whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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segreto

 

 

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外務省東京本庁―――

―――小ホール

 

 

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「これより。公認宗教団体"ヘブンズリープ"潜入捜査への最終調整会議を始めます―――」

 

 

集められた少数精鋭の人間達。"行動課"

 

いつものように特別捜査官4名は最前列に座り。後列にはそんな彼らを陰ながら支えるプロフェッショナル達が腰を下ろしていた。大きなモニターを前に、花城が指揮をとっていく。

 

 

「それじゃ―――舞白。"簡潔に"、ここまでの調査情報を説明してちょうだい。」

 

「はい。課長。」

 

"また無茶ぶりするんですから…"と心の中で微かに文句を垂れつつも、何食わぬ顔でゆっくりと席を立つ。

 

「まず、ヘブンズリープについて―――」

 

モニターに映し出される写真やID情報。舞白はデバイスを操作しつつ、説明を始める。

 

 

「シビュラシステムが初めて公認した宗教団体。そして以前から、"私達の協力者"でもあるシビュラ認定初の公認宗教家、教祖の"仁世元洋"。そして半年前に就任した教祖代行の"トーリ・S・アッシェンバッハ"―――」

 

ヘブンズリープの立役者でもある教祖、そして教祖代行。とある件に関して協力者でもある教祖の仁世に関しては連絡が途絶え、危機感を覚えていた。更にトーリ・S・アッシェンバッハに至っては異様すぎる経歴が載せられていた。

トーリは13歳の頃から多くの民間企業を転々とした経歴を持つ。その数はなんと18社。ホールにいる全員がその異様すぎる経歴に眉を顰める。

 

「"共にサイコパスを守る者"として信仰する信者も年々増加傾向に有り。その要因として、サイコパスの色相を劇的に改善させる"エターナルホワイト"というプログラム治療を行っている模様。その中身は未だに不明―――そして特に面倒なのが厚生省文化局の後ろ盾がある事です。…あくまでも私の見解ではありますが、厚生省の関係者も多く関わってる可能性があるかと。宗教の枠を超えている可能性は否めません。」

 

ざっと、情報をもとに簡潔に説明する舞白に、花城は腕を組んだままこくりと頷く。

 

「ありがとう舞白。ここまでで大丈夫よ。」

 

"はい"と声を上げ、再び席に腰を下ろす。右隣の須郷に"お疲れ様です"なんて呟かれると、思わず小さく息を漏らし、クスッと笑みを浮かべていた。

 

 

「全員、ここまでの情報は勿論把握してるわよね?…で、ここからが本題。今の今まで調査をしてきた"ヘブンズリープ"の実態。そして今後発生する可能性のある弊害―――」

 

モニターに映し出される複数の人物写真。

 

 

「昨日、小宮カリナが都知事にて当選。それにより掲げていた政策が進められることは確実。政策内容は移民と宗教の隔離政策、三郷ニュータウン宗教特区政策推進。これに反対を示しているのが、このヘブンズリープ。そして他関係者――」

 

この宗教特区では、今まで完全に禁止されていた宗教活動などが全面解禁になる事が既に報道されている。小宮の所属する肯定党は元々移民反対を唱えていたが故に、まるでそれを推進する政策に疑問に思う者は多く存在していた。

 

主に宗教特区反対を唱える人物――

 

ヘブンズリープ、教祖代行のトーリ。

 

元ウガンダ武装ゲリラの頭目。仏門に入った異色の経歴を持つ上人でもあり、ニュータウンの労働者の元締めでもある日本移民の男性"ジョセフ・アウマ"。

 

過去に長崎で難民弁護官をしていた弁護士。現在は移民のための宗教団体正道協会 CRPを創立し、同協会の代表の修道女という役目も果たし、アウマと同じく日本移民の女性"テレーザ陵駕"。

 

3名の顔写真がモニターに映し出され、情報を再びインプットする行動課の人間達。

 

 

 

 

 

 

「都知事は反移民派。だけど入国者の街を作るなんて。」

 

ボソッと呟く舞白。それを耳にした宜野座は視線を向けると共に、その疑問に対し自論を口にする。

 

「三郷ニュータウンは、あくまでも地方復興モデルだろう。この前の些々河が起こした住宅ローンの破綻救済にも活用されている事は確か、無視できないっていうのが本音だろうな。」

 

「…なるほどね。」

 

表向きは、まるで宗教や移民を肯定するような政策。しかしその反面、面倒なことが起こりそうな、臭いものには蓋をしてしまおう、というのが本音だろう。

 

勿論、シビュラ公認の宗教はそれを黙って見過ごすはずがない。

 

 

「小宮カリナは恰好の的だ。実際、ニュータウンのPRイベントの護衛担当に公安局刑事課の名前があった。刑事課もその可能性を十分に理解してるさ。」

 

どこか気だるげな様子の狡噛。花城の発言に対し、その可能性を口にすると、壇上の花城は狡噛に視線を向ける。

 

「狡噛の言う通りよ。でも、その件に関しては私達の仕事じゃない。"そちら"は刑事課に任せましょう。」

 

「……私たちがやるべき事は"狐狩り"。ですよね?課長」

 

 

今後発生するであろう事件は、既に予想出来ていた。小宮カリナを狙った、何かしらのテロ事件。しかし、そこは外務省の領分では無い。あくまでも"国外の事案"を任されている事に変わりはない。

 

 

 

「ええ、そうよ。ヘブンズリープに関わる人間達、そしてピースブレイカー、日本移民の要人達……必ず何か繋がりがある」

 

花城は声のトーンを下げ、事の深刻さを表している様子だった。内に秘めた感情を押し殺すような表情を微かに読み取る舞白。

やっとここまで追い込んだと。

 

そして今度こそ。自分を救ってくれた恩人の花城の為にも、必ず尻尾を掴んでやると、舞白は唇を噛み締める。

 

 

「――今回の捜査の目的。まず1つ目、半年間姿を見せず表舞台に一切立たない教祖の捜索と半年前に就任した教祖代行の身辺調査。2つ目はこの宗教に関わる全ての顧客名簿の盗取。怪しい取引も含めて、関係者を全て洗い出す。メインはこの2つで結構。エターナルホワイトの実態やその他情報調査は"潜入捜査官2名"に委ねるわ――」

 

 

花城は舞白と宜野座に視線を向ける。

 

 

「舞白、宜野座。頼んだわよ。」

 

威厳と落ち着きを加えた声。冷静に聞こえるその声から、その2人に全てを託すような思いを感じる。

2人は同時に敬礼すると、真っ直ぐに花城を見据える――

 

 

 

「「了解」」

 

 

 

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黄昏の西日に包まれる室内。

無駄に広い課長室の窓辺に佇む花城。

 

立ち並ぶビル郡を見下ろし、来る人物を待っていた。

 

 

 

 

 

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「――俺だけを呼び出すなんて、珍しいな。」

 

 

課長室の中央に置かれたソファにテーブル。花城もソファに腰を下ろせば、向かいに座る宜野座に真剣な眼差しを向けていた。わざわざ課長室に、それに自分一人だけを呼び出すなど、恐らく今まででも経験がない事だと、宜野座はやけに不思議がっていた。

 

花城は足を組み肩肘を膝に乗せ、手に顎を添える。いつもの様子に変わりは無いが、やけにその表情は怪訝そうだった。

 

 

「舞白は?」

「あいつなら先に帰らせた。」

「……そう」

 

"舞白は?"という第一声。

どうやら、舞白には聞かれる訳にはいかないような話でもするのだろうか?と宜野座は予想する。

 

 

「潜入期間が未定の捜査。……本来であれば、須郷とペアだったのに、無理やり舞白を捩じ込んで悪かったわ。」

「何だ、今更……。」

 

人員変更が伝えられたのはかなり前だ。それを今更、申し訳なさそうに口にする花城に、宜野座は微かに呆れたような笑みを浮かべる。

 

「正直、舞白がいるのは心強い。顧客情報を抜き出すのに欠かせない、ハッキングやクラッキング技術。そしてあの洞察力に身体能力。潜入捜査と言えど場所が厄介すぎるからな。全てに特化した舞白なら、なんら問題なく捜査も進む。」

 

"それに、もう片方の捜査には舞白より須郷が適任だからな"と宜野座は口にすると、その言葉に花城は怪訝そうな表情が微かに和らいでいく。

 

「さすが元幼馴染、現夫婦。よく分かってるのね。」

「…まあ、その分デメリットもあるが。やたら一人で抱え込む癖は直らないし……。それにこの潜入捜査は一瞬の隙も見せることはできない。無茶をしないように、しっかりとあいつの手綱は俺が握るさ。」

 

舞白に対して絶大な信頼を置く宜野座。

幼い頃から今の今まで、多少の空白期間はあったものの、彼女の事は全て知り尽くしているようなものだ。土壇場でも機転が利く優れた舞白の能力、しかし責任感が強すぎる反面、やたら抱え込むその性格は未だに健在。その手綱を握ることが出来るのは自分だけだろうと、宜野座は考えていた。

 

花城は宜野座から視線を外し、足を組み直す。どことなく異様な雰囲気に宜野座の"?"は増えていくばかり。

 

 

「――で?俺をわざわざここに呼んだ理由は?」

 

"何かあるんだろう"と

宜野座の鋭い視線が花城を突く。

 

すると再び花城の視線が向けられれば、漸く口を開く。

 

 

 

 

「この事は他言無用。舞白には絶対言わないで――」

 

そう言葉を発すると、花城はジャケットの内ポケットから名刺を取り出し、テーブルにそっと"それ"を置く。そして、宜野座はその名刺を手に取り、印字された名を口にする――

 

 

 

「梓澤……廣一……?」

 

今まで幾度と目にしてきた"狐"のマーク入りの名刺。そこには見慣れない人物の名があった。

 

「舞白と"狐が関わってる"。そして何らかの弊害が舞白自身に加わってると考えてるわ。」

 

「……どういう事だ。それにこの名刺はどこで――」

 

いきなり口にされた言葉に宜野座は動揺を隠せない。狐の新情報に、そして追い続けている狐と舞白が接触している可能性があるという内容にかなり驚いている様子だった。

 

「霜月課長から情報が来たのよ。…どうやら、一係の執行官が狐マークの入った梓澤の名刺を持っていたと。そしてその人物は、過去の事件にも関わってる要注意人物。」

 

「…………」

 

花城は宜野座の手元から名刺を取ると再び懐に戻す。

 

そして再び、鋭利で容赦のない厳しい視線を、相手の宜野座に向ければ、小さく息を吐き、続いて予想外な言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"梓澤廣一"

もし、この人物と舞白が関わっていた場合、すぐに拘束して。」

「……拘束…?…、それは――」

「舞白よ。"舞白"を拘束するの。」

「ちょっと待ってくれ、話が全く読めない。」

 

舞白を拘束しろ、なんて予想だにしない言葉。聞き間違えたのではないかと、宜野座は自分の耳を疑うほどだった。

 

「ついこの前、舞白本人から狐と接触したという報告があったの。でも、"無闇に動けば、関係の無い命が危険にさらされる可能性がある"と、舞白はそう言ったの。」

 

「……訳が分からない……」

 

自分には一切そのような話はなかった。恐らくはその"害"とやらを考えての行動なのだろうが……。次から次へと混乱する話を口にされると、宜野座も表情を曇らせていく。

 

「この梓澤という人物について、あくまでも"他言するな"と言う言葉と共に、狡噛と須郷には既に話してるわ。でも、2人には"舞白が狐と関わっている事"に関しては話していない。」

 

狡噛と須郷には梓澤の事については報告済。そして他言するなとも伝えていた。そして、"関係の無い命"が巻き込まれる可能性。それを鑑みて、舞白が狐と接触していることを、いくら仲間内であったとしても話を広げるのは危険だと花城は判断していた。

 

「…………だから……だったのか――」

「?……何か心当たりがあるの?」

 

 

閃いたようなパッとした表情に、花城は反応を示す。

 

宜野座はここ数日で起こった、それに関連しそうな舞白の行動を思い出す。

 

「俺の父親の矯正施設が特殊なのは知ってるだろう?――潜在犯の矯正施設だが、他の施設に比べて自由度が高く、人の出入りと接触が安易に行えるような、医療に特化した施設。警備ドローンの警備レベル、そして介護ドローンの介護レベル、施設内の病室の部屋の移動……、舞白が全て跳ね上げたんだ。」

 

「………なるほどね。」

 

「俺の父親は持病の悪化もあって長くない。それを踏まえて……あいつは俺に相談することも無く、行動を興したのかと……」

 

間違いなく、舞白は何かに脅されている。

そう捉えられるような行動に、気づけなかった宜野座は眉を顰めていた。

 

 

「――いい?宜野座。絶対誤解はしないで?舞白が大事なのは一番分かってる。それは、私も狡噛も須郷も皆同じよ。」

 

困惑する様子の宜野座に花城は必死に言葉を放つ。

 

「外務省行動課 特別捜査官である以上、様々な可能性を予測しないといけない。そしてそれが万が一起こった場合、対処するのも私たち。相手が危険であればある程、敵であっても味方であっても、この国の害となるのであれば、それなりの対処をしなければならない――"昨日の友は今日の敵"……その意味、分かるわよね?」

 

あくまでも任務。そして外務省の人間である以上、害となるものは破壊しなければならない。この国を守るためにも、それは当たり前の事だ。

 

"もし"、舞白が狐と何らかの関係を持っていたとして、自分たちの壁となりうるのであれば"対処"する。

 

"拘束しろ"という花城の言葉は、それでも仲間を精一杯想った言葉なのだ。

 

「いい?これはあなたにしか出来ない。…このヘブンズリープへの潜入捜査が鍵になる。私はそう考えてるわ。」

 

「……適材適所。だからこそ、俺と舞白を組ませたんだな。」

 

血の繋がった兄の狡噛でもなければ、友人同士のように仲の良い須郷でも無く、幼馴染でも夫婦関係でもある自分を組ませた。狐との関わりがある以前に宜野座との潜入捜査は決まっていたことだが、様々な理由をもって、組まされたんだと考える。

 

「あなたなら、"その時"の対処について正しい判断ができると信じてる。……過去にシーアンで再会を果たした時も、あなたなりの正しい判断を行ったからこそ、舞白は今ここにいるんじゃないのかしら。」

 

「……そうだな。」

 

舞白を信じて逃がした。

シーアンにて、テロの幇助をしたと疑われていた狡噛兄妹をその場で殺すことも無く、連行することもなく、当時の常守と宜野座は見逃すという"判断"を行った。

 

そしてそれを今行うのは、狡噛でも須郷でもなく、舞白のことを理解している宜野座が適任だろう。

 

 

 

「忘れないで。一番の目的は"潜入捜査"である事。舞白の件についてはあくまでも二の次で、それが起こった時に対処すべきこと。……まずは目的を果たすことを必ず念頭に置くのよ。」

 

あくまでも、舞白の件については予測に過ぎない。目的は違うものだ。しかし、潜入捜査を行う以上、対処できるのは共に潜入する宜野座のみ。花城は全てを宜野座に賭けていた。

 

 

 

「勿論だ。」

「……案外、立ち直りが早くて安心したわ。」

「いいや、案外これでもまだ少し動揺してるさ。……だが、俺は俺の成すべきことを行わなければならない。その覚悟の上で今この場所に居るのだからな。」

 

 

その言葉は、舞白を信頼しているから口にできるのだろう。そして宜野座の元の性格。己のやるべき事を理解し、それに対し正しい行動を起こす。彼は間違った行動は起こさないだろうと、花城は微かに笑みを零す。

 

 

「やっぱり、あなたを外務省に率いれて正解だったわ――」

 

 

花城の言葉に、漸く宜野座の表情も少し綻んでいた。

 

 

 

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19時過ぎ――

――都内 自宅マンション

 

 

 

 

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部屋着姿の舞白は暖かいカーペットの上にゴロンと寝転び。傍らで身を寄せるダイムの腹部を優しく撫でる。

 

 

今日は明日からの潜入捜査を控えているため、夕方前には自宅に戻っていた。しかし、未だに宜野座は帰ってきていない。彼の事だ、きっとギリギリまで何かしらの準備を行っているのだろう……

 

 

「……潜入捜査前に……連絡しておこう……」

 

 

舞白はそう口にすると、手馴れた手つきでデバイスを操作し、寝転んだまま、ある人物に電話をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お義父さん、舞白です。」

 

『……言わずとも分かってるさ、舞白ちゃん。』

 

相手は義父の征陸。最近はなかなか忙しく連絡すら取れていなかった。たまにメッセージでやり取りはするものの、相手の久しぶりの穏やかな声色に、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「やっと電話できたー……会いに行けなくてごめんなさ―――」

『その前に、俺に言うことがあるだろう?』

「……あー……お部屋の事ですよね?」

『それと、警備ドローンと介護ドローンだ。』

 

より厳重になったドローンの監視。そして病室。あまりにも異常すぎる対応に、征陸は呆れている様子だった。

 

「私も伸元さんもそれなりにお給料貰ってるんです。もっといいお部屋に、ちゃんとした警備だって……」

 

いつものように、明るい口調で話す舞白。

しかし、"伝説の刑事"はいとも簡単に相手の行動と、微かな電話口の声色にすぐに気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何があった?……その様子だと、恐らくは伸元も知らない"何か"があったんだろう?』

「……え?なんの事ですか?」

『分かりやすい嘘をつくんじゃない。こんな老耄の命の為に、何を迫られてるんだ――』

 

"やっぱり、敵わないな"

全てを見透かされているようで、舞白は小さく息を吐く。

 

征陸は全て分かっていた。舞白はなにかに恐れていると、そしてそれは恐らく自分自身の命に関わっているのではないかと。分かっていた――

 

 

『って言っても、舞白ちゃんは俺には話してくれないだろうなあ』

 

「……だーかーら、なんの事ですか?お義父さんは気にしなくていいんですから――」

 

 

"へへへへっ"と無邪気に笑う舞白に対し、征陸も笑みをこぼしていた。

 

例え、この場で問い詰めても何も話さないだろう。そういう"娘"だと分かりきっていたことだ。

 

『…有難く快適に過ごさせてもらってるよ。少しドローンが小煩いのが厄介なくらいだな……』

「何があっても、そのドローンがいれば安心安全ですから!……って……お義父さん、何聴いてるんですか?」

 

微かに聴こえるクラシックの音。舞白はじっと耳を澄ませ、その音楽に聴き入る。

 

 

『物知りな舞白ちゃんならすぐ分かるだろうさ。――』

「…………トゥーランドットの"誰も寝てはならぬ"ですね?」

『さすがだな。』

 

 

プッチーニの歌劇「トゥーランドット」

――誰も寝てはならぬ

 

大昔からの有名なオペラ曲だ。

 

『伸元が贈ってくれたレコードから流してる。……便利な電子機器からの音も悪くは無いが、やっぱりレコードの趣のある音は心地良い。』

 

「……デバイス越しでも分かります。……良い音……」

 

 

舞白はダイムに擦り寄り、オペラ曲に耳を傾ける。

義父の征陸との穏やかな時間に、心地良さを感じていた。

 

 

『なあ、舞白ちゃん』

「……なんですか?」

『落ち着いたら、伸元と2人で、また会いに来てくれるかい』

「何言ってるんですか?当たり前です。……もう、急に……」

『なんだかなあ……歳をとるごとに、心はやけに弱っていく』

「……もう……」

 

征陸はそっと暗闇に包まれる外の景色を目にしていた。

 

 

『夜が来る度に考えるさ。"夜よ早く消え去れ、星よ早く隠れてしまえ"ってな』

「"誰も寝てはならぬ"ですね。」

 

正に、今聴いている曲の一節を口にした征陸。やけに弱ったその言葉に、舞白は反射的に眉を顰め、悲しげな表情をしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

――絶対に、私は――

 

 

 

 

 

「……大丈夫です。

いつだって、私がお義父さんの光になるんですから。」

 

 

 

 

 

 

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Ma il mio mistero e chiuso in me,

Il nome mio nessun sapra!

No, no, sulla tua bocca lo diro,

Quando la luce splendera…

 

 

 

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