whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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闇へ誘われる者

 

 

 

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―――公安局 強制捜査開始直後

東京都サテライトホール 立体駐車場―――

 

 

 

 

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「―――久利須=矜治・オブライエン

……あなたを逮捕します。」

 

 

警察車両から降り立つ3人。

身分証を翳す慎導。そしてドミネーターを構える入江と雛河。

 

目の前に、この一連の事件を引き起こした久利須の姿があった。しかしその姿はかなり窶れ、呼吸も荒く、患っている病がますます悪化している事がハッキリと分かる。

 

そしてその右手に握られていたのは"起爆装置のスイッチ"

 

男の体内には今までの自爆犯と同じく爆発物が埋め込まれているのは確実だろう。

 

 

 

 

「何故…これ程早く到着できたのだ。」

「教団本部に潜入していた人物から得た情報をまとめたんです。そしてこの場所に行き着いた。」

「……これも……神の思し召しという訳か。…ふ……都知事でなく、刑事と心中でも構わない。」

 

窶れた薄笑いを浮かべ、ふらふらと3人にゆっくりと近寄る久利須。それに対し、雛河のドミネーターが相手を捉える。

 

 

『―――対象の脅威判定が更新されました。

爆発物 デストロイ・デコンポーザー―――』

 

ドミネーターは相手を破壊すると認識した様子。それは姿を変え、雛河はしっかりと握りしめていた。

起爆する前に仕留めなければ、こちらが殺されるのは明白だ。

 

「動くな、久利須……」

 

トリガーに指をかけた瞬間、そんな雛河の目の前に慎導が立ち塞がる。ドミネーター本体が真っ赤に染まり、警告音を鳴らせば入江と雛河は目を見開く。

 

 

『犯罪係数45 刑事課登録監視官

――警告 執行官による反逆行為は記録の上 本部に報告されます――』

 

「…撃たないでください。」

「危険です!退いてください!」

「おい!監視官!!」

 

 

『犯罪係数27 執行対象ではありません―――』

 

徐々に下がっていく犯罪係数に2人は驚きを隠せない。

 

「はっ……」

「ったく……無茶苦茶だ―――」

 

慎導は1歩ずつ相手に恐れる様子はなく近づいていく。距離を詰めれば詰めるほど、執行官たちの緊張感は増していく。

 

 

「あなたは犯罪を犯した。でもそれは利用されたからだ!」

「……病気にさせられたおかげで覚悟ができた。その点ではトーリに感謝している。」

「ここで死ぬ必要なんかない。」

「いや、こうすべきだ。事件の犯人としてな。…悩んだ末、犯罪者になった。入国管理局の人間として……ッ……ゲホッ……ぅ……」

「久利須!」

 

 

激しく咳き込む久利須。

口からは鮮血が吐き出され、更に顔色は青白く、呼吸も足元も覚束無い。しかし起爆スイッチだけは力強く握られていた。

 

 

 

「これで……ッ……時を進めることが出来る。さもなくばこの国の問題は……永遠に解決しない!―――いや……問題があることすら……ッゲホッ……気づかないだろう!」

 

「こんなことで時間を進めても誰も幸せになれない!」

 

 

久利須は全てを背負うつもりだ―――

そしてこの国が抱える大きな闇を葬る為にと、自身の全てを削ってでも行動してきた。

 

逼迫し、苦しそうに眉を顰める慎導。

起爆する恐れがあるにもかかわらず、ふらふらと倒れ込む久利須を抱き留める。

 

そんな2人を警戒し続ける執行官の2人はさらに更新される慎導の犯罪係数に唖然とした表情を浮かべていた。

 

『対象の脅威判定が更新されました。

―――犯罪係数 7 ―――』

 

「((犯罪係数が……低下していく―――))」

 

有り得ない、異常すぎる犯罪係数の変化。

この状況下でアンダー10の値を記録するなど聞いたことがない。

 

 

「久利須、死んだらだめだ!」

 

虚ろな瞳を浮かべる久利須に必死に声をかけ続ける。その姿はまるで"自分の息子"だった。

慎導の姿が息子の顔と重なり、微かに口元に弧を描く。

 

「息子がもし、…目覚めた時……世界が綺麗に見えるように……ッ……グォオ……ガハッ……」

 

「子供のためじゃない……あなたは自分の思いを果たすために、悪を受けいれたんだ!……ッ……」

 

 

体から力が抜けていく。瞳に宿っていた弱い灯火さえ消えていく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――神は……全てを許す―――」

 

 

だらりと腕が落ち、握られていた起爆スイッチが音を立てて地面に転がり落ちていく。光を失った瞳は空に浮かぶ満月を見上げているようだった。

 

やせ細ったその体、そして久利須の最期の言葉、壮絶な時を過ごしていたことが手に取るように伝わってくる。

 

 

 

 

『犯罪係数 0

―――トリガーをロックします―――』

 

 

「あなたは……誰も許さなかったじゃないか…ッ…」

 

 

久利須を利用したトーリ、そしてその裏にいるであろう強大な"何か"。

 

 

 

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ここまで発生した一連のテロ事件。それを更に重要事件にするため、久利須は都知事である小宮カリナを再び襲撃すると企んでいたものの慎導達がこれを阻止。そして末期がんだった久利須。

 

 

彼は結局、目的を達成することができないまま、息子への想い、そしてこの国への報復心を残し絶命。

 

表向きは"真犯人"と仕立て揚げられた人物の呆気ない死。

 

慎導は、何か引っかかるものがあった―――

 

 

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久利須の遺体がドローンによって運ばれて行く。爆発物は起爆せず事なきを得たがそれ以上に彼の死は大きなものだった。

 

それを目で追う慎導と入江は険しい表情を浮かべ、ある違和感を感じていた。

 

 

 

 

「――妙だと思わねえか?」

「俺も同じことを考えてますよ、入江さん。」

 

 

ここまで大掛かりな爆破テロを仕掛けていたのに、あまりにも呆気ない終わり方。自分たちが予め情報を掴んでいたということもあるが、にしても終わり方が雑なのだ。

 

「俺だったら、来るであろう警察車両を予め襲う計画を立てる。ここは立体駐車場の上層階。周りは見通しも悪くねえし、逃げることも容易い。」

「その通りです。銃火器を扱うことだって可能だったはずなんです。そもそも、久利須を爆発させるために、彼一人でこの場所に立ち会わせるなんて……」

 

駐車場の際に立ち、周りの建物を見渡す2人。

小宮カリナがPRの為に講演会を開いている会場のすぐ横の立体駐車場。本来であれば、小宮の車両はこの駐車場に停る予定だったが、それを変更させたのは慎導。

 

自分たちだったら、狙撃手のひとりやふたりを周りのビルに待機させるだろうと考えていたのだった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……ッ……か、…監視官!」

 

バタバタと慌てた様子で駆け寄る雛河。

彼は慎導の指示の元、近隣の防犯カメラを探っていたのだ。

 

「雛河さん、何かありましたか?」

「……ッ……これ……、これを見てください!」

 

 

デバイスに映し出された防犯カメラ映像。そこに映っていたのは白髪の老爺の姿だった。明らかにこの立体駐車場を狙ってスコープ付きの銃を構えている様子が伺えるが、しばらくするとなぜかその場から立ち去っていたのだった。

 

 

「ここから30m先の高層ビルのカメラです。ハッキリと顔は見えないですが、恐らくは男性、そして移民関係者かと思います。」

 

その老爺は誰かと通話をしている様子。その通話を終えた後に、慌てた様子でその場から離れている。

 

「狙撃手ねえ。お相手さんも同じことを考えてたみたいっすね。」

「……もし、この人物が狙撃を目的にこの場所にいたとすれば、俺たちは殺されていた、でしょうね?」

 

その後の足取りは掴めない。そもそもスキャナにも引っかからないのか、それとも外部からカメラ映像をクラッキングされているとしか考えられない。

 

 

 

 

「小宮カリナの殺害を諦めた?」

「もしくは"俺たちがここに現れることに気づいて、別の標的に的を絞った―――"」

 

 

 

 

 

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"―――万が一のことがあった場合……私を助けて欲しいんです"

 

"ある施設の情報を送ります。ここで"何か"が起こった場合、すぐに駆けつけて―――"

 

 

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何故かは分からない。

不意に宜野座舞白が言い放ったあの台詞たちが蘇る。

 

 

「―――彼女は鍵となる証拠の漏洩を"恐れていた"。そしてこの事件の立役者だったオブライエンの"呆気ない死"。最終目的の小宮カリナ殺害は"未達成"。急遽この場から引き返した"不審人物"―――」

 

眉間に皺を寄せ、顎に手を添えながら考え込む様子を見せる慎導。

 

本来であれば、久利須を狙いに来た自分たちを待ち伏せして何らかの横槍が入るはずだった。しかし、それは行われなかった。

 

この事件、そして舞白は何かの繋がりがある―――

 

 

「あぁ?何ボソボソ言ってんだよ監視官…」

「矯正センター」

「何?」

「文京区、特別医療サイコパス矯正センター――」

「いきなり何言って……」

 

まるで何かに閃いたと言わんばかりに目を見開き、傍らで佇んでいた雛河へと勢いよく振り向くと慌ただしく声を上げる。

 

「雛河さん調べてください!文京区の矯正センターに関係するものを!通報でもなんでも構いません!」

「はっ、はい!」

 

デバイスとノート型デバイスを手際よく操作すると、慎導の言う通り該当項目を洗いざらい調べていく。全く無関係な場所の名前に入江は首を傾げていた。

 

 

「……20分前に消防局に通報が入ってます。……でも、ただの火災で他に情報は…」

「その場所に、この事件に関わる何かがあるはずなんです!」

「ちょっと待てよ監視官!ありえねえだろ!?なんでそんな無関係な場所にそんなモンが……」

 

 

車両に乗り込む慎導を追いかけるように、2人の執行官も慌ただしく乗り込んでいく。有無を言わさず、すぐに車のエンジンをかけ、けたたましい程に大きな音量のサイレン音を鳴らし始める。

 

 

「入江さん、雛河さん。念の為、装備を固めてください。使用許可は出しておきます。」

 

電子グレネードにスタンバトン、そして防弾ベスト―――

助手席側にセットされていた重装備の箱のロックを解除すると、入江はそれを手に取り眉を顰める。

 

「おいおい、俺たちに何をさせる気なんだよ?」

「危険な目には合わせません。"念の為"ですよ。」

「もしかして監視官……さっきの防犯カメラ映像の男の行く先に?」

「はぁ!?だったらもっとそれなりの部隊を―――」

 

「時間が無いんです。……それに、この事件の行先を、そして新たな"被害者"が出るかもしれない。」

 

猛スピードで駆け抜けていく車両。

滅多にハンドルを握らない慎導の珍しすぎる行動に、ただならぬ事態を察するのであった。

 

 

 

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―――ヘブンズリープ教団内部

 

 

 

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広大な大聖堂らしき部屋。

もちろん信者や教祖代行、教祖の姿はそこには無かった。

 

コツコツと靴の音が鳴り響く室内。

霜月は怪訝な表情で周辺を見渡すと、別行動の宮舘へと通信をはかる。

 

 

「宮舘監視官。最優先でイグナトフ監視官達を探して。仁世はその次で結構よ。」

『了解。』

 

 

まずはイグナトフ、そして如月、舞子の身の安全の確保。おそらく仁世の身柄は既に外務省が掴んでいるだろう。

 

「……もし、まだ教団内にいるなら」

 

一か八か、舞白へと連絡をはかる。

今までの情報提供、そして今後の捜査について―――

 

今後は外務省と連携をはかる必要性が高いと霜月は考えていた。そうでもしなければ"真犯人"へとたどり着くことは難しいだろう。

 

 

「もう……何よ……通信障害であの子のデバイスにも繋がらないなんて―――」

 

何度も表示されるエラー画面。

相手のデバイスに電源が入っていないか、もしくは故障か、はたまた拒否か―――

 

 

「!?」

 

 

 

刹那、通話を知らせる通知音とともに画面に映し出される慎導の顔写真。相手が舞白でなかったことに落胆の表情を浮かべるも、すぐに応答する事に。

 

 

 

「はい、こちら霜―――」

『霜月課長!報告が!』

 

デバイスから慎導の大声が鼓膜を叩けば思わずデバイスから顔を遠ざける。かなり切羽詰まった状況なのか、彼は自分の言葉を被せるように話し始める。

 

「ちょっと落ち着いて喋りなさいよ!ところで久利須の確保―――」

『久利須の件に関しては後ほど雛河執行官から詳しい情報を送ります。それより、緊急事態です。』

「はあ?緊急事態?」

 

忙しなく言葉を投げられると思えば、今度は緊急事態という言葉。あまりにも駆け足すぎる台詞達に霜月は不機嫌そうに眉を顰める。

 

 

 

 

『――宜野座舞白さん。彼女と連絡はとれますか!?俺のデバイスだと何故か繋がらなくて…』

 

ここに来て予想外な人物の名前。確かに自分も何度も連絡をとろうと行動は起こしたものの一切繋がらない。それは教団外部にいる慎導も同じだったらしい。

 

教団側の電波障害で舞白に繋がらなかった訳では無い。

やはり、彼女に何かあったのか―――

 

 

「私も何度か連絡しようと試みたわ。だけど同じく繋がらないの。それで?こんな時に宜野座舞白の名前が出る理由は?」

『……やっぱり』

「何?やっぱりって……何か知って―――」

 

 

 

 

『舞白さんが危ない。それと、元一係の"征陸智己"さん。2人の身に何かが起こってます。』

 

 

また彼の口から飛び出た名前、このタイミングで出るはずのない人物の名前……

霜月は全く意味が分からず、ただその場に立ち尽くしていた。

 

「意味が分からない!舞白に征陸さんに……」

『文京区にある矯正センター。そこに収監されている征陸さん。実は、舞白さんから患者情報やセンターの概要データが送られていたんです。』

 

データを転送する慎導。

そのデータに即座に目を通せば、あることに気づいた霜月は目を見開く。

 

 

「…………」

『何年も警備レベルなんて上げられていなかったのに、なぜか征陸さんの病室の警備レベルが上げられていたんです。しかも……それを行ったのは息子の宜野座伸元さんじゃなくて、舞白さん――』

「この場所で何が起こるか……あの子は予測してたってこと?」

『その可能性が高いです。そして、俺たちを襲撃する予定だった人物が、その施設に向かった痕跡を唐之杜分析官が見つけてくれたんです。』

 

カメラに映っていた白髪の老爺。その人物は間違いなく文京区方面へとバイクを走らせている姿を唐之杜が洗い出していたのだった。

 

「今までの爆破テロ、そして先に繋がる"何か"。……それに関係している宜野座舞白……」

『そうとしか考えられません。――とにかく、俺は入江執行官と雛河執行官を連れて現場に向かってます。既に火災で消防局が動いているみたいで、上手く連携して動きます。』

「わかったわ。そっちは任せる。」

『…どうか、炯達をお願いします。課長』

「誰に向かって言ってるのよ、全く―――」

 

どうか、消防局からクレームが来ないことを祈るしかない。無鉄砲な行動をする彼に、それを願うのは意味をなさないとは思うが……

 

 

霜月はグッと手に力を込めると舞白と征陸の顔が浮かんでいた。かけがえのない親友の舞白。そして自分が新人時代に様々な事でフォローしてくれた征陸。

 

2人とも、決して失う訳にはいかない―――

 

 

「……そっちこそ。舞白と征陸さんを頼んだわよ。」

『了解です。課長。』

 

 

切電される通話。

霜月はだらりと腕を下ろせば深く息を吐き、鋭い目付きを真っ直ぐと向ける。

 

 

 

 

「……私も私で、成すべきを成すわ。―――あなたもそうなんでしょ、舞白?」

 

真っ直ぐと大聖堂内の通路を進んでいく。

自分がやるべきこと、今は部下の身柄の保護。

 

 

そしてこの事件―――

予想以上に大きな力が働いているとしか考えられない。

 

自分たちが知らない闇深く、暗い真実。

いとも容易く人の命を奪う力。

 

霜月の瞳が炯々と光を宿す。

 

 

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