whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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セカンド・インスペクター

 

 

 

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小宮カリナ襲撃から数分後――

――外務省東京本庁 行動課オフィス

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

オフィスのテレビモニターに映し出される中継映像。小宮カリナのホログラム……"マカリナ"の姿。怪しい人物に連れ去られる小宮の姿が微かにほんの一瞬映れば、映像に視線を送る人物は眉を顰める。

 

本来であれば、この放送はすぐに取りやめになるはずだ。しかし、放送され続ける中継映像。明らかに怪しすぎる。

 

一般人には"ただの演出"と映っているのだろうか。即座にネットの情報を確認すると、やはり世間的にはパフォーマンスと謳われていた。

 

 

 

「((小宮カリナ……、そして"マカリナ"。六合塚さんの報告通り……))」

 

自分のデスクの椅子に腰掛け、じっと映像に視線を送る舞白。そして同じく、狡噛、宜野座、須郷もその映像に視線を向けていた。

 

 

 

 

「演出……でしょうか?」

 

「……いや、どうだかな。これが演出だとしたら、俺は企画したやつのセンスを疑うな。」

 

須郷の問に対し、狡噛は半ば呆れたような面持ちで画面に視線を向けると、"選挙妨害か、何かだろう"と言葉をつけ加える。

 

 

「既視感があると思ったら……まさか……」

 

「……そうだよね。」

 

宜野座と舞白は互いに視線を向け合う。ガタイの良すぎる男達。それはあのホテルでの経験を思い出させる。少ししか画面には映らなかったが、間違いないだろう。あの不審人物は、自分たちが遭遇した男達と関係していると。

 

「既視感?どういう事だ。」

 

「……あー……話せば長くなるんだけどね?実は――」

 

宜野座と舞白の発言に食いつく狡噛。そういえば、あの日のことは誰にも話していなかったんだと思い出せば、あの日あったことを口にする舞白。たまたま居合わせた最悪な現場、巨漢達を捩じ伏せたあの日の事を――

 

 

「――っていうことがあって。あまりにも状況が似てるから……」

 

「お前らはつくづく刑事課と縁があるんだな。今のうちに、貸しを作っておくのが得策だな。」

 

「うわー。お兄ちゃん腹黒……」

 

"げーー"と隣のデスクの兄にしかめっ面を向けた瞬間、左手のデバイスから通話を知らせる通知音が鳴り響く。舞白はデバイスに視線を向けると、驚いたような、ハッとした表情を浮かべる。

 

 

「どうした?舞白。」

 

「……美佳ちゃんだ。ちょっと電話してくるね?」

 

「…………」

 

慌てた様子で席を立ち、オフィスから去っていく舞白。狡噛はその様子をじっと見据え続けていた。"何かがおかしい"と――

 

 

 

「相変わらず仲がいいですね。霜月監視官と舞白さん。」

 

「歳も同じだし、なんせ境遇も似てるからな。……性格は正反対だが。」

 

須郷と宜野座は2年前の光景を脳裏に浮かべる。無鉄砲な舞白に対して、いつもガミガミと口煩く発言していた霜月。それに対して呑気に軽くあしらう舞白の態度に、執行官の須郷はいつもヒヤヒヤしていたとか……

 

 

「――これは、あくまで持論なのですが。基本的に、自分に似すぎてる性格だとぶつかりやすいと思います。……例えば、聞き上手な人には話し上手が合うじゃないですか?お互い相手に無いものを、自然と求めるんでしょうね……」

 

「確かに……そうだな。」

 

まるで今も昔も変わらない"自分たち"のようだと、宜野座は不意に狡噛に視線を送る。そして同時に、狡噛の面持ちに違和感を覚える。

 

じっと何かを考え込む様子。舞白が出ていった扉をじっと見据えるその瞳は、なにか不穏なものを感じ取る。

 

 

「どうした?狡噛……」

 

 

宜野座は、そんな狡噛の視線に気づくと不思議そうに顔を顰める。すると狡噛は視線を手元へと戻す。

 

「いいや。なんでもないさ。……ちょっと一服してくる。」

 

 

狡噛はデスクの傍らに置いていたタバコの箱とライターに手を伸ばし、ゆっくりと椅子から腰を持ち上げる。立ち去っていその姿を宜野座と須郷はとくに声をかけることも無く見送るのだった。

 

 

 

 

 

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「((……何となく……この相手は――))」

 

 

慌てて駆け込んだのは空室の会議室。電気をつける余裕もなく、暗闇の会議室で立ち尽くすとデバイスから浮かぶ着信相手の情報に目を向ける。

 

"No data No image"

 

相手は"不明"

しかし心当たりがある。

 

 

 

「はい、宜野座です。」

 

『――こんばんはー、お嬢さん。今夜は月が綺麗だね。』

 

相手はあの男だ。

今日の深夜に廃棄区画で出くわしたあの男……

 

 

「…………」

 

『え?無視?凹むねー……』

 

呑気そうな声色と発言に、舞白はキッと顔を歪ませる。

 

「……何の用ですか?」

 

『ちょっとした報告だよ。……あー、あと質問はナシね?それと、通信を逆探知しようなんて事を考えても無駄だよ。』

 

男はわざとらしく咳払いし、本題へと話を進める。

 

 

『――榎宮春木。あれは俺が処分するから、手出しは不要だ。』

 

「処分?……待って……あなたと榎宮に何の関係――」

 

『"質問はナシだ"と、そう言ったはずだが?…お嬢さん』

 

「……ッ……」

 

下手に動くことは出来ない。

相手は1枚も2枚も上手だ。

 

 

『ここ数年、君は榎宮を追っていたよね?理由は知らないが、独自で動いていたんだろう?』

 

「…………」

 

"何故、そんな事まで知っているのか?"

思わず再び問いただしそうになるものの、ゴクリと息を飲み込み、じっと考え込む。

 

『……君は、どこまで今回の事を知っているんだい?たった今起きている都知事選の混乱……分かっていたんじゃないのかな?』

 

「……確かに、掴んだタレコミで榎宮が怪しい人物だとは踏んでた。廃棄区画のボスとして、危険な犯罪に手を貸すことも、潜在犯たちを利用して暗躍する、なんて危険性があると感じていたから。……でもそれ以外は分からない……あなたの言ってることもよく分からない。どういうこと……」

 

男は暫く沈黙する。

そして微かに口角を緩ませていた。

 

 

『――そっか。

……まぁいい。どうせ榎宮はこの世から"消える"。』

 

「ちょっと待って……あなたは何がしたい……」

 

 

刹那、舞白の言葉を完全無視すると、とある場所を指す台詞を吐く。

 

 

 

 

 

『江東区、潮見廃棄区画。旧潮見駅京葉廃棄路線2番ホーム……』

 

「…………?」

 

『そこの廃棄されたロッカーにプレゼントを入れて置いたよ。必ず受け取るように。期限は明日の正午まで……』

 

「潮見駅?プレゼント?……何それ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブツっと通信が途切れると舞白は珍しく苛立った様子を見せていた。こんなにも相手に翻弄されるのは久しぶりの事だった。

 

槙島の時のように、手のひらの上で転がされている感覚。

相手の考えていることが全くもって読めない。ただ、自分自身のことや周りの人間たちのことを知り尽くしているような態度に、舞白は拳を握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

会議室の外に佇むのは狡噛。

わざわざ人のいない会議室へ駆け込んだ舞白。そして暗闇の中で"霜月美佳"と話をしている――

 

なんて、そんなわけが無い。

ボソボソとかすかに聞こえた言葉や、舞白の奇妙な様子からして、相手は只者ではないと察していた。

 

 

 

しかし、狡噛は特に声をかけることも無くその場から去っていく。

 

妹の事だ、恐らくなにか面倒なことに首を突っ込んでいるのだろうと。その時は、そうとしか考えられなかった。

 

 

 

 

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茗荷谷 廃棄区画――

 

 

 

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「はぁ……はぁ……っ……」

 

 

廃棄され、荒れ果てた高層ビル。

その廊下を白いスーツを纏った1人の"女"が大きなキャリーケースを引きながら焦った様子で歩いていた。

 

高層階の廊下を抜け、広いエレベーターホールへとたどり着く。すると、柱の影からひとりの男がその女の前へと立ちはだかる。

 

 

 

 

「よっ、セカンド・インスペクター……」

 

ブラウンのスーツのセットアップに黒いシャツを合わせた、一見すると陽気な様子にも見えるその男。"よっ"と言う言葉と同時に相手の女に向けて手を振るう。

 

しかし、その相手に対して女は睨みをきかせると、少し距離を保ったまま立ち止まる。

 

 

「貴様……ッ……"梓澤"……!」

 

「"榎宮君"、君に忠告だ。ここから先、正しい選択をしろ。そうすれば生き残れる。」

 

ファースト・インスペクター、梓澤。

セカンド・インスペクター、榎宮。

 

梓澤は両手を大きく広げると、苦痛の表情を浮かべる相手とは裏腹に余裕気な表情を見せる。

そんな相手にさらに苛立ちを見せる榎宮は、キャリーケースを放棄し、得意の格闘技を梓澤へと仕掛ける。

 

 

 

「ふざけるな!」

 

「あらら?怒っちゃった?もしかして?

……仕方ないな〜……アチョ〜!アオ〜!」

 

 

榎宮は元プロアスリートだ。元女性とはいえど、男性ホルモンの投与もあり、体格は高身長の梓澤とほぼ変わらない。

ふざけてポーズをとる梓澤へと近づけば巧みな格闘技を披露する。

 

 

すると容赦なく榎宮の拳が顔面へとヒット。

鈍い音と共に、梓澤は殴られた箇所を押さえながらおかしそうにクスクスと笑みを浮かべる。

 

 

 

「いって!!……クソっ……速いな?腐ってもさすがは元プロ……」

 

 

刹那、ふざけていた梓澤の様子が一変する。まるで格闘技を得意としていたことを隠していたのだろうか?俊敏なステップを踏み始め、榎宮へと次々と攻撃を繰り出す。

 

「くっ……ふっ……」

 

「あれあれ?プロなのに……

この一撃も交わせない……のかな!?」

 

「黙れっ!!」

 

榎宮は反撃に出るも全く歯が立たない。次々と簡単に攻撃を交わし、隙を突かれる度に相手の重い攻撃が体に打ち込まれる。

 

「グッ……がはっ……」

 

 

「間違ってるよ?"選択"を……」

 

梓澤の不敵な笑み。

このままだとこの男に殺されると察知した榎宮は、咄嗟に隠し持っていたナイフを胸元から取り出し、梓澤を目掛けて勢いよく投げ飛ばす。

 

「ッ……!?」

 

咄嗟の攻撃に身を攀じる。

しかしそのナイフは体には刺さることなく、梓澤の手元に握られていた。

 

 

 

「はぁっ……はっ…………ッ……」

 

 

縺れる脚で必死に逃げる榎宮。

置いていたキャリーケースを掴み、エレベーターへと駆け抜ける――

 

そんな無様な背後をじっと見据え、ナイフを足元へと投げ捨て、微かに口角に弧を描けば、ニヤリと笑みを向ける。

 

 

「……榎宮君。……そして、君は…間違え続ける――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒い呼吸を繰り返す榎宮の目の前に、古びたエレベーターがたどり着く。ふと傍らの非常階段にも視線を向けるも、榎宮が選んだのは"エレベーター"……

 

梓澤も追ってこない。そんな状況に安心したのか、榎宮はエレベーターへと乗り込む。

 

「((……このまま逃げ切って……私が……ッ))」

 

 

 

 

 

 

焦りの表情から、打って変わって余裕な笑みを浮かべる。

 

しかし、その余裕は残念ながらすぐ絶たれる事に――

 

 

 

"ガコンッ"

 

 

半開きの扉、そして数センチの隙間を残し、停止するエレベーター。大きな歪な衝撃音、揺れ。榎宮はその衝撃に耐えられず座り込む。

 

「ッ……クソっ!」

 

散らばったキャリーケースの中身。

金塊や宝石、財産が敷き詰められた"それ"。

 

榎宮は逃れようとしていたのだった。

 

 

 

 

"コツ……コツ……"

 

近づく足音。

エレベーターの隙間から見える足。

 

梓澤はしゃがみこむと、隙間から榎宮を覗き込む。

 

 

 

「小宮カリナが勝つこと。これが"ビフロスト"の既定路線だったんだよ。」

 

「……ッ……」

 

「君が援護するほど、逆に薬師寺の首が絞まる。そういう段取りなの。――薬師寺のために働いてるつもりが、小宮の役に立っていた……」

 

「五月蝿い!黙れ!!」

 

「おーおー……よく吠えるね。連絡が入ったんだろう?今回のこの件について、残念ながら勝ったのは小宮カリナだ。公安局の介入もあってね。」

 

 

榎宮の仕組んだ襲撃。

 

その後、一係の介入もあり、無事小宮カリナは保護された。それと同時に、何も知らず、利用された薬師寺は公安局へと連行されていた。

 

 

 

「哀れな操り人形っぷりに、涙が出るね……榎宮君」

 

「お前が仕組んだのか!?」

 

「いやいや、俺は気づいただけ。仕組んだのは"コングレスマン"だよ。小宮カリナが勝つだけじゃない、勝ち方が問題だったんだろう。」

 

 

"ガラガラッ!!ガタンッ!!"

 

衝撃音が響き渡る。

エレベーターが落下するまで、時間の問題だろう。

 

 

「奴らが私をカードにしたというのか!?」

 

酷く声を荒あげる。

鬼のような形相で隙間から覗き込む梓澤を睨みつけるも、もうどう足掻いても反撃は不可能だろう。

 

 

 

 

「……そう、君は使い捨てだったんだ。まともな判断もできない、無能なインスペクター。――階段を進めば安全だったのに、その判断さえも出来ない、自分の愚かさを悔やみな?」

 

「クソッ……クソ!クソ!」

 

榎宮は激しくエレベーター内の壁を叩きつける。敗北に塗れたその姿は見るに堪えない。

 

「君は所詮"セカンド"、俺は"ファースト"。あー、そうだ。君のセカンドの席に、いい人物を入れられそうなんだ。」

 

梓澤はニッコリと笑みを浮かべると、榎宮に向けて手を振るう。

 

 

 

 

「君より、もっと優秀で、使いがいがある人間をね?」

 

 

刹那、今までの比にならない衝撃音が響けばエレベーターは落下する。

 

 

 

「梓澤ーーーーーッ!!!!」

 

 

 

榎宮の悲痛な叫び声と共に落下するエレベーター。まさか、操る側であった自分が、操られていたなんて想像もできなかっただろう。不敵な梓澤の笑みを最後に、彼女は地に堕ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

「さらば、セカンド・インスペクター、榎宮君――」

 

 

微かに聞こえるエレベーターの落下を知らせる衝撃音。それを耳にすると梓澤はゆっくりと腰を持ち上げる。

 

 

 

「目障りだったし、良い奴でもなかった。……セカンドの席には相応しくない人物だったよ。」

 

 

 

 

梓澤は薄闇の廊下を歩きながら、デバイスをポケットから取り出す。セカンド・インスペクターの席が空席になったことを知らせる通知を見届け、満足気な表情で、目が興奮に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

「頂点に立つ為に、使える駒は使わないと、ね

――宜野座舞白さん。」

 

 

セカンド・インスペクターの席。

その空席を埋めるのは――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

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