whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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堕ちた公安局

 

 

 

 

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"Compulsorily Locked"

窓や出入口に赤文字で表示された"強制ロック"の文。その言葉の意味の通り中から外には一切出られる様子はなく、ビル内に取り残されていた公安局職員たちは慌てふためいている様子だ。

 

 

 

「…何?訓練?」

「訓練って…これじゃ外に出られませんよ?」

 

「おいおい、デバイスもオフラインだぞ?」

「え?嘘でしょ?」

「これじゃ誰にも連絡もできないわ――」

 

 

 

 

 

 

 

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――25F 医務室

 

 

 

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ベッドの上で夢とうつつの間をぼんやりとさ迷う老人。しかし突然の電子機器の点滅や電灯の歪な光に瞼を持ち上げた。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

数週間、公安局の管理下に置かれている征陸。明後日には一般の矯正施設に戻る予定だ。

しかし…何やら不穏な空気が漂う。医療機器は停止し、外へと続く扉も強制ロックが掛けられていたのだった。

 

 

「…何かおかしい。デバイスもイかれちまってるみたいだ。」

 

 

手元のデバイスにはオフラインと表示されていた。内部は勿論、外部の人間とも連絡が一切つかないという異常事態。"異様"な状況に何か察した征陸は昔の勘を働かせた。

 

 

「嫌な予感がする―――」

 

 

傍らに置いてある重厚な義手を手に取り瞳を炯々と光らせる。その瞳の色はかつての"伝説の刑事"を彷彿させるものだった。

 

 

 

 

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「………うわー…落ちたら即死…」

 

縦にも横にも広い公安局ビルのエレベーターシャフト内。

 

無数のロープが辺りに張り巡らされており舞白はそれを頼りに上へ上へと昇り詰めていた。幸いにも内部のシステムが制御されている為かエレベーターは稼働していない様子。上に行けば行くほど公安局ビルから逃げることは不可能だろう。なんせ地上88階建て。少しでも気を抜けば…想像するだけでも恐ろしい。

 

 

落下防止の為に安全帯を付けているがあくまでも"念の為に"と即席で作ったものだ。信じられるのは自分の筋力のみ。正に命懸けだ。

 

 

「((こっちの居場所が逆探知される前に誰かと合流しないと。先ずは美佳ちゃん。都知事は護衛の慎導監視官が居るはずだし……居るはず…))」

 

 

梓澤は間違いなく都知事を狙っている。そして人質として使えるのは刑事課の課長の霜月、そして局長…と言ったところだろう。少なくとも細呂木局長につく必要性は全くもって無い。"アレ"がどうなろうが"知ったこっちゃない"のだから。

 

 

「((お義父さんは25Fの医務室。階層は下だし刑事課以外の人たちも多くいるはず。さすがに梓澤もそこまで手が回らないはずよ。))」

 

 

残念ながら舞白は今のところ単独行動だ。さすがに全ての箇所を回るのは不可能。であれば、霜月と早く合流してこちら側の布陣を集めて体制を整えるのが得策だ。

 

 

 

――考えろ。敵が考えそうな事を。

自分がこの公安局を単独で落とすなら。都知事を確実に殺害するなら――

 

 

 

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『君の得意分野だろう?"狡噛舞白"』

 

 

 

 

 

 

 

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「――ッう!?」

 

握っていたロープが両手から剥がれ安全帯と命綱を繋いでいたカラビナが突然の衝撃で嫌な音を鳴らす。

 

舞白は驚きのあまり腕の力が一瞬抜けてしまったのだった。頑丈な右手の義手が上手くストッパーとなり"こうをなした"が危機一髪だ。

 

 

ふと"あの男"の声が聞こえた気がした。

隣に現れ、耳元で囁かれたその声に背筋が凍りつく。

 

 

「集中集中。今はとにかく55階を目指さないと。」

 

 

5階分ほど落下してしまったが問題は無い。先程のペースで昇れば順調に目的地に辿り着くはずだ。

 

…しかし、何故だろう。似たような事は失踪中の海外でいくらでも経験したことだ。危険な紛争地や道無き道を駆け巡った。だがその時より圧倒的に動揺している自分がいる。

 

 

「よし。昇…」

 

動揺を振り払うように頭を振るったその時。カーゴパンツのポケットに収めていた例のデバイスに手を伸ばす。デバイスは振動しており、舞白は義手の右手でロープをしっかりと握りしめ直すと応答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。宜野座です。」

『こんばんは。"セカンド・インスペクター"』

「…代銀……?」

 

デバイスに表示された覚えのない男の名前、聞き覚えのない声。声色からして高齢であることが想像出来る。その男は余裕気に落ち着いた様子で言葉を続けた。

 

『あぁ。君の事をよく知る者だ。貴重な免罪体質者だと言うことも。』

「………それで?言い方からして本題はそれじゃないでしょう。」

『察しが早くて助かるよ。…君をこちら側に迎え入れたい。"コングレスマン"として君にはその素質がある。梓澤廣一以上にね。』

「……」

『どうだい?悪い話じゃないだろう?』

 

電話口の男、代銀。恐らくこの男は"コングレスマン"。未だに彼らの組織がどういうものなのか把握はしていないが"免罪体質"について知っている時点で只者では無い事が理解出来る。

 

しかし…よく分からない。

公安局を混乱させたこの状況に乗じて自分に連絡をよこしてきた代銀。となれば梓澤とグルなのはほぼ確定だ。なのに何故…この男は梓澤を裏切るような言葉を放つのか…。

 

 

「あなたはコングレスマン。となれば梓澤廣一はあなたの手駒のはず。私は彼と敵対する関係……あなたこそ梓澤を裏切るの?」

『言っただろう。君は梓澤廣一以上に素質があると。』

「悪いけど素質云々は置いといて私は"そっち"に寝返る予定は無い。」

『…ほう。そうか。しかし私は君の全てを知っている。最重要機密の免罪体質者についても。そして君の親友の事件に関してもね。君が欲しがっている情報だろう。』

 

 

気味が悪い。この男に会ったこともなけらば話すことさえ今が初めてだ。なのにこの男はスラスラと自分の心の内をいとも簡単に覗き込んでいる。やはり只者ではない。この社会の全てを…シビュラの裏の裏まで既に把握しているかのような――

 

 

「コングレスマンはインスペクターの上位互換。そして駒の狐を操りゲームを楽しんでる…。」

『………』

 

自分たちが追っていた"狐"を操る極悪人だ。自分からは手を下さず、社会的弱者を犯罪の駒として利用する最低な人間だ。

 

 

 

「だとすれば私の敵はあなた達でもある。私はあなたを倒す。親友の事件に関しては梓澤本人から吐き出させるって決めてるの。」

『利口な人間だと思っているが聞き分けは悪いみたいだ。』

「結構です。…それじゃ、私忙しいので。」

 

 

デバイスの通話終了ボタンをタップし、再びポケットへと収め小さく息を吐く。両手でロープを強く握り締ると瞼を強く閉じ頭を俯かせる。

 

顔に険悪の形相を帯び、唇を強く噛み締めた。

 

 

「――ふざけるんじゃないわよ。」

 

 

"彼ら"に散々な目に合わされてきた。自分はさて置き、義父の征陸も巻き込まれ、今は都知事も霜月も公安局内の関係者全員が標的になっている。

 

免罪体質、過去の事件。

たしかに舞白にとって全く気にならない訳では無い。…だが、それはいつか分かることでもあるだろう。

 

権力に興味は無い。"コングレスマン"とやらの立ち位置に立つつもりは一切ない。

 

 

 

舞白は再び上へと目指す――

 

 

 

 

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――30F 留置所

 

 

 

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同じ形状をした個室が軒を連ねるフロア。各個室には様々な事情を抱えた人間たちが隔離されていた。

 

色相の大幅悪化。またはその傾向にあると判断された者。犯罪を犯した者。逃亡や罪証隠滅のおそれがあったり、住居不定であったりする場合に一時的に身柄を収容する公安局内の特別な留置所だった。

 

 

そのとある一室に梓澤は現れロックを解除する。

 

 

「来たよー。小畑ちゃん。」

「おせーよ。クソ梓澤。」

 

 

呑気に現れた梓澤を睨みつける小畑。両腕を組み明らかに不機嫌そうだ。そんな相手に構わず呑気に笑みを浮かべながら、梓澤は大きなボストンバッグを小畑に手渡す。

 

 

「え?でも時間通り…」

「"5分前行動"。社会人だろ?本当につかえねぇな。…着替えるから向こう向いてろ。」

「へーーーい。」

 

 

つい先日、事情聴取を行うと公安局に強制的に連れられた小畑。しかし、これが彼らの狙いだったのだ。

 

 

「…小畑ちゃん特製の羽虫型のドローン。公安局の多力なセキュリティを乗っ取ることが出来た。あれは凄いね。」

「あたりめぇだろ?アタシが作ったんだから。」

「お陰で外部からの侵入はほぼ不可能。デバイスも特殊な回線を一つだけ残してるが……気づかれるまで時間の問題かな。」

 

 

小畑に背を向けたまま梓澤はデバイスを操作し、傍らに置かれているキャリーケースを見下ろす。そして暫く無言が続くと何か思い出したかのように突然口を開いた。

 

 

「そうだ小畑ちゃん。ちょっとイレギュラーが発生してね。」

「あぁん?なんだよ。」

「"彼女"もビル内部に潜んでる。」

 

梓澤の言葉に小畑の顔は嗚咽の前触れのように歪み、大きく顔を歪ませた。

 

 

「ハァアアア!?アタシがここに居る間監視してなかったのかよ!?」

「いや〜〜最初はこっちも頑張ってたんだけど…ホラ?彼女もかなりできるでしょ?勘づかれて回線変えられて、しまいには暗号化――」

「るっせぇよ!クソ梓澤!ここには"凄腕分析官"も居るんだろーが!!」

「随分弱気だね?小畑ちゃん。」

「何のためにこんな狭え部屋に押し込められてたと思ってんだ!あぁん!?」

「まあまあいいじゃない?公安局ビルに皆仲良く大集合…」

 

 

怒り任せに物を投げ付ける小畑。それは背を向けたままの男に見事にヒットし鈍い音を立てていたが梓澤は振り向くことも無く、恐いものなどないような図太い振る舞いを見せていた。

 

 

「このクソ野郎!計画が――」

「だったら"殺せばいい"。先に殺しやすいのは分析官だ。"リスト"にも入れてる。」

 

呑気な表情とは対照的に極度に感情を押し殺した、泥の底から湧くような低く冷たい声で梓澤は台詞を吐く。

 

 

「まあ。"手をかけるのは俺たちじゃあない"。心配しなくても大丈夫さ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

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――41F 刑事課オフィス 2係執務室

 

 

 

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「――留置所で異常発生。」

「防犯カメラもアクセスできません!」

 

 

執務室に集まり異常事態に直面する"刑事課2係"。監視官の宮舘と坂東。2人は執行官達を前に険しい顔つきを見せていた。

 

「坂東、3係は?」

「3係は事件調査で全員外に出払ってる。」

「…となればあとは1係。誰か彼らを見た奴はいるか?」

「はい!私が把握してます。…確か雛河執行官と廿六木執行官は休憩中。如月執行官と入江執行官は共に勤務終了のはずです。イグナトフ監視官は帰宅してますし、唯一都知事の護衛に当たっていた慎導監視官とは連絡がつきません。」

 

宮舘の表情が徐々に曇っていく。

今自分たちには唯一の"武器"とも言えるドミネーターを手にしていない。スタンバトンや電磁パルスの手榴弾は権限が必要だ。

 

となれば、刑事課の課長である霜月に即連絡を――

 

 

「…マズイ。霜月課長とも連絡が取れない。」

「俺もだ。デバイスがイカれてる。オフラインのままビクともしない。」

 

宮舘、他監視官や執行官たちも自分のデバイスやモニターに触れるも一切使える気配は無い。もはやただの鉄クズだ。まさかここまでシステムが落ちてしまうと何も出来なくなるとは――。

 

「((連絡手段は無し。外部との接続も出来ない。…オマケに留置所の異常事態……。まさか留置者達が脱走?))」

 

脱走した人間は暴徒化する可能性が高い。だからといって無闇矢鱈に殺すわけにも行かない。そうなると"ドミネーター"は必要不可欠なのだ。…どうにか手にしなければ…陥落するのも時間の問題。

 

 

「坂東、お前は妹尾と森久保を連れてドミネーターを頼む。」

「お前はどうする気だ?」

「俺は渚熊と鹿江を連れて留置所へ急行する。」

「さすがに丸腰で動くのは危険だ。全員で動いて状況を確認した方が…」

「いや、状況が分からないにせよ留置所が異常を知らせてる。万が一、留置所の人間たちがこの公安局内に散らばる方が厄介だからな。」

 

 

互いの言い分は間違っていない。

丸腰で向かうのはハイリスク。しかし放置するのもハイリスク。万が一、抵抗する手段を持っていない公安局の一般職員が多く残っているであろう下の階に暴徒化した人間が向かったとすれば危険に脅かされる事は間違いない。宮舘はそれを恐れていたのだ。

 

 

「それに留置所から出られたとしても凶器になるようなものは手に

入らない。俺たちならねじ伏せられる。」

「……分かった。気をつけろよ、宮舘。」

 

 

 

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――30F 留置所

 

 

 

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「……おい…どういう事だよ……」

「扉が勝手に開いたぞ?」

「大人しくしとこうぜ。後で刑事共が来たらあの銃で痛い目に――」

 

 

何十人もの留置者たちは突然の自体に戸惑い、隔離部屋から外に集まるも皆警戒している様子だった。なんせここから出られても公安局の刑事たちに敵う訳が無い。武器もなければ脱出する手だても皆無。脱出出来たとしても街頭スキャナで一発アウト。

……そう。"手立て"が無ければ――

 

留置中の男たちはオドオドと辺りを見回す。

するとその時、スーツ姿にコートを纏った男とロリータ服に身を包んだ女が目の前に現れる。男、改め梓澤は両手を叩き乾いた音を響かせた。全員の視線が梓澤に集中する。

 

 

「皆さんは自由だ。ここから出たい方は出て、残りたい方は残ればいい。」

 

名も知らない不思議な男。傍らの女は無愛想な表情で眉ひとつ動かさない。異様すぎる状況と光景に目の前の輩たちは何やらヒソヒソと口を開く。

 

 

「…何?」

「あいつ…何者なんだ?」

「どう見ても公安局の関係者とは思えない……」

「信用できるのか?あの男……」

 

混乱するのも当たり前だろう。

"有り得ない状況"なのだから。どう考えても怪しく不気味だ。

 

「但し!ここに居たら処分されるだろう!…だからその前に刑事を盾にして廃棄区画へ逃げ込もう。時間はないよー?――さあ、決断の時だ。」

 

 

答えを出そうとしない輩たちに釘を刺すように更に言葉を放つ。そして梓澤は傍に置いていた黒いキャリーケースを乱雑に輩達に向けて投げ込むように転がすと勢い余って転倒。その弾みで中身が開かれると輩達は中に入っていた"物"に驚きを隠せない様子だった。

 

 

ぎっしりと隙間なく詰められた銃型のスタンガンや武器。そして小型のタブレット。それを次々と手に取る輩達――

 

タブレットに映し出された"リスト"には総勢たる顔ぶれが揃っていた。

 

 

「――刑事どもと重要関係者。コイツらなら人質の価値がある。」

 

 

ビル内に残っていると思われる刑事課のメンバーの名前と顔写真。他にも外務省行動課のメンバーや公安局局長、そして分析官の唐之杜。都知事の小宮まで…

 

「それと……この女も……」

 

梓澤は"忘れてた、忘れてた"と、冗談らしく陽気に呟くと自らのデバイスを向け白銀の髪の毛の少女の顔写真を見せつける。

 

「外務省行動課の"宜野座舞白"。この女を見付けたら即報告をしろ。コこいつは"人質以上"の価値がある。――さあ?どうする?決めるのは君達だ。」

 

流水の如く舌をふるい、意気揚々と台詞を吐く。それはまるで指導者だ。人々を操るには相応しいほどの饒舌さと気迫。その様子に戸惑いを見せていた輩たちは互いに視線を合わせ大きな声で一斉に声を上げた。

 

「確かに…チャンスだ!」

「やるぞ!」

 

キャリーケースから次々と武器を取り出しリストを眺める輩たち。だがそれとは正反対で内向的な男たちが少し離れた場所からこちらを眺めていた。よく見ると髪色や肌の色も様々……恐らくは移民。先日のヘブンズリープ教団の関係者だろう。

 

 

「君たちはヘブンズリープ教団でしょ?――これを見てほしい…」

 

梓澤はその集団へ近寄り画像を見せつける。その画像を目にした信者達は"それ"が何かと理解すると全員が酷く形相を歪め大きく目を見開いた。

 

 

――銀髪の男の死体画像。3発の弾痕がハッキリと残された胸元。死体は青白く、かつての堂々とした昇然たる"教祖代行"の姿からは大きく離れた状態。

 

 

画面の端にはひと月前ほどの検視日時が表示され、ハッキリと"トーリ・S・アッシェンバッハ"と明記されていたのだった。

 

 

「うっ………嘘だろ…」

「何で公安が検視を……」

「代行は殺されたのか!?」

 

 

タブレット端末に映し出された"教祖代行"の姿を目にした人物たちは手を震わせ雑多なざわめきの声を漏らし始める。そのざわめきは暗い留置所内に海鳴りのように遠く近く響いていた。

 

 

 

「――公安局はドミネーターじゃなく"拳銃"でトーリ教祖代行を撃ち殺した。君たちはシビュラに見放された訳じゃない。神は今も君たちを見ている…」

 

 

梓澤はその言葉と共に特徴的なヘブンズリープ教団の祈るようなポーズを見せる。すると立ち尽くしていた元信者達も同じように手を合わせ、祈るように頭を下げた。

 

 

「トーリ代行の悲願。今こそ神を!公安から救い出すべきじゃないか!?」

 

 

その言葉巧みな男の姿を完全に信じきった信者達。皆武器を手に取り大きく掲げると叫び声に近い歓声を上げるのであった。

 

留置されていた全員が梓澤によりマインドコントロールに侵されているような状況に。"計画通り"、彼らが動けば多少なりとも刑事たちに傷を負わせる事が出来る……それが企みだった。

 

 

「……バカばっかり…」

 

それを隣で静かに見守っていた小畑は怠そうに言葉を吐き捨て、さっさと次の目的地へ向かうためにと踵を返す。……この輩たちの行動に理解できないと言わんばかりに大きなため息を漏らす。

 

「シビュラ社会と同じ。最後は全て自己責任だ。」

「堕ちてすら敷かれた道を歩くクソどもが。…道は己で作るものだろ?それが地獄行きでもな。」

「へ〜。アツいこと言ってくれるじゃないの?小畑ちゃん。」

「……あの宜野座って女も理解できねぇよ。地獄だと分かってまた地獄に自ら堕ちる。さっさと逃げればいいのに。」

 

"堕ちてすら敷かれた道を歩くクソども"……舞白は"他人や自らが作った地獄の道を更に堕ち続ける"。小畑はそう解釈していた。変人なのか単に馬鹿なのか、お人好しなのか天才なのか――全てに当てはまる狂気に満ちたバケモノだと。

 

「彼女は自分の命よりも人の命を優先する。そして未だに過去の親友の死を受け入れられない人間味もあるんだよ。カワイイって思わない?。」

「オエエェ……きっも。漫画の主人公みたいな事考えやがって……寒気がする。」

 

 

梓澤と小畑はエレベーターへと乗り込み次の目的地へと向かう事に。

 

――するとそれと同時に隣のエレベーターの扉が開き、中から監視官の宮舘と執行官の渚熊と鹿江が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なん、だ……これは」

 

 

3人はエレベーターから降りた瞬間、異様な光景に怖気付く。警報音と赤いランプに包まれる30階の留置所。何故か扉は全て開かれており、脱走した人間たちが武装し、物々しい雰囲気を醸し出していた。

 

 

「隔離室が全て解錠?それに何で武装…」

「監視官!俺達には戦える武器がない。それに人数が多すぎる!」

「非常階段への扉が破壊されてます!既に何人かが別の階に逃げた模様です!」

 

 

3人は苦言の表情を浮かべるも引き下がることが出来ない。なぜか乗っていたエレベーターは反応せず再び乗り込むことは不可能。そしてこちらの様子に気づいた男がほかの留置者に声をかけると一斉に無数の視線が3人にまとわりつく。

 

 

 

「――――マズイな。」

 

宮舘は小さくため息を吐くと臨戦態勢に入った――

 

 

 

 

 

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