whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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ヘブンズリープ 教祖代行執務室――
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「教祖不在で大丈夫かい?」
「問題ありませんよ。…それに、不在ではない。」
テーブルを挟み、ソファに腰掛ける梓澤とトーリ。2人はどこか互いに警戒しあっているような雰囲気を醸し出していた。
相手の様子をじっと伺う様子の梓澤。
隙を見せないように、壁を作るトーリ。
「…サード。"エターナルホワイト"とやら。…あれはユーストレス欠乏症っていう病気だよ」
教団が掲げている治療プログラム"エターナルホワイト"
梓澤はイグナトフや舞白達と同じく、そのカラクリを把握していた。
シビュラシステムは人の心が濁ることを察知する。そして、色相と呼ばれる心を表す色をきれいに保つためにそれぞれが努力をする。
メンタルケアや薬物を用いた色相の保持。誰しもが"色相"によって左右されるこの時代――
"ホワイト"は一定の意味を持つ色。それが永遠に続くという有り得ない状況を生むことができると謳う教団。
普通の感覚をもう人間であれば"そんなものは存在するはずがない"と考えるだろう。
「病気ではない。」
若干の怒りを含んだ鋭い瞳。
そんなトーリを梓澤は嘲笑う。
「フッ……ある意味、君は凄いよ。他人を"ユーストレス欠乏症"に誘導できるシステムを作ったんだから。」
"ユーストレス欠乏症"。それは生きていくのに必要なストレスさえ感じなくなって"無感覚状態"に陥るというある種の病気。過剰なメンタルケアによって引き起こされる病。それを、あたかも"神からの啓示"だとトーリは発する。
「違う。エターナルホワイトの境地です。ファーストも治療されたらどうですか?――幸せになれますよ?」
「俺は個人の幸福より仕事を愛してるからねえー。でも心配だな、君らの色相。――度を越した暴力はサイコパスの悪化を呼ぶ。」
「もちろん。シビュラが許さぬ暴力は忌むべきもの。」
「……というと?」
トーリは一呼吸置くと、クスッと怪しげな笑みを浮かべる。じっと目の前の梓澤を見据え、どこか余裕のあるような表情だった。
「ファーストが用意してくれた―――"ピースブレイカーの生き残り"を使う。」
「…あぁ、"パスファインダー"の2人?もう使っちゃうの?」
「物は試しですよ。」
梓澤はそんなトーリに対して"どちらでも構わない"というような、興味なさげな顔。
むしろ相手の後先考えないような行動を、心内、憐れに思っていた。
「――それより、ファースト。なぜ私をセカンドに繰り上げず、別の人間を入れたのですか?」
「ん?何のことかな?」
人の心を冷え冷えとさせる、小馬鹿にするような嘲笑。トーリはグッと膝に乗せた両拳を強く握りしめると、相手の身勝手な行動に怒りをあらわにしていた。
「とぼけないで下さい、母から聞きました。……しかも、よりによって外務省。飛んだ真似をしてくれましたね。」
「あぁー、ごめんね?トーリ君。君をセカンドに持ち上げる前に、適任を見つけちゃったんだよ。」
「…私よりも"有能"だと?」
人々の色相に"永遠の純白"を与えるとは思えない、教祖代行のその表情。鬼のような目つきで強く眉を顰ませる。
「うーーん…どうだろうね?
"神のみぞ知る"って事にしておこうかな――」
手元でデバイスを弄ぶ。
そしてその表情は、頬に挑むような笑みを浮かべていた。
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同日――
――佐渡海上市国立病院
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花瓶に生けられた色鮮やかな花。そこから漂う甘い花の香り。
その香りは、手術を終えた舞子の心を穏やかに整える。
「――手術大成功だって。あと数日もすれば、炯の顔が見られるよ。」
「うん。嬉しい……」
ベッドの傍らの椅子に座る慎導。
そして手術を終え、落ち着いた様子を見せる舞子の姿。目元には包帯が巻かれ、あと少しで見えるであろう景色に期待を抱いていた。
「炯は…まだ仕事中?」
「うん……ごめんね?」
「ふふっ…なんで謝るの?」
「目が見えるようになって、最初に視界に入るのが俺じゃ、申し訳ないよ。」
「そんな事ないわ、あっちゃん。来てくれてありがとう、声を聞けて嬉しい。」
「…安心したんなら良かった、へへっ…」
ギュッと相手の手を握りしめる舞子の柔らかな手。暖かな体温を感じるその優しい手を慎導も同じく握り返す。
紛争で視力を失った舞子。
そんな彼女に、ようやく再び光が差し込む。それは本人は勿論、夫のイグナトフも、慎導も心から待ち望んでいたことだった。
「あのー…あっちゃん。
炯のことでお願いがあるんだけど。」
「何?」
「――あの人、いつも誰かを守れると思ってる。でもそういう人ほど、誰かに守られているものよ?…炯にはその自覚がないから…」
桜の花びらのように脆く、繊細な表情。
不意に見せるその表情から、慎導は舞子の心情を敏感に読み取る。
決して弱さを見せない、相棒でもあり親友でもあるイグナトフ。彼女の言うとおり、彼は1人で全てを背負うような姿勢を度々見せていた。それは同時に、独りで苦しみを背負うことも。
しかし、彼の周りには慎導をはじめ、舞子や公安局の仲間たちがそばに居ることをもっと知って欲しかった。
ここ最近の夫の言動に、妻の舞子は心做しか虚無感を覚えていたのだ。
「――分かってる。…でも、つい炯を頼りにしちゃうんだよなあ」
「それでも…ふたりで守り合えるなら
―――きっと大丈夫。だよね?あっちゃん。」
「うん、そうだね舞ちゃん。炯の事も舞ちゃんの事も、俺がそばに居るよ。大丈夫――」
慎導はギュッと更に手を握る力を強める。
その瞳には、強い信念が映されていた。
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同日 午後15時過ぎ――
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第四の爆破テロのが発生。
場所は"三郷ニュータウン内のリースカー整備施設"
刑事課一係の捜査により発見されたこの場所には武器パーツとダイヤが発見された。
この場所を起点に、様々な物資の運搬が秘密裏に行われていたのであった。物資の他にも、今まで起こった爆破テロの"爆弾犯"を移動させる手段としても使われていたリースカー。
この場所の爆発の意味――
それは恐らく、"武器パーツの場所、そして不正利益の告発"が目的だと慎導は推理していた。
テロ発生前、"次にテロが起こるのはその場所だから、逃げなさい"とテレーザ陵駕は慎導に告げ、なんとかテロ行為を逃れる一係刑事達。
その後、逆探知からテレーザ陵駕の場所を特定するもその姿はなく、代わりに、なぜか久利須=矜治・オブライエンの息子を発見。
――彼はユーストレス欠乏症による植物状態になっていたのであった。
第一のテロ"入国者の売春斡旋をしていた、信仰特区の賛成派らが死亡"
第二のテロ"係数緩和施設にて、製薬会社が入国者に対して臨床実験が行っていた事を告発する為"の爆破テロ
第三のテロ"三郷ニュータウンの工場施設が爆破。そこに隠されていた女
子供の売春と密輸貿易の告発をする為"の爆破テロ。
そして今回の第四のテロ"武器パーツの場所と、不正の利益を告発する為"に起きたテロ――
そして、これから起きる"第五のテロ"。慎導は"ある違和感"に気づくのであった――
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――公安局ビル 課長室
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11月下旬の空は、17時前なのに静かに夕焼けが迫っていた。日のぬくもりを含まない空気が空に広がり始める。
「……ったく…折り返しくらいしなさいよね。」
不機嫌そうに言葉を吐くのは霜月美佳。
デバイスを不服そうに眺め、諦めたように画面を消すと目の前のテーブルにのせられた手作り弁当の惣菜に箸を伸ばす。
ついに4つめの爆破テロの発生。
刑事課は相変わらずバタバタと忙しさを増せば、霜月はゆっくり食事をとる暇さえなかった。
しかし"それより"も霜月は、親友でもあり相棒と言っても過言では無い"舞白"からの連絡が一切入らないことに眉を顰める。
いつもなら、海外にいようが任務中であろうがメッセージの一言二言、必ず反応があったものだ。
…しかし、気味が悪いほどに一切連絡がとれない。
もしかして、また、面倒事に巻き込まれているのでは?と密かに心配する様子も見せる。
「((……嫌な予感がするのよ――))」
霜月は食事を手早く終え、箸をケースに戻す。
するとその瞬間、課長室にとある人物が姿を現す――
「失礼します。」
珍しく眉を顰め、ひどく憂鬱そうな顔をする慎導の姿。霜月はそんな相手を一瞬じっと見据えるも、直ぐに手元に視線を戻せば弁当箱をランチマットで包む。
「報告です。久利須=矜治・オブライエンの息子、羽利須の保護、及び移送が完了しました。」
「…ご苦労様。慎導監視官。」
彼の表情はさらに険しいものへと変わっていく。
どうやら、その報告を目的にわざわざ課長室に現れた訳では無いらしい。その様子に即座に気づいた霜月は小さくため息を漏らす。
「――それで?その様子だと、私に何か言いに来たんじゃないの?」
慎導は両手拳を強く握り締め、真っ直ぐと霜月を見据える。
「…教団の強制捜査はまだですか?いくら何でも、潜入した2人からの連絡が遅すぎます。」
「文化局と絶賛調整中よ。…そもそも、"強制捜査を行うため"の証拠集めに潜入したんでしょうが。」
「……くっ……」
第四のテロの発生。
そして一切連絡が取れないイグナトフと如月。
慎導はその異常事態に落ち着かない様子だった。
「この状況でガサ入れしても、どうせ情報漏れで空振りよ?余計に難航するわよ。」
「…厚生省内の信者が邪魔をしているんですね?」
「今後、12時間経過しても連絡が無い場合、私が必ず細呂木局長を動かすわ。あなたは、外堀を埋めることに専念しなさい。」
「…………ッ……」
慎導の気持ちが分からない訳では無い。自分も同じく、舞白と連絡がつかない事に内心焦っていた。だがここで無闇矢鱈に動けば危険だということは重々承知…
なんせ教団関係者に同じ厚生省の人間も混ざっていることは確実。下手に動けば部下も、もちろん自分も追い込まれる可能性が高い。
「ねえ。焦る気持ちは分かるけど、無理は禁物よ。」
「――焦ってるんじゃなくて、どんな手を使ってでも被害者を増やしたくないんです。」
課長室の窓に差し込む夕日。
それに照らされる慎導の様子に、どこか見覚えがあった。
誰かのために、自己犠牲を払ってでも守りきる。
無茶苦茶で、勝手で……
そんな"2人"の後ろ姿がパッと脳裏に浮かぶと、霜月は微かに頬を緩ませていた。
「……あなた、やっぱり
先輩にも舞白にも似てるわね。」
「え?どういう…」
「"やりすぎるな"ってこと。
…私は、その2人の姿――――」
霜月が言葉を続けようとした瞬間、霜月のデバイスから着信音が鳴り始める。その相手の人物が分かると、霜月は打って変わって再び険しい顔つきを見せる。
「はい。こちら霜月。」
『外務省の花城よ。』
「ああん?何の用?こっちは今いそが――」
『ザハリアスだけど、うちで引き取るわ。』
突然の通話、突然の台詞に霜月は大きく目を見開くと、課長室に大声を響き渡らせる。
「…はっ!?…はああああああ???」
ザハリアスの保護
外務省からの連絡――
慎導はすぐに頭の中で事を繋ぎ合わせれば、1つの結論にたどり着く。
「まさか……炯――」
「勝手なことしないで!!」
『ザハリアスの居場所は分かってるわ。…取引よ――』
プツッと切られる通信。
霜月と慎導は互いに視線を向けると、すぐに課長室を飛び出す。
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「