whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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浮かぶは高き真空色

 

 

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同日 午前10時過ぎ―――

―――ベトナム廃棄区画 外務省専用車両内にて

 

 

 

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「いっ……たーーーい!!」

 

 

 

 

左腕の切り傷に消毒液が浸透したガーゼを当てられると、ズキズキと痛みが走る。舞白は体を強ばらせ、処置を施す相手の腕を強く握り締める。

 

 

「まっ…舞白さん!

自分も腕が痛いのですが…」

 

 

「あ!ごめんなさい!須郷さん…、つい力が…」

 

車両内の椅子に腰掛け、向かいでは須郷が涙目になりながらも、舞白の腕に包帯を巻き付けていく。そしてその光景を傍らで見据える3人は腕を組み、今回の作戦の一端に悔しそうな表情を浮かべていた。特に花城は悔しさに耐えるように唇を噛む。

 

 

「舞白さん。もう終わりますから――」

 

「須郷さん、いつも本当にごめんなさい…」

 

うぅ…と眉を下げ、申し訳なさそうにする舞白に、手馴れた手つきで須郷は処置を次々と終わらせる。

 

「舞白。呼吸は?」

 

「大丈夫そう。ちょっとぼんやりするけど、大したことない」

 

傍らに置かれた酸素吸入機を横目に、心配する宜野座の問いに大丈夫だ、と告げる。

 

 

「一旦基地に戻ったらすぐに医務官に見てもらえ。最悪、お前だけは帰国だ」

 

「…大丈夫だよ。それに、…」

 

同じく、舞白の身を按じる兄に呆れたような笑みを向ける。

 

"それに、彼らをまた捕えられなかった"と言葉を続けようとしたが、誰よりも悔しそうな様子の花城を見ると、思わず言葉に詰まってしまう。

 

須郷が処置を終え、包帯や消毒剤を手にし、宜野座の横へと立つと、舞白は自分を見据える4人に向けて頭を下げる。

 

 

「…すみませんでした。私が1番、彼らを捕まえるチャンスに遭遇したのに、また逃がしてしまって…」

 

「舞白、あなたのせいじゃないわ。…私達も迂闊だった、まさかあそこまで用意周到だったなんて。」

 

花城は椅子に座る舞白の傍へしゃがみ込めば、じっと顔を見据え、首を振るう。むしろ、あの状況でたった1人で立ち向かっていた舞白に対して称えるべきだと言わんばかりの様子だった。

 

そしてその様子を見ていた狡噛が口を開く。

 

 

「あいつらの狙いはお前だった。…面倒な奴を1人ずつ潰していく。それが魂胆だろう。」

 

同じく、隣の須郷も口を開く。

 

「自分と狡噛さんで、あの男と応戦しましたが…あの男は一目散に自分たちから逃げ出し、まるで舞白さんの場所が分かっていたかのような行動をとっていましたから。」

 

舞白はあの2人組の会話を思い出す。

確かに、今まで1番彼らに遭遇しているのは、兄と自分。外務省行動課に早い段階から身を置き、複数の任務を行っていたからこそだった。そして、あの老爺は"息子達の仇"と間違いなく口にしていた。

 

自分と兄が捕縛、もしくは殺害した人間に関係しているに違いない―――と

 

 

 

 

 

 

 

 

「一先ず、市街地に戻って、掴んだ情報をまとめましょう。」

 

花城は舞白の背中をポンっと叩くとその場から立ち上がり、4人に向けて次の指示を出していく。

 

 

「少し休憩したら次の拠点にまた移動するわよ。狡噛は引き続き私と調査を。宜野座、須郷、あなた達もね。」

 

そして舞白に視線を向ける。

 

「舞白、あなたは医務官の診察を受けて。まだ、あの薬物が抜けてない可能性もあるわ。状況次第で私と狡噛に合流なさい。いいわね?」

 

「了解です。課長。」

 

素直に指示を受け止め、存外元気そうな舞白に笑みを浮かべる花城。そして5人は別車両へと移るために外へと出ていく。

 

外は先程の雨の様子は全くなく、太陽の陽が照りつけていた。

 

朦朧とした気持ちも、この朝の青々とした新鮮な空気を吸うと、不思議と気分が晴れやかになりそうだった。

 

 

「………」

 

綺麗な青空を見上げていると、一瞬陽の光が瞳に鋭く刺さり、ふらっと足が縺れてしまう。しかし、それを即座に支えたのは夫でもある宜野座だった。

 

「まだ本調子じゃないだろう。…無理はするんじゃない」

 

「うん。ごめんね。」

 

体勢を立て直し深呼吸すると、再び歩き始める。舞白と宜野座は須郷の運転する4WDに乗り込めば、後部座席で体を倒す。助手席からその姿を見据える宜野座と須郷は心配そうに眉を顰め、車を発進させた。

 

 

「((…次こそ…あの2人を…))」

 

仰向けに寝転び、両手を広げ顔に覆えば悔しさを滲ませ、懺悔の火に心をただらせるような様子。

 

しかし、それとは裏腹に

顔を覆っている手指の隙間から覗く外の景色は、空が抜けるような青さに澄み切っていた。

 

 

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"外務省海外調整局行動課"

そもそも、なぜこのような特殊な課が誕生したのか。

 

 

それは、舞白達が遭遇した"ピースブレイカー"も関係していた。

 

 

彼らは、簡単に言えば、

闇経済や海外での略奪に関わる、極秘の特殊部隊。あの2人のように銃火器や様々な危険物を取り扱い、かなりの強者が揃っていた。

 

それを調査し、さらなる危険が及ぶ前に壊滅させる。それが行動課が生まれた理由の1つだった。

 

 

花城、狡噛、舞白。

そして後に合流した宜野座、須郷―――

 

それぞれが、それぞれの目標や思いを掲げ、今の行動課の面々が揃った。

 

 

そもそも、舞白に関しては、新疆ウイグル自治区にて花城の目に止まったのが事の発端。兄と同じく、シビュラシステムの目があるからこそ、日本に戻れなかった身。

しかし今は、ピースブレイカーを始め、宜野座達と同じように様々な目標を持っていた。だからこそ、自分は成すべきことを成すために―――

 

 

 

 

 

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「………………」

 

 

街が見渡せる丘の上。

この国も同じく安全な場所等、殆どどこにも見当たらない。

 

丘の上から見える景観は、日本とは大違い。かつて、自分が海外を放浪していた時の景色と全く同じだった。

広がる廃棄された無法地帯、スラム地区。盗みや殺人、貧困、無政府国家―――

 

 

地面に座り、ぼんやりとその景観を見つめ、口にパンを運んでいると突如首の後ろにヒヤッとした冷たい何かが当てられ、肩が大きく跳ねる。

 

 

「ひっ……!」

 

「間抜けな声だな。」

 

サッと左手で後ろ首を押さえれば、隣に腰かける人物をじとーーっと睨みつける。いつものタバコの臭いが鼻につくと、小さく息を吐く。

 

現れたのは兄の狡噛。

タバコを片手に、そして手には2本の冷えた缶コーヒーを持っており、1本を舞白に手渡す。

 

「……なんだ、"お兄ちゃん"か」

 

「悪かったな。ギノや須郷じゃなくて」

 

「だって、お兄ちゃんいっつも"そういう事"してくるんだもん。心臓に悪い」

 

パクっとパンの欠片を口に含むと、モグモグと口を動かす。そして、受け取ったコーヒー缶の蓋を空けると両手で握り、隣の兄へ視線を向ける。

 

 

「そういえば、大丈夫だったよ?点滴も打ってもらったし、もうピンピン」

 

「それなら良かった。任務続行だな」

 

狡噛は微かに口角を持ち上げれば、舞白の頭をポンポンと叩く。未だに子供扱いするところは変わらないが、少し変わったことがある。

 

おそらく、以前の兄であれば、さっさと舞白を日本に帰していただろう。大きな手術をして、担当医には"決して無理はするな"と念押しされているほどだった。しかし、今の兄は舞白の気持ちを尊重する場面が多い。少しは"妹離れ"できているのだろう。

 

 

「昼飯食ったら、情報纏めて、俺と花城とまた調査だ。お前の嗅覚は頼りになる。今回のあの2人の居場所を突き止めたのも、お前の鼻だったからな。」

 

「…でも、結局罠だった」

 

「罠でも、あいつらに近づけた貴重な一歩だ。問題ない。」

 

「あの後、お兄ちゃんと課長は追いかけたんだよね?」

 

「…あぁ。だが、あの煙にやられてな。さすがに深追いは危険だと判断したさ。それに、アイツらはマスクを持ってた。煙を吸った自分達で相手にするのはリスクが高すぎる…」

 

「予想通り、あの2人が、もし"日本国内"で誰かと手を組んだとしたら―――」

 

 

 

「考えたくないが、かなりマズイ事になるだろうな。しかし、その可能性が1番高い。…いくらかその可能性になりうる証拠は見つけてるからな。」

 

 

ふぅーー、と煙を吐き出し、狡噛は立ち上がる。吸殻を足元に落とせば靴で踏み潰し、コーヒー缶を片手に持てば、空いている右手を舞白に差し出す。

 

「ほら、そろそろ時間だ。ギノにガミガミ言われる前にさっさと行くぞ、舞白」

 

「確かに。ノブ兄容赦ないから。」

 

狡噛の手を掴み、"よいしょっ"と立ち上がる。コーヒーを一気に飲み干し、先を歩く兄の後ろ姿をじっと見据えると、不意に兄の背中の大きさに惹かれるものがあった。

 

 

前よりも大きくなったその背中。自分も兄のように、もっと強くなりたいと、密かに心の中で昂揚する感情が見え隠れする。

 

 

 

「―――ほら、舞白。ボーッとするんじゃない。行くぞ」

 

「あっ…うん、行くよ!」

 

 

舞白は置いていかれないように、と掛け出せば兄の横へと向かい、歩幅を合わせるように歩く。

 

 

 

 

 

 

舞白の運命の歯車が狂い始めて、動き始めて約8年。隣の兄と幾度となく助け合ってきた数年間だった。

 

まさか、またこうやって兄と横に並べるなんて。むしろ、兄と肩を並べられるような強さを手に入れて、認められて―――

 

それが何より、舞白を奮い立たせる大きな力となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地から少し離れた丘の近くに外務省行動課の人間たちが基地を併設していた。複数の人間たちが休息をとる中、一際目立つ車両の傍には課長の花城、そして特別捜査官の宜野座と須郷の姿があった。

 

 

 

4WDのボンネット前で既に待機していた3人。宜野座は両手を組み、遅れてきた2人に視線を向ける。

 

「遅いぞ。」

 

「時間ピッタリだろ?」

 

「5分前行動をしろと何度も言っているはずだが?」

 

「まあまあ…、お2人とも。それに舞白さんも怪我をしてますし…」

 

 

いつものように小さなことでガミガミと言いつける宜野座、それを簡単にあしらう狡噛、2人のやり取りを慌てた様子で仲介する須郷。そしてそれを呆れ顔で見据える女性陣、舞白と花城―――

 

 

「あんた達、仲がいいのは分かるけど仕事よ、しーごーと」

 

パンっ!と花城は呆れ顔のまま、両手を叩くと揉める2人に釘を刺す。

 

そんな光景が、舞白にとっては面白くて、くだらなくて、不覚にも任務中なのに"楽しい"なんて考えてしまう。

 

外務省行動課、少数精鋭のこのメンバーがとても心地よく感じる。

 

 

「……ふふっ…」

 

やり取りに思わず笑ってしまい、慌てて手で口を塞ぐ舞白。その様子を見た4人に微かに和やかな空気が漂う。

 

日々、5人は危険を伴う任務ばかり。しかし、特別捜査官の4人、課長の花城も舞白と同じく"悪くない"と心のどこかで思っていた。

 

 

 

「ほら。さっさと片付けて、日本に帰るわよ?

―――行動こそが、私たちのモットーでしょう?」

 

 

花城はボンネットに広げられた地図を指差し、部下の4人に視線を向ける。

4人はその言葉に、小さく頷けば広げられた地図に目を向け、ブリーフィングを始める。

 

 

 

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清冽な空気の流れの中に体を浸しているように、爽やかな風が吹く。その風は清々しく、5人の体を覆うように浸透していく―――

 

 

 

 

 

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