whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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惑う、紅い花

 

 

 

 

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翌日 午前6時前―

――宗教団体 ヘブンズリープ

 

教団内部 地下水路

 

 

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「――それでは、あとを頼みます。」

「どうかご無事で――」

 

 

 

 

「ああ、後はこちらに任せてくれ。」

「お2人も、気をつけてここを抜けてくださいね。」

 

 

ヘブンズリープの隠し地下水路にて、舞白と宜野座は2人の人間と落ち合っていた。その2人も外務省行動課の人間。

その2人は気を失った幹部信者を抱え込んでいた。

 

 

先に内部に侵入し、舞白と宜野座が成り代わる人物の身柄を確保、外務省へ連行。そして、ついでにその人物たちに内部事情を洗いざらい吐かせる……なんて、半ば乱暴なやり方ではあるが、確実に内部で潜入捜査を行うには仕方の無い方法であった。

 

 

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「……さて、と……全身ホロね――」

 

 

予め用意しておいた生成済の全身ホログラム。

2人は早速、教団内部の人物に姿を変える。

 

 

舞白は長い黒髪の女性、宜野座は綺麗に髪を切り揃えられた男性に。教団服は着物を連想させるような造りとなっており、下半身はパンツスタイルではあるものの、やはり動きづらさを感じていた。

 

「ちょっと暑苦しいかも……」

「確かに、慣れるのには時間がかかりそうだ。」

 

 

そして2人は向かい合わせになると、最終チェックを行う。

 

 

「よし、先に潜入した2人からの情報を纏めるぞ――」

 

 

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ヘブンズリープ

現在明らかにされている信者数は4万人。

そのうち約500人がこの教団本部にて共同生活を送っていた。

 

 

舞白と宜野座が成り代わった人物は、その中でもエリートと言われている"ドクター"という階級の人物たち。教祖代行のトーリが傍に置いている人物でもあるらしい。

 

"宗方 綾音"

"院瀬見 修人"

 

今この瞬間から、2人はその人物を演じなければならない。

 

「俺たちが成り代わった人物の階級のリーダー。名前は"二瓶三郎"。呼び方は二瓶博士で統一。」

「オーケー。……で、主に2人の役割は教祖代行の補佐。そして信心が足りない最底辺の信者"ボトム"への対応……嫌な役回りだね。」

 

ふぅ……とため息をつく舞白。

気の抜けたその様子に、宜野座は呆れ顔を浮かべていた。

 

「"宗方"。そんな間抜けな顔をするんじゃないぞ。」

「"院瀬見"こそ。情報によると、一応温厚な人物らしいから、ガミガミ口煩いのはダメだよ?」

「……ガミガミ……」

 

実際に成り代わった2人の様子を見たことは無い。事前情報を読み込み、手探りで成り代わるというハードルの高さ。まあしかし、高度な全身ホロで人物が入れ替わっていることなど気づくことはまず無いだろう。そもそも全身ホロ自体、一般利用することは法律でも禁止されている。多少の違和感があったとしても、"まさか"全身ホロだとは誰も考えないはずだ。

 

 

「それと、外部から持ち込んだ通信機器の利用は建物内では禁止だ。必ず外に出る必要があることを忘れるなよ。」

「了解。」

 

諸注意事項を互いに確認し合う。トーリがどんな人物かわかっていない以上下手に動くことはできない。少しでも不自然な姿を見せれば命取りになる事は明白だ。

 

 

「"協力者"仁世の捜索、トーリ・アッシェンバッハの身辺調査。そして"顧客名簿"の盗取……。」

 

協力者、と呼ぶには理由があった。

トーリが教祖代行になる前、外務省と仁世との間でとある"契約"を交わしていたのだ。

そしてその内容を知りうるのは、行動課の課長、特別捜査官の4名、そしてごく一部の人間のみ。

 

だからこそ、必ず仁世を探し出さなければならない。そして、今後起こるであろうテロに関しても――

 

 

 

 

 

「もし、仁世が既に死んでいたとしたならば、……"狐"はトーリだと私は踏んでる。」

「…その根拠は?」

 

舞白か"狐"であると聞かされた昨日。それが頭に過ぎると、宜野座は微かに眉を顰ませる。

 

「勘だよ、勘。私の洞察力は――――」

 

 

 

刹那、聞きなれない音が聞こえると、宜野座が手に持っていた教団専用のデバイスが鳴り響く。画面に表示された相手の名前を目にした宜野座は、舞白に向けてこくりと頷く。

 

 

「――はい。院瀬見です。」

『院瀬見、今どこにいる?』

 

相手は渦中の人物、トーリだった。こんな深夜にも関わらず、探しているらしい。

 

「申し訳ありません"トーリ代行"。ボトムが暴れた故に、たまたま居合わせた宗方と対応にあたっていました。今は地下の隔離室に居ます。」

『それは悪かったね。早朝にも関わらず、ボトムへの迅速な対応、さすがだ。』

「……有り難きお言葉……」

 

咄嗟に演じた宜野座。どうやら、トーリは怪しむ様子もなく、演技は完璧らしい。

 

『院瀬見。今日は"大事な"宗教特区のPRイベントだ。数刻、施設から抜けることになるが、二瓶と宗方と共に信者たちの事は任せたよ。』

「はい。お任せください――」

 

 

一通り話が終わると、トーリは最後に合言葉のような事を口にする。

 

 

 

『エターナルホワイトの加護を、シビュラの祝福あれ――』

 

 

そして通話が切れると、宜野座は安心した様子で小さく息を吐く。難無く事が終わったこともそうだが、宜野座の完璧な演技力に対して舞白は思わず拍手をする。

 

「すごい。」

「少し焦ったが、事前情報通りにすれば何ら問題ないな。」

 

フフ、と余裕気に振る舞う宜野座。

ほぼ丸腰状態で敵地に踏み込んでいるようなものなのに、不思議と2人は恐怖心などを感じてはいなかった。

信頼しているパートナーとの潜入捜査。それは何よりも心強い。

 

しかし宜野座には、とあることが脳裏に過ぎっていた。

昨日の花城との会話だった。

 

 

 

 

 

「舞白。」

「…………?」

 

 

「頼むから"無茶はするなよ"」

 

いつもの台詞。

 

「……何があっても。俺は、お前を信じてる。」

 

今、目の前にいる人物の姿は、いつもの宜野座ではないが、口調や瞳を見る限り、本気で心配をしている様子が伺える。

 

それに、……いつもと様子が違う気も舞白は微かに察していた。

 

 

 

「心配無用。大丈夫。

捜査はさくっと早く終わらせて、2人で帰ろうね?」

 

"ダイムもドローンとお留守番は寂しいだろうし"と、舞白も同じく姿は違えど、天真爛漫な姿は微かに感じられる。

 

「……ああ、そうだな」

 

どうか、何事もなく、2人で無事に――

 

宜野座は心の底からそう願う。

 

 

 

 

そして舞白は懐に触れると、無意識に隠し持っているデバイスをギュッと握りしめていた――

それは、あの男から贈られたデバイスだった。

 

 

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「…はぁ…」

 

いつもの一室のモニター前で深くため息をつくのは"イレブン・インスペクター"の小畑。カタカタとキーボードを叩く音が部屋に響く。そして暫くすると扉の開閉音と共に、いつもの人物が現れる。

 

 

 

「ただいま〜。はい、小畑ちゃん。出島のお土産――」

「いらねぇよ」

 

梓澤は小畑のデスクの上に"出島名物 カステラ"と書かれた箱を置くも冷たくあしらわれ、ガクッと肩を落とす。

 

そして、ふとモニター画面に視線を移す梓澤。そこに映し出されたものを目にすると、男は愉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

"三郷ニュータウン 入国者信仰特区新設説明会――"

スペシャルゲスト欄には"小宮 カリナ"

 

また他のゲストにも様々な人物達の写真が掲示されていた。

 

 

「…次はあいつが動くんだってねえ。ゲーム嫌いのインスペクターなのに。――お手並み拝見といこうかな。」

 

梓澤の脳裏に1人の人物が浮かぶ。

次のゲームを仕掛ける"インスペクター"。

それは正しく、ヘブンズリープ教祖代行 トーリ・S・アッシェンバッハだった――

 

 

「おい梓澤。それよりどういうことなんだよ。」

「ん?何が?」

「とぼけんじゃねぇよ、クズ野郎。

…セカンドに、あの女を入れるなんて正気か?」

「……あーー、ね。」

 

モニターの画像が切り替わり、舞白のID情報が映し出される。小畑はどことなく気に入らない様子を見せていた。

 

「よりによって"厄介な外務省行動課"。それにどんな力を使ってセカンドに入れ込んだんだ?せいぜいサーティーン…」

「まあまあ小畑ちゃん。そこは置いといて。

――厄介者だからこそ、使い道があるだろう?」

「"だからこそ"リスクもデケェだろ?…尻拭いはゴメンだからな。テメェらはテメェらで仲良くやれよ」

 

"邪魔だ、退けろ!"と小畑はイライラとした様子で出島土産に手を伸ばすと、中から雑にカステラを取り出せばそのままかぶりつく。

 

 

 

「…厄介者ねえ」

 

モニターに映る白銀の少女。

真っ直ぐな切れ長の瞳、まるで全てを見透かされているような瞳。

 

 

 

――上手く使わなければ

自分がやられる――

 

 

 

 

 

「"馬鹿と鋏は使いよう"。テメェが馬鹿じゃねえ事を祈ってる」

「おーー!珍しいねえ小畑ちゃん。応援してくれるなんてさ」

「うるせぇ!キモイ!寄るな!!」

「ハグだよ、ハグ――」

 

 

 

 

 

――"なあ、セカンドインスペクター"――

 

 

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――公安局 執行官宿舎

 

 

 

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雛河の宿舎に集まるのは一係の執行官たち。

入江と廿六木は酒缶を片手に、何やら揉めている様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

「天さん!何で名刺を渡したんだよ!前任監視官の事故の件で、俺らが散々疑われたのを忘れたのかよ!?」

 

「変な勘ぐりされねえために、こっちから手を貸すんだよ!分っかんねえやつだなあ……」

 

「落ち着いてください!2人とも――」

 

アルコールのせいもあるのか、やけに興奮気味な2人。それを必死になだめるのは雛河だった。

 

"名刺"それは狐のマークの入った"あれ"だった。

 

 

 

そして、どうやら廿六木は"あれ"を監視官の2人に手渡したらしい。おそらくは課長の手に渡るのも時間の問題だろう…、いや、むしろすでに知られている可能性が高い。

 

 

ことを荒立てたくない入江からしてみれば、考えられない行動だと怒りを露わにしていた。

 

 

「入江さん、大丈夫ですよ。あの2人なら、きっと…… 執行官と言うだけで疑うことは無いだろうし…」

「どうだか?しっぽを振るのは勝手だけど、私を巻き込まないでよね!」

 

雛河の台詞に被せるように言葉を言い放つ如月。ひとりカウンター席でワインを口にしていたが、五月蝿さにウンザリしたのかその場を立つと出口へと向かう。

 

 

「面倒事は嫌よ。……やるなら、あんた達だけでやってよね。」

「はぁ!?おい!如月――」

 

止める間もなく、さっさと出ていく如月。

入江は眉を顰め、持っていた酒缶を乱雑にテーブルに置くとため息を漏らす。

 

「…ッ……何なんだよアイツもよ……」

「相談無しに動いたことは謝る。……如月にも後で――」

 

「……………………」

 

雛河はそんな如月が出ていった扉をじっと見据えていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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室内に置かれた赤い長方形の箱。

中には真っ赤な彼岸花の花束。

 

 

そして、その上に添えられたカードを手に取る。

 

 

――僕を忘れないで――

 

 

赤い狐のマークの上に、黒字で書かれたその言葉。

 

 

 

「…くっ…」

 

 

 

 

 

くしゃっとそのカードを潰すのは"如月真緒"執行官。

 

表情は重く、苦しげに眉にシワを寄せていた。

そして無意識に手が震えるほど、心は乱れ、背筋が凍りつく。

 

 

 

彼女もまた、狐に翻弄されているひとりだった―――

 

 

 

 

 

 

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