whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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――潜入捜査から数日
ヘブンズリープ 教団内部――
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「仁世教祖の"実質的死"。そして報告のあった2件の爆破テロ。仁世の死は知られていないだろうけど、さすがに"ヘブンズリープ"が怪しいって普通なら気づくはず。……いよいよ、公安局の強制捜査も有り得るんじゃないかな。」
「だろうな。実際、"アイツら"が教団内に視察に現れた。炯・イグナトフ監視官……。恐らく刑事課は、強制捜査をする為に情報収集に駆られているだろう。」
教団内の舞白の自室。正しくは"宗方"の自室。
そこで宜野座と舞白は情報交換を行う。外で"別任務"を担っていた狡噛達からの報告も兼ねて――
"第一の爆破テロ"
それは信仰特区のPRイベント会場で起こったもの。幸いにも、ゲストとして訪れていた小宮はホログラムだった為被害はなかったものの、信仰特区のアドバイザーとして招待されていた宗教関係者のうち、信仰特区賛成派ら3名が死亡。入国者問題を摘発するための象徴として小宮も狙われていたのだった。
そして"第二の爆破テロ"
的となったのは係数緩和施設。その施設内では大手製薬会社が秘密裏に入国者たちに臨床実験を行っており、これを告発するために発生したと考えられる。
外での出来事、そして肝心な"中"での出来事。
ここ数日間だけで、様々な情報を掴んでいた。
「トーリの動きは?」
「相変わらずガードが硬い。顧客データの在処を抜くのはまだ難しそうだ。」
「……仁世の身柄の確認はできた。……あとは顧客データの盗取だけ。でも外も騒がしくなってるし下手に動けない。…なかなか難しいね。」
潜入初日に見つる事ができた"仁世教祖"。その姿は間違いなくあった。"長期の特別祈祷中"として約半年間祈り続けている仁世の姿――
しかし、それは"ホログラム"だったのだ。教団内部の幹部しか知り得ない事実。傍から見れば、豪華な教団服に身を包み祈祷し続ける偉大な教祖の姿……それはまやかしだ。
仁世はヘブンズリープの十八番でもある"エターナルホワイト"――即ち"ユーストレス欠乏症"=植物状態に陥っていたのであった。
トーリが開発した"至高の境地、エターナルホワイトの治療法"。舞白が分析したところ、それはただの色相改善薬物の過剰投与に過ぎなかった。
実態は酷いもので、教団内部最奥には延命装置が用意されており、複数の植物状態になった人間たちで溢れていたのであった。
どうやら教祖が邪魔だったのだろう。トーリはいとも簡単に仁世をユーストレス欠乏症へと貶めていたのだった。
「舞白。この後起こりうる可能性……お前はどう見る」
「……連続爆破テロ。おそらくは――」
まだ必ず何かが起きる。
むしろ、今回のこの一連の事件について、外務省も噛んでいる内容だった。
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"ヘブンズリープ"はトーリが教祖代行として現れる前、外務省と連携して欠陥品の武器パーツを輸出していたのだった。
その武器パーツは"杜撰で壊れる物"
"変な壊れ方をする、日本の上質な武器パーツ"と巷では有名だ。
その狙いは"外務省が選んだ武力勢力を弱体化すること"――
紛争地域の鎮圧に貢献……。よってこの一連のテロ事件は、想定外なことが発生はしているものの、外務省の事件でもある事に違いない。
勿論その事は公安局も知るはずのない事。
しかし、今の刑事課一係ならそれにたどり着く可能性は十分にある。
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「課長たちからの報告によると、第二の爆破テロ現場で久利須=矜治・オブライエンの腕の一部が見つかったとか。……でも勿論、彼は死んでない。あれば云わばトラップ。捜査を晦ますためのね。――それに、伸元さんも見つけたでしょ?あの"カルテ"」
「ああ。延命装置の並ぶあの部屋の物だろ?」
あの"カルテ"
それは今回の爆破テロに繋がるもの。
第一、第二テロ共に、人間の体内に爆弾が仕込まれ、それが爆発して発生したもの。体内に爆弾を移植した人間の数は"5人"。そしてその承認欄にはトーリのサインがハッキリと記載されていた。
「入国者を保護する活動をしていた久利須、テレーザ陵駕、アウマ上人、そして私たちの協力者の仁世。彼らの目的は入国者への違法行為を告発する事。即ち"終末救済プラン"――だけどこのやり方は有り得ない。」
「……というと?」
宜野座は両腕を組み、僅かに首を傾げる。舞白の話のスピードが早すぎて正直混乱しかけていた。そんな様子に気付いた舞白は手際よくデバイスに触れると真っ直ぐと宜野座の前に立つ。
「二瓶博士の研究室からあるものを見つけたの。すでに課長たちにも転送済み……」
「お前いつの間に」
「へへへ、やるでしょ?私――」
相変わらず危険な捜査を行う舞白に呆れ顔の宜野座。しかしどうやら、これからの話を耳にすると、その行動は損では無い事が分かる。
自身のデバイスからとあるデータを映し出すと、宜野座にそれを見せる。そこには久利須とその息子のデータが表示されていた。
「教団内の組織"ドクター"のリーダー二瓶三郎。彼は癌治療、人工がんの専門家。そして独自で調合した薬物でユーストレス欠乏症を信者たちに発症させている張本人。」
「……久利須は人工がんを引き起こし余命僅か、そして息子は――」
「そう。教団に利用されて挙句の果てには"エターナルホワイト"されたって訳。息子の身柄はテレーザが秘密裏にどこかに隠してる。」
入国者を守るために動いていた4人。
しかし、あまりにも暴走したその行動は明らかにおかしいと考えていた。
爆破テロに利用された5人は全員が"ヘブンズリープの信者"
そして、二瓶三郎の部屋から見つけた久利須親子の怪しいデータ。
「間違いなく、久利須=矜治・オブライエンは嵌められたの。そして都合よく利用されてる。……この教団に、トーリ・アッシェンバッハに。」
「……話を整理させてくれ――」
先へ先へと進む舞白の推理。
宜野座はグルグルと脳内でそれを整理すると小さく息を吐き、纏めあげた情報を話し始める。
「まず、トーリが教団に入信。その後、宗教特区構想のプロジェクトが発表されると、仁世が姿を消した。そして教団にいた久利須の息子が二瓶三郎によって植物状態に……同じく父親の久利須も発病。」
「そう、そういうこと。」
「……トーリが久利須を操って爆破事件を起こす。爆発物が埋め込まれた人間は残り3人、即ち少なくとも、あと3件のテロが起こる。」
「うん。でも私の予想に過ぎない。ハッキリとした証拠は私たちが掴んでる訳じゃない。勿論私たちが単独で無闇矢鱈に動く訳にも行かない、危険すぎる。」
あくまでも自分たちの任務は仁世の確保、そしてヘブンズリープの顧客データの盗取する事。
そして、自分たちが噛んでいる"武器パーツの密輸"
外務省の領分は自分たちで後始末をするのが当然のことだ。
「"終末救済プラン"の単独実行。……その行き着く結果は何なんだ?久利須にとっての利益は無いだろう。」
宜野座は一際険しい表情を舞白に向ける。いくら利用されたとしても、あまりにもその目的は不明確だ。そもそもヘブンズリープによって植物状態にさせられた久利須の息子はテレーザによって守られている。ならばそれ以上危険なことはしなくても良いはずだ。
舞白はそんな宜野座の表情から心情を読み取れば、妖しげにクスッと笑みを浮かべる。しかし、瞳は冷たい。
「――復讐だよ。……この世界への復讐。差別を生む世界そのものへの復讐。」
「……ッ……」
久しぶりに見るその瞳。
それはかつて、舞白が槙島に向けて放っていた瞳そのものだった。
「第一のテロでの本来の標的は、おそらく"小宮カリナ"。でも彼女は死んでいない。他の関係者の死は"たまたま"って考えてもいいはず。第一のテロは失敗なんだよ。」
デバイスの画像データを消すと、舞白は再びじっと宜野座を見上げる。
「小宮カリナがテロ事件に遭えば、世間の注目が集まる。久利須は小宮カリナを一連のテロ事件の象徴として殺害することを計画してる。……私が"もし久利須なら"そう考える。」
「……あまり深くそっち側の心情にのめり込むな。のまれるぞ。」
「心配しなくても大丈夫大丈夫。サイコパスはクリアだよ。」
自分が加害者側ならば――と、よく口にする舞白に対し、未だに多少は心配をしていた。相手と同じ思考を浮かべるために、相手に入り込む。それは兄の狡噛もよく行っていた事だが、危険も伴うことを相変わらず舞白は理解していない。
なんて、そんなことを何年も心配している宜野座。未だに彼女がその沼にのまれた事はないが、どうも気は抜けない。
「――武器密輸を晒し、最終的にはヘブンズリープの悪事をも暴くことが目的。売春斡旋や投薬実験利用された入国者。」
「うん。久利須は教団への復讐をする為に、そして入国者に対する犯罪行為を暴くという目的のためにも、教団への強制捜査を必要としているはず。でも"ヘブンズリープ"の信者には厚生省の重役もいるから、そう簡単にはいかない――」
「それで、教団への強制捜査を実現するべく、密輸を暴き、小宮カリナを殺して事件を大きくする――という事だな。」
「"私の考えは"ね?」
出来すぎたその考え。
しかし全てが繋がり辻褄も合う。
だがあと1つ、大きな問題が残っていた。
「あとは久利須を利用しているとされる"トーリ"の目的だ。そこはどう説明する?舞白」
暗躍しているとされている"トーリ・アッシェンバッハ"の存在。
仁世を植物状態にし、二瓶三郎を使い残酷な行動を起こしている超本人。ならば、彼の目的は?むしろ教団が危険な目に会うリスクしか無いはずなのに、なぜ彼は久利須を使って自ら教団を陥れようとしているのか?
「都知事の死。……おそらくトーリの目的は小宮カリナを抹殺する事。それを起こせば、彼は特区以上の何かを得る。」
「……それが狐と関係する、そうなのか?」
「そう……だと思う。……だけどその先が分からないの。」
どう考えても"その先のメリット"が分からない。
百戦錬磨の舞白でさえ、道筋が立っていなかったのだ。
「……狐。
…舞白、お前は何か知っているんじゃないのか?」
「…………どういうこと?」
突然の言葉に眉を顰める舞白。
その表情から微かに焦りのようなものを感じる。宜野座はその微かな動きさえ見過ごさなかった。
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「舞白と"狐が関わってる"。そして何らかの弊害が舞白自身に加わってると考えてるわ。」
「――他言無用よ――」
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花城の台詞が脳裏に浮かび我に返る宜野座。
自分が発した台詞をなんとか誤魔化そうと、言葉を続ける。
「お前のことだ。秘密裏で、何か他に情報を掴んでるんじゃないのか?」
「さすがに狐に関連したことで新しい情報は掴めてないよ。だとしたら、報告してるよ……」
「……そう、……だよな。」
舞白に何かしらの"弊害"が加わっている可能性。
やはり、下手にこの話を持ち出すことは危険だ。
それを無理やり持ち出せば、舞白は自らの首を絞めることになるかもしれない――
そう考えれば考えるほど、宜野座は強く胸が締め付けられていく気分だった。目の前の彼女は、何かに襲われているはずなのに、それに触れることは出来ない。
"また、彼女を危険に晒してしまう"
槙島の件も、シーアンでも新疆ウイグル自治区での出来事も。そして2年前のカストルとポルックス、そして今回――
最愛の彼女は、"また"危険な目に合うことになるのだろうか。
「――ちょっと……伸元さん。顔色悪いけど……」
「……いや、問題ない。……すまない。」
「…………うん」
刹那、宜野座は手首のデバイスに触れ、自身を信者の姿へと変える。舞白も同じく、全身ホログラムに身を包む。
舞白は一瞬、宜野座の表情が曇るのを見過ごさなかった。そのホログラムに隠された本当の顔は、一体何を思ったのだろう。
「今日は午後から関係者たちがこの場所に集まる。あの"トーリ"の叔父も国賓リストに入っていた。」
「うん、大丈夫。確認済だよ――」
教祖代行の血縁、叔父にあたる"ヴィクトル・ザハリアス"
そして、その妻の"ヴェーラ・ザハリアス"
「要マーク人物だ。俺たちが安易に近づくことはできないが、何か情報を握っている可能性が高い。」
「チャンスがあれば近づいてみる。特に、トーリと会話している場面は貴重かもね。」
「……油断はするなよ。下手をすればお前が――」
「もう……心配症だなあ。大丈夫だよ。ヘマはしない。」
"ね?"と口にすると、宜野座の肩をトントンと叩き、自室から出ていく舞白。
そんな後ろ姿を静かに見送る宜野座――
「…………嘘をつくな、舞白……」
彼女の微かな言動に、何も気づかないはずがなかった。
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同日、午前11時過ぎ―――
――港区 海上にて
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国賓が乗り込んでいる豪華客船の一室。
"ヴィクトル・ザハリアス"
"ヴェーラ・ザハリアス"
2人は今夜行われる教団の周年パーティーへ参加するために船に乗り込んでいた。高貴な雰囲気を漂わせるその容姿。とくに、ヴィクトルの美しい顔立ちは、トーリと微かに似ていた。
そしてその室内に、ノック音と共に2人の人物が現れる――
「ヴィクトル・ザハリアスさんですね?」
「強制聴取か、我々に協力するか選べ」
「ちょ……炯、もっと優しい言葉を選んでよ……」
監視官ジャケットに身を包み、身分証を提示する2人。慎導とイグナトフだった。
突然現れた日本の公安局の人間に、ザハリアス夫妻は驚きを隠せない。
「なっ……何なんだ!?何をさせる気だ!」
「あなた……っ……」
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――数刻後
公安局ビル 課長室にて――
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「報告相談も無しに、国賓滞在者を軟禁して潜入捜査……アンタたち……いい加減に……」
デスクに両肘を立て、フルフルと手をふるわせ怒りを露わにする霜月の姿。そしていつものように相変わらず呑気そうな慎導に、無表情のイグナトフ。
「はい!課長が手段を問わないと。」
「続けて起こった2件の爆破テロ。即刻解決しろと、課長が仰ったので。」
「……クッ…………」
連続爆破テロ。
公安局が見逃すはずもなく、既に捜査を進めていた2人。
「雛河執行官が、現在潜入用ホロを作成中。」
「課長の許可をいただけたら、すぐにでも開始できますよ?」
霜月の怒りをなんの気にもしない2人。さすがに半ば諦めたのか、霜月は懐からメンタル剤を取り出すと、いつもの様に菓子感覚で口に放り込む。
ガリガリとそれを口内で砕けば一気に飲み込み、呆れたようにため息を漏らす。
「……その国賓の人物が受け取る"荷物"は何なの?」
入国管理局オブザーバーのオブライエンが担当していた国賓を通して、定期的に大量の何かを国外へ送っていることを知った一係。
――国賓を使った密貿易。
そしてそれに関わっているのは"ヘブンズリープ"
そして昨日、教団に視察という"てい"で踏み込んだイグナトフ。その時に教団内部にヴィクトル・ザハリアスの写真画おおきく飾られていることに気づいていたのだった。
間違いなく何か関わりがある、と。
「その荷物については、潜入すれば分かりますよ?ね?炯。」
「ああ。」
相変わらず無茶苦茶をする新任の2人組。
霜月は苛立ちを含めた苦笑を浮かべると、2人の襟元に掴みかかる。
「……しくじったら……
お前ら地獄に落とす……」
そんな霜月に2人は一切怯まない。
「「了解」」
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同日 正午過ぎ――
――佐渡海上市国立病院
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「すまない、付き添いができなくなってしまって……」
「私は平気よ。炯こそ、気をつけてね。」
「心配ない……」
目の手術を控えている舞子。
病室で横になるその傍らで、イグナトフと慎導の姿があった。
手術当日の今日。
シビュラの相性診断によって選ばれたイグナトフと如月。
その診断結果通り2人は今日、教団に潜入することが決まったのだ。
「手術は必ず成功するよ、舞ちゃん。」
「……ありがとう、あっちゃん。」
ぎゅっと舞子の手を握る慎導。
同じく、舞子もそれを強く握り返す。
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手術室に運ばれる舞子。
それを見送る2人――
イグナトフは珍しく、祈るように両手を合わせていた。
「……神に祈るなんて
とっくに信仰をなくしたつもりだったのに」
「先入前に見送りができたのは、神さまに祈ったおかげじゃない?」
「そうかもな……」
手術室の赤いランプが点灯する。
本来であれば付き添いたかったが、潜入捜査が控えているため、それは許されなかった。
「灼。俺が潜入している間、舞子を頼む」
「勿論だよ、炯。――」
慎導は隣のイグナトフを見上げ、背中にポンっと手を添える。
「舞ちゃんの事は心配しないで。炯が戻るまで、俺が見守ってる。」
「……頼んだ。」
ハイリスクな潜入捜査。
……自分の事より、イグナトフは舞子の身を按じていた。
「……仁世、そしてシスターを見つけ、次のテロは必ず阻止してみせる。」
「うん。俺も、外から調べられることは調べてみるよ。」
「これ以上、犠牲者は御免だ。」
コツン、と拳をぶつけ合う2人。
この後起こりうる災難、
それに気付く由もない――
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