whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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刑事課一係
監視官、炯・ミハイル・イグナトフ
執行官、如月 真緒
2名の潜入から数時間後――
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「叔父様、ご無沙汰しております。」
多数の来賓客で賑わう教団内の広大なスペース。
主に国外の人間たちで賑わう中、主催者といっても過言では無い"ヘブンズリープ 教祖代行"は身内でもある叔父の元へと真っ直ぐと向かう。
トーリと叔父のヴィクトル・ザハリアス
どうやら関係性はかなり良好なのか、トーリの表情も明るかった。
「久しぶりだな、トーリ。
――彼女が妻のヴェーラだ。」
2人は握手を交わすと、傍らで気品漂う青いドレスを纏った女性をザハリアスは紹介する。
美しいオレンジの長い髪の毛は綺麗に結い上げられ、肌に乗せられたネックレスやピアス等の装飾品が煌びやかに輝いていた。
ヴェーラ――如月はスっと慣れた様子で品良く振る舞う。その様子に、トーリは疑う様子など勿論全く見られない。
「ご機嫌麗しゅう、奥様。トーリ・アッシェンバッハです。」
「お会いできて光栄です。……そしてお招き頂き感謝致します。」
「――お美しい奥様ですね。鼻高々でしょう?叔父様?」
「はははっ……その通りさ――」
他愛のない会話も難なくこなすイグナトフと如月。
そして2人は。、捜査の目的である内容へと繋がるように話を逸らしていく。
「――例の爆破事件で推進派がほとんどいなくなったようだな?」
ザハリアス――イグナトフのその言葉に、トーリは清々しい表情を浮かべていた。ニヤリと笑みを浮かべた瞬間、イグナトフは微かに陰を感じるのであった。
「ええ。……ある意味、すっきりしました。」
「それに、この本部も以前よりも大きくなったな――」
豪華絢爛な装飾が施され、強大な規模の施設。信者も増え、ヘブンズリープは以前よりも様々な益を獲得しているようだった。
「はい。信者も増え、より効率的に教えを伝えるシステムも拡張を重ねています。」
「効率的なシステム?それは一体――」
「叔父様。その話はあとでじっくりさせて頂きますよ?――それよりも長旅でお疲れでしょう。御二方に部屋を用意してますので、休まれては如何ですか?」
「御心遣い、感謝致します。」
「いえ、当然のことです。御二方は大切なお客様ですから――」
気になる"話"
しかし、怪しまれる訳にはいかない。着実に、確実に任務を遂行しなければ。焦りは禁物……
「では、どうぞこちらへ。部下が案内致しますよ。」
トーリがそう口にすると、側近でもあり部下でもある2人に目配せをする。遠くからトーリをじっと見据えていた2人、"院瀬見と宗方"それは同じくして潜入捜査中の"宜野座と舞白"。
2人は"ザハリアス夫妻"の側へと近づくと、別室へと案内する――
そして、その会場の片隅に佇む人物。
"コングレスマン"の裁園寺の姿があった――
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「入室時には、こちらのリングを使用してください。セキュリティパスとして利用できます。」
宗方――舞白は自分よりも背丈の高いザハリアスを、見上げる形でじっと見据え、手元に2つの指輪を手渡す。
「ああ。ありがとう。
……ところで君たちはトーリの側近?」
「はい。私は宗方綾音と申します。……彼も同じく、トーリ代行の側近、院瀬見 修人。」
「何かあれば、いつでもお呼びください。滞在中は、主に私と宗方で対応致します。」
トーリに従順な下僕。
それを完璧に演じる2人。
イグナトフと如月は勿論表情には出さないものの、そんな2人を哀れだとも考えていた。
「ええ、ありがとうございます。」
「トーリの側近となれば信頼出来るな。頼りにさせてもらおう…」
「「有り難きお言葉――」」
舞白と宜野座は2人に深々と頭を下げる。
……しかし、2人は気づいていた――
彼らがイグナトフと如月である事に。
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「早速、公安局の潜入捜査か。……お前の予想通りだったな」
2人は部屋を後にすると、長い廊下を歩み進めていた。
舞白の想定通り、やはり公安局はヘブンズリープを嗅ぎつけ、密かに潜入捜査を行い始めた。
「誰も疑ってないみたいだね?彼らに気づいてるのは私たちだけ。」
「全身ホロは無許可だと違法。権限が与えられているのは俺たち外務省も同じく、彼ら公安局も同様だからな。」
2人は広い踊場に訪れると足を止め、来賓者達で溢れかえる会場を吹き抜けの上層階から見下ろす。
「――彼らの目的。それは爆破テロの捜査。」
「だとすれば、シスター陵駕と爆弾の捜索。あとは俺たちと同じく、仁世の捜索だろうな。」
「うん。それしかないだろうね?」
他の来賓客と愉しげに会話をしているトーリの姿。その様子から見て、かなりの信頼を得ている様子だった。
13歳の頃から18社を股に掛けてきたその経歴。一言で言えば"エリート"。まだまだ年齢も若いにも関わらず、高いコミュニケーション能力に舞白も宜野座も一目置くほどだった。
教祖代行という立場も何の気なしに簡単にやり遂げるその姿に、異様さを覚える。
「ところで、公安局の潜入捜査。花城には伝えたのか?」
「うん。さっき連絡しておいた。"刑事課一係の2名が潜入してる"って。……それと、あとは念の為――」
舞白は視線を会場から隣の宜野座へと移し、右手人差し指を立て、ふふふんと笑みを浮かべる。
「刑事課が潜入捜査するにあたって、軟禁していると思われるザハリアス夫妻の身柄の確認。……もし、あの2人がミスをすれば……」
「本物の夫妻が消される。…自らの何らかの利益の為なら、トーリは身内を切る」
「その通り。――だと私は考えてまーす。」
もし、トーリがあの2人に気づけば、こちらとしても厄介だ。証人が消される恐れ、無関係な人間たちが被害を被る可能性もある。
舞白と宜野座は内部へ潜入している以上、出来ることも限られている。外にある程度の情報を流しておかなければ、後々面倒に――
「さてと……そろそろ持ち場に戻らないと、トーリ代行に怒られちゃう」
「……にしても、お前は本当に演じるのが上手いな?」
「本当?」
「お前のキャラと"宗方"のクールで明敏な姿が違いすぎて――」
「それ、ディスってるよね、伸元さん。」
刹那、ドスッと舞白の右拳が宜野座の脇へと命中すると、渋い顔を見せる"院瀬見"。
「……ッ……お前な……」
「ふふふっ」
潜入捜査と言えど、舞白は密かに楽しんでいる様子を見せる。
つい忘れてしまうのだ、自分が狐ということを。
その瞬間、舞白の懐に隠されていたデバイスが微かに振動していた――
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数刻後、内部を案内されるザハリアス夫妻。
――イグナトフと如月……
仁世と話したいと伝えるも"特別祈祷中で誰も話しかけることは許されない"とトーリに言われるも、なんとか姿を見ることに成功。
長らく表舞台に姿を見せなかった仁世は、教団内部の特別祈祷室にて、祈りを捧げていたのであった――
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「……どうしても……難しいのか?」
「大変申し上げにくいのですが……奥様の色相について、短期間での治療は難しいでしょう。――長期セラピーを提案します。」
ザハリアス夫妻、そして向かいにはトーリと"二瓶三郎"の姿が。ヴェーラの色相の状況は良くないらしく、二瓶は神妙な面持ちでセラピーを受けるようにと促す。
「早く彼女をこの国に住まわせたい。どうにかならないか?」
目的は平和なこの日本国に、妻を永住させること。外国人が日本にて永住権を手に入れるのは実際かなりハードルが高い。その様子を必死に演じるイグナトフの眼差しはまるで本物だった。
その様子に視線を交えるトーリと二瓶。すると二瓶はとある決心をすれば、険しい表情を向かいの2人に向ける。
「……実は"エターナルホワイト"という、どんな色相でも永続的にクリアになる治療プログラムがあります。」
「エターナル……ホワイト?」
食いつくザハリアスの姿に、微かに笑みを浮かべるのはトーリ。
「はい。エターナルホワイトです。二瓶博士が開発した、素晴らしいプログラ――」
「トーリ代行!」
刹那、ノックもないまま部屋の扉が開かれると現れたのは"院瀬見"の姿。突然の物音と部屋に響く慌てた声に驚く4名。
ただ事ではない、そう感じたトーリは傍に寄る院瀬見に険しい顔つきを向けると、問い質す。
「何事だ"院瀬見"。今は大事な――」
「申し訳ございません。緊急だったもので…新たな自爆テロです。"アウマ上人が死亡"。工場地帯に被害が出ました――」
院瀬見の言葉に目を見開いたのはトーリ……ではなく"ヴェーラ"こと如月。イグナトフは表情を変えずとも、かなり動揺していた。
アウマ上人の死……動揺を隠せず、思わず驚いた表情をしてしまう如月。何とか髪をかきあげる仕草を見せ、その場を誤魔化すことは出来たようだが。
「……叔父様。
お渡しする"荷物"は十分確保してありますが…もし心配でしたら確認されますか?」
「そうだな。頼む。」
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発生した第三テロ。
その現場は、三郷ニュータウンの工場施設。
その全容。――資材倉庫に身を隠し、買春斡旋をさせられていた入国者の女性と子供達。そして違法に製造された銃の武器パーツの発見。そしてそれをトラックで突っ込もうとした自爆犯から命懸けで守ったアウマ上人……。
第三のテロは"売春と密輸貿易の告発をするためのテロ行為"であった。
そして、その自爆犯は"サミュエル・ミニー"という移民。彼もまた、ヘブンズリープの元信者だったのだ――
そして舞白達が掴んでいた、爆発物が埋め込まれた5名のカルテに、その人物の名前が間違いなく刻まれていた。
第一の爆破テロにて特区推進派だった売春の元締めが死亡。アウマ上人はその混乱に乗じて、売春窟から彼女達を逃がし、そして倉庫で匿った
色相悪化で強制送還されるはずのその入国者たちに売春を強要する組織が存在する事は、ジャーナリストの六合塚も耳にしたことがあるほど有名な話だ。
だったら、何故公安局に通報しなかったのか?誰しもがそう考えるだろう。
……だが、彼女たちは全員が潜在犯候補。公安局に通報したところで根本解決には至らない。施設に送られて、それで終わり…
売春組織と敵対していたアウマ上人。そして逃げられない彼らを守るために命を落とした――
既に現場を押さえていたのは、イグナトフと如月とは別に外で捜査を進めていた慎導達。
慎導はアウマ上人のその行動を無下にはしたくないと考える。
だとすれば、頼れるのは"彼ら"しかいない――
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――外務省東京本庁
行動課オフィス――
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『出島を使いたいんだけど。』
突然の通話。
相手は公安局刑事課 課長の霜月。
唐突すぎる発言に、花城は盛大なため息を吐く。
「はぁ……藪から棒に何なのよ、あなた」
『うちの部下が強制売春の被害者を大量に見つけちゃって…』
「ふーん。それで、出島に移してメンタルケアを?」
慎導からの連絡内容。
それはアウマ上人が守ってきた、売春をさせられていた入国者達の保護を求めるというもの。
公安局管轄の矯正施設より、外務省が管理下に置く出島の方が入国者達にとっては都合が良い。
で、あれば。
霜月は外務省の花城にどうしても伝えなければならなかった。
『――私は色相が濁った入国者なんてどうでもいいんだけど――いい?借りにしておくって言ってるの。』
「ふふ…―――人間はね?どうでもいい事のために"気に入らない相手"に頭下げたりしないわ」
「……ッ……」
珍しく下から下から発言する様子の霜月。声色もどことなくいつもに比べて大人しく、抑揚もあまりない。それだけ、事は重大な事なのだ。少なくとも公安局で何とかなるような話では無いのだから。
そんな霜月に、花城は微かに笑みを浮かべる。
「オーケー。手続きするわ、任せなさい。」
『……ありがとうございます。花城さ』
「ところで」
霜月の謝辞の言葉を強く遮る花城の言葉。
「ヘブンズリープに関して、妙なこと始めてない?」
『……何の話?』
花城は分かっていた。
先に潜入していた舞白達の情報――
公安局の人間が"ヘブンズリープに潜入している"と。
「余計なことはしないで。」
『余計って…。そもそも国内の案件は公安局の管轄よ?余計な事をするとしたらそっちでしょ?』
「とぼけるならそれでいいけど。……あんまり、私にも舞白にも貸しを作りすぎないようにね?」
刹那、通信が切られる。
同時に霜月はムスッと頬を膨らませると"何なのよ…本当に…"と呟き、ふと自身の手首に巻かれたデバイスを操作する。
「…舞白にも貸しって…
…そもそもその本人とは暫く連絡もつかないのよ――」
デバイスの発信と着信履歴。
頻繁に連絡を取りあっていた舞白と霜月。
しかしこの数日間、珍しく連絡もなければ発信しても応答が無い。
この前の飲み会以前に、少しずつ連絡が少なくなっていたのだ。
「((…そりゃ、外務省特別捜査官なんだから忙しいに決まってる。でも、…何故か分からないけど、胸騒ぎがするのよ))」
何となくの"違和感"
また彼女が面倒事に巻き込まれてなければ良いのだが…
と、霜月は密かに胸の内で思い込んでいたのであった。
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