whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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答えは黒い沼の中

 

 

 

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――翌日

東京都庁 都知事執務室――

 

 

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慎導の同行・護衛の元、職務を行う都知事の小宮。

そして一息ついた彼女は傍らで静かにソファに座る彼に対し、ふと声をかけた。

 

 

 

 

 

「……こんな状況下の時に不謹慎だけど、またあなたに会えて楽しいかも。」

 

突然の小宮の言葉に驚いた様子の慎導。

しかし、いつもの陽気な笑顔を向ければ恥ずかしそうに後頭部に手を回す。

 

「へへっ。そう言って貰えると少し気が楽です。」

「それと……ごめんなさい。相棒さんの件、私のせいね」

「そう一概には言えないでしょう。」

 

小宮は昨日の一件を酷く悔やんでいる様子だった。彼の相棒――イグナトフに対しての言動は酷く彼らを傷つけ、その関係性にヒビを入れてしまったのではないかと心配している様子。

しかし自分の放った言葉とは裏腹に、どこかいつもと違う慎導の様子に気がつけば小宮は続けて言葉を放った。

 

「なにか怖がってる?以前のように余裕がなさそう。」

「ちょっと忙しくて。そういえば、第一秘書の女性は?」

「――アンは……解雇したの。」

 

"そういえば"と。

いつも小宮の傍に佇んでいた入国者の秘書の姿が見えない。

そして彼女からの予想外の言葉になんとも言えない表情を浮かべる。

 

 

「……党の方針。そんなモノのせいでアンをそばに置くことが出来なくなった。あなたの相棒と同じよ。」

 

彼女は肯定党の支援を受け都知事選に当選した。

あくまでも"隣人政策"という目標を掲げていたが、さすがに党の方針には逆らうことは出来ない。

それによって彼女は大切な相棒を傍に置けなくなったのだ。

 

「政治は暴力を和らげ、争いを最小化する唯一の手段。……だから私は政治家になった。私はわたしの隣にアンが居ても、あなたの相棒がいても誰にも文句を言わせない国にしてみせる。」

 

強い決意を秘めた瞳。彼女はクリアカラーを保つなど強靭なサイコパスを持っているだけではなく、政治家としての本質的な面と人間らしさを兼ね揃えていた。

だからこそ彼女はシビュラシステムにも、市民たちからも都知事として認められたのだろう。

 

そんな彼女の瞳には迷いなどは一切見受けられなかった。

 

 

 

「立派です。あなたの立場も信念も理解出来る。――その上でお願いが。」

「何?お願いなんて……」

 

急に改まる慎導。

そんな彼の様子に首を傾げ、じいっと見据える。

 

 

「相棒の奥さんを解放してください。」

「…勿論。努力するわ。その代わり私をしっかり守ってよね?」

 

 

同じ価値観を持ったもの同士。

そんなふたりは見えない強い糸のようなもので結ばれていた。

 

 

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――同日 同時刻

港区台場 海浜公園――

 

 

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雲ひとつ無い美しい青い空。

12月下旬にも関わらず今日はとても暖かい。

 

柔らかな潮風。暖かな陽の光。

ベンチに体を預け、梓澤は目を閉じ深呼吸をする。

 

 

――するとその瞬間、隣のベンチにスリーピーススーツを纏った気品ある老人が杖を片手に腰を下ろす。

ウール素材の中折ハットを外し、その老人は少し間を置くと漸く口を開いた。

 

 

「"ファースト"。待たせて悪かったね。」

「全然。むしろこの気候ですから、のんびりさせてもらいましたよ。"代銀さん"」

 

老人、ことコングレスマンの代銀。

梓澤はにこやかに微笑むと代銀には視線を向けることなく、目の前に広がる海を眺めていた。

 

 

「"セカンド"とは上手くやってるのかね?」

「問題ないです。手綱は締めてますよ。」

「あまり彼女を侮らない方がいいぞ。…下手をすれば、陥れられるのは君かもしれん。なんせ彼女は"暴れ馬"だ。」

「ご忠告感謝します。」

 

恐れ入らぬかという顔つき。梓澤の表情からは自信が満ち溢れている様子。代銀はそんな彼の表情を見るに、"相変わらず食えない男"だと涼しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

「ところで、君はずっとコングレスマン志望だね?」

「はい。…不幸な生い立ちのせいです。そこにはとても悲しいドラマが。」

「私が知る話と違うな。」

「さすが。子供の頃なんて覚えてません。根深いのは"厚生省"時代のトラウマです。」

 

「―――"慎導篤志"か」

 

梓澤の目的。それはコングレスマンになること。その執着は異常なもの。

そしてそれには"慎導灼"の父親が関わっていることを代銀は勘づいていたのだった。

 

 

「ええ。彼に貶められたことで俺は才能に目覚めた。彼は憎むべき相手であると同時に最高の"師"でした。」

「面白い。正直君程の男はコングレスマンの地位が相応しい。」

 

「待ってました!」

 

代銀の言葉に歓喜する梓澤。

確かに裁園寺が執行されたことによりコングレスマンの席は1つ空席状態。

 

ついにその席に自分が――

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、君の就任を拒む者もいる。…そして君と同等に、コングレスマンに推薦したい人物が居てね。」

 

 

"そんな一筋縄にはいかないか"と梓澤はため息を漏らし、呆れ退屈しきったような笑みを零す。

そして同等に推薦したいと言われた人物に思い当たる顔が浮かぶ。

 

 

 

「より、やり甲斐があります。慎導の息子もいますしね。」

 

「"慎導灼"そして"宜野座舞白"は免罪体質者。生まれつきシビュラにも裁けない。……ビフロストに相応しい存在だ。」

 

代銀が口にした2人の人物の名前。

慎導灼と宜野座舞白。そして"免罪体質"という聞きなれないワード。

 

「何なんです?"免罪体質者"って」

 

「――君もコングレスマンになれば分かる。」

 

 

代銀の口元が綻び、顔には曇りのない笑顔が現れる。その彼の姿にどこか不満げに口を尖らせる梓澤の姿があった。

 

 

 

「((……なるほどね。拒む者、それは恐らく。

もう1人のコングレスマンか――))」

 

 

 

 

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「このヘルメット。まさか、役に立つ日が来るなんて――」

 

目的地に到着しバイクから降り立つ舞白。周辺にスキャナが無いことを確認すると重いヘルメットを脱ぎ、首を大きく回す、!

 

 

フルフェイスのやたら強固そうな見た目のヘルメット。

これはかつて"槙島"が作り出した特殊なものだった。

 

"他人のサイマティックスキャンをするヘルメット"その機能を逆手にとる事によって、舞白の行動範囲は大きく広がることに。

――それは過去に、兄の狡噛も利用した方法でもあった。

 

 

街頭スキャナには自身のサイコパスは検知されず、一定範囲内の犯罪係数が低い人物のものがそのままトレースされるようなもの。

これがあれば足がつくことはないはずだ。

 

 

 

 

「お邪魔します。お義父さん。」

 

 

古い倉庫街。廃棄された港が近くにあるのか錆びれた船や、持ち主を失った車やバイクなどが無造作に棄てられたその区域はまるで幽霊が出そうな雰囲気を漂わせる。

 

その一角の倉庫。その場所は征陸が隠し持っているセーフティハウスだった。1階部分には廃車が停められており、その隣に自身のバイクを停めるとふと背後に広がる景観に舞白は目を奪われる。

 

 

海を挟んだその先。

煌びやかに輝く都内のビル群。

明と暗。光と闇。

自分の置かれている状況とのコントラストを写しているようだ。

 

 

「…………」

 

 

形容できないような妙な表情のまま、じっとそれを見据える。そして一息ついたところでシャッターを勢いよく降ろし、2階へと続く階段を登っていく。

 

 

 

「なんだかスパイにでもなった気分。……にしても、凄い隠れ家……」

 

 

ドサッと床に荷物を下ろすと室内を見回す。電気はギリギリ使える様子。舞白は壁のスイッチを押し、決して明るいとは言いきれないが困らない程度に部屋に明かりが灯されると口元に笑みを浮かべていた。

 

 

「この写真。お義父さんの病室にあったのと同じだ。……伸元さん可愛い。」

 

そっと棚に置かれた写真立てに手を伸ばす。

幼い宜野座と征陸が笑顔で映る写真。つい自分も笑顔が零れてしまうほどに素敵な写真だった。

 

他にも、丁寧に棚に収納されたお酒の瓶。そして何故か不気味なお面や和を感じさせる木製の人形など……

征陸らしい趣のある物にこの部屋は埋め尽くされていた。

 

 

そして、拳銃や弾。

微かに荒らされた形跡を見るに8年前に兄が触れた証拠だろうか。

 

槙島と自分を追いかける前にこの場所に立ち寄ったことは兄の狡噛から聞いたことがある。

 

 

「ヘッケラーにベレッタ……凄い。何処で手に入れたんだろう。ていうか普通に回収事案……」

 

数々の拳銃が並べられている棚に手をかける。そこには趣味のいい拳銃がずらりと揃っていた。もし今の時代に拳銃マニアがこの場所に来たならば、大興奮で夜も眠れないだろう。

 

何となくそれらに手を伸ばし、発砲はしないもののその場でいくつかの銃を手に取り構えてみせる。

今の今まで拳銃に触れる機会は数多くあったが改めてそれに触れると、やけに重さを感じてしまう。

 

ガラス窓に映る自分のその姿。それが目に入ると虚ろで間の抜けた、締まりのない表情を浮かべ、持っていた征陸の拳銃を傍らのテーブルにそっと置き、窓へと近づく。

 

そしてガラス窓に右手の義手を添えればそこに映る自分の瞳と視線が交わる。

 

兄によく似ていると言われる目元。トレードマークの知的さを感じさせる泣きボクロ。通った鼻筋、血を塗ったように光を放つ唇。

そして炯々とした白銀の長い髪の毛。

 

髪色は変わったものの、姿は昔と大きく変化はない。

――"姿"は。

 

 

 

 

「……私。変わったなあ。」

 

8年前のあの時の、純粋無垢な少女の姿はどこに行ってしまったのだろうか。両親は居なくとも兄の存在に恵まれ何一つ不自由のない"普通"の生活を送って、"普通"の人生を望んでいた"普通"の少女。

 

それが今や"免罪体質"なんて呼ばれ、シビュラシステムに一時狙われ、挙句の果てには海外へ失踪。

たくさんの人を救った分、殺めた事もあった。自分の失態で命を失いかけた事も、失わせてしまった事も。

 

 

きっかけは全て槙島の存在なのだが、まさかその影に梓澤も関わっているなんて予想外だったが。

 

 

最近、幸せ"だった"時の光景を忘れてしまいそうになる。

危険な日々の中でも大好きな人との生活は幸せで堪らない。全てを投げ出して、その日常だけに人生を捧げられたらどれだけ幸せだろうか。

 

 

……そうだ。伸元さん、

ノブ兄は……今どんな気持ちで――

 

 

 

 

 

 

後頭部に硬く、冷たい感触。

銃のセーフティが解除される独特な無機質な音が耳を掠める。

 

 

 

 

『舞白――』

 

「――っ!?」

 

 

 

その"声"に舞白は大きく肩を揺らし、胸元のガンホルスターからリボルバー銃を瞬時に取り出せば背後に銃口を向ける。

 

 

 

 

 

 

「……っ……はぁ……はぁ…………」

 

確かに脳天に銃口を突き付けられている感覚があった。

……しかし背後には誰もいない。

 

 

 

幻覚?だろうか。

 

 

 

「……駄目だ。ちゃんと休めてない証拠…」

 

 

嫌な幻覚だった。

まさか最愛の人に銃口を向けられるなんて……

それも脳天に。

 

 

「((伸元さんはどう思っているだろうか。……何度も何度も、彼を裏切り続けてる私を……さすがに恨んでいるだろうか。))」

 

 

銃を胸元に収納しその場にゆっくりと座り込む。そしてギュッと両膝を抱え込むと顔を埋め瞼を閉じる。

 

 

「……((底が見えない黒い沼。今度こそ、私は沈みきってしまうのだろうか。))」

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

――そこに潜って、お前は帰って来れるのか?

 

 

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宜野座の言葉と声が蘇る。

それが嫌な程に脳内に響くと、舞白は更に体を縮こませ額に悲痛な曇りを帯びる。

 

 

 

 

「()必ず私はやり遂げてみせる。死んだ咲良の為にも、私の大切な人たちの為にも。もう誰も傷つけない、死なせない、負の連鎖をこれ以上……))」

 

 

 

 

狼のような血走った瞳。

その瞳は何かに激昂するように光を宿していた。

 

 

 

 

 

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