whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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10章
a true partner


 

 

 

 

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『――リレーション進行。シビュラシステムによる報道管制。都内エリアストレスによる治安悪化ブロック発生。』

 

 

コングレスマンの2人はじっと互いを見据えていた。ラウンドロビンによるリレーションが改めて進行され再びそれぞれが思考を凝らし"投資"を始めた――

 

 

 

「ショートの資金を投入。」

「·····この状況で空売りですか?代銀さん。」

「小宮カリナの死。この混乱が莫大な利益を生むぞ?」

 

代銀は余裕の笑みを頬に零す。それとは対照的に法斑は相変わらずの飄々とした無表情を貫き、落ち着いた声色で言葉を放つ。

 

「公安局刑事課へのダイレクトベット。」

「単純だな?君には私の真似はできまい。」

「ええ、代銀さん。あなたの手は複雑だ。――そしてその分、引き時を見失っているのでは?」

「法斑君……それはこちらのセリフだ。」

 

 

「――状況は大きく変化していく。それに適応できない人間は地に堕ちる。あなたの手駒達はどの選択肢へと進むでしょうか。」

 

 

手元の電子版に映し出される2人のID情報。

"セカンド・インスペクター" 宜野座舞白。"サーティーン・インスペクター" 炯・ミハイル・イグナトフ。

 

そして"ファースト・インスペクター" 梓澤廣一。

 

 

 

 

 

 

「ハハハッ、まあ見ていろ。」

「……楽しみです。」

 

 

 

親しみのない警戒心を込めた2人の瞳。

それは互いに睨み合い妙な光を放ち合う――

 

 

 

 

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唐之杜の用意したダンゴムシを介し一係全員が連携を取り戻す。そして外務省の狡噛兄妹も彼らと共に行動する事に。

 

イグナトフたちと灼たちはビルのシステムを取り戻すためサーバルームへと急行、そして合流を図る。霜月たちは武器を手にするためにとドミネーター保管庫を目指していた。

 

 

 

 

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――公安局ビル 非常階段

 

 

 

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慎導は背後に視線を送り、言葉を投げかける。

 

 

「――サーバーフロアまであと少しです。皆さん大丈夫ですか?」

「ええ平気よ。大丈夫。」

「私も大丈夫……慎導君と宜野座さんこそ大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません。」

 

 

止まることなく永遠に続く階段駆け上がり続ける4人。いつどこで敵が現れるか分からない危険な状況ということもあり、気が休まる瞬間は全くと言っていい程に皆無だ。特に舞白と慎導はこの事態を覆すキーパーソンを2人も抱えている。気を抜けば終わりだ。

 

 

 

「灼君、ちょっと止まって。」

「はい……?」

 

そんな中、突如足を止める唐之杜。そして後ろの舞白に近づくと憂わしげな表情を向けた。

 

 

「唐之杜さん?何――」

「舞白ちゃん。あなた体は?」

「額の傷ですか?大した事ないですよ?」

「それもそうだけど……そうじゃなくて。…今の今まで投薬もしてないでしょう?」

 

彼女の言葉に目を丸くする慎導と小宮。投薬というワードに引っ掛かりを覚える。

 

 

「――投薬?舞白さん、何か持病があるんですか?」

 

そういえば、イグナトフから聞いたことがあった。舞白が舞子と同じ病院に通院しているという事を――

 

そもそも舞子が通っている"佐渡海上市国立病院"は都内でも有数の巨大な総合病院だ。"それなり"の病では無い以上、通えるような場所では無い。

 

 

「彼女、数年前に未分化癌の手術を終えたばかりなのよ。」

「未分化癌?」

「未分化癌って……確か複雑な病だったような……」

 

あまり聞きなれないワードに困惑する2人。複雑な病だという知識しか持っていない小宮は舞白に目をを向けるとふと首元の傷に視線を移した。

 

 

「唐之杜さん。本当に大丈夫ですから――」

 

 

 

"未分化癌"

癌実質が分化の特徴を示さず、細胞起源が形態学的には全く把握できない珍しい症例。診断後の平均生存期間は3~6カ月程度。1年生存率は5~20%と最も予後不良な悪性腫瘍のひとつ。幸いにも今現在の日本の医療技術の進歩で昔より生存率は多少増加傾向にある。そして舞白の経過は良好だった。だが続けていた投薬を止めていた場合、かなり無理をしているに違いないと唐之杜は心配の色を見せる。

 

 

そんな未分化癌。発症理由はハッキリと分かっていないがいくつか思い当たる理由はあった。8年前の槙島が彼女に残した異物。または海外失踪中に極端な放射能を浴びた事なのか。元々甲状腺に異常があったのか――発症原因になりうる事案は多々ある。

 

 

 

 

「……異常なし。だけど若干体温が高い。」

「ずっと走ってましたし体温は自然と上がりますよ?……2人もそんな顔しないでください。私は元気ですから。」

 

舞白の首や額に手を当て状態を確認する唐之杜。様子を伺う2人の表情も心做しか深刻そうに見える。しかし当の本人は呑気に笑い、場を和ませようと必死だった。この状況下で自分の事で周りを巻き込む訳には行かない。

 

 

「ここを出たら直ぐに投与が必要ね。さすがに分子標的薬まで公安局は持ち合わせてないわ。」

「なら尚更早く進まないとですね?止まってる暇は無いです。」

「……あなた…そこまで無理して……」

 

唐之杜の傍で同じように舞白を見据える小宮。"何がそこまで彼女を動かす原動力となっているのか"。舞白の行動は明らかな自己犠牲としか思えない。

 

だが彼女の姿勢に、瞳の奥に――燃え上がる何かが見える気がした。

 

 

「無理なんてしてないですよ?私は成すべきを成す。ただそれだけです。」

 

ヘラヘラと笑い続ける舞白。そして小宮の目の前に人差し指を翳す。

 

「それに早く会いたい人も沢山居るんです。しかも!私の為のカリナさんのサインが手に入るなら何だってやります。」

 

嘘偽りのない本心。

弾んだ調子の声は沈滞した心の中でまるで花火のように弾けていた。その様子に3人の雰囲気が自然と明るくなる。

 

不安げに強ばった顔の線が解けていく――

 

 

 

 

 

 

「ちょっと休憩もできたし、先を急いで――」

 

 

意気揚々と声を上げたその時。

4人の目の前に再びホログラムのコミッサが現れる。間違いなく梓澤からの通信だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さん。公安局総務課より迷子のお知らせです――』

 

 

 

映し出された映像。そこは公安局ビルの地下に位置する広大な駐車場だった。毒ガスと思われる紫色の煙が辺りを漂い、複数の車が映し出される。

 

そして一台の車がズームされた時。とある女性が気を失った状態で運転席に閉じ込められている様子が確認できた。いち早くそれに反応したのは――

 

 

 

「アン!!!」

 

 

小宮は酷く声を荒あげた。

そう、映し出されていた女性はかつての秘書官"アン・オワニー"。都知事に就任してから彼女を解雇し、実際に姿を見るのはかなり久々だった。

 

 

「彼女は都知事の元秘書官、よね?」

「はい。俺も過去に顔を合わせたことがあります。間違いなくオワニーさんです。」

 

唐之杜と慎導はその映像をじっと見据える。そして即座に再び映像が切り替わるとオワニーの顔写真と共に加工された怪しい画像が映し出された。

 

それには"公安局襲撃事件!元都知事秘書の入国者首謀者か!?"と報道番組が作成したかのような文面が記載されており暫くすると再び映像に切り替わる。

 

 

公安局ビル内を走り回る武器を持った留置者。そしてそれを指揮するように見えるスーツ姿のオワニーの姿。状況がおかしすぎる、最初に送られてきた映像には車内に監禁されたオワニー。しかし今映し出されている映像にもオワニーがハッキリと映し出されていた。

 

 

 

『――今私は公安局ビル内から発信しています。入国者と潜在犯が暴れて手がつけられません!――首謀者は都知事元秘書の"アン・オワニー"です!』

 

 

わざとらしい演技がかった女性の声と台詞。慎導はその声にハッキリと聞き覚えがあった。

 

 

「この声、梓澤の仲間の小畑千夜です。」

「映像は意図的に作られた"偽物"。公安局ビル内部の状況を知らない一般人を騙す手段。」

「彼女のハッキング、クラッキング能力は普通じゃない。以前、炯に対しても暴力事件として偽報道映像を流していた。」

「最低……」

 

冷静に状況を判断する慎導と舞白。

全てが嘘偽りの作り話。そしてそれを作り出した元凶でもある小畑千夜の存在。あまりにも杜撰で残酷な手段に怒りを顕にしていた。

 

「なんなの……これ!アンが悪者扱いされるなんて!」

 

「梓澤が逃げ延びる為には別の犯人が必要になる。」

「それに……都知事の元秘書官がこの事態を起こしたと広めれば――」

 

慎導と唐之杜の台詞に続き、舞白は小宮を見据えると残酷な現実を口にした。

 

「例えあなたが殺され"死んだ"と報道されても世間の目には哀れみの色は映らない。擁護もされなければ批判殺到。完全に都知事であるカリナさんを陥れる罠……」

 

その言葉に大きく目を見開く小宮。酷く錯乱しそうな心をなんとか鎮めようとするが中々落ち着かない。

 

 

「助けに行かないと!」

「それですよ。俺たちをサーバーフロアへ行かせない。結局それが梓澤の狙いだ。」

「そんな……っ!」

「でも放ってはおけないわ。……どうするの?」

 

混乱する4人。

すると刹那、その状況に乗じて現れるかのように嫌な足音が耳に飛び込む。慎導と舞白は咄嗟に上部に視線を向ける。

 

 

 

「――っ!?上から来る!」

「慎導監視官!そこの階の扉に!」

「はい!」

 

 

現れたのはパスファインダーのジャックドー。先程、局長に銃口を向けていた人物だ。どうやら彼の次の目的は自分たちらしい。

 

 

 

「っぐ!」

 

 

4人は近くの階の扉を開け、なだれ込むように飛び込む。そして即座に扉を閉めると内部からロックをかけ意図的に施錠の電子盤を手斧で叩き割る。これで男の侵入を防ぐ事が出来たが時間の問題だろう。

 

 

「あの男も確かパスファインダー…」

「そうです。さっきの女の仲間。……彼らは危険です。真っ向勝負をしたところで簡単に敵う相手じゃありません。」

 

 

"なんとか別の道を探しましょう"、と呟いたその時。その台詞を割くように梓澤の声が間に入った。

 

 

 

『――都知事……小宮都知事。聞こえます?』

「…聞いてます。」

『灼君を救出できて良かったですね?うちのセカンドが大活躍してくれたお陰だ。素晴らしい。……でも一般職員は危険な状態だ。収録現場に戻って辞任宣言する気はないの?』

 

舞白は咄嗟に小宮の腕を掴む。

 

「何も答えないでください。」

 

唐之杜も慎導も小さく頷く。

彼の思い通りにはさせない。小宮を心を弄ぶような発言に反応する義理は一切ないと言わんばかりに3人は小宮を止める。……だがしかし、彼女も黙っていられるはずがなかった。

 

 

 

「……全員を解放して。言う通りにします。」

『都知事。これは交渉では無い。あなたが何を選ぶかという"選択の問題だ"。』

「選択?」

『あなたは一度選択してる。苦労を共にした相手を都知事になった瞬間に解雇。支持政党に従い入国者対策を厳格化した。気持ちはわかりますよ?――夢だけじゃ現実は動かない。』

「……いつか動かしてみせる。私は……」

『選挙は人工知能任せの元アイドル。強みは絶世の色相美人であること。でもここでお友達を見殺しにしたら……さすがに自慢の色相も危ないでしょう?』

「私の色相を曇らせる為にこんな事をやってるの!?」

 

予想通りの反応を見せる小宮。声を荒あげ混乱し錯乱寸前だった。

 

「カリナさん。落ち着いてください。大丈夫……」

 

 

目を尖らせ、手を震わせる小宮。大切な人を天秤にかけられ弄ぶ男の存在。それはかつて舞白も似た経験があった。だからこそ梓澤の言動が憎くて仕方がない。

 

 

 

 

「……人に強制して自分は安全な場所にいる卑怯者。」

「言いたいことがあるなら直接来て言えば?」

 

 

慎導と舞白の挑発とも取れる台詞。そしてこちらから一方的に通信を遮断すると険しい顔つきでそれを睨んだ。その中で唐之杜は誰よりも心配そうな表情を浮かべる。

 

 

「2人とも……そこまで言って大丈夫?」

「梓澤は計画以外のことはしませんよ。ね?舞白さん。」

「そうそう。大口叩いておいて自分で手は下さない卑怯者の言う事なんて放っておけばいいの。」

 

良くも悪くも無茶苦茶な2人。

だけど今はその無鉄砲さが逆に小宮の気持ちを安心させる。この2人ならきっと救ってくれると何故か安心感が漂うのだ。

 

「行きましょう。オワニーさんも必ず助ける。」

「……うん。」

 

 

4人は再び踵を返した。

 

 

 

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――公安局ビル外

 

 

 

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ビルの屋上の爆発、何者かの落下――

空前絶後の異常事態に一般人やマスコミが規制線外に人だかりを作っていた。

 

 

 

そして新たな情報。

"都知事の元秘書官が起こした事件"だというフェイクニュースが出回っており、更に外は混乱を見せる。

 

 

 

 

「入国者による暴動だと?」

「そんなんで公安局を占拠できるハズないだろう。……どうなってんだ。」

「相変わらず一係と二係とも通信は不能……クソっ……」

 

三係も様々な対応に追われるも状況は酷くなっていくばかり。手の打ちようがない状況に頭を抱えていたその時――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海外の傭兵が混ざっていたのかもな。」

 

2人の監視官の後ろに現れる男。その男は外務省関係者だろうか?見覚えのあるレイドジャケットを羽織っていた。

 

「あんたは?」

「外務省行動課の宜野座だ。」

 

身分証を2人に翳すと直ぐに言葉を続ける。

 

 

「――この騒ぎはウチと一係が共同捜査中だった事件に関連している。詳しいことは霜月課長に聞いてくれ。」

「課長に?」

「ドミネーターは持ってるか?」

「あぁ…勿論。」

 

監視官2人は収められているドミネーターに視線を移す。

 

「それをビルの中に届けたい。」

「でもどうやって?警備ドローンに囲まれているせいでこちらからは一切近寄れない。屋上もあの状況だ。」

 

彼らの言う通り手の打ちようがない事実。しかし宜野座には妙案が浮かんでいた。傍らで群がるマスコミ。報道規制が敷かれ使い物にならない無数の飛行型ドローン。

 

 

 

 

「……俺に案がある。手伝ってくれ。」

 

 

 

 

 

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―――公安局ビル 70階

サーバーフロア―――

 

 

 

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月明かりに照らされるサーバーフロア。

不気味な程に音がなく、鼓膜が変になるような静けさが漂っていた。

 

命懸けでたどり着いた目的地。辺りの様子からしてイグナトフ達の気配は感じられない。

 

 

 

 

 

そして、今度はサーバーフロアに詳しい唐之杜が先頭に立ち、3人を誘導する。視線の先にあるのは渡り廊下らしき構造の長い通路。左右はガラス張りで美しい夜景と雪景色が映り込む。

 

 

「―――こっちよ。」

 

 

長い通路の先の扉。その先に公安局ビルのシステムを制御できるメインサーバールームがあった。ここさえ奪取すれば勝機はほぼ確実と言っても過言ではないだろう。通信機能は勿論、外部との連携、ビル内の全防犯カメラへのアクセス権限その他諸々―――

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな希望が見えた矢先、慎導と舞白は違和感を感じていた。重要な部屋を目前に守りが薄過ぎる。ここに辿り着くと分かっているのであればパスファインダーでも留置者でも、はたまた銃撃ドローンでも設置するのが得策だろう。

 

 

 

 

「やけに守りが薄い……」

「俺も思いました。この場所こそ死守するべきなのに。」

 

 

 

 

舞白と慎導が言葉を放ったその時、唐之杜が左右ガラス張りの通路に足を踏み入れる。

 

刹那、何かを感じた2人。慎導は傍らにいた小宮の腕を引き、舞白は唐之杜に向けて駆け出した。

 

 

 

「カリナさん!止まって!」

「唐之杜さん!伏せて!」

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

 

同時に激しい銃撃音とガラスが割れ落ちる鋭い音に襲われたのだ。まるでそこに自分たちが現れることを見越していたかのような……いいや、どこからか間違いなくリアルタイムで狙われている状況―――

 

 

 

 

そしてガラス張りの廊下を手前に退く慎導と小宮。銃撃とガラスの破片から唐之杜を守るように上に覆い被さる舞白。4人はそれぞれギリギリの局面で危機から脱却した。

 

 

 

「((…外からの攻撃、恐らくは隣のビル。誰かが気づいて対処してくれれば―――))」

 

 

舞白は苦しげな表情を浮かべ心内で奇跡を信じた。

 

 

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「―――ッ!?」

 

 

微かに鼓膜を揺らす音。公安局ビルの隣に位置するビルから放たれる怪しい光。恐らくは銃撃、よく目を凝らすと照準器のような光も目に入った。

 

宜野座は即座に状況を掴むとそれを睨みつけ、怒り混じりの角のある声色で言葉を放つ。

 

 

「あれが伏兵か!」

 

 

敵はビルの内部だけでは無い。奴らは外にまで罠を――伏兵を仕込んでいたのだ。

 

 

 

公安局ビル前から踵を返す宜野座。

そのすぐ側で対応におわれていた三係の監視官たちは驚いた様子を見せ、慌てた口調で呼び止めようと試みる。

 

 

 

「おい!あんた!!」

「どこに行くんだ!ドミネーターを―――」

 

「ドミネーターはお前たちに任せたぞ!手筈通りだ!」

 

 

立ち止まることなく彼らに向けて一瞬振り返りその場から姿を消す―――

 

その伏兵の狙う先に、まさか舞白の姿があるとは知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―――70F サーバーフロア

 

 

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ガラスの破片、複数の銃創。辺り一面に広がる凄まじい光景に先程の出来事が大事だったということが分かる。

ガラス面の窓からは冷たい風が静かに吹き抜け、銃撃は止まった様子。しかし再び立ち上がりガラス窓から頭を覗かせれば再び銃撃に合う事が予想できる。

 

隣のビルに設置されているであろうドローン。恐らくは高精度のセンサーが搭載された自動小銃に違いない。人影が映ろうものなら死ぬまで追撃してくるだろう。

 

 

 

「…唐之杜さん、怪我は?」

 

 

舞白は覆い被さる体をゆっくりと起こし唐之杜と共に安全な場所に再び戻る。パラパラと背中からガラスの破片が落ち、鬱陶しそうにそれを払い唐之杜の様子を伺った。

 

 

 

「大丈夫…ありがとう。」

「よかった。それにしても危なかったですね。」

「2人の咄嗟の判断が無ければ今頃どうなってたか…」

 

 

唐之杜の腕を引く舞白。そしてゆっくりと立ち上がる唐之杜。2人は荒れた通路をじっと見据え茫然としていた。

あと少しで…この先の部屋にさえ飛び込んでしまえばこっちのものなのに。たった数十メートルのこの距離がとんでもなく遠くに感じてしまう。

 

 

 

 

 

「―――いててててっ……」

「ごめんなさい慎導君!」

「いえ、俺が思いっきり引いて……カリナさんこそ大丈夫?」

「私は平気よ!慎導君…無茶ばかり。」

 

 

 

 

危機を脱したかと思われた4人。

しかし再び4人の元に影が忍び寄った―――

 

 

 

 

 

「――逃げても無駄だ。都知事を渡せ。」

 

 

パスファインダー、ジャックドーの姿。

先程一時的に逃げ果せたもののあれは時間稼ぎに過ぎなかった。

 

 

「クソっ!やっぱり!」

「慎導監視官!2人を連れて向こうに―――」

 

慎導に向けて退避するよう指示を出す舞白。しかしその言葉は途切れ、彼女の動きが止まった。

 

 

その"向こう"側に怪しい人影が薄らと見えたのだ。自分たちの行く手を阻むように人型の戦闘ドローンがこちらへとゆっくり向かう姿。機械的な足音が徐々に近づくと唐之杜と小宮の顔に怯えの色が現れる。

 

 

ジャックドーと人型ドローンに挟まれる4人。舞白は悔しそうに眉を顰め、胸元のガンホルスターに手を伸ばす。

 

 

「"狡噛"舞白。今度こそ貴様を殺す。」

「簡単に殺されるわけないでしょ。」

 

ジリジリと更に近寄るジャックドー。視線の先に映るドローン。絶望的な状況に舞白と慎導は息を飲む。

 

銃火器を扱う相手、そして戦闘能力も体力自体も人間離れしたドローン。2対2で数は対等にしても尚且つ2人を守らなければならない。そして持ち合わせている武器は舞白の銃のみ。慎導はドミネーターは愚か、非常用の手斧しか戦えるものは無い。

 

 

 

「慎導監視官。何とかドローンを避けて3人で抜けられますか。」

「…はい。それなら何とか。」

「あの男は私が。イグナトフ監視官たちは北側の非常階段から現れるはず…そこまで駆け抜けて可能性にかけるしかなさそうです。」

 

 

舞白はジャックドーを。そして丸腰に近い慎導はドローンの隙を突き3人でこの場から逃げる。そして向かう先はイグナトフ達が現れるであろう北側通路。運が良ければ合流できるはず。―――それしか方法は無い。

 

 

 

「((―――やるしかない。))」

 

刹那、舞白は唇をかみ締め、男に向けて銃口を向ける。白髪の老爺と目が合ったその時、男の瞳に根深い復讐心が燃えていた。

 

 

 

銃口と銃口が向かい合うその瞬間、大勢の乱れた足音が通路に響いた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃああああ!!」

 

 

スーツ姿の男が大声を上げながら人型ドローンへと突っ込む。その背後から現れた女性も男と同じくドローンに掴みかかるといとも簡単にドローンは床に叩き落とされた。

 

 

「入江さん!如月さんも!」

「助けにきたぜ!監視官!」

 

入江と如月。

2人は慎導達を守るように立ち塞がった。

 

 

その光景に呆気に取られるジャックドー。男は思わず銃口が大きくブレると舞白はそれに乗じて相手に思いっ切り体ごと突っ込む。

 

 

「っ…ぐぅ……!」

 

男の上に跨るも体格差と力の差もあり相手の銃で体を押し返されてしまう。そして不意をつかれた舞白はそのまま倒れてしまい形勢逆転。逆に舞白の上に跨った男は銃口を頭に押し付け大声を上げた。

 

 

「―――死ね!!」

 

必死に藻掻く舞白。しかしそれは敵わない。

それを離れた場所で見ていた唐之杜達が反射的に声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞白!!!」

 

 

 

一際大きな男の声が舞白を呼ぶ。

それと同時にジャックドーの銃が吹き飛び、慌てた様子で舞白から体を離した。

 

 

 

「…チッ…狡噛慎也!」

「待て!死に損ない!」

 

 

この状況だと完全に不利だと考えた男はこの場から背を向け逃げ出す。狡噛は立ち去る男に鋭い睨みをきかせるも真っ先に倒れ込む妹へと手を差し伸べた。

 

 

「立てるか?」

「…ありがとう…お兄ちゃん。」

 

 

久しぶりに視線を向け合う2人。先程まで鋭い目付きを放っていた姿が嘘のように妹を見つめるその瞳は優しいものだった。

 

最後に顔を合わせたのはひと月前の茗荷谷以来。しかもあの時は舞白が狡噛と宜野座の計画を邪魔するという"敵側"の立場。

 

 

 

 

 

―――"お前を信じてる。舞白"

"その先に必ずお前は現れる"―――

 

 

 

 

それでも兄は妹を信じた。

だからこそこの状況が生まれたのかもしれない。

 

手を取り合い…仲間として、兄妹として再会できたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入江!如月!」

 

 

そしてその直後、人型ドローンに向けて発砲するイグナトフも現れる。しかし強靭なドローンは活動を止めることなく入江達に襲いかかる。

 

 

「弾の無駄だぜ?監視官。」

 

ニヤリと余裕気な笑みを浮かべ、再びドローンに飛びかかる入江。それを援護するように攻撃を仕掛ける如月も怖気付く事なく立ち向かう。

 

 

 

「アレは俺と如月に任せろ!」

「監視官は都知事と分析官の保護を!」

 

「分かった、頼んだぞ!」

 

 

 

人型ドローンを上手く別の場所へと誘導する入江と如月。そして難を逃れた慎導達はようやく気持ちが鎮静すると彼らもまた再会を喜び合った。

 

 

 

 

「炯!」

「灼!」

 

 

一度はいがみ合った2人。互いを思い合う大切なザイルパートナー。

 

 

舞白と慎也

灼と炯

 

 

それぞれが葛藤しあった中で再び手を握り合う。

 

まるで点と点が線で繋がり合うように。そしてその線はより太く強靭なものへと変化していく―――

 

 

 

 

 

 

 

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