出来ます。」

 

デバイスに浮かび上がるマップ。舞白は赤いマークでとある場所をマーキングすると、挟み撃ちにしようと計画をもちかける。

 

「了解。万が一、自分が向かう東側で出くわした場合、即確保します。」

 

「お願いします。その場合、須郷さんの位置情報を掴んで合流します。逆の状況になっても同じくです。その時は、すぐに須郷さんに通信を計ります。確保最優先。課長の命令通り、危険な状況は避けましょう。…お互い、上手く時間稼ぎをすれば、2人で捕えられるはず……」

 

マーキングされた合流地点はさほど距離は無い。一気に追い込む気だと須郷は察せば、ある程度の別行動でも危険は無いだろうと考える。

 

「了解。……何かあればすぐに連絡を」

 

舞白はこくりと頷くと、白銀の髪の毛を翻す。2人は背を向け合い、左右へと別々で駆け抜けるのであった。

 

 

「((…絶対に……手掛かりを……))」

 

凄まじいスピードで暗闇に浸かる路地を駆け抜ける。

 

荒廃したこの土地は足場も悪い。複雑で暗闇に染まったこの細い道を、マップ無しで無心で走る事など常人には無理な話。気を抜けば瓦礫や廃棄物に足を取られかねない。

 

そんな道をいとも簡単に駆け抜け、おまけにジャミングも張られているこの状況。舞白は追っている人物は只者ではないと感じていた。

 

 

「((……運良く左側は一本道。このまま進めば須郷さんと挟め……))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、自分の足元に何かが引っ掛かる。

注意深く駆け抜けていたつもりだが、一瞬脳裏に浮かんだ余裕が仇となり、体の反応が遅れる。

 

 

「くっ……!!」

 

何とか受身を取り、前に転がる。

危険を察知した舞白はすぐに立ち上がるも、背後に感じる人の気配に心臓の鼓動が"ドクン……ドクン"と大きく波打つ。

 

"振り向けない"

 

本能的に背後にいる人間に対し、危険を察知する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあお嬢さん。こんばんはー……。綺麗な銀髪だねー?暗闇の中でも光ってるからよーく分かるよ……地毛かな?」

 

聞いた事のない男の声。口調や声色から察する限り、男からは余裕が感じられる。まさか、自分が簡単に背後を取られるなんて……、迂闊だったと、舞白は眉を顰める。

 

「こんなに高い位置で結ってるのに……下ろしたら腰下までありそうだね」

 

サラサラと髪の毛に触れられる感覚。どうやら、背後の男は直ぐに自分になにか危害を与えようとはしていない。"振り向かなければ"の話だろうが。

 

 

「へー、振り返らない、か。"やっぱり"、君は賢いね。」

 

まるで自分を知っているかのような言葉。

 

「……どうするつもり?」

 

「大丈夫大丈夫。君をここで取って食おうなんて思っちゃいない―――」

 

 

男の息が耳元にかかる。

 

 

「―――警告だ。

もし今、俺に危害を加えようと考えたり、振り返ったりしたら。」

 

 

トン、と右肩に男の手が添えられる。

 

 

 

「君の義理のお父さん。"伝説の刑事"を―――」

 

相手の言葉に舞白は目を見開くと、即座に言葉を放つ。

 

「何もしない。降参よ」

 

「反応が早いね。それ程に、義理のお父さんが大事なのかな。……外務省行動課の特別捜査官にも、人の心があったみたいで安心したよ」

 

全て知られている。

やはり、只者ではない―――

 

 

「君のことは知ってるよ。外務省行動課、唯一の女性捜査官だ。花城フレデリカのスカウトかな?」

 

「…………」

 

梓澤は舞白の肩に乗せていた手を離せば、再び結われた髪の毛に触れる。するとまるで子供が遊ぶかのように、三つ編みをし始める。

 

「最後に受けた考査のポイントは全国一位。空手のジュニア戦でも日本一。新麻布に通っていた超エリート。色相も常にクリアカラー……。"色々"あって実の兄と海外へ逃亡。そして花城フレデリカに拾われた強運の持ち主……というより、不運?なのかな」

 

極秘の情報を含め、上司の名前も口にする男に、舞白は久しぶりに恐怖を感じていた。相変わらず口調も行動もふざけている様子の相手。舞白の情報を知っているのであれば、どれだけ敵に回すと面倒なのかも分かっているはずだ。しかし、男は余裕しか見せない。自分よりも強いのか、もしくは同等なのか……

 

「……で、私に何の用?」

 

「いいねえ〜、その感じ。監視官補佐で活躍出来た理由も分かるなー。……冷静で賢い。洞察力にも優れてる。安易に手出しするべき相手じゃないって、君は即座に理解した。」

 

呑気に笑う男は三つ編みに結い上げた相手の髪の毛をふわっと解く。同時に、髪ゴムも抜き取ると背後から舞白の目の前に手を伸ばし、そのまま握っていた髪ゴムを地面に落とす。

 

 

 

 

「君のお友達。公安局刑事課の課長さん。……昔のお友達のように、させたくないだろう?」

 

「!?」

 

ギリっと歯を噛み締める。

 

「花橋コーポレーション。実は半年ほど、ドローン製造の本部長を任されたことがあってね?ちなみに、調べても無駄だ。その経歴はどこにも残されていない。」

 

"花橋コーポレーション"

この国の様々なドローンの製造を担う大企業。そして、かつての親友、花橋咲良の父親が経営していた会社でもあった。8年前、咲良の家族は槙島によって全員殺され、そして咲良も殺された―――

 

あの事件は公には晒されていない。行方不明者扱いとなり、世間はその存在すら、もう覚えてもいないだろう。

 

 

―――昔のお友達のように

その言葉は、まるで"あの時の事件"を全て知っていると示唆するものだった。

 

男の両手が舞白の両肩に添えられる。

すると、今まで呑気だった男の声色が一気に変化し、低く怪しい声が鼓膜を叩く。

 

 

「お嬢さん。これ以上、俺の邪魔をして欲しくないんだ。刑事課に情報を渡しているのも分かってる。そんなに、君は親友が大事なのかな?……過去の事件のように、大切な人を失うのが恐ろしいのかな?……それとも」

 

左首にひんやりとした指が添えられる。

 

「短命な自分なら、どんなに自己犠牲を払っても構わない、そう考えているのか―――」

 

「……ッ……触らないで!!」

 

 

初めて相手に対して感情的になる舞白。その表情は見えないものの、凄まじい怒りに染まっていると、声色だけで察しがつく。

 

「おっと……君も感情的になるんだねー、怖い怖い……。潜在犯の伴侶を持つと、やはり色相も濁って、影響が出るのかな?」

 

さらに追い打ちをかけるように挑発する相手。自分の夫、宜野座の事も把握されていると分かれば、尚更苛立ちは膨れていく。しかし、ここで感情的になれば何が起きるか分からない。

 

「……結論を述べて。」

 

 

「刑事課一係への介入を止めてもらおう。もちろん情報提供は尚更だ。」

 

一係が追っている事件。間違いなくこの男が関係していると、ここまでの男の発言で理解する。

 

 

「"一先ず"それだけで構わない。従わなかった場合、君の大切な人たちがどんな目に遭うか……君の頭なら分かるはずだ。」

 

梓澤は自身のコートの懐に手を伸ばすと1枚の名刺を取り出す。それを、舞白のスーツのポケットに入れると、再び耳元で囁く。

 

 

「せいぜい、"狐狩り"を楽しんで―――」

 

 

 

背後から気配が消えていく。そして、デバイスから通知音が鳴り響くと、須郷の声が脳内に響き渡る。

 

 

 

『舞白さん、今どこに―――』

 

新たなハッキング。

デバイスにマップを表示させるも、自分の位置情報、そして須郷の位置情報すら表示されない。

 

 

「……すみません、須郷さん。

残念ながら……取り逃してしまいました。」

 

『怪我は?』

 

「大丈夫です。何も危害はありませんでした。すぐに合流地点に向かいます―――」

 

『無事でよかった。……了解。また後ほど。』

 

その言葉と同時に須郷との通話を切る。

 

舞白はポケットに手を入れ、1枚の名刺を取り出すと、デバイスの明かりを頼りにじっと見据える。

 

 

 

"清廉潔白な美しい貴女に――"

 

 

狐の影が描かれた名刺。

その上に重なるように並んだその文字

 

 

まるで全てを見透かされているかのようなその文字に、舞白の背筋がゾクッと震え上がる。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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