whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
白驟雨に打たれる夜
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私たちの社会は、人の心理や精神状態の計測に成功した。
魂の数値、サイコパスに基づき
人々は罪を犯す前に裁かれる。
審判を下すのは、厚生省の巨大な監視ネットワーク
"シビュラシステム"
このシステムと長い鎖国政策により、日本は世界紛争の悲劇を免れ、唯一の平和な国となった。
だが、そのために私たちは
何を犠牲にし、そして何を忘れ去ったのだろうか
答えは深い闇の中にある
この社会に潜む本当の罪と共に―――
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PSYCHO-PASS
―――whiter than white―――
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―――2120年 11月
新東京 国際空港―――
重い気が籠った闇夜。
そんな闇の中に、細い針のような雨が降りつづいていた。
悪天候にも関わらず、空港の展望スペースには、今か今かと待ちわびる、雨合羽を身にまとったドローンマニアがカメラを構え、とある"輸送機"を待ち構えていた―――
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「いや〜、世界最大級の輸送ドローンが国内で拝めるなんて。いい時代になりましたね?」
ドローンマニアの男がワクワクとした様子で仲間たちに声をかける。
「本当に。日本が開国を初めてから賛否はあるものの、やはりこういった事が当たり前に見れるようになるなんて……」
三脚にセットしたカメラに触れ、着陸するであろう滑走路に向ける。そんなことを話していると上空から航空機特有の轟音が聞こえてくる。
「あ!来ましたよ!!」
マニアの1人が声を上げると、待ち構えていた全員が一斉に一点を見つめる。
「…………」
そんな盛り上がりを見せるマニアたちとは離れた場所で、同じようにカメラを三脚にのせた男が1人。この雨の中、雨合羽ではなく、赤い傘を差し、カメラのボタンを押せば、降り立つ航空機に視線を送る。
「ん?……何かおかしくないか?」
「だよな?滑走路はまだ先なのに……あのままだと海面に落ち―――」
降り立ってきた航空機は予想以上に低空飛行を続けていた。
すると刹那、航空機は滑走路手前の海面に滑り込むように降下し、激しい水しぶきを上げながら、そのまま海面へと不時着したのだった。
「落ちた……」
「ウソだろ?おい……」
「あれって、事故?なのか……?」
ざわめくドローンマニア達。
異様すぎる光景に全員がカメラのシャッターを押すも、何が起こったのか理解出来ていない様子だった。
「……芸術だなあ」
赤い傘を差した人物。
その"男"は、まるでそこに航空機が落ちると分かっていたかのように、ベストポジションで航空機を撮影する。
そして、ポケットから携帯端末を取り出せば内カメラに設定し、不時着した航空機と自分の姿を画角に収める。
「アイムハッピー」
傘を持つ手でピースサインを作れば、僅かに口角に弧を描き、シャッターを押す―――
男はニヤッと妖しげに笑みを浮かべると、その写真を見て満足気だった。
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雨が降っている―――
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『公安局 局長が……された事件で―――』
首都高を走り抜ける車内にて、ノイズ混じりのキャスターの声が響く。
『厚生省は現行犯逮捕された……元監視官のサイコパスを非公表と―――』
その音声を遮るかのように、後部座席に座る青年は耳に有線イヤホンを付け、雨の音に耳を傾ける。両手で握っているのは"雨の音"を再生するための古びたオーディオプレイヤー。
彼にとって、雨の音はかかせないものだった。
青年は真っ直ぐと前を見据え、口を開く。
「今日から仕事なんだ
…やっと始まるよ、父さん」
「―――必ず見つけるよ。真実を―――」
その瞳は虚ろで、現実世界を見ていない。何か、その人物にしか"視えない"。別世界に呑み込まれていた―――
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┈┈┈┈"灼"
「灼、灼」
聞きなれた男の声が自分の名前を何度も呼ぶ。運転席でハンドルを握るその男は、後部座席で気持ちよさそうに眠る"灼"という青年に、何度も何度も声をかけていた。
「おい、灼―――」
「……んん、……ん……」
さすがにその声に気づいた灼は、ゆっくりと瞼を持ち上げると、傾いていた体を起こし、ぼーっと運転席の男を見据える。
「じきに到着だ。
……しゃっきりしろ、灼」
そんな青年の様子に呆れつつも、男は言葉を続ける。
「今日から潜在犯を部下にするんだぞ?」
「……ふぁ〜あ……」
そんな男の声を他所に、灼は大きな欠伸と共に、ぐーーっと体を伸ばす。そしてスッキリした様子で運転席の男に目を向ければ、かすかに笑みを浮かべる。
「人間だよ、普通の」
灼はデバイスに触れると、これから対面するであろう"潜在犯"達のID情報に目を通していく。
「高い犯罪係数を持つ連中だ、何かあったらすぐに呼べ」
運転席の男は声色を変えることなく、淡々とした様子だった。そんな相手に、灼は表情を変えることなく、穏やかな様子だった。
「心配ないよ、"炯"
潜在犯だって、実際に罪を犯したわけじゃないんだし……」
「そんなこと、上官の前で口にするなよ?」
「はーい、はい。」
灼は炯の堅い言葉に何も気を止める様子はなく、適当に返事をするのみ。再び背もたれに体を預ければ、腕を組んで落ち着いた様子だった。
それをミラーで確認する炯は、ふと相手を心配した様子だった。
「また症状が出たのか?」
「ベッドで寝ようとしたけどダメだった。」
ふわぁー、とあくびをする灼は、心配する炯の様子に気づくと体を起こし、運転席へと前のめりになる形で顔を出す。
「メンタルケアにもっと金をかけろ、灼」
「……それで済むなら、今日こうしていない…だろ?炯」
運転する炯の顔をのぞき込むように、視線を送る灼。真っ直ぐと前を見据えたまま、炯は真剣に言葉を放った―――
「ああ、これが最初の一歩だ」
闇夜に降り注ぐ銀の針。
まだまだ、雨は止みそうにない―――
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輸送ドローンが着陸予定だった空港にて。その輸送機は目の前の海面にプカプカと浮いていた。
既に現場に到着していた女性は、仮設したテントの下で現場の様子を伺っていた。
そしてその横に佇む白髪の眼鏡をかけた女性。
その女性はこの事故について掴んだ情報を口にする。
「開国政策で人の輸送が急務となり、貨物機を人間用に急ごしらえたせいだと、ドローン管理局は言い立てているよ。」
その言葉を聞いた女性……
頬にそばかすをのせた特徴的な人物は、呆れた様子でその言葉に反応する。
「……鎖国主義者らしい言い訳ついでに通報ですか」
外国人が大勢列をなし、空港の管理局員の指示に従い待機をしている様子を目にする。
「乗客が暴動を起こす恐れがあるからね。まだ入国者にそういったイメージを抱いているらしい。……時に、君は開国主義者かね?"霜月課長"」
"霜月課長"
眼鏡をかけた女性は冷静に佇む相手に視線を向ける。
「鎖国であれ開国であれ重要なのは、シビュラシステムにとって理想的か否かです。」
「至言だな―――」
「その点、我々刑事課の出動は疑問です。かえってメンタルハザードが起きかねませんから……」
「頃合いを見て、ドローン管理局に引き継がせればいい。"あちら"に貸しひとつだ。」
"あちら"と言う言葉に反応する霜月。
ふと友人の白髪の女性の後ろ姿が脳裏に浮かぶ。
「外務省の連中は来ていませんね?」
やけに反応した霜月に、隣の女性―――
公安局新局長 細呂木晴海は霜月に視線を向けた。
細呂木も以前の局長、禾生壌宗と同じ髪色に姿形、風格もそっくりそのままだった。勿論"中身"は変わっていない。
「彼らに要請はない。
……気になるか?」
細呂木の言葉に怪訝な表情を浮かべる霜月。
するとその瞬間、近くで車の走行音が聞こえ、停車する。
その車から降り立つ2人の姿――
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「本日より着任。慎導灼監視官です。」
「同じく、炯・ミハイル・イグナトフ監視官」
栗色の跳ねた髪型が特長な小柄な青年、慎導灼。
そして日本人離れした、高身長なロシア系帰民、炯・ミハイル・イグナトフ。
敬礼する2人を目の前に、細呂木はじっと見据える。
「期待しているよ。慎導監視官、イグナトフ監視官。」
2人の名を呼ぶ局長。
そしてふと、慎導に目を止めるも彼とは目が合わない。局長はかすかに笑みを浮かべれば、隣でその様子を伺っていた霜月へと視線を移す。
「…では、あとは頼むよ霜月課長―――」
「はい、細呂木局長」
細呂木の体がその場で消え、イグナトフは驚いた様子で小さく声を上げた。
「私はホロじゃないわよ?」
その様子にクスッと顔に笑みを浮かべると、再び2人の新人監視官に向き直る。霜月課長――
「では早速、事故の初期調査を。乗客である入国者のメンタルケア、その他事態の収拾を各執行官に指示しなさい―――」
不時着した航空機の事故原因調査。そして移民たちのメンタルケア。最初の職務にしてはそこまで難しいものでは無い。
しかし、次に発せられた言葉にイグナトフはいち早く反応する。
「―――それと、ドミネーターの携行を忘れずに。」
「ドミネーター…武装せよと?」
ただの調査、移民のケアにドミネーターは必要無いはず。かえって混乱を招きかねないと考えるイグナトフ。しかし、霜月の真剣な表情は変わらない。
「他局の要請に基づき、入国者が暴動を起こした場合の速やかな鎮圧を命じます。」
「……了解しました。霜月課長」
察したイグナトフは素直に聞き入れる。そして一向に何も発言しない慎導は、ボーッと目の前を見つめるだけだった。
「慎導監視官はメンタリストとしての技能を。イグナトフ監視官は軍事経験を生かし、円滑な職務の遂行を期待します―――」
そして霜月は傍らの机から、丁寧に畳まれた監視官ジャケットを手に取ると、イグナトフに手渡す。
「私は空港の管理者と話をするので、現場は任せるわね」
「はい、霜月課長」
そして霜月は2人の前から立ち去って行く。
どうやら、彼女は課長という立場の傍ら、現場へ赴くことは稀らしい。イグナトフは、そんな彼女の背後をじっと見据えると、ボーッと立ち尽くしていた慎導を肘で突く。
「あっ」
「灼。目を開けたまま寝るな。」
「ふぁ〜あぁ……」
イグナトフは再び呆れた表情を向けるも、慎導は呑気にあくびをするのみ。手に持っていた監視官ジャケットを手渡すと、深くため息を吐くのであった―――
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―――同時刻 執行官護送車内
4人それぞれが向かい合わせで腰をかけていた。現場へと向かう車内にて、4人は語らう。話題はもちろん新人監視官の事だった。
「新人の監視官、今日からですね?」
自身の足元に視線を向け、俯きがちに語るのは一係で最も永く席を置いていた、執行官の"雛河翔"。相変わらず線は細く、華奢な印象だった。
「1人は移民ってマジか?
公安も地に落ちたもんだぜ」
「流行りの入国者枠ってやつでしょ?
公安局のポスト買うのに、いくら払ったんだか……」
続いて強面の2人組が皮肉そうに語る。
見た目は征陸のような歳をとった人物、話によれば家系は政治家一家らしい。"廿六木天馬"
そして顎髭を生やし、あくどい印象を与える若年層の男性。元は廃棄区画、スラム出身の"入江一途"
「仕事さえ出来るなら、誰でもいい―――」
表情を特に出さず、淡々と言葉を発すのは唯一の女性監視官。黒髪のショートカットで、クールで知的な印象を与える。体格もよく、昔はプロアスリートだったとか。名前は"如月真緒"。
そうして、新体制の刑事課一係の面々たちが揃っていく。
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「……なかなかやまないわね、この雨……」
霜月は空港内の敷地にて闇に染った空を見上げ、手のひらを上に向けると小さく息を吐く。
ふと、自分が刑事課一係に着任した"あの日"を思い出すのであった。
そう、確かあの日も……
雨が降っていた――――――
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