whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

56 / 82
狭まる距離、離れる距離

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

深夜2時過ぎ――

――セーフハウス

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

倉庫内に仮設された小綺麗な室内。その窓枠に手を添え、外の景観に視線を向ける。

遠く離れた水上に浮かぶ都心の景色は煌びやかで、まるで自分が居る世界と正反対に感じる程に――

 

 

 

征陸のセーフハウスに来て数日が経つ。

あれから梓澤から渡されたデバイスは音沙汰は無く、ただひたすらに身を隠すのみの生活を送る舞白。

 

 

なかなか眠りに付けず、ぼーっと外の景色を眺めていたその時。数日間音沙汰のなかったデバイスが鳴り響くと彼女は強く目を見開き、即応答する。

 

 

「数日連絡が無かったと思えばいきなり何の用?梓澤廣一。」

 

『"ファースト"と呼んで欲しいなあ、"セカンド"。……立場上、君は俺よりも格下だ。それを忘れないように。』

「…………要件は何。」

 

窓枠から手を離し室内をウロウロと歩き回る。電話口から聞こえるいつもの落ち着いた男の声に微かに眉を顰めていた。相変わらず、憎たらしい男だ。

 

 

『――今日の16時。茗荷谷の"あの場所"に来い。……君なら分かるだろう?コソコソ榎宮の周りを嗅ぎ回っていたんだから。』

「"あの場所"、"榎宮"。…………闇闘技場の事ね。」

『そう!ご名答!』

「何が目的?私がそこに行って一体何を?」

 

久しぶりの連絡。しかし全くもって意図が分からない。もしくはこれは何かの罠なのか?試されているのか?

 

 

『そんなに構えなくても大丈夫だよ?ある客人と会う予定があってね?"万が一、念には念を"。それを邪魔される訳にはいかないんだ。』

「…そこで、私があなたを捕らえる可能性があるということは考えないの?悪いけど護衛なんてするつもりは――」

『さーあ。君は馬鹿じゃないはずだ。そもそも俺の命令に逆らった場合、どうなるか一番に分かっているのは君のはずだ。』

「…………ッ……」

『下手な行動は慎め、セカンド。』

 

目的が分からない以上、確かに勝手な行動はできない。そのせいでまた誰かが危険な目にあうのはごめんだ。

"まだその時では無い"と舞白は心の中で唱え、悔しながらに唇を噛み締めた。

 

 

『いいか?もし何か想定外な事が起こった場合、君は誰にも見つからないように上手く手を回せ。』

「……最終目標はあなたを逃がす。そういう事でいいのね。」

『話が早くて助かる。じゃあ、頼ん――』

「ちょっと待って。」

 

 

舞白の改まった生真面目なその声。

何か神髄を突かれたようなその声色に、妙に恐ろしく反応してしまう。梓澤にとっては都合の良い"駒"である彼女の存在。弱みを握っても尚、どこか自分自身が噛みつかれているような感覚――

 

 

"やはり、彼女は侮れない。"

 

 

「"ファースト"。あなたの"クラカトゥク"が何か分かったの。」

『……ふーん。それで?』

「"くるみ割り人形とねずみの王様"。私もあの小説は幼い頃に読んだことがある。……ねずみとくるみ割り人形の戦争場面。私"も"そのシーンが好きです。」

『………………』

 

 

"君にとってのクラカトゥクは?"

以前、梓澤から送られてきたメッセージの一文だ。

 

たったその一文。少女は何の書籍から抜き取ったかを直ぐに理解していたのだ。そしてその意図さえも……梓澤廣一という男が何を興じようとしているのか。

ただの憶測に過ぎない。しかし舞白はこの男が何を意図しているのかを数日間考え続けていたのであった。

 

『……いいねー、さすが。

どんな難解事件をも解決に導いたその頭脳。実に惜しい。』

「御託は結構。あなたの狙いは大体予想が着いた。」

『だったらどうするつもりかな。……その先で、俺を捕まえるつもり、な、の、か、な?』

 

語尾を弄び、まるで幼子を相手にするように柔い声色を放つ。

 

 

『……ねー。セカンド。……"宜野座舞白"さん。』

「…………」

 

『俺と手を組まないか?』

「…………」

 

この男は頭がイってるのか?

過去の事件、狐に関与していた事実。この男のせいで傷ついた人間は山ほど居るだろう。

 

なにより、義父を殺そうと、自分を殺そうとした。

――そして親友の死に関わる何かを行ったこの男。

 

普通の考えでそんな奴と手を組むなんて"有り得ない"。

 

『君のクラカトゥク。そして俺のクラカトゥク。……お互いに求めているものは近しいものだと俺は踏んでる。どうだい?』

「……全くもって理解できない。私があなたと手を組むなんて有り得ない。」

『はははっ。まあそりゃそーだよねえ。そもそも君は俺に監視されている立場だ。"共に肩を並べて歩きましょう"なんて言葉が通用しないことは分かってるさ。』

「…………」

 

舞白は何とか梓澤との通話を切らせまいと話を伸ばす。

"密かに"、"バレないように"。傍らのテーブルに置かれた即席の電子機器を操作していた。

 

『俺は知ってる。君はとある界隈で"免罪体質者"と呼ばれている事を。……そして公安局の"慎導灼"も。』

「ッ!?」

 

彼の口から放たれた言葉に目を見開く。驚きのあまり電子機器を操作していた手も止まるほどに、まさかの言葉に息を飲む。

 

『俺は知りたいんだ。……この目で、この世界に立つ頂点が何者なのかをね。』

「…………」

『まあいいや。君との長電話は楽しくて堪らないがリスクもある。いつどこで足をすくわれるか分からないからね。』

 

いくら手網を握っていると思っていても"彼女"はやはり危険だ。いつどこで、どんな手を使ってくるか分からない。

"裏切り行為を行った場合それなりの報復を起こす"と彼女には散々口にしてきたがそれでもやはり"侮れない"。

宜野座舞白はそんな人間だと、梓澤は肝に銘じていた。

 

 

「ッ……梓さ――」

『"今日"。頼んだよセカンド。……いつか、君に直接会える日が来る事を願ってる。』

「梓澤!」

 

 

一方的に切電される通信。

舞白は左手で握っていたデバイスを握りしめ、苛立った様子で傍らのベッドに投げつける。

 

 

「……あと少しだったのに……」

 

テーブルに散らばった工具やパーツ。そこには手製の逆探知機が置かれていた。あわよくば、せめて位置情報だけでも探れた可能性があったのに後少しのところで切電されてしまったのだ。

 

「((あの男……私が企んでる事を察してるのか隙を見せない。せっかくのこのタイミングだったのに……))」

 

自分の無能さに呆れ返る。

詰めが甘い。そう言われても反論すらできないだろう。

 

だから今の今まで、何人もの犠牲を――

 

 

「……今日。あの男は間違いなく茗荷谷に現れる。どうにか接触はできなくても何か足どりを追うことができれば……」

 

 

物が散らばるテーブルの上。

そこに置かれた年季の入ったリボルバー銃を手に取るとゆっくりと瞼を閉じる。トリガーに義手の右手人差し指を添えると何故か槙島の頭部を撃ち抜いたあの時の情景が脳裏に映し出される。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

穀物が生い茂る大草原。

夕日が沈み闇夜に覆われていく広い空。

兄と向けた銃口の先に白髪のあの男。

跪き、両手を広げ空を仰ぐその後ろ姿。

 

 

 

 

――"君たち2人は、この世界には惜しい"

 

 

 

最後に遺した言葉。

そして銃声――

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「……この先の真実にたどり着いた時。それでもシステムは私を"清廉潔白"だと認めるのかな。」

 

 

 

夜半の冷たい空気が部屋中に濃く満ちて、息をひそめていた。遠くを渡ってゆく風の音がしきりに聞こえた。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

同日 午後――

――東京都庁本庁舎

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

『監視官。駐車場を見てくるから待機しててくれ。』

「了解です。入江さん。」

 

本庁舎前に停車するのは都知事を乗せた車両。

その後続車に乗る入江と雛河が周辺を警戒しながら駐車場に異常がないかと車から降り立つ姿が目に入る。

都知事の護衛を始めて数日。厳重すぎると小宮本人から申し出があったが警備レベルを下げる訳にはいかない。

 

敵方の動きは予測不可能。

いつなんどきも気を弛める事は許されない。

 

 

 

そして、それと同時に車両を取り囲むように現れたのは大量の空撮ドローン。

 

「……パパラッチドローンの数凄いですね?」

「最近事件が多いせいでしょう?皆、入国者には過剰に反応するから――」

 

小宮は慣れた様子で小さくため息を漏らした。その表情は意外にも平気そうであまり気にしていないらしい。しかし"入国者"と口にした時のその表情はどこか悲愴な面持ちになったのを慎導は見逃さなかった。

 

 

暫く沈黙する車内。

慎導は車両を取り囲むパパラッチドローンに視線を向けていると、ふと何かを思いついたかのように目を見開くとデバイスに触れ通話を図る。

 

 

 

「志恩さーん!」

『――はーい?何かあった?』

「付近のドローン。全て追跡してデータを送ってください。」

『はいはい。ちょっと待ってなさいね。』

 

通話相手は唐之杜。慎導の要望に応えようとカタカタと手元のキーボードを操作する。車両を取り囲むドローンの数が表示されれば咥えていたタバコを灰皿に押し付け"やれやれ"と言わんばかりの露骨な表情を浮かべていた。

 

この数の機体登録番号を追跡するなんて無茶すぎる。

 

『えーーっと…

ちょっと数多すぎ。中には暗号化されたものもあるし……』

「最速でお願いします♪」

『仕方ないわねー。…ま、任せなさい♪』

「頼りにしてます。」

 

デバイスから視線を外し再び外のドローンへと視線を動かす。大量のドローンは未だに小宮が現れるのを待っている様子だ。

 

 

 

 

「一体どうしたの?」

 

一連の会話を聞いていた小宮。

一体何事かと不思議そうに首を傾げ慎導に視線を送った。

 

「――仕掛けを用意するなら監視のサポートを用意しますよ?俺ならそうする。」

 

パパラッチドローンに紛れ"敵側の監視"が存在することを踏んでいた。小宮を本気で殺そうとしているなら監視の目は必ず必要だ。

 

 

「俺ならって…。そんなにあなたと犯人って考え方が似てるの?」

 

「まさか。こいつの人間への興味の無さには吐き気がしますよ。大勢が暮らすこの世界をただの巨大なパズルとしか思っていない。人間をゲームの駒にしてるんだ。選択を間違えた人間が勝手に死ぬ。――そういう仕組みを作ってる。」

 

「でも"あなたなら読み解ける"。でしょ?」

 

 

 

狐を操る"インスペクター"と"ビフロスト"という存在。彼らは間違いなく"悪"。人が死ぬことを何のものとも考えていない。そんな仕組みを作り、ゲームを楽しんでいる人間はこの監視社会の中に存在しているのだ。

 

 

 

「……これでも必死ですよ?」

 

 

ニッコリと笑みを浮かべ小宮と視線を交える慎導。2人は微笑み合う様子を見せ、他には無い絆に似た"何か"が芽生えていた。

 

 

 

そんな穏やかな空気をまとっていた時、車内に射していた暖かな陽の光が陰っていく様子に気づく。

慎導は目を細め空を見上げてみると、重くるしい雲の剥げかかった曇り日が空に広がり始めていたのだった。

 

「……何だか。雲行きが怪しくなってきましたね。天気予報だと今日1日晴天だったはずなのに。」

「本当ね?雨が降り始める前に庁舎に入れたらいいんだけど……」

 

嵐が来るような前の暗い雲。

微かに感じる嫌な予感――

 

 

 

 

「((炯達。何も無ければいいんだけど……))」

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

――同日 午後16時過ぎ

茗荷谷 闇闘技場廃墟ビル――

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

北風混じりの時雨がしとしとと降り注ぐ。

茗荷谷廃棄区画一帯が乳白色の薄霧に覆われ、妙に気味の悪い雰囲気を漂わせていた。

 

榎宮の死後――ここ一体を仕切っていた組織は分断され、闘技場として扱われていた榎宮のアジトは人の姿は一切見られなかった。辺り一辺は廃墟と化し、まるで世紀末のような不気味な雰囲気を残す。

 

 

そのビルの傍らに停車する一台の覆面車両。

中にはイグナトフ、廿六木、如月――――狐狩りチームの姿があった。

 

 

「怪しまれないよう俺一人で行く。お前たちはここで待機だ。」

「援護なしってのはいただけねえな?」

「私も反対です。それにここは榎宮のアジトだった場所……危険です。」

 

如月に届いた梓澤からのメッセージ。

それは今日の16時、この場所に姿を現すことを匂わせるものだった。

 

3人は接触をはかるべくこの場所に訪れたのだが、イグナトフが頑なに単独行動すると折れる様子はなかった。

 

「大丈夫だ。応援が必要な時は連絡する。」

「……あんまり無茶すんじゃねえぞ。監視官。」

「どうかお気をつけて。指示があれば直ぐに駆け付けます。」

 

 

イグナトフに向けられる2人の視線。

それは明らかに怪訝そうに心配の色を含んだものだった。

 

 

それを察したイグナトフは眉を微かに下げ微かに口角を持ち上げる。

 

 

「――ああ。頼んだ。」

 

 

そう言い残すとイグナトフは運転席の扉を開き車両から降り立つ。雨に濡れながら目の前に聳える廃墟ビルをじっと見上げてみた。

 

"この場所に、自分たちが追い求めていた人間が居る"

――必ず尻尾を掴んでみせる。

 

「((そして必ず。舞子を取り戻す――))」

 

目を光らせ、決死の表情を浮かべる。

そしてイグナトフは廃墟ビルへと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

薄暗い廃墟ビルの中。

人の姿は無く、まるで幽霊屋敷のように気味が悪い。

 

 

「……ふー…………ッ……」

 

 

酷く凍てついた空気。そういえば、気づけば12月も下旬に差し掛かる。まるで新疆ウイグル自治区にいた時の状況とそっくりだった。

 

たった1人で。銃を握り締め。恐る恐る足を踏み出す感覚――

 

 

「((……寒さのせいか首の傷が変に疼く。それに妙に寒気も酷い。――あれだけ体調には気をつけていたんだけど……))」

 

まるで肌の上を蛇が這っているみたいな悪寒。どうやら発熱しているらしい。つくづく自分のタイミングの悪さに嫌気がさす。

 

「((とりあえず指示が出るまでここで休もう……体力を温存しておかないと、この後何があるか……))」

 

舞白は辺りを警戒しつつ、傍らの扉を開くと小部屋を見つけた。荒らされた跡が残るその部屋の隅に腰を下ろし蹲るように両膝を抱え込んだ。

 

するとその瞬間。左耳に嵌めていたイヤホンから通信を知らせる通知音が鼓膜を叩く。そして最も聞きたくない男の声が発せられた。

 

 

『――うん。ちゃんと来てくれたみたいで安心したよ。通信機は良好かな?』

「指示通り用意されてた通信機も身につけてる。指定場所の地下一階、闇闘技場跡にも辿り着いてる。」

『暫くそこに居てもらって構わない。俺が指示を出すまでそこから動くな。』

「…………了解。」

『今回の通信は念の為感度の確認をしたかっただけだ。――また連絡する。』

 

 

途切れる通信。

舞白はイヤホンに添えていた左手をゆっくりと下ろせば、再び力なく壁にもたれ掛かる。

 

コンクリートの壁は冷たくて丁度いい。熱を帯びた額をくっつけるとまるで浄化されるような気持ちよさを感じていた。

 

 

 

無音。冷たい空気。硬い壁。

厚手のダウンに身を隠すようにギュッと体を縮こませる。

 

 

独りになって数日。やはり独りというものは恐ろしく怖い。孤独でうちひがれそうになってしまう。

海外にいた頃はなんとも思わなかったけど、何故か心が寂しくて堪らないのだ。

 

 

「……会いたいな。」

 

 

高熱で余計に頭が変になったのだろうか。

まるで幼子のように心身共に弱ってしまう。

 

 

 

"また"、私は穏やかな日々を送れないのだろう。

いつになったら……

――いつになったら、私は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――コツ、コツ……

 

 

 

 

 

 

 

コツ、コツ……――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、足音のような音が外から微かに響く。

音のテンポからして1人では無い。恐らくは2人。

 

 

「――ッ!」

 

 

舞白は咄嗟に立ち上がると扉まで恐る恐る進み、僅かに開かれた隙間から外の様子を伺う。手には銃がしっかりと握られており、瞳は獣のように鋭い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――狡噛。気をつけろよ。」

「ああ。分かってる。……にしても、案外早い連絡だったな。」

 

 

聞き覚えのある声。

それは間違いなく実の兄と夫の声だった。

 

イグナトフ(あいつ)の部下に入った連絡。今日この場所に現れることを示唆する内容だった。」

「ここで奴らを捕らえることができればいいんだが……」

「まあ、今までの行動を考える限り、一筋縄にはいかんだろうな。」

 

 

舞白は瞼を強く閉じ、息を潜め会話を聞き取る。

その表情は酷く険しいものだった。

 

 

「ギノ、あとは段取り通りだ。対象が現れた時は即捕らえる。」

「ああ。」

「邪魔が入れば排除するのみ。パスファインダーの2人も潜んでる可能性が高い。気を抜くなよ。」

「当たり前だ。」

 

 

たった数m先にその姿はあった。

本当だったら今すぐにでも2人の元へ向かいたい。

 

しかしそれは許されない。

 

 

今の自分は、彼らに"排除される対象"。

通信機を持たされている以上、下手な行動を起こせば一貫の終わりだろう。

 

――そして恐らく、梓澤はこの状況を分かっているに違いない。だからこそ、この場所に私を置いた。自分を試しているのか否か、理由は分からない。

 

 

私はこの2人と"殺り合わないといけない"のだろうか。

 

 

「――ッ……く…………」

 

堪えきれない嫌な思いが喉からこみ上げる。冷えきった左手で首を掴むように添えれば、苦しげに俯いていた。

 

 

 

 

「……?」

 

ふとその場に立ち止まる宜野座。

何かを察知した様子で周辺に視線を向けていた。

 

前を歩いていた狡噛がその様子に気づくと同じく立ち止まる。

 

 

「ギノ?どうした?」

「――――いや、なんでもない。気の所為だ。」

 

 

愛しい声。思わず声を上げてしまいそうな舞白は左手で思いっきり、強く口を覆っていた。

 

鼻で呼吸をし肩を揺らす。瞼は閉じられたまま、とにかく気配を消そうと必死に呼吸を殺す。

 

 

 

「((……まさか、……な。))」

 

 

宜野座は傍らの扉に視線を向けるも勘違いだと察せば再び歩き始める。

 

その先に、舞白が居るなんて事を知らないまま……

 

 

 

再び2人の距離は離れていく――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。