whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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fate

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

 

 

―――ヘブンズリープ教団施設から南西5km

外務省行動課 待機地点―――

 

 

 

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保護された仁世の移送を完了し、宜野座と舞白の通信を待っていた特別捜査官の2人。そして課長の姿。

しかし、ようやく宜野座からの連絡が来たかと思えば、その内容に3人は耳を疑う。

 

 

 

 

 

「舞白が行方不明?それは確かなのね?宜野座。」

『ああ。ピースブレイカーの残党と応戦後、突然姿を消した。デバイスも破壊された状態で地下通路に廃棄されていた。』

 

消えた先の地下通路に棄てられていたデバイス。恐らくは位置情報を消すためのものなのか。

―――それとも、"何者かに指示をされたのか"

 

 

「地下通路出口の待機班から連絡があった。"待機していた大型バイクが一台不足している"とな。しかもご丁寧にGPSのマイクロチップも抜き取られてるのか、居場所も掴めん。」

 

 

 

狡噛の元につい先程入った情報だ。

外務省管理の大型バイクが一台不明に。しかもそれは位置情報すら掴めないようにGPSのチップが抜き取られていたのだった。

 

恐らく、舞白はそれを使ってどこかへ消えたのだろう。

痕跡を残さず、誰にも追尾されないようにと。

 

 

「直ぐに街頭スキャナで痕跡を辿るべきかと。舞白さんの事です、きっと何かに巻き込まれたとしか…」

 

須郷は心配そうな面持ちで交互に花城と狡噛に視線を向ける。

しかし、その2人は顔色ひとつ変えず淡々としている様子だった。

 

 

 

 

 

 

「いいえ、それは必要ないわ。」

 

花城の放ったその台詞。

兄の狡噛さえも特に気にする様子はなく、花城の判断に文句は無い様子だった。

 

 

 

「こちらの任務が優先よ。すぐに抜き取った顧客情報の解析、公安局とも連帯して情報交換をする必要があるわ。」

 

『…舞白を見捨てるのか?』

 

不意に出た宜野座の本音。それはあまりにも悲観的な一言だった。あまりにも淡々としている花城と狡噛の様子に宜野座は無意識に拳に力が込められる。

 

 

「そういう訳じゃないわ。……宜野座、あなたが1番分かっているはずよ。あの子が理由なく姿を消すはずがない。それに、私たちを見限るわけも無ければ、裏切り行為を安易に起こすような人間でもないわ。」

 

『それは理解している。……だが……それは―――』

「ギノ、心配するな。…俺たちは、舞白の行動を信じるしかない。」

『……くっ…………』

 

 

"信じるしかない"

その言葉に1番やるせなさを浮かべていたのは宜野座だった。

 

しかし、その言葉を言い放った舞白の実の兄である狡噛に対し、何も言い返すことは出来ない。自分よりも舞白を理解している肉親なのだから――

 

 

「あいつは突発的に動く癖はあるが、少なくとも考え無しに無闇矢鱈に動くような奴じゃない。窮地に立たされていたとしても、必ず何か対処法を考えているはずだ。」

『……………』

 

「逆に俺たちが近づけば、それが障害になる可能性も有り得る。破壊されたデバイスにバイクのGPS。居場所の特定や追走を拒んでいる証拠だ。本当に助けが必要なら、手紙でも暗号でも、なんでも送ってくるだろう。あいつはその手段を知り尽くしてる、"賢い"からな。」

 

 

意図して行動した証拠。下手にこちら側も動けば舞白の障害となる可能性は十分に考えられる。本当に、助けが必要なその時が来れば、あらゆる手段を使って自分たちに連絡を寄越すはずだと、冷静に狡噛は考えていた。

 

 

 

「もし舞白の身に危険が迫って、本当に助けが必要な時。その時は直ぐに行動を起こす。……そうだろ?花城、須郷。」

 

 

「勿論よ。」

「当たり前です。」

 

 

決して舞白を見捨てた訳では無い。狡噛達から放たれる言葉に対し"その通りだ"なんて心の中では考えるものの、奥底では取り残されたような、虚しい気分に襲われていた。

そしてそれを言葉にせずとも、狡噛は宜野座の心情を察していた。

 

 

「――いいな?ギノ。…何かあれば必ずあいつは連絡を寄越す。あいつは馬鹿じゃない。自ら通信機器を壊すほどの状況だ、普通じゃない。それにいざとなればあらゆる方法で俺達と連絡を取り合うことは舞白にとって苦じゃない。―――そういうことだ。」

 

『……ああ』

 

「"信じろ"なんて気休めにしかならん言葉だが……今はそうとしか言えない。」

『―――ああ。……分かってるさ。』

 

理解しているつもりだ。だが、やはり突然すぎる出来事に動揺は隠せない。"私を信じて欲しい"と彼女はそう言っていた。

 

舞白は強いし、ちょっとやそっとで殺られるような奴では無い。でも、もしまた怪我を負っていたら?帰ってこなかったら?"また"、彼女を苦しめる何かに襲われていたら?

考えたくないが、自然とそんな感情が湧き出てくるのだ。

 

 

 

「宜野座。とにかく早くそこから脱出しなさい。公安局の強制捜査が始まって時間も経ってる。面倒なことになる前に戻ってくるのよ。」

 

『…了解だ。』

 

 

 

 

 

途切れる通信。合流地点で待機していた3人はデバイスから視線を外し、互いに見合わせる。

 

 

 

「兄のあなたが案外落ち着いててビックリしたわ。」

 

"妹離れできたのね?"と鼻で笑う花城。

狡噛は待機している車両に背を預け、懐からタバコの箱を取り出すと、慣れた手つきでタバコを吸い始める。

 

 

「ギノは何度も舞白に"裏切られてるようなもの"だからな。気持ちが分からんでもないさ。」

「…裏切り、ですか?」

「ああ。そうだ―――」

 

 

 

海外へ失踪した時、シーアンでの突然の再会、そして別れ。それから数年後の新疆ウイグル自治区での最悪な再会。日本に戻り、公安局で共に行動をしていた時でさえ、互いに葛藤しあっていた事は何となく察していた。

 

そして"今回"

再び舞白は宜野座の前から姿を消したのだ。

 

何度も何度も失い続ける宜野座のその心境は、安易に考えられるようなものではないと。落ち込んで当然の事だった、

 

 

 

「舞白さんはやはり"梓澤廣一"と関わりが?」

「"ある"な。この一連の爆破テロに少なくともその人物が関わってるだろう。……そして、黒幕の存在―――」

 

ふう、と吐かれる白い煙が天へと昇っていく。

狡噛はじっとそれを見上げ目で追えば、徐々に瞳に憤りを見せていた。

 

 

「狐、ピースブレイカー、……そして梓澤廣一。狐と接触したと言っていた舞白―――」

 

花城は眉間に皺を寄せ、過去に舞白が言い放った台詞を脳内再生する。

 

 

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"どこで誰が何を聞いているか分からない。……無闇に動けば、関係の無い命が危険にさらされる可能性があります―――"

 

 

"―――ただ、あの男は全てを知っていました。私の身辺は勿論、課長の事も―――"

 

 

 

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「((大事になる前に"公安局"と手を組むしかないわね。……恐らく、あちらの方が何かを掴んでいる可能性が高い。))」

 

 

そもそも梓澤廣一の存在を先に掴んだのは公安局だ。恐らく、彼らは自分たち以上に情報を掴んでいる可能性が高い。教団内部に潜入していた監視官と執行官にも話を聞くべきだと花城は考える。

……そして、舞白が公安局と何かしらの関わりがある可能性も否めない。

 

 

「狡噛、須郷。今は掴んだ情報を精査する事が最優先。場合によっては公安局と共同捜査も視野に入れてるわ。」

「…賢明な判断だ。」

「了解です。」

 

冷静沈着さを失わない花城と狡噛を見据える須郷。

実の妹が姿を眩ませたという事実にでさえ、兄の狡噛は動揺すら見せない。

それは信頼しているからなのか、それとも本当は―――

 

 

「…しかし自分は心配です。舞白さんが1人で危険な目に…」

 

「舞白は"俺以上に"頭の回転が早い。心配する必要はないさ。」

 

フッと口角を緩めれば僅かに視線を地面へと向け、タバコを咥える狡噛。

 

 

「あいつは強い―――」

 

 

 

血のつながりのある2人。いや、それよりも強い信頼感がそこにはあると感じる。

 

 

 

 

 

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―――ヘブンズリープ教団内部

教祖代行執務室 地下隠し通路―――

 

 

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薄暗い地下通路に2人分の足音。

そして酷く息を切らす男女の呼吸音が響き渡っていた。

 

 

トーリに腕を捕まれ、必死に足を動かすことしか出来ない舞子。視力も戻っていない分、恐怖心に強く駆られている様子だった。

 

 

 

「……ッ……教団も終わりだ……はぁっ……どうせ……僕はコングレスマンになるんだ!」

「…………っ…………」

 

 

切羽詰まった様子のトーリ。

強制捜査も止めることができず、このままいけば確実に公安局に捕まってしまうだろう。その前に"コングレスマン"として席に座ってしまえば――と、焦りの表情とは別にどこか勝ちへと駒を進めている気分だった。

 

 

 

駆け抜けるふたつの影。

しばらくすると地下水道が流れる広い空間へとたどり着く。息を切らした2人は暫く立ちどまり呼吸を整えるも、先回りしていた人物の声に大きく肩を揺らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ!!」

 

 

ハッキリと聞き覚えのある声。

舞子にとってその声は最愛の―――

 

 

「炯!!」

 

 

舞白と宜野座の流した情報からこの場所へと先回りしていたイグナトフ。しかし、その彼も体力の限界が近づいているような様子を見せる。

 

潜入捜査、そして尋問。

あまりにも過酷だったこの環境に、これ以上派手な動きは厳しいだろう。

 

 

 

「ッ……お前!執拗いな!!もう放っておいてくれよ!影みたいにいつまでもついて来やがって!!」

「もう諦めろ!」

「…はぁ!?――僕に…諦めろ!?お前と僕とは何もかも違うんだよ!……シビュラという神が僕を選んだんだからな!」

 

 

トーリの手元には小銃が握られていた。

一瞬で舞子を自身へと引き寄せ、イグナトフへ見せつけるように舞子の頭部へと銃口を突き付ける。

 

強く握られた小銃、指が添えられた重いトリガー。

最愛の妻の命は目の前の男の人差し指にかけられていた。

 

 

「やっ…、止めろ!!撃つなら俺を撃て!!」

「…ハッ……ハハハハハハッ!!

―――いいねぇ……清く正しい夫婦愛ってやつか?それ?」

 

絶望する様子のイグナトフを目の前に優越感を滲ませるトーリ。見下し、嘲笑うその姿はまるで悪魔そのもの。

教祖代行なんて言う肩書きは、もうその男には存在していない。

 

 

「"本性"を出したらどうだ!?……言えないなら僕が言ってやる!」

 

 

ゆらゆらと舞子の頭上で揺れ動く銃口。

そしてトーリは"本性を晒せ"と大声で喚くと、侮蔑をこめた笑いを爆発させ、口を開く。

 

 

「ハハハハッ……お前らはな?互いに自分の弱さを隠したいだけなんだよ!"愛"なんてものは己の嘘を正当化するための言葉でしかないんだ!!」

「っ…貴様ァ!!!」

「お前達のような弱者は………死ねえええ!!」

 

追い詰められた男。そして切羽詰まった絶望感が爆発的な殺意に変わっていく。まるで鼓膜が破れるのではないかと言わんばかりの大声で叫ぶと、トリガーに添えられていた指に力が込められる。

 

 

 

「止めろ!!止めろおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

間に合わない。

必死に両脚を動かすもあの男を止めることはできない。

最愛の妻の頭部に突きつけられたその銃口は、容赦なく彼女の脳天を貫くだろう。

 

 

渦中の男は身体中の血潮が脳天に逆上し、興奮のあまり目を見開く。

 

興奮、優越感、勝機、傲り

その感情全てに"隙"が生じる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぅ……ぐっ!?」

 

 

握っていた小銃が勢いよく手元から弾かれる。

一瞬のことで何が起こったのか分からず、間抜けな声をあげる事しか出来ない。

 

 

鋭い目付き、隙のない銃の構え―――

隙をついて奪った小銃を手に取り、その銃口はトーリへと向けられる。

 

 

奪い取り、銃を握っていたのは舞子だったのだ。

 

「………」

「はっ……やめ……!」

 

 

先程の表情から打って変わって怯えの顔を見せるトーリ。"やめろ"と制止する声が届かないまま、銃口から3発の弾丸が飛び出す。

 

 

「がぁ…っ……あ… がはっ……」

 

 

胸に2発、頭部に1発。

外すことなくトーリの体を貫く弾丸。

 

 

勿論、舞子の視力はまだ戻っていない。

だがしかし、彼女も元は戦地を駆け回った"軍人"だ。

 

目は見えなくとも、気配や感覚で容易に人を殺めることは可能だった。

 

 

 

 

「…はぁ……はぁっ…」

 

力なく倒れる男を目の前に、舞子の手元はガクガクと震え始める。

 

"人を殺めた"という事実。

正当防衛だったとしても人間の色相、サイコパスは正直だ―――

 

 

 

 

 

「……あな……た……」

「ッ……舞子!!」

 

 

ガクッとその場に倒れ込む舞子に駆け寄るイグナトフ。そして床に転がった小銃、そして男の亡骸。

 

イグナトフの心情は酷く乱心し、瞳はグラグラと揺れるように動揺を見せる。

 

 

そして怒りの矛先は

相棒の"慎導"へと向けられる―――

 

 

 

 

 

 

 

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怪しげな地下施設。

そしていつもの3人が席へと佇んでいた。

 

 

このゲームの様々な情報が公開され、最愛の息子の死を知った母親の裁園寺は目を大きく見開き、悔しげに口元を噛み締める。

しかし、どことなくその表情には歓喜のような色が見え隠れしていた―――

 

 

 

 

 

 

「―――またしてもインスペクターを失ったが、リレーションの成果としては上々のようだね?」

 

『リゾルツ確認 配当を実行―――』

 

ゲームの実績を元にビフロストによる配当が実行されていく。

 

 

 

「…ふふ…代銀さんも危ないところだったけど…これで法斑さんは終わりね?」

 

目の前に表示されていく実績を見るに、圧倒的に法斑が不利な状況へと陥っていることが分かる。公安局に肩入ればかりを行う法斑にとって、このゲームは不利なことばかりだった。

 

しかし、そんな余裕気な様子を見せる裁園寺を横目に、代銀はニヤッと怪しげに口角を持ち上げていた。

 

 

 

「その前に―――

リレーション中に死亡した、サード・インスペクターのトーリ君から"情報提供"がある。」

「…何?情報提供?―――」

 

 

その瞬間、室内は警報を知らせるような赤い光に包まれると3人の目の前に"告発"という2文字とともに"まだ生存していた時"のトーリの映像が流れ始める。

 

"…まさか"と小さく震える裁園寺はその画面へと釘付けに。

 

 

「――知っての通り、彼は莢子さんの息子だ。2人はゲームに"あるまじき"行動をした。」

「……代銀……あの子をたぶらかしたわね!?」

 

代銀の言う"あるまじき行動"とは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『母さん―――今頃驚いてるだろうね?』

 

「…トーリ!…愚かな……ッ」

 

映像の息子はいつもの息子ではない。

憎しみに包まれた嫌悪を写すその表情。

 

"母さん、母さん"と従順に従っていた息子のそれではもうなかった。

 

 

 

 

 

『代銀さんから真実を知らされた。まさか自分の父親が"母さんの兄"だったなんて。僕の色相が濁ったのはあなたのせいだったんだね。……真に浄化されるべきは僕じゃなく―――あなただ。』

 

「おのれ…代銀!!やはり貴様がッ」

 

『"裁園寺の席には今日から僕が座る"……さようなら、母さん。』

 

 

ニヤッと浮かべるその表情。

それは完全なる裏切り―――

 

 

 

 

 

 

「ゲーム中の過剰な干渉と援助。いくら親子とはいえ看過できんよ?」

 

「ッ…クソ!貴様……殺してやる!!―――ん!?ぐっ……」

 

座っていた玉座のような椅子が真っ赤な光を帯び始める。そして何故か体を動かすことが出来ず、裁園寺は体を何度も捩らせるもやはり椅子から立ち上がることはできない。

 

 

「墓穴を掘ったのは君だ。家族の元へ逝くがいい―――」

 

『審査終了。只今のデータと先程提出されたファースト・インスペクターのデータを照合。8項目が事実と断定。―――コングレスマンの資格を剥奪の上、執行します―――』

 

 

代銀の余裕気な表情。そしてここまで無表情無言を貫く法斑。もがき苦しむ裁園寺。

そしてビスロストに伝えられた新たな裏切り者―――

 

 

 

「(("ファースト"?……おのれ梓澤……貴様もグルだったか―――))」

 

 

自分に厚意的な行動を起こしていたあの男でさえにも裏切られる始末。

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

響き渡るのは聞くに絶えない女の絶叫。

ビフロストにより"執行"される彼女の体は、瞬く間に肉が熔け骸骨へと姿を変え、跡形もなくその場から消え去る―――

 

 

 

 

 

 

「さて……残るは君と私だけだね。―――よろしく頼むよ、法斑君。」

「―――こちらこそ。」

「ところで君は、私に裁園寺を始末させるよう誘導したろう?いい手だったよ。」

「さあ。何のことでしょう。」

「………フン…君は食えない相手だね…」

 

たった今、目の前で人が死んだというのに2人は顔色ひとつ変えることはなかった。どうやら、この2人は分かっていたのだろう。このゲームの結末を。

 

 

 

 

「代銀さん。ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか。」

 

口数の少ない法斑が突如口を開く。珍しい状況に代銀は再び怪しげな笑みを浮かべ、肘をつきじっと相手を見すえる。

 

「ああ、なんだい?」

 

鋭く、温度を感じない瞳。しかしどこか温厚そうな空気を感じる彼の瞳が代銀へと向けられる。

 

 

「――ファーストに関して。…あれの行動は容認し難い。」

「あれは優秀だぞ?時期コングレスマンと言っても過言では無い。

「………」

 

「はははっ…まさか…セカンドの彼女の事で不都合でもあるのかな?」

 

"セカンド"という言葉に微かに眉を顰める法斑。どうやら、セカンド・インスペクターの宜野座舞白の件に関して思うことがある様子だ。

 

 

「我々のゲームのために…"利益"のために優秀な駒はいくらあっても問題ない。それに、外務省の彼女をセカンドに入れ込むことを許可したのはこの私だ。」

「…………」

「なんだね法斑君。珍しく噛みついてくるじゃあないか。」

「……フッ…」

 

かすかな冷笑に似た奇妙な笑みが唇の端に浮かぶ。それはまるで代銀を小馬鹿にするように嘲笑う。

 

 

「それが吉と出るか、はたまた凶と出るか…。その駒を使いこなせるのはどちらか。…見物ですね、代銀さん―――」

 

「…………」

 

 

挑戦的な瞳。

それは法斑が代銀に向けて初めて放った瞳の色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…ッ…はぁ…はぁッ…」

 

 

 

バイクから勢いよく、飛び降りるように地面に足をつける。

フルフェイスのヘルメットを外し、風に煽られる白銀の髪の毛。

 

 

 

目の前には燃え盛る真っ赤な炎

灼熱の熱さが体全体を襲う勢いの炎

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

慌ただしく駆け回る救急隊員達。

そして火消しを行う大量のドローン、消防隊員―――

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

「すみません!…"公安局刑事課"の者です!施設内の患者の状況は!?」

 

目の前を駆け抜ける男性隊員の肩を掴み現状を確認しようと立場を偽り、相手が持っていたデバイスに視線を向ける。

隊員は"やっと来てくれたか"と言わんばかりの反応を見せると、快くダブレット端末を渡し、口を開く。

 

 

 

「患者、職員含め"全員避難"完了しております!―――この後は原因調査に公安局の―――」

 

男性隊員の言葉が止まる。

タブレット端末から視線を外さない危機迫った様子の舞白の様子を不思議そうに見据えていた。

 

 

 

「((…全員避難済み………

…おかしい……だったらこの火災の意味―――))」

 

名簿の顔写真と名前をスクロールしていき"待避完了"の文字を確かに確認する。そしてその中の"征陸智己"という項目にも同じ文字が並んでいた。

 

 

「避難した患者は今どこに!?」

「ええっ!!…っと……"先程"送ったデータの―――」

 

"先程送った"と確かにこの男はそう話した。

しかし妙なのだ、どこにも公安局の人間の姿は無い。

公安局管理のドローンすら一台も姿を現していない。

 

 

 

「いいから直接言いなさいよ!どこに今いるの!?」

「はっ、はいいい!!!」

 

凄まじい剣幕に戦く男性隊員は身震いし、建物から数百m離れた仮設コンテナを指さす。

 

 

「あっ…予め緊急用に用意しておいた仮設コンテナに移送済です!!―――怪我をしている人もいるので早々に公安局側で対応して頂きたいのですが。」

「火災発生から今どれくらい?最初の通報は!?本当に公安局に通報したの!?」

「えっ、ええ!?どういう事ですか!?話が全く―――」

 

"全て情報を送ったじゃないですか!"と反論する隊員の言葉に唖然とし目を見開く。

 

矯正施設に問題が生じた場合、管理している厚生省に連絡がいくのは普通だ。しかしその問題のレベルに応じて公安局が動くか否かは話が変わってくる。

 

だが、目の前のこの規模の火災のレベルであれば、どう考えても刑事課の人間なり誰かがすぐに現れるはずなのだ。

 

 

「…おかしい―――」

 

 

通報したのに"何故か公安局に要請がかけられていない"

 

もしくはただの火災"と情報は入ったものの、公安局が動く必要のないものだと判断されたのか。

 

 

 

いや―――恐らく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

"第三者によって要請が跳ね返された"

 

 

 

 

 

「―――ッ!」

「ちょっ!ちょっと!!刑事さん!!!!」

 

 

 

仮設コンテナへと駆け抜ける舞白。

 

 

 

 

コンテナ付近、そして内部には怪我の手当てを受ける者、暴れる者、様々な者たちで溢れかえっていた。

 

 

「((……デバイスがないから簡単に特定人物を探すことが出来ない!……位置情報の喪失の狙いだけじゃなかったのね…))」

 

デバイスを破壊して捨てろと指示された通りにしたものの、やはり何も出来ず完全に相手のペースに転がされていることに気づく。

 

何とか目視で征陸の姿を探すもキリがない―――

 

 

「…こうなったら―――征陸……」

 

大声で名前を叫ぼうとした瞬間、そばに居た若めの2人組の会話が耳に飛び込む。

 

 

 

「なー?さっき俺見ちまったんだけどよー」

「ぁあ?なんだ?」

「あんなヤバい火の中に、白髪のじーちゃんが突っ込んで行ったんだぜ?」

「んなわけねーだろ?お前、薬物の効果がまだ抜けてねえんじゃねえの?」

「いやマジだっての!!…しかも、なんか背中にでっけえ物背負っててよ―――」

 

 

 

 

「((…白髪の………))」

 

こんな火の中に飛び込む理由

白髪の人物、背負っているものはライフル銃か何か―――

 

それに、目的が無いのなら飛び込む必要などない―――

 

 

 

「まさか……そんな……」

 

 

 

何かを察した舞白は再び踵を返すと、先程の男性隊員が居たメインの入口前へと向かう―――

すると先程の隊員は舞白を見つけるや否や、勢いよく肩に掴みかかる。

 

 

「ちょっと!デバイスを返してください!…あなた、刑事さんじゃないですよね?怪し―――」

 

デバイスを奪い返し、うだうだと説教するように小うるさくしゃべり続ける男を横目に、入口前の豪華な噴水に飛び込む舞白。

 

スーツは水分を含み、ベッタリと体に張り付く。真冬に飛び込むなんて傍から見れば頭がイカれたとしか思えない。

 

 

 

「はぁあああ!?ちょっと君!!何をするつもりですか!?」

「人命救助です。」

「いや、だからこの中にはもう誰も」

「いえ、まだ取り残されている人がいます。」

「そんな訳―――」

 

 

 

隊員の言葉はもう舞白には届かない。即座にその場から勢いよく走り出し、炎が更に勢いを増す建造物へと飛び込む。

 

 

 

 

 

「((……お義父さん―――))」

 

 

 

 

絶対死なせない。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

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