whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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4章
噛み合うふたつの推理


 

 

 

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公開討論会当日―――

―――午後16時30分過ぎ

 

 

首都高速道路

 

 

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「ふぅー……」

 

 

 

オレンジ色に染まる空を車内から見据えるのは小宮カリナ。

 

彼女は疲れた様子で深くため息を吐くと同時に、胸元のペンダントにそっと触れる。赤い球体のペンダントはどことなく不気味な雰囲気を漂わせる。

 

 

 

要人専用車両。中はリムジンのように広く、車内には小宮カリナの姿のみ。しかし、小宮はペンダントから視線を離し、対面の座席へと視線を向け微笑を浮かべる。

 

 

「ありがとう、"マカリナ"」

 

 

小宮の台詞と同時に、対面の座席に自分と同じ、姿かたちのホログラムが現れる。

 

 

『ありがとう、"カリナ"』

 

AIのマカリナ。

彼女も同じく微笑を浮かべると、対面に座るカリナへと感謝を述べる。

 

 

カリナとマカリナ

彼女たちは一心同体―――

 

 

 

「「2人なら、何でもできる―――

―――1ミリのズレもなく、完璧な私たちだから」」

 

2人は手を差し伸ばし、強く手を握り合う。

そしてAI"マカリナ"の体は、カリナに手を引かれ、自身の体へと融合する。

 

カリナは再びペンダントに触れると、そっと目を閉じる。

 

 

「1ミリのズレもなく、完璧な私たちだから」

 

 

 

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同時刻―――

―――公安局ビル 分析室

 

 

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カタカタと分析室のキーボードを操作するのは、唐之杜と六合塚。その背後の椅子に腰掛けるのは慎導、入江、廿六木。

 

討論会をが行われるまで残り数時間。二係からの応援要請が無いことを祈りつつ、異変が起こった時の為にと、分析室で待機していた。

 

 

しばらくすると、六合塚の視線は鋭いものへと変わると、じっととあるデータを睨みつける。

 

 

「…慎導監視官。榎宮が関わってる運搬業者に動きがありました。」

 

六合塚の言葉に、慎導はパッと立ち上がるとモニターへと近づく。

 

「まさか、討論会が行われる"ギガアリーナ"へ配送中ですか?」

 

「ええ。その通りよ。」

 

「……唐之杜さん。ギガアリーナの警備状況、今どうなってますか?」

 

次に、慎導は傍らの席に座る唐之杜へと視線を向け、次々とモニターに映し出されるドローンの配置図を確認していく。

 

 

「二係の宮舘監視官指示の元、2名の執行官が担当。ドローンも各所に配備済み。宮舘監視官なら、2年前の経験もあるし、前始末はバッチリね。」

 

「でも、相手もドローン対策をしてないとは限りません。……リー・アキさんの襲撃も、かなりの計画性があった。そんな簡単に行く筈が……」

 

 

刹那、慎導のデバイスが分析室に鳴り響く。その音は通話を知らせる通知音。相手は停職処分中のイグナトフだった。

 

 

 

「炯?どうしたの?」

 

慎導の他に、入江達もその通話に耳を澄ませる。そして、イグナトフから放たれた言葉に、その場にいる人物たち全員が驚きを見せる。

 

 

『今ちょうど、ギガアリーナに到着。』

 

「ええーっ!?停職処分は?」

 

『俺は討論会を聞きにきただけだ。ついでに会場を見て回り、異常があれば連絡……、いや、通報する。それじゃ』

 

「えっ……あ……ちょっ!」

 

容赦なく切られる通信。

停職処分で監視官としての勤務は不可能。だったら、あくまでも"一般客"として現場に乗り込む、という目論見だろう。

 

「苦しい言い訳っすね?イグナトフ監視官。」

 

「大丈夫なのか?おい……。課長にまたキレられるぞ?」

 

相変わらず、ヤバイ監視官だ。と言いたげに発言する入江と廿六木。唐之杜と六合塚も同じく、互いに視線を向け合うと小さく笑みを浮かべていた。

 

 

 

「……怪しい運搬業者の動き……。やっぱり、榎宮は討論会を襲撃するつもりです。俺たち一係も、ギガアリーナに行きましょう。」

 

 

「おいおい、課長に確認はとらねえのかよ?イグナトフ監視官と同じく停職処分食らったらどーすんだよ?」

 

思わず慎導の腕を掴む入江。

しかし、ニッコリと余裕そうな笑みを浮かべる慎導は、そんな入江の肩をポンポンと叩く。

 

「大丈夫ですよ?課長なら、分かってくれるはず……

―――っと、その前に、まずは小宮候補に伝えないとね?」

 

 

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ギガアリーナ

―――メインホール 舞台裏

 

 

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客席の傍聴者たちの声が聞こえる中。薄暗い舞台裏で待機するのは主役の1人、小宮カリナ。そして秘書のアン・オワニー。

 

突如かかってきた電話の相手の言葉に、アンは眉を寄せ、怪訝な表情を浮かべていた。その様子を傍らでじっと、小宮は伺う。

 

 

 

 

 

「小宮はこの討論会に全てをかけてます。出演中止は無理です。」

 

『彼女が危険な目に遭ってもいいんですか!?』

 

 

慎導の荒い声。

傍らの小宮は腕を組み、小さく息を吐く。

 

 

「……アン、代わって」

 

「いいのよカリナ。あなたが相手にしなくても―――」

 

 

アンの手元から強引に機器を取り上げる小宮。慎導とアンの話していた内容にものともせず、強気の姿勢を見せる。

 

 

 

 

「――はい、小宮です。」

 

『前にお会いした公安局の慎導灼です。』

 

「話は全て聞いてました。…私、襲われるんですか?」

 

傍らで全て話は聞いていた。

今日、この討論会で"何かが起こる"

 

そして、狙いは自分であると―――

 

 

『榎宮という危険な人物が、あなたを狙っています。』

 

慎導の真剣な声色。以前、面会した際のふわふわとしたような、陽気な刑事の姿は感じられない。小宮は相手の言葉に顔色ひとつ変えず、そっと台詞を吐く。

 

 

「……そうですか。」

 

『小宮候補。……俺は、あなたのトリックを知ってる。

――"マカリナ"について。』

 

思いがけない相手の言葉に、一瞬唇を噛み締める小宮。しかし、彼女はそれでも引く気は無い様子。

 

『榎宮はあなたの正体を暴くためなら手段を選ばない。…すぐにギガアリーナから離れてください。』

 

「……刑事さん。私は負ける訳にはいかないの。……やめる気はありません。」

 

『小宮候補!!』

 

一方的に通話を切ると、機器をアンに返す。真剣な眼差しで一点を見据える小宮を横目に、アンは心配している様子だった。

 

「……カリナ、大丈夫?」

 

そんな心配気な秘書官の姿に、小宮は咄嗟に笑顔を浮かべる。

 

「アン。大丈夫よ?

私はこの日の為に……頑張ってきたんだから。」

 

右手で拳を作るとギュッと力を込める。左手は首元のペンダントを握りしめると、深い息を吐き切り、脈打つ鼓動を落ち着かせる。

 

「大丈夫……私には"マカリナ"がいるんだから―――」

 

 

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"網元運輸"と記されたトラック。

その中に整列されているのは、まるで棺桶のような箱。

 

トラックの扉が開くと同時に、白い冷気を纏った煙が辺りを曇らせる。そして、8個の箱のロックが解除されると、のっそりと中から人影が現れる――

 

 

「ふーー……」

 

ガタイのいい男たち。怪しげなフードで顔を隠し、口から冷気を吐き出す。"仮死状態"から蘇った男たちの眼光は、怪しく炯々と光を帯びていた―――

 

 

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同時刻―――

―――公安局ビル ヘリポート

 

 

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ギガアリーナへ向かうべく、一係総出でヘリへと乗り込む。そして、最後の最後にヘリポートへ到着した慎導は、とある人物がその場に居る事に驚きを隠せない。

 

 

 

 

「あれっ?六合塚さんも?」

 

目の前の座席に腰を下ろしていたのは"ジャーナリスト"の六合塚の姿。なぜヘリに乗り込んでいるのか……と、不思議そうにじっと見据える。

 

 

「乗りかかった船ですから。」

 

「でも、かなり危険な任務になるかもですよ?相手は格闘術……、って……そっか……」

 

"元執行官"

それに、刑事課一係に身を置いていた期間は長い。分析面で活躍をしていたとは聞いていたが、それ相当の体術もイけるだろうと、慎導はポンっと手と手を合わせる。

 

「心配無用よ。それに、何か手助けが出来るかもしれないし。」

 

「…ありがとうございます。六合塚さん。」

 

彼女の能力は本物だ。

万が一、システム関連の妨害などが起こった場合、六合塚の腕があれば、なんの問題も無く解決するだろう。

 

 

慎導、六合塚。

そして、執行官全員を乗せたヘリが高く飛び立つ。すっかり暗くなった空。窓の外には煌びやかな東京の街が光り輝く。

 

 

 

 

「―――現在、支持率は小宮が逆転してる。……全身ホロの口パクアイドルに支持率ひっくり返されるんじゃ、薬師寺陣営もたまんねぇなあ?」

 

入江はデバイスを操作すると、最新の支持率結果を映し出す。圧倒的な差をつけて支持率逆転へと導かれた小宮陣営。つい数日前までは薬師寺陣営が圧倒的に勝っていたはずなのに、と。

 

支持率逆転の鍵。それは、今は亡き小宮のメンタルカウンセラー、土屋荒城が作り上げた代理人格AI、"マスコントロール・カリナ"のお陰だろう。

 

脳に認知負荷のかかる思考の放棄を促す声のトーン・話法を用いて、高度な思考誘導を行うことが可能なAIであれば、そのような事は容易い。

 

「ですが……一般人の全身ホログラムには規制があるはずですが……」

 

「だから隠してたんでしょう。…俺も騙されました。」

 

雛河の素朴な疑問に、慎導は一刀するように言葉を放つ。そしてその横で腕を組み、首を傾げる廿六木は"訳が分からない……"と言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「よくわかんねえな……要はなんだ?人工知能のスピーチライターだろ?」

 

「そんなレベルじゃありませんよ。

―――脳科学。特に思想決定過程と認知心理学を応用した、新種のメンタル誘導装置です。」

 

「AIが人間を誘導するって、そんな事ができるんですか?」

 

人間ではなく、作られたAIによって思考操作される。そんな空想じみた事が本当に可能なのか?と如月は慎導に問いかける。

 

「人間は実のところ、自分の頭で考えて判断することはそんなに得意じゃないんです。」

 

 

「思考の放棄を促す装置……ですか?」

 

「でもよ?それでも考えるもんだろ?人間は」

 

雛河と廿六木は互いに視線を交えると、ますます沼にハマっていく。執行官たちが疑問符を浮かべている中、黙っていた六合塚がそっと口を開く。

 

 

 

「監視官のおっしゃること、よく分かります。……ジャーナリズムを学べば学ぶほど、伝達された情報を何も考えず丸呑みにする方が、人にとって楽なんだと分かりますから。」

 

 

「……特にこの社会では、あらゆる人生の選択を外部に委託してますからね。」

 

六合塚と慎導は外の光に視線を向ける。

何百、何千……何万もの光の粒。

ここに生きている人々全員は、シビュラに人生の全てを委ねている。昔とは違い、自分の意思とは別に、このシステムがよりよい人生の為にひとりひとりにレールを予め用意してくれている。

 

何も考えずとも、その人にとって最良の人生を―――

 

そういった社会になったからこそ、人々はより一層考えることについて、昔の人々よりも退化しているだろう。

 

 

 

 

 

「……なあ、監視官。結局、犯人は小宮と薬師寺……どっちなんだ?」

 

廿六木の言葉に全員が注目する。

"結局"、こんな大事にしたのはどちらなのかと。

 

 

全員が慎導に注目する中、彼は思ったことそのままを話し始める。

 

 

「あくまで、俺の考えです。

―――小宮も薬師寺も、この事件には一切関わっていない。」

 

あまりにも的外れすぎる発現に、執行官たちは目を見開き、六合塚は聞いたことのある推理に耳を傾ける。

 

つい先日、六合塚が舞白に問いかけた時と同じ考えを慎導もまた口にしていたのだ。

 

「はあ?どういうことだよ……」

 

「2人とも色相には問題ナシ。殺しを行ったっていう証拠もナシ。……それに彼らを見る限り、"そんなこと"をするとは思えない。」

 

「((……彼も、舞白ちゃんと同じ考え……))」

 

六合塚は微かに眉を顰める。

 

特A級のメンタリズムの能力を持つ慎導。あくまでも、彼の推理は2人の様子を見ての結果だ。彼らの様子からして、自分の利益のために、人を殺すなんて考えられないと推測していた。

 

しかし矛盾が生じると、雛河は声を上げる。

 

「でも…監視官。誰かが計画して実行を命じなきゃ、こんな事態になりません。」

 

 

「有力候補者を通して、選挙そのものを操ろうとする者。……きっと、榎宮はそこにつながってるんです。」

 

慎導の推理。

舞白の推理。

 

見事に一致したことに、六合塚は確信を得る。

 

恐らく、2人が話している通りなのだろう。

しかし、その先が"分からない"

 

"誰が"

 

"何の為に"

 

 

それを行うことによって、本当の黒幕に、何の利益が齎されるのか……

 

 

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・・・・

 

 

 

 

 

 

 

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