whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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同じ穴の狐

 

 

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翌日 午前11時前―――

―――六本木 ザ・リッツ・カールトン東京

 

 

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都内有数の高級ホテルのラウンジにて。1人の女性は、とある人物達を待っていた。そして彼女のその姿はやけに人目を引くものがあった――

 

普段は結い上げている白銀の長い髪は、今日はストレートに下ろされ、スーツスカートのセットアップに身を包む舞白。

 

口元は真紅に染まり、普段よりも濃いめのメイクのせいか、とても24歳の女性には見えない。知的で、品のある、色気さえも感じるその姿を舞白は演じ切らなければならなかった。

 

 

ふとデバイスで時刻を確認する。

約束の時刻まであと少し。先方が指定したこの場所はやけに緊張する。

 

なんせ今回は舞白1人での単独任務。

失敗は許されない。

 

テーブルに置かれた、飲み慣れない高級そうな紅茶に口をつけると、小さく息を吐く。

 

「((……大丈夫。計画通り―――))」

 

 

繊細なティーカップを元に戻し、ふと今朝の出来事を思いだす。

 

 

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午前8時―――

―――外務省東京本庁 行動課オフィス

 

 

 

 

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椅子に座る舞白を取り囲む男性陣。

課長の花城は舞白に化粧を施していく。

 

 

 

 

「はい、完成。

やっぱり肌が白いと紅が映えるわね」

 

 

満足気な様子で舞白の前に屈んでいた花城は、スっと立ち上がる。

 

 

「……課長、なんといいますか……」

 

須郷は険しい顔つきで、じっと目の前の椅子に座る舞白に視線を向ける。

 

「上手く表現出来ないが……、まあ、いいんじゃないか?」

 

宜野座は複雑な心境を抱くも、舞白の姿に内心"悪くない"なんて考えていた。

 

「"馬子にも衣装"。だな?舞白」

 

兄の狡噛は小馬鹿にするように笑みを浮かべながら呟けば、舞白はその姿に"につかわない"表情を浮かべ、口を尖らせる。

 

 

 

「いいじゃないの?さすが私。"お色気漂う女社長、舞白"の完成よ?」

 

花城は"ふふふん♪"と嬉しそうに笑みを浮かべれば、左手に持っていた真紅の口紅のキャップを戻し、懐へと戻す。

 

舞白はデスクに置いていた手鏡を手に取り、自身の姿を見るとぎょっとした表情を浮かべ、今更見つめられていたことに恥じらいを覚える。

 

 

 

「……あ、……あんまりじっと見ないで……ください……」

 

両手で顔を覆い"うぅ〜"と赤面する。

 

そんな舞白を見下ろす花城。綺麗な白髪に触れれば男性陣へと視線を向ける。

 

「男性陣、髪型はどうする?」

 

 

花城の言葉に真剣に悩む3人。

 

「ストレート一択です」

「俺もストレート派だ」

「……ストレートだな」

 

須郷、宜野座、狡噛の順でテンポよく発言されると、舞白は呆れた様子で3人を見据える。

 

 

 

「……皆さん遊んでませんか?これは任務なんですよ?」

 

人の気も知らずに呑気な4人に、小さく息を吐く舞白。その言葉を他所に、花城は舞白の髪の毛を整えていく。

やけに楽しそうな4人の様子に半ば諦めると。ふと思っていたことを口にする。

 

「それに、全身ホロを使えば良いのに……何故わざわざここまで凝った事を?」

 

たかが対象者との接触でここまでする事ないのでは?と疑問に思っていた。むしろ白髪で目立つし、いい意味でも悪い意味でも目立ってしまうし、顔バレするリスクもあると考える。

 

「昨日の今日でそこまで準備ができなかったのよ。全身ホロもそれなりに凝ったものを用意しないと意味が無い。……だったら、生身の人間で一気に勝負をかけたいのよ。」

 

「…………課長、楽しんでませんか?」

 

「何言ってるのよ?私は本気よ?

それに、今回の単独任務はそこまで難しいことじゃないわ、あなただからこそ任せられるのよ―――」

 

 

"できたわよ?"と背後から背中を叩く花城。長い髪は艶を放ち、綺麗なストレートヘアが光に反射していた。

 

 

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昨晩発生した"巨大輸送機墜落事故"

外務省に捜査依頼はともかく、出動要請さえ出なかった案件。

 

しかし、この"事故"に関する"事件"を、もともと捜査していた外務省海外調整局行動課。尻尾を出した相手をここで逃がす訳にはいかない。

 

舞白は今朝頭に入れ込んだ情報を脳裏に浮かべる―――

 

 

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今回の対象者は2名。

ハイパー・トランスポート社の特別顧問"些々河 哲也(ササガワ テツヤ)"。彼は元総務相の天下り役人でもある人物。

 

そして、同社の役員を勤める"与根原巧(ヨネハラ タクミ)"。

 

この2人を、とある方法で罠へと嵌め、外務省で拘束する事が目的。些々河の旧友でもある特別な存在。

 

 

 

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そもそも、昨晩のハイパー・トランスポート社が所有する大型輸送機が墜落する事故。あれは"事故"ではなく、仕組まれた"事件"だった。

 

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手に入れた情報によれば、輸送機に搭乗していたトランスポート社の会計士である"旭・リック・フェロウズ"のみがこの墜落にて死亡。

行動課はなぜ彼が死亡したのか、その理由も調査済みだった。

 

 

リックは同社でのサブプライムローン詐欺を突き止め、告発しようとしていたのだった。事故は偽装であり、内部告発の口封じのために仕組まれたものだと判断していた。

 

しかし、行動課にとってリック・フェロウズが死亡したことは正直興味は無い、むしろサブプライムローン詐欺に関しては想定の範囲内。

 

それを仕組んだ"張本人"に聞かねばならないことがあったのだった。

 

 

 

 

 

 

「((些々河……。あなたには聞かないといけない事が―――))」

 

神妙な面持ちで目の前のティーカップへと視線を向けていると、ウェイターと共に、席へと案内された人物が現れる。

 

しかし、舞白は現れた人物が1人だけということに驚くが、決して表情には出さない。

 

 

 

 

舞白は落ち着いた様子で、ソファ席からゆっくりと立ち上がれば、向かいの席に立つ男性に朗らかな笑みを向ける。

 

 

 

「遅くなってしまい申し訳ありません。」

 

「いえいえ。私もつい先程着いたばかりでしたから。お気になさらず……」

 

ID情報で確認していた顔写真。間違いなく目の前にいるのは、標的の些々河だった。何故か、もう1人の対象者は現れない。

 

 

その事には特に触れようとしない相手はニコッと好意的な笑みを浮かべ、名刺を差し出し、自己紹介をする。

 

 

「ハイパー・トランスポート社の特別顧問。些々河 哲也です。」

 

年齢は40代だろう。スーツをきちんと着こなし、品のある佇まいで、まさに大企業の特別顧問に相応しい人物だと見る。

 

舞白も同じく名刺を差し出すと、ニコッと笑みを浮かべる。

 

「シュワイザー・エアクラフト社の代表取締役。舞・ビェリィ・リプニツカヤです。」

 

嘘偽りの名刺。設定としてはロシア帰民の航空会社の社長。開国とともに日本の出島に支社を置いた企業、という事にしている。

 

そして名刺交換を行い、相手の名刺に目を落とす。

 

「((…狐……間違いない))」

 

相手の特徴的な名刺のデザイン。

淡いベージュカラーに、センターに薄く印字された狐のイラスト。その上に名前が記されており、"hyper・transport"と右下にきちんと社名も刻まれていた。

 

 

「まさか、海外の大手航空会社からお誘いを受けるなんて、光栄ですよ。」

 

些々河はティーカップを手に取り、満足気な表情を浮かべていた。そんな姿を穏やかな笑みを向けたまま嘘偽りの人物を演じる舞白。乗り気な相手に、内心ほっとしていた。

 

「いえ。我社も日本に支社を置いたばかりでして。些々河様が、もし我社の執行役員として席を置いていただけるのであれば、とても心強いです。日本は未知の世界ですから…」

 

そして、気になっていたことを相手に投げかける。

 

 

「――そういえば、今回はもう一名、御社の役員が立ち会う予定だとお聞きしていましたが?」

 

与根原巧の姿がない。

旧友でもあり、ビジネスパートナーでもある2人。この場にいないことが不自然すぎる。

 

「…あぁ、与根原ですか?」

 

ティーカップをテーブルに戻し、一瞬表情が雲るも、何事も無かったかのような穏やかな笑みを再び浮かべる。

 

「彼は少し体調が悪いみたいで…。ほら、昨晩の"事故"ですよ?どうやら公安局の刑事に脅されたようで、今はメンタルケア施設で療養中です」

 

「それは災難でしたね?それに脅しだなんて、日本の刑事の方々は物騒なのですね?」

 

 

―――嘘だ

 

男の顔、動作、見ればすぐに分かる。

恐らくこの男は、旧友を捨てるつもりだろう。

 

自分だけ"逃げる"つもりだ―――

 

 

 

 

 

 

「―――まあ、それは置いておいて。今回のお話、ぜひ引き受けさせていただきたいです。」

 

パッと話を切り替える些々河。

舞白も与根原の件についてはそれ以上触れず、本題へと話を進める。

 

 

「本当ですか?聞く話によると、他の企業からも話があったとか…」

 

「さすが、その話までご存知だったんですね?…確かに、他に幾らでもツテはあるのですが…"出島"にとても興味がありましてね?」

 

出島は海外と日本をつなぐ貿易都市。

些々河にとって、都合の良い"何か"があるらしい。

 

外務省行動課も様々な事件調査のために出島に赴くことは多い。それだけ未知の島でもあり、無法地帯に近い部分があるのだ。

 

 

「エアクラフト社も、何かとツテが必要でしょう?」

 

些々河は向かいのソファから立ち上がると、舞白の隣へと腰掛け、妖しげに笑みを浮かべる。舞白は真っ直ぐと視線を前に向けたまま、ティーカップを手に取り、冷めた紅茶を口に含む。

 

「ロシアから単独で支社を置くのはハイリスク。それに資金源も必要なはずだ。……お嬢さん。私と手を組もうじゃないか?」

 

サラッと長い髪に触れ、耳元で呟く男。それに動じることなく舞白は口を開く。

 

「…ええ。ぜひ、あなたと組んでみたいものです。」

 

ティーカッブをテーブルに戻し、顔を男の方へと向けると、同じく妖艶な笑みを浮かべる。

 

男の手が、舞白の太股へと触れ厭らしく撫でる。いくらラウンジと言えど、他人の目もあると言うのに、大胆な相手の行動に舞白は思わずクスッと悪魔的な笑みを零してしまう。

 

「些々河さん?…ここは人目もありますから―――」

 

グッと男の手を掴み、柔く微笑む。

そして、舞白の右手の無機質な硬さに違和感を覚えた相手は不思議そうに、白いレースの手袋に覆われた右手に触れる。

 

 

「…義手?」

 

「はい。ロシアでは女性も徴兵されますから。これでも、数年間銃火器を握ってたんですよ?…強い女性はお嫌いですか?」

 

グッと義手の右手で相手のネクタイを掴み、強く引っ張ると驚いた表情を浮かべる男に、顔を近づける。

 

些々河は整った舞白の顔に、そして大胆な行動に惹かれたのか、軽い興奮に目の縁をぽっと赤らめる。

 

 

 

 

 

「今後とも、仲良くしましょう?些々河さん?」

 

弄ぶように相手の体を引き離すと、舞白はその場から立ち上がる。

 

 

"相手は既に落ちた"

もう、これ以上接触しなくとも任務は成功だろう。

 

 

 

「では、また後日詳しい内容は追って連絡します。」

 

男は乱れた襟元を整えながら、ニッと笑みを浮かべ、ラウンジから去っていく舞白を目で追う。

 

 

「楽しみにしてますよ?……舞・ビェリィ・リプニツカヤさん」

 

 

舞白はラウンジを後にする。

 

煌びやかな装飾が施された高級ホテル。様々な人物達がロビーを行き交う中、見慣れた人物が合流場所であるホテルの出入口で佇んでいた。

 

 

 

「社長。お待ちしてました。」

 

いつものスーツ姿。

背筋を伸ばし、舞白へ向けて頭を下げる。

 

どこに誰の目があるか分からない。舞白達は演じ続ける。

 

「宜野座。取引は終了よ。」

 

チラッと視線を周りに向けると、些々河の会社の関係者であろう人物達が舞白と宜野座の様子を監視していた。勿論、宜野座もそれに勘づいていた。

 

向こうもある程度はこちらを警戒しているようだった。

 

「次のスケジュールは?」

 

「1時間後にグランドハイアットで打ち合わせです。」

 

 

持っていた革製の黒い鞄を宜野座へと手渡し、ホテル前に停車された車へと向かう。宜野座は先導して歩くと、後部座席の扉を開け、舞白をエスコートする。

 

後部座席に乗り込めばふかふかとしたシートに体を填め、何も言葉を発さず、車の発車を待つ。まだ感じる視線に油断はできない。

 

 

そして運転席に乗り込む宜野座は車のエンジンをかけると、ホテル前から車を動かす。

宜野座はミラーで追跡者がいない事を確認すると、笑みを浮かべ、後部座席の舞白へ声をかける。

 

 

 

 

 

「その様子だと、任務は達成、か?」

 

宜野座の言葉に緊張が解けた舞白。ふぅーーーと深く息を吐けば、左肩を回し、だらりと後部座席に寝転ぶ。

 

 

「なんとか大丈夫そう……。疲れたよ……」

 

触れられた髪の毛や、太股の感覚を思い出し、ぞわぞわっと身震いする舞白。後部座席から運転席の宜野座へ視線を向けると、口元に弧を描く。

 

 

「ちょっと予想外な事もあったけどね?

……現れたのは些々河だけだった」

 

「役員の与根原の姿は無し……か」

 

舞白はポケットに入れていた結婚指輪を取り出し、薬指に嵌める。そしてゆっくりと体を起こし、受け取った名刺を取り出せば宜野座へと手渡す。

 

 

「"狐"のマーク。やっぱり間違いないみたい。」

 

宜野座は片手でハンドルを操作しながら、名刺へと目を向けると眉を顰める。

 

「ビンゴだな。」

 

指先で名刺を挟み、後部座席の舞白へ名刺を返す。再び受け取れば、じっと名刺を見据え、同じく眉を顰める。

 

 

 

 

「狐はまだまだいるみたいね―――」

 

 

 

ふと、視線を窓の外へと向ける。

人々で溢れる六本木の街。

 

 

「((同じ穴の狐……、一体何匹いるのやら―――))」

 

 

狐マークが意味するものとは

一体何なのか―――

 

 

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