whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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2人の課長とその企み

 

 

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公開討論会襲撃の翌日――

――公安局ビル 課長室

 

 

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「――呼び出された理由、分かってるわよね?」

 

 

 

「停職中の捜査介入。申し開きできません……」

 

「イグナトフ監視官に責任はありません。…あるとすれば、現場監視官の俺の責任です――」

 

 

 

課長室に呼び出された監視官2人。イグナトフは相手の放った言葉に、何も言い逃れはできないと神妙な面持ちで立ち尽くしていた。相棒の慎導も同じく、隣に立つ人物を気にかける様子……

 

 

その反面、霜月は腕を組み、2人に背を向けたまま、晴れやかな青空が広がる外に視線を向けていた。

 

 

 

 

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討論会を襲撃した8人の男たち。

1人を残し、ほか7名はドミネーターにて執行。

 

一時は会場のシステムを全て乗っ取られ、観客の誘導も、小宮が映し出されていた映像も止めることが出来なかったものの、六合塚の協力もありコントロールを奪取。

 

狙われていた小宮の身柄。慎導、イグナトフ、そして入江、廿六木の活躍により事なきを得た。

 

小宮の秘書官、アン・オワニーも。そして二係の宮舘や執行官を含め死者はゼロ。

 

 

そして、薬師寺。

榎宮のことを知る薬師寺は、この襲撃そのものが榎宮が起こしたことだと知らされると――"逃げも隠れもしない、何が起こっているのか説明してほしい――"と快く公安局への任意同行を受け入れた。

 

 

何はともあれ、かなり危険な任務ではあったものの大事にはならなかった。

 

世間様は、今日もいつもと変わりなく平和な日常を送る――

 

 

 

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霜月はクルッと2人に体を向けると、キョトンとした表情を向ける。

 

 

「停職?何の話?」

 

 

 

「えっ?」

「はっ?」

 

 

あっけらかんとする様子に、思わず監視官の2人は気の抜けた声を上げる。全くもって意味のわからない発言。イグナトフは停職中だったはずだ……ならば処分は当たり前。だがしかし、目の前の上司の発言は2人を驚かせる。

 

 

 

「討論会場での事件発生数十分前、私と局長が対テロ特別措置法として、イグナトフ監視官の停職を解いておきました。――いい?かなり危なかったのよ。2度目はないと肝に銘じなさい。」

 

 

ふふん、と微かな笑みを2人に向ける霜月。

 

 

「はい、……ありがとうございます。課長」

 

「((ふふふ……))」

 

イグナトフは深々と頭を下げ、その隣の慎導は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

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「霜月課長が腹黒タヌキで助かった〜」

 

「それ絶対、本人の前で言うなよ?灼……」

 

課長室を後にする2人。

何にせよ、霜月の計らいに助けられた2人はどことなく嬉しそうだった。

 

 

 

「都知事選の開票は今日の18時過ぎからだな。……さてどうなるか……」

 

「昨日の今日で大きな混乱もなし。小宮候補のAI使用問題も、特に取り上げられる様子もないし、国民から黙認された……って感じかな?」

 

"うーん"と口を尖らせ、腕を組む慎導。

エレベーターホールにたどり着くと、イグナトフはボタンを押し込む。

 

 

「――マカリナがバレても気にしない。存外、日本国民は細かいことは気にしないらしい。」

 

国民のほとんどが目にしていたであろう、公開討論会映像。六合塚がコントロールを奪うまでの数十分間、マカリナの異様な映像が流れ続けていたにも関わらず、国民はそれに触れる様子は無い。

その奇妙な出来事に、イグナトフは小さく息を吐くと、到着したエレベーターに乗り込む。

 

「"理想の人間"って何だろうな?」

 

「どうしたの炯?急に」

 

改まるイグナトフに"?"を浮かべる慎導。

 

「薬師寺はドーピング漬けの理想的アスリート。小宮カリナは勝つことが目的で手段を選ばない。――結局、最もシビュラ的な存在はマカリナ、AIだったんじゃないのか?」

 

「…自分自身を外部に委託して、むしろ生身がアバターになる。…今の時代、そういう考え方もあるのかもね?……とはいえ」

 

「システムが全てじゃない。……そうだろう?灼」

 

「うん。そうだね。炯――」

 

コツン、と互いの拳を軽くぶつけ合う。交わる瞳同士が強い信念を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、開かれるエレベーターの扉。

刑事課オフィスが置かれている41Fにたどり着くと、"そういえば"と思い出したように慎導が口を開く。

 

 

 

「今夜、歓迎会開いてくれるみたいだよ?一係総出で。……しかもその会場は、廃棄区画の"隠れた銘店"だってさ。」

 

「廃棄区画で歓迎会?」

 

「うん。入江さんがどうしてもそこで飲み会したいーって。あ!違法店じゃないから、そこは心配するなって言ってた。」

 

「……この状況で、歓迎会……」

 

"一体何を考えてるんだ"と言わんばかりに頭を抱えるイグナトフ。対して慎導は子供のように頬をほころばせ、ニコニコと無邪気に笑っていた。

 

「まあまあ。せっかく俺たちのために開いてくれるんだし。それに今後のためにも、部下たちと親睦を深める事は大切だよ。――――あ!あと言い忘れてたことが――」

 

 

ポンッと手のひらに拳を乗せる仕草を見せながら、慎導はニヤッと妖しい表情をイグナトフに向ける。

 

 

 

 

 

 

「小宮候補のサイン、貰っておいたよ?」

 

「!!!」

 

ドヤァァァァ〜と言わんばかりに向けられるその表情に、イグナトフは喜びを隠せない。

 

 

「助かった……灼……」

 

「外務省の宜野座舞白さんに渡さないとダメなんでしょー?…ま、その様子だと、なにか弱みでも握られてる感じ?」

 

「…………」

 

イグナトフの言動や表情を即座に読みとる。

しかし、このことは誰にも他言できない。慎導が先程言い放った"霜月課長が腹黒タヌキで――"なんて言葉を、さらに上回る酷な言葉を吐いたことは後悔していた。

 

それに、できる限り外務省の人間に弱味を握られたく無いのは本望だった。

 

 

「……ふーーん、そっかー……」

 

「な、なんだ灼。俺をメンタルトレースするのはやめろ……」

 

じぃっと子犬のような視線を向けられると、イグナトフは歩く速度を早めサクサクと進んでいく。

 

「わざわざメンタルトレースなんてしなくても、炯の考えてる事なんて直ぐにわかるよ―――」

 

 

自分の前を進むイグナトフの大きな背中。慎導はそんな背中を見据え、戻ってきた相棒の姿に、胸の膨れるような心地良さを感じていたのだった。

 

 

 

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同日 午後17時過ぎ――

――外務省東京本庁 行動課オフィス

 

 

 

 

 

 

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「はいはーい、注目。

私のかわいい優秀な、行動課特別捜査官の皆さん?」

 

 

 

突然、オフィスに現れたのは花城。

そんな彼女は、パンパンと両手を叩き腰に手を添える。

 

向ける視線の先には"かわいい?優秀な部下"の4人。

上司にピシッと背筋を伸ばす須郷。微かに疲労を感じさせる宜野座。どかっと椅子の背もたれに寄りかかる狡噛。そして、いつもと変わらぬ様子の舞白――

 

 

 

 

「突然だけど、今日は5人で飲みに行かない?決起集会って事で。」

 

「決起集会?…ですか?課長…」

 

突然すぎる上司の言葉に、ぽかんと口を開ける舞白。そんな相手にニッコリと笑みを向ける花城は満悦そうだった。

 

「そうよ?"決起集会"――

部下を労うのも上司の役目。それに次の任務は長くなりそうだし、"はずみ"をつける為にも大切でしょ?」

 

宗教団体への潜入捜査を行う宜野座と舞白。そして別任務に携わる狡噛、須郷。今後の事もそうだが、日々の4人の仕事ぶりを労る為にもと、花城は考えていたのであった。

 

 

「因みにどこで飲むんだ?下手に目立つところだと、上にバレるだろ?」

 

外務省の他部署の人間に見つかると、それはそれで面倒だ。"行動課特別捜査官"はただでさえ特殊で忌み嫌われているのに、飲み会を開いたなんて知られれば、あとから厄介なことになると狡噛は考えていた。

 

 

 

「"茗荷谷"。あそこの廃棄区画に良い店があるのよ。違法じゃないし、あの場所なら、同業者は100%現れないわ。」

 

「……よりによって茗荷谷……危険じゃないのか?ただでさえ茗荷谷の人間に精通していたと言われている"薬師寺"の件も、今日がピークだろう?都知事選の投開票もあと少しで始まる……」

 

宜野座の言葉に、隣の須郷もこくりと頷く。しかし花城は特に気にする様子なく、そんな2人に視線を向ける。

 

「運が良ければ、ピースブレイカーの情報も掴めるかもしれない。つい数日前まで、彼らは茗荷谷に居た事は分かってるし……」

 

「……って言うのは建前ですよね?課長?」

 

ニタァ〜と子供のように笑みを浮かべる舞白。

 

素直に上司の労いに頷かない部下たちに、花城は"コホンっ"と咳払いすれば改めて4人に視線を向け直す。

 

 

「とやかく言わない。今日を逃したらこのメンバーでゆっくり飲みに行くなんて事もなかなか難しいでしょ?…そうと決まれば――ほら!行くわよ。」

 

 

珍しくノリのいい課長の姿に捜査官の4人はデスク越しに視線を交える。狡噛は手に持っていた書類をデスクに戻すと、タバコの箱をポケットに収め、さっさと花城の後をついて行く。

 

 

「課長命令ならば、仕方ないな?ほら行くぞ。須郷、舞白。」

 

「…店に着く前に、二日酔い対策のドリンクを……」

 

「((……須郷さんも伸元さんもお酒弱いからな……))」

 

なんだかんだ意気揚々と立ち上がる宜野座、その後を心配そうについて行く須郷、2人の姿を舞白はクスクスと笑みを零しながら見据える。

 

最後に5人で飲んだのはいつだろうか?数年前、須郷と宜野座が合流して大きな任務を終えた時に、その時も花城の計らいで飲みの席を開いたことはある。

 

比較的、酒に強い花城と狡噛、そして舞白。須郷は圧倒的に弱く、いつもダウンしているイメージが強い。宜野座も調子の悪い時はとことん酔っ払う……

 

 

「舞白。お前は1杯までだな。」

 

宜野座は背後の舞白に振り返る。薬の服用もあるが為にアルコール摂取は程々に、と医者からも言われていた。基本的には数時間開ければ問題ないものの、やはり心配なものは心配だと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

 

「そうだね?種類も増えたし、前みたいに何杯も飲めないなー……残念」

 

「薬……増えたんですか?舞白さん」

 

「相変わらず無茶をするから、増やされたんだ。」

 

「へへへ……面目ない……」

 

同じく目の前を歩く須郷も心配そうに振り向く。その反面、特に気にして無さげな当の本人は"へへへ……"と誤魔化すように後頭部を掻く。

 

「今日だって、先に家を出たと思えばオフィスに姿は無し。運転中に体調が悪くなったとかで、遅れて来ただろう?」

 

"無理をするな"という宜野座の言葉と、須郷の心配げな表情を目の当たりにすると、舞白の胸がキュッと痛くなる。

 

そう、本当は体調が悪くて遅れたわけじゃない。

その"嘘"に、舞白は表情には出さないものの、どこか苦しさを覚えていた。

 

「まあ……ちょっと休んだら何ともなかったし。大丈夫大丈夫―――」

 

特にいつも通りの様子の舞白に対し、宜野座も須郷も怪しむことはもちろんなかった。しかし、更にその2人の前を歩く狡噛はしっかりとその会話を聞いていた。

 

昨夜、何者かと話していた舞白。それを知っている狡噛。いつもと変わらない様子の妹に対して、兄の狡噛は"あえて"何も首を突っ込むことも無く、問い詰めることもない。

まだその時じゃない、と心に留めていたのであった。

 

 

 

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