whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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コロッセオの政争

 

 

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――同日

午後19時過ぎ―――

 

 

 

ギガアリーナ 地下駐車場

 

 

 

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「((……空の箱が8つ……遅かったか))」

 

 

"網元運輸"と記されたトラック。

荷台の扉が不自然に開かれており、明らかに怪しい雰囲気を漂わせていた。棺桶のような箱から漏れているのは微かな冷気。おそらく、まだ時間はそこまで経っていない。

 

 

イグナトフはデバイスを操作すると、通信を図る。

相手は、警備を担当している二係、その監視官――

 

 

 

「"宮舘監視官"。箱は8つ……中は空です。」

 

『――あとで課長に説教されても知らないぞ?イグナトフ監視官。』

 

舞台袖で苦笑する"宮舘薫"

2年前、三係に席を置いていた優秀な監視官。かつて舞白が監視官補佐として一係に席を置いていた際には、無鉄砲な舞白に対し最初は毛嫌いしていたものの、最終的には舞白の洞察力や行動力に魅せられ、今でもたまに連絡を取り合う仲だった。

 

堅物で融通が利かない、なんて過去に言われていた宮舘。しかし、今は一係の新任監視官の無茶苦茶な行動に対し、軽くあしらえる程にまで柔軟な監視官へと成長していた。

 

 

「問題ありません。あくまでも"討論会を傍聴しに来ただけ"です。…それで、たまたま不審な人物を見つけた。居合わせた警備担当の二係の監視官に報告した……それだけですよ。」

 

『……全く……一係は昔から破天荒な奴が多いな。』

 

「この件が終わったら、またご挨拶に伺わせてください。宮舘監視…ッ……はっ!」

 

 

刹那、イグナトフの背後に人の気配。

フードを被ったガタイのいい男。

 

『イグナトフ監視官!?……ッぐぁっ!!』

 

デバイスから宮舘の苦しげな声が響く。恐らく、警備に当たっていた二係の執行官たちも、同じく襲われているのだろうか。

 

「くっ……宮舘監視官!!

クソっ………」

 

男の手元には拳銃型のスタンガン。トリガーが引かれると、ビリビリと電気を帯びた2本の紐が飛び出す。先端には棘のようなものが付いており、突き刺さればその場で気を失うのは確実だろう。

 

「……((この体格……やはり、榎宮の……))」

 

一撃一撃がとにかく重く力強い。しかし、イグナトフは今回こそ怯む様子は一切見せなかった。

 

「公安局の人間……だな?」

 

相手の男は構えの姿勢を見せると、イグナトフを強く睨みつける。

 

 

「悪いが、今回は負けない。」

 

勿論、ドミネーターは未携帯。停職中ということもあり、使えるのは自分の体のみ。

 

しかし、前回のホテルの奇襲には臆したものの、イグナトフは軍事経験がある。真っ向勝負となれば、勝機は明らかだ。

 

「――ッ!」

 

イグナトフの俊敏な攻撃が相手を圧倒する――

 

 

 

 

 

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『いよいよ事前調査支持率、1位と2位による公開討論会です!早速登場して頂きましょう!!』

 

 

『薬師寺康介候補!』

 

広いステージ上で赤い炎が燃え盛る。その炎の渦の中から現れたのは、上下黄色の派手なスーツ、そして赤いネクタイを身につけた薬師寺康介の姿。スポットライトに照らされると、格闘家らしいポージングを見せつければ、観客の歓声が湧き上がる。

 

 

『続いて、小宮カリナ候補!』

 

薬師寺、そして司会者を挟み、新たにステージ上にスポットライトが照らされる。

 

キラキラと光り輝くシャボン玉がステージ上に広がると、現れるのは小宮カリナ。鮮やかな青いスーツ姿。正に"アイドル政治家"という名前が相応しい艶やかな演出に、さらに会場のボルテージは上昇していく。

 

 

「「キャーーー!!カリナーーッ!!」」

「「可愛い〜!!」」

 

声援のほとんどが小宮に向けられたもの。圧倒的支持率がその歓声を聞くだけで、薬師寺との差を感じさせる。

 

 

 

 

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「刑事はどこかに閉じ込めておけ。」

 

「はいよ」

 

ガタイのいい男達に運ばれているのは、気を失った宮舘。そして執行官の2人も同じく他の男達に担がれると、会場の人気のない部屋に押し込められていく。

 

 

「放送の邪魔をしないよう、妨害電波の範囲を限定しろ。」

 

「ああ、わかってるよ」

 

1人のリーダー格の男が指示を出していく。フードを被った男達の1人が、何やらPCを操作すると、討論会の妨害を行う為に着々と準備を進めていく。

 

 

「会場内のジャミング開始まで、残り10秒――」

 

 

「9……8……――」

 

 

 

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会場内に響く観客たちの大歓声。

2人の候補はステージ上から観客たちに応えるように手を振っていた。

 

 

『それでは!先行は薬師寺……』

 

司会者の陽気な男が手順通り進行しようと声を上げた瞬間、会場の照明がチカチカと点滅する。突然の不気味な状況に、観客たちは戸惑いの言葉を発する。

 

 

「「何?演出??」」

「「でも……何か変じゃない?」」

 

 

不気味に点滅を続ける照明。そして、会場内が真っ暗闇に包まれると、観客たちは慌てふためく。

 

そしてステージ上の小宮にも異変が起こっていた。

 

 

「ん……?……えっ……!?」

 

ザーザーと耳元でノイズ音が響くと同時に、全身にホロの乱れが生じると、AIのマカリナと体が分離する。小宮の目の前に、もう1人の自分が現れる奇妙な状況。ステージ上にあるのは"2人の小宮カリナ"の姿。

 

 

「「……ん?あれってカリナ……?」」

「「でもなんで2人?……ホロ?」」

 

 

ざわざわと混乱する観客たちに、司会者は落ち着かせようとステージ上で笑顔を見せ、手元のマイクに言葉を放つ。

 

 

『皆さん!機材トラブルだと思われます。慌てずに落ち着いてください。直ぐに復旧を…』

 

しかし、司会者の言葉は届かない。

 

何故ならば、更に不気味な現象が起こり始めていたからだ。薬師寺、司会者、小宮――その後ろにフードを被った3人の巨体の男が現れる。

 

背後からの足音。"それ"にようやく気づいた司会者は、怯えた様子で背後の男たちに視線を向ける。

 

『ん……?なっ……何だ!?君たちは!!……ぐあっ!!』

 

男の1人が容赦なく司会者に拳を振り下ろす。凄まじい威力に、司会者はその場で気を失い、更に会場は異様な空気に包まれる。

 

そして男たちは、小宮カリナへと一直線に歩みを進めると、容赦なく小宮の首を掴む。

 

 

「……ッぐ……ぁあっ!」

 

「小宮候補!…………何だ貴様ら!!」

 

悶え、苦しむ小宮を助けようと、薬師寺は駆け出すものの、うち1人の男に殴り飛ばされ、ステージ上で激しく揉み合う。

 

「……ぐっ……がハッ……!」

 

「よう!"元"チャンピオン!!」

 

殴り合う2人。薬師寺の秘書官が止めに入ろうとするも、簡単に殴り飛ばされれば全く歯が立たない。観客席の傍らで傍聴していた小宮の秘書官、アン・オワニーは慌てた様子でステージへと向かい始める――

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……離して!!嫌!!……っ……マカリナ!!」

 

『カ……リナ……』

 

大男に担がれる小宮。男の体を何度も強く叩くも、相手はビクともしない。そして、ステージ上に残るホログラムのマカリナに必死に手を伸ばすも、互いの手は離れていく。

 

「マカリナ!!……うっ!……あ……」

 

鈍い、殴られる音が響くと同時に、小宮はガクッと項垂れる。取り残されたマカリナは唖然とした状態で、2人の男に連れ去られていく小宮をじっと見据えていた。

 

 

そして、マカリナは両手を顔の前に翳す。ホログラムのエラーのせいか、全身がザーザーと荒れる光景がリアルに映し出される。

 

 

『エラー……初期化……初期化……初期化失敗…ザザッ……選挙対策スピーチ……ザザッ……ザ……公開討論シミュレート同期……同期失敗……ザザッ』

 

刹那、ギョロっと機械的な焦点の合わない瞳が蠢くと、マカリナは暴走し始める――

 

 

『暴力……ザザッ……とは、何で、でしょううう??ザザッー……それは、大勢、……大勢が同時に何か、を求める、こことで――』

 

ノイズ混じりの音声が更に悪化していくと、遂には小宮カリナの姿ではなく、不気味なホログラムそのものの姿へと変化していく。

 

会場内以外にも、日本国内に中継されている小宮の姿に、人々は驚きを隠せない。なぜ、ホログラムの小宮が映っているのか。壊れた機械のようにスピーチを続けるそれは不気味なものだった。

 

 

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混乱が始まって数分後――

ギガアリーナに公安局のヘリが降り立つ。

 

 

 

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監視官ジャケットの襟元を掴み、整える仕草を見せる慎導。そして、デバイスで状況を確認。背後で指示を待つ執行官達、六合塚へと体を向ければ真剣な目付きで見据える。

 

 

 

「――入江さん、廿六木さん、そして六合塚さんも俺と現場へ。どうやら、すでにここら一帯にジャミングがかけられてます。」

 

「ジャミング解除なら任せて。」

 

六合塚は無表情ながらもその顔つき、冷静沈着な態度は執行官時代の面影を微かに感じさせる。分析力やジャミングへの対処はこの中で1番長けているだろう。

 

そんな彼女に、慎導は僅かに口角に笑みを見せる。

 

「頼りにしてます、六合塚さん。入江さんと廿六木さんは彼女のフォローをお願いします。」

 

「へいへい」

 

「了解だ、任せとけ。」

 

次々とドミネーターを手にする執行官達。

 

 

「雛河さんと如月さんは観客の誘導を。」

 

「「了解」」

 

「……ここから無線通信時は、念の為にコールサインを使用しましょう。それと、二係の宮舘監視官、及び執行官たちとも通信が途絶えています――」

 

慎導もドミネーターを手にすると、強く握り締める。そして全員に視線を向け、強い一声を放つ。

 

 

 

「油断せずに」

 

慎導の真剣な眼差しに、全員が小さく頷く。

 

 

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「ん……あ……」

 

 

ゆっくりと瞼を持ち上げる。全くもって、何が起こったのか上手く理解できていない小宮は、ぼんやりとした表情で周辺を見回す。

 

 

「((……舞台上で……私……マカリナと……))」

 

目の前にはカメラを構えた男。そして、両隣には2人の男が自分を挟み込むように立ち尽くしていた。自分は椅子に座らされているものの、拘束はされていない。……いや、する必要がないのだろう。

 

もしここから逃げ出そうとすれば、男たちに簡単に捩じ伏せられることは容易に想像が着く。

 

 

 

「謝罪しろ。小宮カリナ。」

 

「…………」

 

「お前のトリックは公衆の面前で暴かれた。……国民を騙していたことを謝罪するんだ。言うことを聞けば、命は取らない。」

 

男達の目的は正直よく分からない。ただ、マカリナの存在を知っていた事は間違いないようだった。

言うことを聞けば殺されない。……しかし、小宮は膝に置いた手をグッと握りしめ、目の前の男を見据える。

 

 

「お断りします。」

 

「……何?」

 

「お断りします。……私は、私がやるべき――」

 

 

 

その瞬間、舞台裏の広い空間に女性の声が轟く。

 

 

 

 

 

 

「カリナ!……ッ……カリナ!!」

 

その声の持ち主は秘書官の"アン・オワニー"

小宮を助けようと、脚をもつれさせながら小宮に向かって必死に駆け抜ける。

 

「アン!来ちゃダメ!!」

 

無我夢中で駆けるアンにその声は届かない。

1人の男に簡単に捕えられると、容赦なくアンの体が壁に向かって投げ飛ばされる。

 

 

 

「うあっ!!…………カリ……ナ……ッ」

 

「アン!!

……やめて!やめなさい!!」

 

床に転がるアン。小宮は男に押さえつけられ助けることはできない。

 

そして、男は最後にとどめを刺そうと、アンの頭上に脚を向ける。

 

「恨むなら、小宮カリナを恨め」

 

「ッ…………」

 

 

 

もうここまでかと、アンが目を閉じた瞬間、突如目の前の男の体が吹っ飛ぶ。

 

 

「ふっ……!」

 

現れたのはイグナトフ。

アンを襲っていた男、そして小宮の傍らにいたもう1人の男と乱闘を繰り広げる。

 

体格が遥かに違うものの、俊敏にねじ伏せていくイグナトフにカメラを構える男は視線を奪われていた。

 

 

「((……今しかない……今のうちに…っ))」

 

 

隙を見つけた小宮はすぐに椅子から立ち上がると、そっとバレないように歩き出し、壁にぐったりともたれ掛かるアンの元へと向かう。

 

 

「アン……怪我をっ……」

 

痛みに顔を歪ませるアン。しかし、小宮が逃げ出した様子に気づいた男がこちらに向かってくる光景を目にしたアンは、小宮の体を押し返す。

 

「カリナ……逃げて」

 

「……ッ……」

 

一直線に向かってくる男。今までの彼らの行動から考えるに、目的は自分に違いない。

 

小宮は戸惑いを見せるも、その場から駆け出す。

 

 

 

「チッ……逃がすか!!」

 

小宮を追いかける男。

イグナトフは襲いかかる男たちを相手にしながら、その様子を目で追う。

 

 

「((……灼……どうか間に合ってくれ――))」

 

 

 

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