whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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赤煙に消える白い彼女

 

 

 

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ヘブンズリープ教団―――

―――施設メイン入口前

 

 

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ずらりと色相がクリアな信者たちが合掌し、入口に立ち塞がる異様な光景。おそらく、人数は数百人単位だろう。誰一人としてそこから動く様子は見られない。

 

そしてその手前、けたたましいサイレン音を鳴らす車両、複数の公安局のドローンが既に包囲網を張っていた。

 

 

「霜月課長。色相がクリアな信者たちで壁を作っています。」

「露骨な時間稼ぎね……」

 

先行していた二係。宮舘監視官は険しい顔つきで信者たちの壁を睨みつける。このままでは突入はできない。

 

―――となれば、強行手段しかない。

 

 

 

「悪質な妨害と判断し、催涙弾の使用を許可します。」

「了解―――」

 

宮舘は通信機器で執行官たちに指示を出す。

 

そしてその瞬間、ドローンから発射される催涙弾。鮮やかな黄色の煙が信者たちを包み込むと、複数の信者たちが次々に倒れていく。

 

 

 

 

 

「さーて。やってやろうじゃないの。」

 

腰に手を当て教団施設を見上げる。

そしてふとデバイスに視線を落とし、拳に力を込める。

 

 

「………あんたが"恐れてるもの"……一体何なの、舞白……」

「課長?」

 

ボソッと呟かれた言葉に隣の宮舘は不思議そうに相手を見据える。すると霜月はドミネーターを手に取り、そんな宮舘を見上げていた。

 

 

「いえ、何でもないわ。

……突入しましょう、宮舘監視官。」

 

 

顔には、固唾を吞んでいるような真剣な色が表れる。

彼女もまた、親友の先の行動を案じていた―――

 

 

 

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二瓶博士や側近、他複数の信者たちと連絡が取れない。

尚且つ、公安局の強制捜査の手がすぐそこまで伸びている緊急事態。

 

 

「クソっ……」

 

教祖代行執務室にて、酷く混乱をしているトーリ。

そしてその傍では拘束されている舞子の姿があった。

 

 

「((公安局のあの2人が何かしらの行動を取ったとは思えない……。だとすれば、やはり外務省のスパイが公安局と組んだのか?))」

 

イグナトフと如月。

あの2人が強制捜査のきっかけを作ったとは考えられない。ほとんど軟禁し、むしろこの施設内から外部への通信は困難を極める。

 

するとトーリは奥の手を使おうとデバイスを手に取り、梓澤に連絡をはかる。相手は即通話に応えると気だるそうに言葉を漏らす―――

 

 

 

『……なんだい?サード。こっちもこっちで忙しいんだけど』

「ファースト、手伝ってくれ。強制捜査が始まった。それと、何故か母さんと連絡がつかないんだ。」

『そりゃあね……裁園寺さんも"自分の身を守らなきゃいけない"』

 

 

このゲームは"裁園寺"が仕掛けたもの。

トントンと想定以上に悪い方向へと事は進んでいることは事実。トーリの無鉄砲な判断により、彼以上に焦っているのは裁園寺だろう。

 

 

 

 

『―――君の不始末のカバーを俺が任された。その為に君のカードも持ってる。』

「聞いてないぞ?」

『あと、俺は助言したはずだ。"公安はマヌケじゃない"と……。それに君は詰めが甘いよ。結局内部にいる"外務省のスパイ"も捕えられなかった……』

 

「ツ……ファースト!分かってたなら何故――」

 

『うまく切り抜けろ。

―――君が宗教家として自分とシビュラを信じ抜けたなら、君のサイコパスはクリアなままだ。』

 

 

 

そして一方的に切られる通信。

トーリは苛立ちを浮かべる反面、荒れる心を鎮めるように深呼吸し呼吸を整える。

 

 

 

「あいつ……」

 

あいつ……ファースト……梓澤は分かっていた。

こうなることを、彼は最初から予測していたに違いない。

 

「……ククッ……でも、

こんなところで終わる私じゃないんだよ―――」

 

奥の手、そして"最後の切り札"も彼は用意していた。

 

トーリはデバイスで再び何者かに連絡をはかる。

静かな執務室に響くデバイスの呼出音。

 

―――舞子は静かに、言葉を発することなくじっと体を強ばらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サード・インスペクター、トーリ・アッシェンバッハです。」

 

微かに口元に笑みが浮かばれる。

 

『……ようやく、決心がついたかね?』

 

「ええ……僕はコングレスマンになる。でもそれは、"母さんが決めた席"じゃない。」

 

 

その口元の緩みは徐々に怪しげな線を描く。

ニヤッと不気味に笑うその様は、もはや宗教家の顔ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――"告発"します。代銀さん。」

 

 

 

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ヘブンズリープ教団内部―――

―――地下物流倉庫

 

 

 

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複数のコンテナが並べられた殺風景な保管庫。

中身は"例の物"が複数積まれていた。

 

そして、その一角に置かれた膨大なデータが入っているであろう巨大な装置。その前にしゃがみ込み、デバイスを通して情報を抜き取る舞白。その隣で、じっとその様子を見据える宜野座の姿。

 

 

 

「どうだ?」

「……うん、大丈夫。目的の顧客データは無事確保。……パッと見だけど、私たちが把握してない名前が大量にある。」

 

スクッと立ち上がり、盗取したデータをすぐに花城に送信する。―――これでここでの任務は全て終わった。もうこの教団に用はない。

 

 

「よし。公安局の強制捜査も始まった。そろそろ潮時だ。」

「……うん。そうだね。」

 

 

 

一端の目的を終えたら"行動課"から抜けなければならない。

 

ここまで自分なりに上手く動けたはずだ。公安局に手渡したデータ、そしてイグナトフ達へのフォロー。

ファーストと名乗る男、そして慎導が口にした"アズサワ"の名前。何故かそれを自分にだけ隠す花城……

 

おそらく、宜野座もその名前を知ってるのでは無いのだろうか?

 

 

 

「舞白。どうした?」

「―――アズサワコウイチ」

「……」

 

ギュッと両拳を握りしめ、宜野座を見上げる。

 

 

「……お前……何故―――」

 

 

 

 

刹那、舞白の瞳の色が変わる。

何かを察した、獣のような鋭い瞳―――

 

 

 

 

「うっ!!!!」

 

 

発砲音と共に、舞白は宜野座の体を強く押せば、コンテナの裏へと身を隠す。先程まで立っていた場所には弾の跡、それにより破壊されたデータ装置。あと少しでも気づく事が遅れていれば、今頃2人はその銃撃でミンチ状態だっただろう。

 

 

「……ん……」

 

コンテナの隙間からそっと顔を覗かせる宜野座。

数十メートル先のコンテナの上に立つ白髪の老婆。手にはライフル銃。その姿に2人はハッキリと見覚えがある。

 

 

 

「……また、あいつか」

「ピースブレイカーの残党、まさかこんな所に……」

 

"あの男の仕業だ"と瞬時に察すれば舞白は強く睨みをきかせる。自分たちを消しに来た、そして恐らく、目的は自分だろう。

あの男に仕向けられたに違いない―――

 

 

「舞白。」

「……わかってる。」

 

 

2人は視線を合わせ、同時に頷く。

そして何も言わずとも別方向に踵を返し、作戦を実行する。

 

 

 

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「……さて……どう来る……」

 

老婆―――ヴィクスンは周辺を警戒し始める。もう何度もやり合った仲だ。だいたいの出方は予想がつく。

 

 

 

「((いつものこの2人のパターンなら……あの女が陽動、そして男は直接来るか―――))」

 

 

足音、物音一つしない倉庫内。気味が悪いほど静まり返った空間。気配も、影も、何も感じない。

 

「…………」

 

人差し指にかけられたトリガーに全集中する。

あの2人……特に"あの兄の妹"には今の今まで危険な状況を何度も作られた。一体一で、尚且つ互いに丸腰という状況になった場合……

 

間違いなく、自分が敗北する―――

 

 

 

 

 

「!?」

 

視線の先のコンテナから足音、そして人影が確認できる。

容赦なく発砲されるヴィクスンのライフル銃。

 

「ッ…………違う……あの男」

 

コンテナの間を駆け巡り、陽動となっているのは……女の方じゃない。華麗な身のこなしで銃攻撃を交わす宜野座。風圧に靡く彼の黒いスーツジャケットには複数の穴が空いていた。

それほどに、ヴィクスンの攻撃は確実に的を得ている。だが、彼の動きはそれ以上に速かった。

 

 

となれば、裏をかくのは―――

 

 

 

「ッ……ん!!」

 

 

 

背後に突如現れる、同じ白髪を持つ女の姿。

強い足蹴りを持っていたライフル銃に食らわされると、大きな音を立てながら銃は弾き飛ぶ。

 

 

「くっ……」

「……はぁぁあっ!!」

 

容赦なく繰り返される凄まじい体術。

一打一打がとにかく重い。攻撃を受ける度にその部位がじんじんと麻痺するようだった。

 

 

「…誰に仕向けられたの?…目的は?…答えな……さい!」

 

蹴りをつけようと一気に畳み掛ける。

右手の義手の拳を相手の腹部に命中させようと構えた瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

「……目的は"貴様だ、セカンド"」

 

ヴィクスンの口から放たれた言葉。

そして突如、真っ赤な煙に体が包み込まれると舞白は身を引くことしか出来ない。

 

 

 

 

「…………ケホッケホッ……

……しまった……何も見えない……」

 

左腕で口元を覆い隠し、冷静に周辺に目を向けるも全く何も見えない。ただ広がる真っ赤な空間。……これだけ広い空間にこの規模の煙が充満しているとなれば、すぐに宜野座と合流することは厳しそうだ。

 

いや……むしろこれは好都合なのか?

 

 

 

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『ヴィクスン。そこまでで結構だ、逃げて。』

 

ヴィクスンが装着していたイヤホンマイクから聞こえる指示者、梓澤の声。それは直ぐに撤退しろとの言葉だった。

 

「しかし、せめて男の方だけでも片付け――」

『"昔の一係"にリベンジしたいんでしょ?チャンスはすぐ作るよ。この場は俺に任せて。』

「……了解。」

 

赤い煙幕が立ち込める中、ヴィクスンは姿を消す―――

 

 

 

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赤い煙幕の中、微かに聞こえる宜野座の声―――

それと同時に、ポケットに隠し持っていたもうひとつのデバイスが鳴り始める。

 

舞白は体を強ばらせ、思わず息を飲む。

咄嗟に感じた"嫌な予感"

 

 

それは的中することになる。

 

 

 

 

 

 

 

『やってくれたね。セカンド。』

「……なんの事?」

『とぼけるんじゃないよ。……公安局に情報を流したのは君だ。それに、この"ゲーム"に関わる重要事項も含めて、だ。』

「流していない。……証拠はあるの?」

 

 

"バレるはずがない"

 

あのデータは全て複雑に暗号化し、外部からのクラッキングを受けないようにありとあらゆる手を尽くした。

慎導が漏洩する可能性もない、そしてデータを手渡された霜月も同じく、自分からの提供だと気づいたとしても、彼女なら事の重大さを理解するはず―――

 

『君、今の今までどんな事でも完璧に、"ミスなくそつ無く"やりこなして来ただろう?』

「……何が言いたいの?」

 

梓澤の妙に自信ありげな声色。

思わずゴクリと息を飲む。

 

 

 

『"文殊も知恵のこぼれ"って言うだろう?』

「………ッ…」

『残念だけど、うちにも優秀な分析力を持つ人間がいてね?君がこぼした重要なものをぜーーんぶ拾い上げたんだ。』

 

 

刹那、舞白の手首のデバイスに膨大な数のデータが届く通知音が響き渡る。送られてきたものは全て、自分が慎導に手渡した暗号化データ。どんな技術を使ったのかは不明だが、全て第三者である彼らに流れてしまったらしい。

 

 

『過剰な自信は破滅を招く。……それは即ち、君にとっては人の命を失うことを意味する。』

 

 

「……あなたは何故、私を"セカンドインスペクター"にしたの。ただ面白がってるだけなの?あなたになんの利点が―――」

 

 

 

 

『それはまた今度教えてあげるよ。

……それより、裏切り行為には罰が与えられる。前に言ったよねー?』

 

 

 

 

梓澤の言葉に、取り返しのつかない絶望に陥った蒼ざめた顔を映す舞白。そして、赤い煙幕の奥から更に自分を呼ぶ声が近づいてくると、反射的に後退する。

 

 

 

 

『悩んでる暇はないよ?君の義理のお父さんを救いたいなら"1人"で来るんだ。……もう誰も巻き込みたくないだろう?』

「……う……ッ……く」

 

『さあ、命の灯火が消える前に君は辿り着けるかな?』

 

 

途切れる通話。

そして煙幕の奥に見える影。

 

……相手は自分よりも遥かに上手だ。

もし、ここであの男の言う通り"外務省との関係を絶たなければ"

 

次は間違いなく、霜月が狙われる事になる。

 

相手の意図も力も何も分からない以上、勝手な行動はもう出来ないとようやく理解出来た。

 

はやく、……はやく征陸の元へ―――

 

 

 

 

 

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「おい!舞白!!

……ッ……ケホッケホッ……居たら返事を―――」

 

濃い赤い煙幕はなかなか薄くならず、この空間に留まり続ける。必死に舞白が居たであろう方向に向かうも出会うことが出来ない。

 

 

 

「クソっ…………まさか、あいつ―――」

 

 

嫌な予感がする―――

 

 

 

 

宜野座は血相を変えて片側の出口の扉の元へと駆け抜ける。既にロック解除されたその扉を開け、室外に飛び出す。

 

すると微かに人が居たであろう気配を感じた。

 

 

「…………消えた、……何故……」

 

即座にデバイスで周辺の足跡の解析をすれば、やはりビンゴだった。地下通路の先、脱出ルートの先に続くのは舞白の足跡。

 

あの白髪の老婆を追うためにこの先へ向かったとは考えられなかった。

 

 

 

 

間違いなく、彼女は誰にも言えない何かに恐れ、やむを得ない状況によってその場から、自分の元から消えたのだ。

 

 

苦りきった表情でただただその先を見据えることしか出来なかった。

 

 

 

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