whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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8章
合同捜査開始


 

 

 

 

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――某日 14時過ぎ

公安局ビル 39F 会議室――

 

 

 

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長テーブルを挟むように座る面々達。

片側にはイグナトフ、慎導。

その対面側には外務省行動課の花城、狡噛、宜野座、須郷。

そしてそれを取り纏めるように上座に座るのは霜月。

 

本来であれば遠隔で会議を行うつもりだったのが、宜野座が父親の様子を確認するついでにと直接この場を設けたのであった。

 

行動課と刑事課。こうして落ち着いた状況で直接対面するのは初めての事だった。幾度となく、得に宜野座に救われたイグナトフにとってどこか気まずいような空気も漂う。

 

 

 

 

 

「さて。……時間も時間だし始めましょう。。」

 

霜月は神妙な面持ちで両側に座る面々達に視線を向ける。そしてデバイスを操作するとあっという間に会議室の照明が落とされ、中央に置かれたテーブルにピラミッド型の模型図のようなものが映し出される。

 

 

「――ビフロストはシビュラシステムの盲点をつく存在と推測されます。犯罪係数の計測が可能かも不明。但し、3層構造なのは確かね。」

 

ピラミッド型の3層模型図。

上から"Congressman"

真ん中には"Inspecter"

そして最下層に"Fox"と表示される。

 

 

「自分が聞いたのは"コングレスマン"、そして"インスペクター"という言葉です。ファースト、サードとも互いを呼びあっていた……」

 

続いてイグナトフが口を開く。

教団内部に潜入捜査を行っていた時に聞いた言葉。

トーリと梓澤の会話内容ははっきりと覚えていた。

 

「コングレスマンがトップでインスペクターがその部下。狐は末端組織で自分が何をやっているか分からない一般市民。」

「何をやっているか分からないから"犯罪係数も上がらない"」

「知らずに銃の部品を作った人間と、その銃を使う人間じゃサイコパスも違う。」

 

慎導、狡噛、宜野座。

それぞれが考えを口にすれば、霜月も重ねるように言葉を放つ。

 

「ちなみに"宜野座舞白"に関して。あの子は"セカンドインスペクター"という立場に置かれている可能性が高い。征陸元執行官がはっきりとその会話を覚えている、と。」

 

今までの捜査記録、そして征陸の重要証言をまとめたデータを全員に送信すると各々がその情報に目を向け、眉を顰めていた。

 

「ファースト、セカンド、サード。……ファーストが梓澤廣一、セカンドが舞白、サードはトーリ・アッシェンバッハ"だった"。」

「この数字の意味は?」

「意味は分からない。だけど考えられる順列の理由は権限の強さ。有能な人間がトップに立つ意味なのかもしれない。」

「……だとすれば、うちの舞白が"2番目"に入ってるのは何となくわかる気がする。1番目の梓澤廣一に上手く使われている可能性は十分に考えられるわね。」

 

課長同士の会話に、それぞれが様々な考えを巡らせていた。花城の最後の言葉が真実であれば何となく辻褄が合う。

 

 

「――気になったのですが……この男。居場所が特定できない理由は?公安局がその気になれば、街中のスキャナーや他媒体を使って特定できるのでは?」

 

須郷の言う通りだ。

このシビュラ社会において、完全に姿をくらませることは困難を極める。とくに梓澤に関しては面も割れていれば、はっきりとID情報に経歴も残されている。

 

 

「梓澤廣一という男だが、経歴も生活もデタラメで全く足取りが追えない。」

「恐らく他人のIDで生活してる。……唐之杜分析官にありとあらゆる手を使って調べてもらいましたが何も痕跡がありません。」

「例の凄腕ハッカーの存在。そのせいで舞白の痕跡も残っていなかった……厄介な奴らね、本当に……」

 

公安局側でもあらゆる手を使って調べ尽くした。しかし、何一つまともな情報を掴むことが出来ない。イグナトフ、慎導、霜月の台詞に、その男の異常さを感じさせられる。

 

 

 

「そんな事が可能なの?」

「…現実問題、そう考えるしかないんです。」

 

 

"そんな事が出来るはずがない"と言わんばかりの表情を浮かべる花城。しかし慎導の言う通り、そう考えるしかないのだ。

 

 

「……フッ、話が見えてきたな。」

 

狡噛は薄笑いを浮かべ、背もたれに体を預け両腕を組み直す。ほか全員の視線が一気に狡噛へと向けられていた。

 

 

「そいつらが隠れている盲点に何らかの問題が生じた。安全に暮らす連中がリスクを取るのはその安全が揺らぐ時だけだからな。――ということは"都知事"。また狙われるぞ。」

 

「……なぜそう言えるの?」

「無差別な連中じゃない。都知事の死が必要だから事件の標的にしたんだ。」

「それで、今も挽回を狙ってる、と?」

「あぁ、そうだ。…だが、何故かそこに舞白も絡んでる。とっつぁんをだしにされ、通信手段も何もかも断たれ、孤立無援状態だ。」

 

霜月の表情が険しいものへと変化していく。

狡噛とのやり取りの中で舞白が"孤立無援"状態だというワードが頭から離れない。

 

 

 

「征陸さんを狙った銃撃……。そのビフロストとは別の銃火器を持った犯罪者も確認されています。」

「俺も、施設内で隔離されている時に何者かが怪しい指示を出しているところを聞いています。」

 

慎導が体験した施設内での銃撃。そしてイグナトフが尋問されている間にかすかに聞こえていた第三者が存在すると思われる指示。

2人は目の前の外務省の面々にそう話すと、花城達は互いに見合う。

 

 

「ピースブレイカーの残党ね。」

「ああ、そうだろうな。……今は"パスファインダー"と名乗っている事が最近分かった。」

 

花城達が追い続けているあの2人組。

どう考えてもそいつらの仕業だろう。

 

 

 

「あの……ピースブレイカーって何ですか?」

 

「慎導監視官、イグナトフ監視官。機密レベル3の閲覧を許可します。あとで見ておきなさい。」

 

聞きなれない名前に困惑する2人。

そんな2人に対し、花城は簡単にと口を開く。

 

「簡単に言えば、闇経済や海外での略奪に関わる極秘の特殊部隊。今の行動課が生まれた理由のひとつよ。」

「殆どが壊滅したが、ヤツらだけはしぶとい。俺達もどれだけ追い続けていたか―――」

 

宜野座の言う通り。海外へと何度も赴き、危険な目に何度も合わされてきた。数ヶ月前は毒物のガスにやられ、舞白も危険な状態に陥れられた張本人たちだ。

 

 

「―――一先ず、この件において……」

「おい、ちょっと待て。」

 

霜月の言葉を遮る狡噛。

その視線はデバイスに映し出されている梓澤廣一の経歴情報だった。

 

「"花橋コーポレーション"」

 

忘れることは無い。

8年前、妹の親友、そしてその家族諸共殺害された"あの事件"

 

花橋咲良

花橋コーポレーションの取締役社長の娘。

 

 

 

「梓澤の経歴の中に"花橋コーポレーション"……しかも役職付きだ。」

「確か……舞白さんのご友人の……」

 

宜野座ももちろん忘れることは無かった。

当時、その悲惨な現場に最初にたどり着いたのは紛れもなく宜野座だった。そして須郷は過去のアーカイブや舞白との会話の中からその事件の存在は把握していたのだ。

 

「とっつぁんの証言と繋がるな。舞白の過去を知っているかのような言動……ビンゴだ。」

 

「洗いざらいアーカイブを漁るしか無さそうね。これに関しては公安局の力が必要不可欠……」

 

 

さらに沼に落ちていく。次々と不可思議な情報を目の当たりにする度に頭が混乱してしまいそうだ。

 

 

そんな中、ふと花城が気に止めていた事を霜月に向けて言い放つ。

 

 

「"狐"が刑事課にいる。そんな情報があるわ。」

「報告は受けています。」

「罠にハマっただけで裏切った訳では無い。……むしろ、梓沢廣一の捜索に役立つ。」

 

如月の"赤い花"

その話はイグナトフが霜月に報告していた。

そしてあくまでも、如月は被害者だということをイグナトフは強く訴えかけた。

 

そんな相手に、宜野座は腕を組むと微かに眉を顰める。

 

「……信じて大丈夫なのか?」

「公安局が全責任を負います。課長の私の責任でもあるわ。」

 

「いえ!彼女を信じた俺が責任を……」

「ッ!。あなたね……いい加減に……」

「炯、1人で背負うものじゃないだろ?」

「俺の仕事だ。俺がやる。」

「なんだよそれ!」

 

珍しく人前で揉め始める慎導とイグナトフ。

舞子の一件から2人は心做しか仲が悪い。

以前のような唯一無二の相棒同士という空気感は全く感じられなかった。

 

 

「おいおい。揉めるなよ?」

「支障が出るなら現場から外すだけよ。……本当にアンタたちは……」

 

かすかに感じる既視感。

宜野座は呆れ口調で2人に向けて言葉を放つと昔の自分と狡噛を見ているようだ、なんて脳裏にうかべていた。

 

 

 

「では、ピースブレイカーはうち。都知事護衛はそっち。で、梓澤廣一と舞白もうちね?」

「あぁっ!?寝言は寝て言え!」

「その態度なら早い者勝ちになるかも。刑事課長さん?」

 

「―――ッ……それで結構よ……。」

 

"ふふん"と余裕気な様子の花城を相手に霜月も慎導達に負けず劣らず声を張り上げる。また自分たちの領分に踏み込まれるなんて……と考えている余裕は霜月には無い。

異例の外務省との合同捜査。いけ好かない金髪と組むのはやはり癪に障るが、協力無しにこの事件は解決しないだろう。

 

 

 

「じゃ、とりあえずこの話はここまで。あとは私と霜月課長で段取りを話しましょう。……あなた達は征陸元執行官に面会ね。」

 

「あぁ、そうだな。―――行くぞ。」

 

狡噛、宜野座、須郷。3人は席から立ち上がり退室する。

 

 

「ほら!あなた達も戻りなさい。詳しい話はまた後日。……如月執行官の件について、私も同室の上で説明するわ。」

 

"18時に分析室に全員を集めなさい"と言葉を残し、慎導とイグナトフは頭を下げ、同じく会議室から姿を消す。

 

 

そして花城と霜月。

2人は沈黙の中、神妙な面持ちでじっと視線を交えるのであった。

 

 

 

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――― 公安局内 特別医療室

 

 

 

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「3人とも久しぶりね〜。元気にしてた?」

 

 

征陸の病室の外の通路で再会を果たす4人。

ガタイのいい外務省3人組を前に、唐之杜は嬉しそうに笑みを零す。

 

 

「ああ。お陰様でな。」

「久しぶりだな、唐之杜。」

「お久しぶりです、分析官。」

 

にこやかな雰囲気を纏う唐之杜。

しかし、その3人の中に舞白の姿が無いことをどこか寂しげに表情に現れていく。

 

 

「舞白ちゃん。早く見つかるといいわね。」

「ああ。」

「……本当になんて言ったらいいか。私にもっと能力があれば、相手のハッキングの壁を壊せたのに。……ごめんなさい。」

 

幾度となく阻まれる"相手のハッキング力"

今回の矯正施設での事件も、そして舞白の足跡を追うことが出来ない自分に情けなさをおぼえ、自負していたのだ。

 

分析官として最前線で戦い続けている唐之杜の能力はとてつもなく強力だ。それは狡噛達をはじめ、彼女を知る者全員が分かりきっている事だ。

 

「唐之杜、お前のせいじゃない。」

「…………」

「相手が悪すぎる。システムをも退けるイレギュラーな存在……。」

「……また、舞白ちゃんが。8年前のあの事件の時みたいに……」

 

 

唐之杜もまた、8年前の事件を思い返していた。

今、征陸がいるこの場所に8年前は舞白が居たのだ。

 

心身ともに深い傷を負った舞白を献身的に見守ってきた唐之杜。彼女が錯乱した時には、誰よりも冷静に対処し、誰よりも舞白に手を差し伸べた。

 

槙島を追い詰めるために、負担の大きいメモリースクープも快く受けた。その度に苦しげに表情を歪める"少女の顔"は何年経っても忘れることは出来なかった。

 

「8年前も、2年前も、舞白ちゃんは傷ついてばかり。今も1人で……。―――そんなことをつい考えちゃってね?私も歳をとったわ。」

 

"参ったわ"と額に手を添え、空っぽの笑顔を浮かべる。

そんな唐之杜の肩にそっと手を伸ばす狡噛。

 

 

 

「……こんなことを言うのもアレだが……、"舞白は俺の妹だ"。」

 

"俺の妹"

昔から煩いほどに聞いてきたその言葉に、ハッと視線を持ち上げる唐之杜。

 

「あいつはヤワじゃない。例え、敵の懐に飛び込んだとしても簡単にやられるような奴じゃない。…昔から舞白を知ってるなら分かるだろ?」

「………」

「アイツを見つけるには、"分析の女神様"の力は必要不可欠だ。…頼むぞ、志恩。」

 

狡噛の隣で静かに様子を見守る宜野座と須郷も微かに笑みを浮かべていた。

心強い彼らの存在にふつふつと様々な思いが巡れば、唐之杜に若干ではあるが笑顔が戻る。

 

 

 

 

 

 

「うん、そうね。…また慎也くん達と行動できるなんて嬉しいわ。……役に立てるように、私も準備するから。よろしくね?」

 

「頼んだぞ、志恩」

「頼りにしてるぞ、唐之杜。」

「自分も精一杯、刑事課の皆さんの為にも頑張ります。」

 

 

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