whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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9章
ゲームスタート


 

 

 

 

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2121年 1月26日―――

―――22時40分

 

 

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「はぁーーー……」

 

 

 

口のあたりを両手で円るく囲んで息を吹き掛ける。手袋を外すと左手の先が擂粉木のように感覚が無くなっていくのが徐々に体に伝わっていくのがハッキリとわかる。右手の義手は氷のように酷く冷たく下手をすれば凍ってしまいそうだ。

 

 

「………」

 

舞白はバイクから降り、目の前の高層ビルを見上げた。

 

かつて何度も訪れたこの場所。最初は執行官落ちをした兄に面会をするために訪れた。その次はあの事件で負傷した時。反対されながらも行ったメモリースクープもこの場所で行われた。あとは短期間ではあったものの外務省から有期間の監視官補佐として難事件に立ち向かった時…

 

そして再びこの場所に訪れた。

 

公安局のシンボルである八角形のタワービル。地上88階、地下8階構造。刑事課オフィス、分析官ラボ、執行官たちの部屋などが入っている。最上階である88階には厚生省公安局長である細呂木の執務室があり、屋上にはヘリポート……

 

この"摩天楼"でこの後繰り広げられるであろうゲーム。

 

 

 

舞白は漂渺とした、それが彼女の最も真面目まじめなときの表情でもある顔付をして超高層建造物を見上げつづける。

 

 

 

 

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―――数刻前

イグナトフ 自宅にて―――

 

 

 

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テーブルを彩る手料理の数々。室内は幸せな匂いが立ち込め、夫婦は向かい合いながら料理を口に運んでいた。

 

待ち望んでいたこの時間。昨日まで囚われていた最愛の妻が目の前に―――

 

イグナトフは安堵の様子を浮かべていたのであった。

 

 

 

 

「電話したよ?あっちゃんに。」

「え?」

「"殴り返していいよ"って伝えておいた。」

「余計なことを…。殴られるのか?俺は。」

「たまにはいいじゃない?」

 

"ふふふふっ"と柔らかな笑顔を浮かべる舞子に自然と自身も表情が綻ぶ。しかし暫くすると何か思い込んだような表情に変化していき、料理を運んでいた手元がピタリと止まった。

 

 

「そういえば…気になっていたんだけど…」

「ん?どうした?」

「……舞白さんは…あれから無事に逃げられたの?」

「………」

「私たちを助けてくれた。だけどあれから何も彼女のことは聞いていないし…」

 

 

急に改まって何を言うと思えば……あの"女"の事だとは。

 

舞子は眉を引っ提げ泣き出しそうな程に憂鬱な面持ちに。それを見ると無意識にイグナトフの手元に力が込められる。……そうだ。あの女は今どこで何をしているかなんて知るはずも無い。

 

 

 

「宜野座舞白は外務省の人間だ。公安局が簡単に情報を掴むことは出来ない。」

「…そう……」

「心配するな。アイツらはそれなりに訓練も受けてるだろう。簡単にくたばったりしないさ。」

「―――うん…」

 

納得したような様子では無いがこれ以上何も聞き出せないと悟った舞子は再び口に料理を運び始めた。

 

舞子にとって唯一この国で友人としての関係性を築くことができた宜野座舞白の存在。しかしその存在はイグナトフにとって、今は不審感を抱いている相手でもある。

 

複雑な心境ではあるが、"事実"彼女が今どこで何をしているのかは自分にも外務省にも本当に分からないのだ。もしかすると天敵になる可能性も―――

 

様々な思いを浮かべていたその時。パンツのポケットに収めていたデバイスが振動すると慌てた様子でそれを手に取る。

画面には"代銀遙熙"という人名が表示されていた。何者かは知らないが"ビフロスト"に関わる人物であるのは間違いないだろう。

 

椅子から腰を持ち上げ、小さくため息を漏らす。

 

「…悪い。仕事の連絡だ。」

「あっちゃんから?」

「いいや、別だ。すぐ戻る―――」

 

 

 

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別室へと移動するイグナトフ。応答ボタンを押し、デバイスを耳元へと運ぶ。

 

 

「―――もしもし。」

『はじめまして。"サーティーン・インスペクター"。私は代銀というものだ。』

 

声質からして老人だろうか。妙に威厳と落ち着きを加えたその男の声にイグナトフは無意識に警戒心を強く張る。

 

『そのデバイスを渡した男、法斑静火と同じ立場にいる。』

「何の用だ。」

『乗るべき船を間違えないよう忠告したくてね。…私にはね、彼よりもさらに豊富なリソースがある。』

「具体的には?」

『君の"お兄さん"の話だ。』

「ッ!?」

 

思いがけない男の発言に大きく目を見開き言葉を失う。法斑の関係者、そして自分の兄を知る電話口の男。只者では無い。かなり大きなキーパーソンになりうる人間だろう。

 

ならば、易々と逃がす訳にもいかない。

 

 

「―――分かった、話を聞こう。……だが、今自宅にいて妻もいる。また外に出たらかけ直す。」

『前向きな回答で嬉しいよ。―――では後ほど。』

 

 

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「ねぇ……こんな時間から何処に……」

 

スーツに着替え、コートを羽織るイグナトフ。舞子は目は見えないものの何となく感じる夫の雰囲気に心配の色を浮かべていた。

 

「事件の情報提供だ。ガセネタかもしれないが今から行ってみる。」

「危なくないの!?あっちゃんにも……」

「…ガセかもしれないと言っただろう?俺一人で十分だ。」

 

"俺一人で―――"

また自分勝手で独りよがりな発言に快く思えない舞子は表情を曇らせた。

 

「また"俺が俺が"になってる!…約束して。何かあったら必ずあっちゃんに相談するの!いい?」

「それは……。」

「あっちゃんは炯のお荷物?」

「違う!アイツは……俺のザイルパートナーだ。」

「――なら決して手放さないで。……お願いよ、炯。」

 

恐ろしく厳粛したその表情。しかし、舞子に握られた手は柔らかく、暖かくて優しいものだった。その体温から伝わる微かな思い。"お願いよ"と力強く、そして名を呟いた様子から真剣な強い心情が伝わってきた。

 

 

 

「ああ。約束する……」

 

 

その手を強く握り返し、男は踵を返した―――

 

 

 

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霧のように灰色に立ち込めた闇夜の雪の空。

降り注ぐ雪の量は数刻前より更に増え、気温も徐々に低下していた。

 

車内から見える外の景色。それはまるで夢の中にでもいるように、雪明かりが物の形を朧げに浮かび上がらせる。浮かび上がるビル群の光は霞み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

『――君のお兄さんの話だ。法斑一族はお兄さんの死に深く関わっている。君は仇のために働くことになる。』

「その証拠はあるのか?」

『それが欲しければ公安局の助けを借りず私を探し出せ。』

 

自宅から飛び出し車を走らせ、人気のない港近くに停車する車。車内で代銀と名乗る男の話を真剣に聞き入っていたのだった。

 

どうやら代銀は法斑と組む自分をよく思っていないらしい。簡単に言えば法斑の下で動く事、即ちそれは実の兄の死に関わった人間を助ける様なものだと。そして一人で自分を探し出せと―――

 

 

 

 

『……ああ、言い忘れたが。私は君の奥さんを直ぐ施設に戻せる。』

「俺を脅す気か。」

『私に何ができるか知って欲しいだけさ。…では、待っているよ。』

 

代銀は言いたいことだけを簡潔に話し終え、身勝手にも一方的に通話は切られてしまう。悔しげに唇を噛み締め強く瞼を閉じるとなにか決意したかのように一息吐くと再び強く瞼を持ち上げる。

 

 

 

たった35秒の通話。

"たった"それだけだが微かな証拠だ。尻尾を掴み損ねる訳にはいかない。

 

 

「"声を除去。音声選別フィルタ起動。環境音をサーチ"。」

 

手首のデバイスにて特殊な装置を起動させると先程の35秒の音声データを解析する事に。声の背後に隠れる微細な環境音。それは"99.95% 機械の稼働音"という結果に。

 

傍から聞くと酷いノイズ音にしか聞こえない。しかしイグナトフはその音が何の環境音なのか……すぐに察知することが出来た。

 

 

「((……これは航空機のエンジン音…………だとすれば―――))」

 

「――"エンジン音から運用企業と発着場の特定を"。」

 

聞き覚えのある音が航空機の音だということが判明。再び今度は詳細な情報を掴むためにデバイスに向けて指示を出すとデバイスから浮かび上がっていた公安局マスコットのコミッサは解析を進めていく。

 

『うぅ〜〜〜ん……うぅ〜〜〜ん………………特定完了!C3型輸送機の国内運用はハイパー・トランスポート社のみ!主要空港は有明空港です!』

 

イグナトフは解析結果を元に有明空港へと車を走らせた―――

 

 

 

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―――都内某所 地下施設

 

 

 

 

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妖しげな光を放つ地下施設。

巨大なテーブルの中央に映し出された美しいホログラム。そしてそれを囲む3つの席。

 

そこに座る法斑の姿、2つの空席。

相変わらず無表情の法斑はじっと真っ直ぐと視線を向けていたところに、一人の男が現れた。

 

 

 

 

「……遅れて悪いね。」

「いえ。なにかトラブルですか?」

「新人のインスペクターと…少し話をね。」

 

余裕気な表情を浮かべいつもの席に腰を下ろしたのは代銀だった。男の行動に怪しむ視線を向けるものの、法斑はそれ以外に行動を起こすことは無かった。

 

 

『これよりリレーションを再開します。』

 

低く平坦な機械的な声が響き渡る。

そして再び始まる"ゲーム"――

 

 

 

 

「さあ、始めよう。…ここのシステム開発を担った法斑一族の継承者と一対一とは…胸が高鳴るよ。」

 

「―――こちらこそ。よろしくお願いします。」

 

 

残された"2人"

勝機を掴むのは果たして―――

 

 

 

 

 

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―――22時50分

 

 

 

 

 

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「……さてと……」

 

 

人気のない公安局ビルのメイン入口。

梓澤は六合塚から拝借したメディア関係者専用のパスキーを使い内部へと潜入することに成功したのであった。

 

そして手に持っていたアタッシュケースを床に置き、何かを操作するとケースないから無数の虫のようなものが飛び立っていく。

 

 

「頼むよー……君たちにかかってるんだから。」

 

 

蠅のような見た目の飛行型のハッキング機。

"それ"は公安局内部のあらゆる電子系統を麻痺させる特殊なものだった。

 

 

 

 

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―――公安局ビル60F 食堂

 

 

 

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「如月の件。丸く収まってよかったなあ〜。」

「はい。」

 

食堂にてカレーうどんをすする廿六木とハンバーガーを手に取る雛河。2人は窓辺の席に座り、"例の件"が何事もなく平和に収まった事を口にしていた。

 

「入江もほっとしてたな。あんな野郎なのに奥手なのが気持ち悪いよな〜?」

「いやぁ…そんな…。」

「人間って大事な事ほど隠そうとすんだろ?逆だよ!逆!大事な事ほど言葉にしねぇと!」

「……それは確かに……そうですね……」

 

 

小さな口でハンバーガーにかぶりつく雛河。つらつらと喋り続ける廿六木を他所に外の雪景色に気抜けした瞳を向けていた。

 

 

 

 

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―――51F 展望テラス

 

 

 

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吹雪くほどではないものの冷たい雪は普段より多く降り注ぐ。この時間の展望テラスはさすがに人気は無い。むしろこの天候で展望テラスに来るなんて頭がイカれてる。……そしてこんな時にこの場所に人を呼び出すなんて"もっと頭がイカれてる"。

 

 

 

「……ッ……ちょっと!何?こんな寒いところに呼び出して……」

 

 

呼び出した張本人は遅れて登場だ。

どこかバツが悪そうに現れた入江はいつもと雰囲気が違う。その空気に微かに勘づいた如月は呆れたように腕を組み白い息を吐く。

 

 

「………わりぃ」

「で?どうしたの?」

「…ッ……」

 

 

入江の手に握られた青い小箱。白いシルクのリボンが結ばれており、手のひらサイズのその小箱は傍から見れば何が入っているのか大体想像が着く。

 

 

「如月……」

 

 

低くて細い頼り甲斐のなさそうな声。

いつもの喧嘩っ気のあるやんちゃな声色はどこへ行ってしまったのか?と不安になるほどに入江の声に張りがない。

 

 

それを如月は不思議そうにじっと眺める。

 

 

 

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―――55F 課長室

 

 

 

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「―――ッ!?六合塚さんが意識不明の重体!?」

 

 

デスク上のモニターに映し出される緊急情報。霜月は勢いよく椅子から立ち上がると大きく目を見開き声を荒あげた。

 

それはつい数分前、六合塚が事故に巻き込まれたとの情報。何やら工事中の重機が倒れ、それに巻き込まれたとの内容。だが何となく霜月はそれがただの事故だとは思えなかったのだ。

 

 

 

『霜月課長。どうかしましたか?』

「宮舘監視官!すぐに現場に向かい徹底的に調べて!ただの事故ではない可能性……」

 

局内に居た二係の宮舘に通信を繋ぎ、直ぐに調査するようにと伝えたその時。課長室内のあらゆるモニターにエラーが表示され、緊急を知らせる赤いランプが照らされる。

 

 

「ちょっ……宮舘監視官?聞こえる?宮舘…」

 

そして暫くしてモニターに映し出された文字は"off line"。誰とも通信を取ることもできず、霜月は慌てた様子で何度もキーボードを叩いた。

 

 

「――通信障害?どういうこと!?」

 

 

ガラス窓はシャッターが下ろされ、完全に包囲されてしまう。これは緊急事態が起きた時にしか起こらない現象だ。内部から外に出ることは困難を極める。

 

 

 

「嫌な予感がするわ……」

 

 

 

 

 

 

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―――88F 局長執務室

 

 

 

 

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時を同じくして。公安局局長 細呂木にも異常事態が伝わる。彼女もまたシステムから遮断され、身動きの取れない状況となっていた。

 

 

 

「接続が遮断されただと?」

 

 

 

 

 

 

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―――39F 大会議室

 

 

 

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「ふぁ〜あ…………こんな時間からまた会議なんて……。党の人達に振り回されてばっかり……」

 

「ふふっ。―――そのリップ似合ってるよ?カリナ。」

「でしょ?」

 

会議に備えてヘアメイクを整えるカリナ。スタイリストはふとカリナが自身で選んだと思われるリップのカラーを褒めると彼女は嬉しそうに表情を綻ばせる。

 

 

 

「……あら?もしかして誰かからのプレゼント?」

 

 

その傍らでウェブ会議の為に回線を整える唐之杜。リップの話を耳に挟むと唐之杜も同じく笑みを浮かべカリナの側へと近寄った。

 

しかし、それをよく思わないカリナの関係者が怒ったような様子で唐之杜の行動を止めに入る。

 

 

「おい君。機材の確認が終わったらすぐに出たまえ。」

「……はいはい。――"潜在犯"が都知事に気安く話しかけるべきではありませんでした。」

 

 

既に機材や回線もろもろの準備を終えた唐之杜はそのままカリナの背後を通り過ぎ、会議室から姿を消そうと出入口へ向かって足を進める。しかしそんな相手に対し、カリナは余裕気に口元に弧を描くと唐之杜へと振り向いた。

 

 

「彼女は大丈夫ですよ。」

「…しかし…都知事。色相。」

「分析官、犯罪係数下がってるんじゃないですか?」

 

苦言の色を見せる男を他所に、カリナは唐之杜へと接近を試みる。そしてまるで相手の心情を見透かすような発言を口にし、またまた得意げに笑みを浮かべていた。

 

「……え?どうしてそう思ったんですか?」

「"潜在犯"と口にした時の余裕から。」

「すごい都知事。灼くんみたい。」

「そうですか!?」

「灼くん、ちゃんとやってます?」

「めちゃ優秀です。」

「そう……ならよか―――」

 

 

 

「唐之杜さん!」

 

 

 

別のスタッフが慌てた様子で唐之杜に助けを求めるかのように声を上げる。モニターに何やら問題が起きたのか、その男性スタッフはモニターに何度も触れる様子を見せつつ唐之杜を呼び寄せる、

 

 

 

「はーーい?なんですか?」

「急にサーバーと同期出来なくなって……」

「……ん……?オフライン―――」

 

 

刹那、会議室内の電気が何度も点滅し異常を知らせる。まるで停電か何かの現象にも見えるがそれとは全く違う様子に唐之杜は天井を見上げ

警戒の棘を張り巡らせていた。

 

 

 

 

 

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―――23時

 

 

 

 

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公安局の人気のない地下駐車場。そこに不審な一台のトラックが現れる。荷台に積まれた大きな箱。その中には仮死状態で冷凍輸送された人間が入っており、"2人"はゆっくりと瞼を持ち上げる。

 

 

「ジャックドー。」

「……ああ、ヴィクスン。」

 

箱から脱出し、2人は予め用意されていた銃火器などを準備する。公安局には通常だと持ち込めないような大型の銃や刃物の数々。手際よくそれを手に取り、準備を万全に整えた2人は決意の瞳を互いに向けあっていた。

 

 

「タイムテーブルをチェック。…我々のモットー、覚えているか?」

「"訓練より厳しい実践はない"。忘れるものか。」

 

 

白髪の"2人組"

目的を果たすため、2人もまた公安局内部へと潜入する。

 

 

 

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公安局周辺には何台もの警備ドローンが列をなし、何重もの壁を築く。完全に取り囲まれてしまえば誰も外部から入る事も、内部に侵入することも出来ない。

 

 

公安局ビルは完全に陸の孤島状態へと陥ってしまった。

 

 

 

 

 

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「ふぅーーー…スゥーーーー…」

 

 

エントランスに響く男の深呼吸。

 

そして、まるで指揮を振るうかのように両手を大きく広げ、意気揚々と口を開く。

 

 

「――では、ゲームスタートだ!」

 

 

 

 

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「……ん?」

 

 

 

 

ゲームの開幕を華々しく飾ったともいえる状況。意気揚々と宣言したその時、梓澤のデバイスが通話を知らせる。

 

 

 

「やあ、セカンド。久しぶりだね。」

『どうも。ファースト・インスペクターの梓澤廣一……』

 

 

落ち着いた声色の中に根強い憎悪を感じる。どこか怒りさえも含んでいる様子の冷めた声は彼女の冷徹さを思わせる。

そんな舞白の様子に梓澤は余裕そうな表情を浮かばせていた。

 

 

「君から連絡をくれるなんて珍しい。すごーく嬉しいよ。」

『暫く音沙汰もなくて……一体何を企んでいたのか。』

「あらららー?もしかして寂しい思いをさせてたのかな?だとしたら謝るよ。」

 

わざとらしく巫山戯た物言いをする梓澤に対し、恐らく彼女は嫌そうに顔を歪めているに違いない。

 

すると舞白は咳払いすると本題であろう台詞を口にし始めた。

 

 

『―――今まで私を監視していた第三者の存在。デバイス通信を傍受していたであろうあなたの相棒、……恐らくは凄腕ハッカー。…ある日をきっかけにその無線通信の介入がないことに気づいたの。』

「…ほう。それで?」

『私を監視していた目。……あなたの相棒は"今"公安局内にいる。そうでしょ?』

「ご名答。」

『そしてそれもあなたの作戦の内。』

「はははっ!大正解!」

 

エントランスに響く梓澤の歓喜混じりの大きな声。まるで全てを見透かされている事を喜んでいるかのように、驚喜に近い表情を顔面に漲らす。

 

梓澤の相棒。それは小畑の事だ。小畑は舞白の言う通り、"意図して"公安局に連行されたのだ。

 

 

 

「それに気づいたのは君だけだろう。だが残念だ、一足遅かったね?もうゲームは始まった。」

『いえ。寧ろピッタリよ。』

「……何…?」

 

 

舞白は意を決した面持ちでハッキリと言葉を放つ。

 

 

『――私も……既に公安局内にいるの。』

 

 

何となく予測はしていたが、まさか本当に先回りされているとは。先の先まで見透かされるのはさすがに腑に落ちない。歓喜に満ちていた男の表情が微細に曇る。

 

 

『かなり前に話したでしょ?"クラカトゥクは?"って。』

「ああ。そうだね。」

『あなたのクラカトゥクは公安局。必ずあなたは公安局で何かを起こすだろうって考えてた。』

 

ひと月前ほどの話。"君のクラカトゥクは?"と彼女に問いかけた話が懐かしく感じる。まさかそこから公安局を導き出したとは……

 

 

『だだ……第三者に傍受されていると分かっていた以上、私が公安局の誰かに情報を漏らすこともできない。漏らせば誰かに危害が及ぶ恐れがあった。……まあ既にハッカーの目は無くなっていたのだけど。気づくのが遅かった私の落ち度よ。』

 

さすがに征陸の事もあってかなり慎重だ。以前の彼女であれば梓澤が公安局ビルを標的にしている事を誰かに話していただろう。なんせ公安局には友人だという刑事課課長の霜月も存在する。だとすれば真っ先に彼女にリークするのが当然だろうが……さすがに義父の次に友人までも危険に晒すのは考えられなかったようだ。

 

しかし、彼女は何故"今夜"だと予測できたのか―――

 

 

「何故、今夜公安局に俺が現れることに気づいた?」

 

『……今日、都知事は都庁で業務を行っていない。公安局内で他の大臣たちや肯定党幹部達と会議を行う予定だっていう情報を掴んだの。情報通り、公安局周辺に肯定党関係者の車両、そして都知事護衛で使われている車両も見つけた。』

 

毎日、舞白は独自で公安局の動きを調べていた。違法であるが回線を傍受し梓澤が最も行動を起こすであろう日を分析していたのだ。

 

『そして、日中より夜の方が都合が良い。公安局内部の人員も減るし、穴が開きやすい。都知事を殺すにも公安局上層部の人間を殺すにも、うってつけの時間。…"自分がもし"襲撃するなら夜を選ぶ。』

 

「"自分が"、か。……」

 

『そうよ。……正直誰かに今夜の事を伝えることも考えた。だけど前もって身構えるのは意味が無い。本星に警戒されて逃げられれば本末転倒だから。内部にはあなたの相棒もいるし、どちらにせよ攻撃されるのは変わらない。』

 

「へぇ〜、君にしては珍しい。大胆だ。内部には君のお仲間が沢山いるのにそんな呑気で大丈夫?」

『私も中に入ってしまえば条件は同じ。それに今度は私1人じゃない。もう恐れることもない。内部で自由に動かせてもらう。』

「…はははっ………それが"吉と出るか凶と出るか"楽しみだよ。」

 

 

"機会均等"……いいや、それは違うか。

明らかにこちらの方が有利な立ち位置なのは間違いない。完全に封じ込めに成功し、公安局側の人間は大きく行動も制限される。しかし彼女は一切の弱音を吐くことなく寧ろ挑戦的で挑発にも感じる。

 

 

―――恐らく、宜野座舞白は腹を括っているのだろう。

 

 

 

 

 

『もう悠長にしていられない。これ以上あなたの言いなりになるのはリスクを伴う。だったらそれより先に公安局内であなたを捕まえればいいだけ。あなたも私も公安局ビルの内部から逃げることは出来ない。だとすれば好都合。……それにこの状況を知れば、外務省も動き出すに違いない。』

 

「その前に都知事も公安局の人間も消せばいい。君も抗うのであれば容赦なく消させてもらうよ。」

 

『それじゃあ先に見つけた者勝ちって事で。……それに、檻に入れられたもの同士行動が制限されてる。多少のハンデはあるけど想定済みよ。』

「強気だね〜……いいね。嫌いじゃないよそういうの。」

 

 

 

 

『――"迷って立ち止まったら絶望に追い詰められる"。……そんなの、もう御免だから。』

 

 

"今夜勝負をつける"と言わんばかりの発言だ。

 

さすが、……やはり彼女は他とは違う。代銀の言っていた"免罪体質者"というものと関係があるのだろうか。元々のポテンシャル、思考力や頭脳。全てにおいて"イカれてる"。それは慎導灼とも同じだ。

 

彼女の頭の中は常に先々を読み取っている。

 

 

 

「その先に――君が求めている希望はあるかな?」

『希望がなく戦うのは死に方を選んでいるのと同じ。私は希望を失っていない。』

「君の言葉にはつくづく考えさせられるね。返す言葉が見つからないなあ。」

 

宜野座舞白。彼女の言葉を聞く度に不思議と胸が高鳴る。感じたことのない奇妙な悦びさえ感じるのだ。男の顔が不気味な程に綻ぶ。

 

 

 

 

『―――必ずあなたを捕える。8年前の事件との関わりをあなたの口から聞きたいの。……そしてもう誰も傷つけない。公安局の皆も都知事も……誰も犠牲になんてさせない。』

 

「せいぜい頑張るんだな。次に会うとき、君の亡骸が転がっていないことを祈っているよ。」

 

 

 

2人は同時に通信を切る。そして瞼を閉じ、自分の心の奥底を覗き込むように真剣な表情を浮かべていた。

 

"己が理のため" 、2人は踵を返す。

 

 

 

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