whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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選択の先の分岐点

 

 

 

 

 

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―――44F 備品倉庫

 

 

 

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唐之杜の手が加えられた"二台"のダンゴムシ。

それは壁を這い、天井を這い…通気口へと続く暗闇へと消えていく―――

 

 

奇妙に蠢く機械。カリナは心配そうにそれを見送り、唐之杜へと視線を移した。

 

 

 

「……通信の妨害。ここまで大きな建物を奪うなんて」

「ビル内の通信機能を奪われただけ。電波そのものは飛んでるわ。敵もドローンを操作しないといけないだろうし。」

「敵……」

 

唐之杜の言葉に息を飲む。先程の通信が悪戯ではない限り間違いなく自分が狙われているのは事実。そして先程、副都知事をはじめ関係者たちがエレベーターごと落下した光景が脳内に蘇ると小宮は苦しげに表情を歪めた。

 

 

「……要求に応えるべきだと思います?」

「いいえ。それだと逆に状況が悪化すると思う。……例の"あなたのAI"は?」

 

 

胸元の球体ペンダントに手を伸ばすとそれを強く握りしめる。ペンダント…マカリナの意思を読み取り、俯いていた頭をゆっくりと持ち上げた。

 

「マカリナも同じ意見です。……でも、それだと自分の色相が濁るのも分かるんです。」

「"戻れば殺される、戻らなかったら色相が濁る"…か。梓澤って男、弄れた性格してるわ。」

「…どうすれば」

 

「ふふっ……私達に任せて。刑事課はまだ終わってない。それに強力な助っ人も居るんだから。」

 

絶望的な状況なのにも関わらず、唐之杜は顔に喜色を浮かべた。そして手元のデバイスを操作し、小宮に向けてあるものを映し出した。

 

「これは?」

「公安局ビルの立体図面よ。…で……これを…こうすると……。局内のエレベーター稼働状況を見る限り、一台だけ何かに引っかかって2階部分でぶら下がってることが確認できるわ。」

 

 

局内のエレベーターの位置が赤くマークされていた。それは貨物エレベーターも含め、ひと目で全て把握できるような仕様になっているもの。ほぼ全てのエレベーター…恐らくは梓澤の手により制御不能。しかし一台のエレベーターのみが異常を知らせるかのように赤く点滅していたのだ。

 

 

「さっきエレベーターが落下したでしょ?…だけど不思議な事にその後の衝撃音が聞こえなかった。それにまだエレベーターの反応があるってことは間違いなく壊れてはいない。」

「―――ッ!そういえば……」

 

 

希望が見える。もしかすると関係者達は生きているかもしれない―――

 

 

「きっと"彼女"よ。確信は無いけど舞白ちゃんなら有り得るわ。」

「でもどうやって?通信機能や他の妨害があるなら簡単に止められないはずじゃないですか?」

 

通信機能や妨害、だとすれば安易にエレベーターのシステムなどをハッキングするのは厳しいはずだ。逆に考えればそれを行えば自分自身にもリスクを背負うことになる。

 

小宮の言っていることは間違いなかった。常人なら"不可能"なのだから。

 

 

「そりゃあ彼女だもの。"不可能を可能にする"事が出来る。」

「本当に唐之杜さんの言う通り彼女は常人じゃ…」

「ええ、その反対。"傑人"っていう言葉が相応しいかしらね?」

 

 

 

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――50F 執行官宿舎

 

 

 

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「ッ……きっつい……」

 

 

静まり返る室内に苦しげな声が響く。声の主、慎導は椅子に縛り付けられた状態からどうにか抜け出せないかと模索し、体を強く捻らせるもビクともしない。ギシギシと椅子と肌とロープが擦れる音。その度に体に食い込む太いロープ――

 

 

「……わっ…………うわぁ!」

 

勢い余って椅子ごと倒れてしまう。この体勢になってしまうと更に抜け出すのは困難だろう。

 

「((ッ……どうすれば……、………ん?))」

 

 

絶望に沈みかけたその時、ゴツゴツと硬い何かが床を叩く音が耳を掠める。どうやらポケットに入れていた物が倒れた反動で転がったようだ。そして運良くそれは慎導の手元へと現れる。

 

 

ひんやりとした材質……硝子?

器用な指先でそれを確かめ漸く"それ"が何か理解する。

 

 

 

 

「カリナちゃんから貰った香水――」

 

 

今日カリナから受け取った香水だ。そのままポケットに入れたままだということを完全に忘れていたのだった。

 

だがそれが功をなす事に。

機転を働かせた慎導は縛られたままの手を上手く伸ばし床へと何度も打ち付ける。

 

 

 

 

「お願いだ……志恩さん、気づいて……」

 

 

 

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「ッ……」

 

 

 

非常階段に響き渡る複数の足音。霜月、雛河、廿六木は無我夢中で目的地へ向けて駆け下りていた。そしてふと辺りを警戒する為に先頭の霜月が足を止め、ふと先程の梓澤の言葉を頭に浮かべ2人に問いかける。

 

「さっきの要求、どう思う?」

 

都知事を差し出し辞任を明言させる。ここまで大掛かりな事を仕掛けておいてあまりにも要求が甘い。そんな梓澤の要求に対し違和感があったのだ。

 

「都知事の辞任なんてこの状況で宣言しても意味ありませんよ。」

「その場で殺す気だな。直接手を下さねぇんだったら……何か仕掛けがあんだろ?」

「同感ね。人質を解放するか、敵の身柄を抑えるか……」

 

雛河と廿六木もその違和感に気づいていた。……まあ、当たり前だろう。どちらにしても時間が無いのは確かだ。起点良く公安局内にいる仲間たちと早々にこちら側からも何かを仕掛けなければ取り返しのつかないことになる。

 

 

「何にせよ時間を稼いでシステムを復旧し、ドミネーターを確保する。それに二係の状況も早く把握しないと……"壊滅寸前"って嫌な予感しかしない。」

 

とにもかくにもシステムを奪還しなければ話は進まない。武器もなければ太刀打ちできる方法もなく考えるだけで頭が重苦しく嘆きさえも口にしたくなるだろう。

 

「((都知事の居場所、システム復旧に欠かせない志恩さんとも連絡が取れない。やっぱりリスクを覚悟してでも舞白と通信を図るべきか……だけどそれがバレたら―――))」

 

嘆声を洩らすような表情を浮かべ、小さく息を漏らしたその時。霜月の頭上から何かが降り落ち、肩に違和感を感じた霜月は"それ"を見た瞬間思わず大声を挙げそうになってしまう。

 

 

 

 

 

「うっ!ヒィッ!―――ん?……ダンゴムシ?」

 

 

 

 

"それ"とは小型ドローンのダンゴムシ。いつも見慣れているのに気味悪く感じてしまった。通称通り、正にダンゴムシらしい無数の脚が生えたその機械……よくよく見ると可愛らしくも見えるがこの状況下で突然現れると心臓に悪い。

 

 

『―――良かった、課長。』

「志恩さん!」

『通信に成功。一応、安全な回線よ。』

「都知事も……無事でよかった……」

 

ダンゴムシを経由した特殊な回線。

霜月のデバイスにはしっかりと唐之杜の姿が映されており、隣には小宮の姿も確認できる。

 

『私は大丈夫です。唐之杜さんと居ます。』

『今は状況を確認中。位置が不明なのは入江くん、真緒ちゃん、灼くん、細呂木局長。……それともう一台のダンゴムシを使って舞白ちゃんを捜索中よ。彼女に関しては拳銃を所持しているだろうからすぐに見つかりそう。場所も大体は予測がついてる。』

 

「征陸さんは?前のこともあるし確認が必要よ。」

『それは勿論。…ただ、25階の医務室のセキュリティもほぼ壊滅状態。ダンゴムシの力だけで復旧はまず難しいわ。』

 

霜月のデバイスに送られる数少ない情報たち。メインシステムが奪われている以上、ダンゴムシを介しての回線復旧もさすがに無理がある。梓澤の要求の時間内に全て取り返すにはやはりメインシステムを奪還するしか手は無い。

 

「了解です。とにかく志恩さんは位置不明者、毒ガスの分布、人質の位置を調べて。ドミネーターは使えるわね?」

『ええ。問題なく使えるはず。』

 

「じゃあ俺たちはこのままドミネーターの入手だな。」

「そうですね。その後サーバールームへ向かうのが得策かと。」

 

唐之杜の力によって一先ず今のメンバーだけでも通信ができる状況に。それだけでも士気が高まる面々たち。不思議と表情に力が漲る。

 

 

『あと課長。デバイスの位置を撹乱するダミープログラムを作っておいたわ。』

「さすが志恩さん!」

『とりあえず、直ぐに位置不明者を捜索するわ。何か分かったら連絡を入れるわね。』

「ええ、頼んだわよ。」

 

 

絶望的だった心の中に一点の明かりが点じられた。霜月は"ニッ"と口角を持ち上げ、陽炎のような希望の色を瞳に滲ませたのだった。

 

 

 

 

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―――25F 医務室

 

 

 

 

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いくつもの個室が立ち並ぶエリア。

空室の方が明らかに多く、中にはベッドに寝転ぶ厚生省の管理下に置かれた患者の姿も目に入る。

 

しかし眠っているか、気づいていないのか…大人しく部屋に閉じ込められているものが大多数だ。

 

 

「……?」

 

 

目的の個室にたどり着く舞白。

しかし中は真っ暗で"もぬけの殻"。

 

乱雑に外された点滴の痕跡を見つけ、舞白は慌てた様子で室内に飛び込む。

 

「((お義父さん…一体何処に?もしかして梓澤………もしくはピースブレイカーのアイツらに―――))」

 

ベッドのシーツに触れるも温かさを感じない。恐らくはこの場所から消えてそれなりに時間は経過している様子。室内の防犯カメラを確認するも妨害がある為中身を確認することも出来ない。

 

「((選択肢……そうよ、梓澤は人を殺す気はない……だとしたら梓澤はお義父さんに選択肢を与えた…)」

 

先程のエレベーター落下の件もそうだ。都知事を除いた関係者たちは選択を誤ったが故にあの状況に陥ったのだ。自分も今までの行動を見てきた以上様々な場面で選択を迫られた。少しでもどこかで道を外せば間違いなくこの場にはいない。……梓澤は恐らく自分がこの場所に現れることを分かっていたに違いない。ここに現れたことを伝えた時の様子は演技のようにも思えるのだ。

 

公安局内に現れることも"全て自分の選択肢のひとつに違いない"

 

 

「((お義父さんも選択肢を与えられた。ここで私が誰を追いかけるか、それもまた私自身の選択……。))」

 

 

 

舞白は室内を隅々まで確認する。やはり血痕や他に荒らされた痕跡は無い。それに通常は他の部屋と同じように個室の扉はロックされている。特別な方法で手を加えない以上簡単に出られない仕様になっているのは分かっていた。"襲われた"という事はまず無い。意図的に征陸をこの部屋から出させ、先に向かわせた―――

 

 

足早に部屋を立ち去る。銃をしっかりと握りしめ、再び舞白は駆け出した。

 

 

 

 

「((今度こそ私が護る番。))」

 

 

矯正施設で征陸は身を呈して舞白を護った。

今度は自分の番。誰も"死なせない"。そう心に誓った舞白は必死に脚を動かした、

 

 

 

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「あの……最初に減らされる人質ってもしかして慎導君じゃ…」

「その可能性は高いわね。」

「彼の居場所分かりませんか!?」

「落ち着いて。まず毒ガスの分布を調べる―――これである程度、他の人間の居場所も、安全に移動できるルートも分かる。」

 

 

冷静な口調で言葉を返す唐之杜。手際よくデバイスを操作し、局内で生きているシステムに介入すると再び公安局ビルの全体図が浮かび上がった。

 

 

「ビル内の対粒子兵器設備にアクセスすれば………。ほら出た、20階から下は毒ガスでいっぱいね。」

 

 

ビルの下層階が紫色に染る図面と共に毒物の成分が表示される。成分わ見る限り、吸い込むとものの数分で命の危険が脅かされる危険な毒物だった。

それをじっと眺める小宮。すると彼女はなにか閃いたかのように目を大きく見開き、ビルの全体図に指を指す。

 

「……これ、相手の位置も分かるんじゃ?銃とか火薬の臭いが結構凄いから。」

「よく知ってるわね?」

「映画なんかでレプリカを使うんです。」

「ナイスアイディア!成分分析のフィルタを細かくしてみましょう……

―――何かヒットした。」

 

 

とある部屋から採取された成分が映し出される。変性アルコール、香料、水、メトキシケ酸エチルヘキシ、リモタル、シトロネローリング……

 

他にも複数の香料やアルコールが表示されると唐之杜と小宮はじっとそれを見据える。

 

 

「火薬じゃないけど大量のアルコール類?合成香料……。ん?この成分と全く同じものが使われた香水があるみたいね。」

 

 

唯一全く同じ成分が検出されたデータ。そこに映し出されたのは青い液体が入ったオシャレな四角い小瓶―――

 

"SAWURAI カリナコラボモデル香水"

商品名まで細かに表示され、いち早く反応を示したのは小宮だった。

 

 

「間違いないです、慎導君だ!」

「え?」

「私が彼にプレゼントしたものです。」

「場所は……」

 

反応を示す場所。それは50階の執行官宿舎、如月の部屋。

 

 

「真緒ちゃんの部屋。ここから6階上ね。」

「助けに行きましょう!」

「そうね。私たちが1番近い可能性が高い。……ん?他にも何か強い成分が検出されたわ。」

 

更に下層階で異常を知らせるようなエラーコードが表示された。そしてそこには有り得ない成分が微細に現れ、唐之杜は怪しげに眉を顰める。

 

 

「……20階と21階の間、エレベーターシャフトから火薬の反応があるわ。……30階にも……」

 

 

ニトログリセリン、ニトロセルロース、ニトログアニジン―――

火器の発射薬に適した燃焼速度を持つ火薬。その基本はニトログリセリン、ニトロセルロース、ニトログアニジンの3つが基剤となる。

 

「火薬?という事は……さっき言ってた銃の反応?」

「でもエレベーターシャフト内からの反応なんて変ね。―――シャフトで火薬を使うような戦闘があったとか?……いえ、もしかしたら銃を使ってエレベーターの落下を止めた。」

「でもそんな所で戦闘なんて……エレベーターが無事停止しているのが事実なら有り得ますよね。」

「さすがに微量だと詳しい弾薬の中身までの解析は無理ね。同じく拳銃を扱う人間は舞白ちゃんだけじゃないでしょうし油断は禁物。」

 

梓澤の話していたことが事実ならば"海外の傭兵"はピースブレイカーだ。彼らは実弾銃を扱っている事は既に把握済。

舞白かピースブレイカーか……容易に安心はできない。

 

 

「直ぐに課長に報告しましょ。私達もずっとここに留まる訳にもいかないし、誰かと合流しないと危険だわ。」

 

 

唐之杜は再び霜月へと通信を図った。

 

 

 

 

 

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「おいおい!そりゃあ無茶じゃねえか?」

「せめて執行官の誰かと合流してからの方が良いと思います。」

「そうよ!危険すぎる!」

 

 

唐之杜からの提案に対し反対の意見を述べる3人。

それもそのはずだ。戦闘力こそ殆ど無い分析官が都知事を連れて単独で慎導の救出に向かうというのだから。

誰がどう考えても危険すぎる。

 

 

『だけど慎導君を見殺しになんてできません!』

『課長。今は動ける全員で成せる事を成すべきでは?』

 

 

唐之杜と小宮の言葉に頭を抱える霜月。確かにふたりの言う事も間違いでは無い。このまま2人を安全な場所に匿ったとしても敵側の動きも読めない以上リスクも高い。それに慎導の身に何か起こる可能性も否定出来ず単純に戦力を失う羽目にもなってしまうのだ。

 

 

 

『それと、上手くいけば舞白ちゃんの居場所もあと少しで見つけられそう。彼女は下層階……毒ガスの分布から考えて21階から30階付近に居る可能性が高い。舞白ちゃんと灼君と連携できれば私達も動きやすくなるわ。』

 

 

今のこの状況を打破するために欠かせないキーパーソンの2人。舞白と慎導の戦闘力と知力があれば敵を叩ける一手を生み出せることが出来るかもしれない。

となれば……その可能性に賭けるしかない。

 

 

 

「あーー、もう!分析官!あなたが慎導を救出して!」

『了解。』

「あとは二係ね。持ちこたえてくれてることを願うしかないわ。」

『システムさえ回復すれば二係とも繋がれる。…あとは私の特製ダンゴムシ次第。』

「システムの復旧はどう?」

『大丈夫そう。ちょうど今からその敵さんを叩くところよ―――』

「勝算はあるの?」

『任せなさいな。ダンゴムシにちょっとだけ"手を加えたの"。』

 

 

 

 

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――46F 分析官ラボ

 

 

 

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「……ん?」

 

目の前のモニターに現れる無数のエラーメッセージ。公安局内のメインシステムを奪った根源でもある小畑の羽付きの小型ドローンが異常を知らせていたのだ。

 

エラーと共に映し出されるのは小畑が見た事のない小型ドローン、ダンゴムシ。メインシステムに繋がる制御盤のひとつに介入している様子がハッキリと確認できた。

 

 

 

「腕利きの分析官ってやつ……させるか!!」

 

 

ドローン同士の熾烈な戦い。

腕利きの分析官、分析の女神こと唐之杜志恩。そして凄腕ハッカーでもあり、ファーストインスペクターにもコングレスマン達にも一目置かれた存在の小畑千夜。

 

両者の電脳戦とも言える一か八かの大勝負。悪魔的といえる挑んだ表情を眼に浮かべていた。

 

 

 

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―――30F 留置所

 

 

 

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「………………」

 

 

下層階から非常階段を駆け上がりたどり着いた場所。不自然に鍵の空いた扉に手をかけるとゆっくりとそれを開く。微かに顔を覗かせると静まり返った空間が広がっていることに気づく。

 

「((25階は留置所。梓澤が言っていた通りならここに捕らわれていた人達が逃げ出したって事だよね。))」

 

右手の義手に握られている銃をゆっくりと構えた。久しぶりの異様な緊張感に海外にいた時がやけに思い出される。

 

気を抜けば一瞬で命を落としかねない。ここは戦場だ。

 

 

「((この階は既にもぬけの殻?だけど妙……何となく感じる嫌な気配―――))」

 

 

屈ませていた体をゆっくりと起こしたその時、人の気配と複数の怒号。同時に何かか投げ込まれる乾いた音が耳を掠めた。

 

 

「…ッ!?」

 

「居たぞ!リストの銀髪の女だ!」

「殺せ!」

 

舞白の目の前に投げ込まれたものは"スタングレネード"。公安局に支給されている物に違いない。

 

しかし、彼らは戦いを挑んだ相手を間違っていた。"そんなもので"倒れるような人物では無いのだがら。

 

 

「扱い慣れてないものを安易に使わない事ね。」

 

 

足元に転がり落ちたグレネードをそのまま蹴り返す。

すると複数人の男の元へ跳ね返り、それは起爆した。

 

 

「うっ!!」

「クソっ!見えねぇ!!」

「耳がッ……痛……!!」

 

まともに扱いすら知らない人間が触っていいものじゃない。スタングレネードは殺傷力は無いもののまともに喰らえば視覚と聴覚に異常をきたす危険な物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達、その服……留置者ね。」

 

 

まんまと反撃された男たちはその場に倒れ込む。数は4人。気を失う者も居れば目と耳の痛みに殆どが動けない状態になっていた。よく見れば移民の姿もある。以前拘束されたヘブンズリープ教団の残党か……。上手く梓澤に言いくるめられたに違いない。

 

 

 

 

「収容者は大人しくそこでじっとしてなさい。…で?ここで起こったことを話してもら―――」

 

 

 

 

彼らから経緯を問いただそうとしたその時、背後から違う気配。舞白は口を閉じ、握っていた銃に力を込めた。敵意のようなものは感じないが明らかに何者かがこちらを見ている。

 

 

「……誰?」

 

 

ゆっくりと振り返る舞白。すると廊下の角の壁に力なく身を預けた人物と視線が交じ合う。

 

汚れた監視官のレイドジャケットを羽織るその人物。数年前に何度か嫌味を言われた相手でもあるが最終的には自分の行いに理解を示し、良い上司として関わってくれた"彼"。風貌は昔の宜野座をそのままトレースしたような威厳ある凛々しい姿なのだが……

 

今はその様子は一切感じられない。よく見れば口から血を流しているような酷い怪我を負っていたのだ。

 

 

「……その声は……やっぱり…ッ…"狡噛…元監視官"……」

「―――ッ!あなたは!」

 

 

慌ててその人物の元へと駆け寄る舞白。相手は立つこともままならないのか壁にもたれたまま座り込むと再び吐血したのだった。

 

 

「"宮舘監視官!"、酷い怪我……」

 

「今……征陸さん……と……俺の部下……ゲホッ………坂東……」

「無理して喋らないでください。すぐに手当てしないと…」

 

 

腹部には銃創、額にも微かに掠めたような切り傷も確認できる。状態を見るにかなりまずい事がひと目でわかる。

"二係の壊滅寸前"とはこの事……

 

 

「とりあえずここは危険です。どこか部屋に―――」

 

 

 

「おい!あの女だ!」

「殺せぇ!!!」

「リストに載ってる男も一緒だ!」

 

 

息付く間もなく再び飛び交う怒号と複数の慌ただしい足音。廊下の奥から現れた男たちは様々な武器を手にしておりスタングレネードだけでは無いようだ。

舞白の手に持っている銃で一掃することは可能だが……簡単に彼らを殺す訳にはいかない。できる事と言えば足を撃ち抜くしか……

 

 

「((どうすればいい……無理に宮舘監視官を動かすことも置いていくこともできない。だったら全員の脚を撃ち抜くか―――))」

 

 

梓澤に唆された哀れな男たち。元は彼らに罪は無い。だからこそ彼らにリスクを背負わせたくない事実。

 

 

「くっ……」

 

 

こちらにジリジリと向かって来る男たちを捉える銃口。引き金に指を添えたその時、思いがけない人影が突如横から現れる。

 

 

「……お義父さん!?」

 

見覚えのある病院着姿の相手。シルエットはやせ細っているものの、以前のように弱った雰囲気は感じず、左腕の義手が勇ましさを表していた。

 

 

 

「監視官!ご無事ですか!?」

「……森久保……何で……」

「坂東監視官もこちらに来てます。怪我を負っていますが……」

 

 

征陸と同時に現れたスーツ姿の人物。二係の森久保執行官。坂東達と共にドミネーター確保を目指していたが嫌な予感を察知した坂東が機転を聞かせてこちらに来ていたのだ。

 

そんな森久保は宮舘の体を支え向かい来る男たちを睨みつける。そして状況を粗方理解した舞白と宮舘も真っ直ぐと前を見据える。

 

 

「―――感動の再会といきたいところだがそれは後にしよう。」

 

 

 

スタンバトンを握り、落ち着いた声で呟く征陸の後ろ姿。威厳あるその姿に息を飲む舞白。その背中に恐る恐る声を投げかけた。

 

 

 

「…お義父さん。」

「全く、また一人で……伸元に叱られるぞ?」

 

「そんな事より体調は!?立っているのも辛いはず――」

「ハハハッ。穏やかな矯正施設で過ごすより、古巣で過ごしていた方が身体が昔を思い出して疼くみたいでな。」

「だからって無茶したらダメです。」

 

 

征陸の左隣へと肩を並べる舞白。2人は視線を交えることなくただ真っ直ぐに目の前の男たちを見据えていた。

 

 

「可愛い娘が傷つくのは見たくない。」

「……可愛いだけじゃないです。」

「口も達者で…やっぱり俺も伸元も敵わないな。」

「へへっ。一度、お義父さんとこうやって肩を並べるのが夢だったんです。」

 

構えの姿勢をとる舞白。

それに合わせるようにスタンバトンを構え直す征陸。

 

"父娘"のただならぬ屈強なその姿は目の前の男たちの士気を微かに削ぎ落とす。

 

 

 

「鈍っちゃいないだろうな?」

「お義父さんこそ。…現役の力見ててくださいね。」

 

 

 

興奮にじっとしていられないような挑戦的な表情。微かに持ち上がる口角、拳に入る強い力、吐き出される深い息―――

 

 

その瞬間、同時に2人は駆け出した。

 

 

 

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