whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
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―――20F ドミネーター保管庫
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武器を手にするためドミネーター保管庫へと漸く辿り着いた霜月達。3人は周辺を警戒しながら歩みを進め、同時に荒れ果てたフロアに眉を顰める。暴動を起こしている留置者たちの暴れた痕跡がそこら中に残されており、より一層嫌な予感を感じていた。
「―――ここがこの状態ってことは…」
無理やり開けられたであろう保管庫への入口扉。そして既に保管庫は荒らされドミネーター全てが破壊されていたのだ。
「ドミネーターが…壊されてる……」
「こりゃひでぇ…」
「確かに舞白の言う通り。私も相手の立場ならそうするわ……」
ドミネーターは尽く全て破壊されており、床には機械片があちらこちらに散らばっていた。無惨に転がるドミネーターにそっと手を伸ばす霜月。敵の隙のない作戦に苛立ちを見せる。
『袋の鼠だ!バァーーーカ!公安局最強の暴力装置を放っておくか?残念賞やるよ。』
その瞬間、保管庫内に女性のふざけた声が響き渡った。どうやら、、まんまと敵の策に陥れられたらしい。事を直ぐに理解した3人は自然と体を身構え、こちらに近づいてくる複数の足音に耳を傾けた。
「―――敵の罠にハマったわね。」
「どうする?課長。」
「保管庫前の扉はなんとかこちらで制御してますが…時間の問題かと…」
「……"アレ"はバレてないはず。」
「アレって、さっき言ってた秘密兵器の事か?」
先程、舞白との会話の中で現れたワード。何やら霜月は廿六木と雛河でさえ知りえない"秘密兵器"とやらを隠し持っている様子。
すると霜月は保管庫の片隅に移動するとロックがかかったままの保管庫に伸ばし、デバイスを経由して解錠したのだった。
―――そして"秘密兵器"を手にした霜月は若干興奮した様子で笑みを浮かべる。
「これよコレ!国家権力なめんなよ!」
大型のショットガン。
雰囲気はドミネーターと全く同じで若干の形状が違うのみ。怪しい青い光を放つそれを廿六木に手渡すと彼の脳内に思考性音声が流れる。
『携帯型心理診断、マルチ鎮圧執行システム ドミネーター"SG型プロトタイプ"起動――ユーザー認証 廿六木天馬執行官――』
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迫り来る伏兵達。留置者達を先頭にその後ろに人型ドローン…そしてパスファインダーのヴィクスンの姿があった。
開かれる保管庫前の頑丈な扉。
その扉から現れたのは大きなドミネーターを抱えた廿六木。そして銃口を向かってくる伏兵達に向け、次々とターゲットを捉えていく。
『―――犯罪係数 オーバー100の対象を複数検知。対象を制圧してください。』
刹那、複数の閃光が放たれると倒れる男たち。通常のドミネーターとは違い対象者を一気にパラライザーモードで執行できるという優れもの。今のこの状況でこのドミネーターがなければ明らかに数で既に押し負けていた可能性が高い。
「うっひゃあああ!すげーぞ!これ!」
そんな超万能ドミネーターに興奮する廿六木。
そして再び発射しようと構えた瞬間、やけに熱を帯びたドミネーターは赤く点滅する。
『冷却中。再試行まで暫くお待ちください――』
「うっ、なんだよ!クソ!」
それなりの能力を持つものにはそれなりの影響がある様子。通常のドミネーターのように続けて何度も撃ち続けることはできないらしい。
再び迫り来る複数の人影から慌てて逃げ出し、廿六木は霜月達の元へと戻る。
「課長、…コレって……」
「以前私が提案したショットガン型ドミネーターの試作モデルよ。」
「マジかよ……」
「危険すぎるって局長がお蔵入りにしたけど……やっぱり役に立つじゃない!」
顔一面に満悦らしい笑みを零す霜月。雛河と廿六木もそれに釣られるように微かに挑戦的な笑みを頬に浮かばせる。
『―――冷却終了。システムとのリンクを再開――』
「よっしゃあ!またぶっぱなしてくるぜ!」
「僕も援護します!」
「一先ずエレベーターが復旧するまで何とか持ちこたえるわよ。―――頼んだわよ!廿六木!雛河!」
あとはエレベーター復旧までなんとか持ち堪えるのみ。3人はそれぞれが協力し合い窮地を脱するために動き出す。
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―――70F サーバーフロア
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逃走したジャックドー。そして入江と如月と共に消えた人型ドローン。一先ず難を逃れた他のメンバーたちはサーバールームに続く通路の前で漸く合流を果たした。
「すまなかった、灼。」
「え?」
「今のうちに謝っておく。」
「……なんだよそれ。―――後で1発殴る。」
「フッ……ああ。」
慎導とイグナトフは互いに笑みを零し、いつものように拳と拳をコツンとぶつけ合う。
この状況下ではあるが微笑ましいその光景に唐之杜と小宮も安堵の頬笑みを浮かべていた。
「とりあえず、みんな合流できたわね。―――"慎也君"達も…本当よかった…」
なによりも唐之杜は狡噛兄妹の再会を喜んでいた。2人の過去をまるで親のように見守ってきた彼女にとって感慨深いものがある。
「―――舞白。俺はアイツを片付ける。お前はここに残れ。」
「だけどあの男は?1人じゃ危険…」
「俺1人で十分だ。それにもう1人のパスファインダーも残ってる。戦力になるお前は残るのが得策だ。―――それと…」
狡噛はデバイスに視線を落とすと外で援護に回る宜野座へと通信を繋ぐ。繋いだ相手に気づいた舞白は無意識に緊張しているのか息を飲んだ。
『―――狡噛!?』
「ギノ。こっちは無事合流できた。」
『よかった。俺は伏兵を叩きに向かってるところだ。公安局ビル目掛けて狙撃ドローンか何かが仕掛けられてる。』
「了解だ。そのまま外から支援を頼む。」
刹那、狡噛の手が舞白の腕へと伸びる。
グイッと腕を引かれた舞白は緊張した面持ちで画面を見据え、ゆっくりと口を開いた。
「伸元さん。」
『……舞白か?』
「うん。」
『…怪我は?』
「大丈夫。」
『そうか。それなら良かった―――』
宜野座の声は穏やかな波を保ったままだった。それはついこの前まで翻弄されていた様子は全く漂っておらず、ただただ舞白を按じていたのだった。
『残念だが俺はビルに入ることができない。……そっちは頼んだぞ、舞白。』
「うん。頑張るね。」
『ああ。また"後で会おう"―――』
"また後で―――"
その言葉には沢山の想いが込められていた。きっと彼女は無事にやり遂げる。自分の信じた道を。自分が成すべきこと。…そして必ず、また会える。
通信が切れたその時、兄の大きな掌が舞白の華奢な肩に添えられた。
「俺もギノも…正しさを求めるお前を信じてる。今やるべきことをお前は果たすんだ。」
「―――はい。お兄ちゃん。」
自分を見上げるその瞳。自分とよく似た瞳の雰囲気に吸い込まれそうになる。いくら歳を重ねても変わらない真っ直ぐな瞳の光。澄んだ眼差しで心を覗き込むように見つめられると愛おしくてたまらない。―――大切な妹だ。
「……頼んだ。舞白。」
刹那離れる兄の大きな掌。
狡噛はジャックドーを追うために皆の前から走り去る。
その後ろ姿を、兄の逞しい背中を。
離れていく兄を心配する気持ちを顔に出さず、腹に一物を隠してじっと抑え込んでいるような表情で見送った。
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「―――まずはサーバールームだ。」
「炯、俺は地下に行く。オワニーさんを保護しないと。」
「……お前一人でか?」
「梓澤は都知事とサーバールームに戦力を傾けた。今なら大丈夫なはず―――」
イグナトフと慎導はこの後の作戦を立て始める。その傍で様子を伺う唐之杜と小宮はどこか心配気だった。一度合流したものの梓澤の仕掛けた新たな罠に対処するために再び分断される一行。
舞白は特に口を出す様子もなく、通路の一部の壁に寄りかかり辺りを警戒していた。
「だがエレベーターは使えないぞ?」
「ドアを開けてシャフトを降りる。」
「わかった。……この銃を持っていけ、何が起こるか分からない。」
「大丈夫、それは炯が持ってて?代わりにスタンバトンを。」
「わかった。」
イグナトフは手に持っていた銃を戻し、代わりにスタンバトンを手渡す。
「灼君。ダンゴムシも持っていく?」
「数が足らなくなります。サーバールームに入れば通信は取り戻せますよね?」
「勿論、私を信じてちょうだい。」
「それならそれを待ちます。……言われずとも信じてますよ、志恩さん」
エレベーター扉に示された階層を表す"70"の数字。慎導は手斧で扉をこじ開けると無限に広がる薄暗闇を見下ろす。グラッとくるような迫力のあるその眺めは恐ろしいものだ。常人ならこれを身一つで降りようとも登ろうとも考えもつかないはずだ。例え落下したとしても落ちている最中に気を失う程に恐怖を感じるものだろう。
「ふー……。にしても舞白さん。これを登ってきたなんて。」
元々身体能力に自身はあるが…いざそれを目の前にすると若干の恐怖が浮かぶ。これを登ってきた彼女はいい意味で"異常"だ。
不安げにため息を吐いた慎導。
それを1番気にかけていた小宮はそんな彼にゆっくりと近寄る。
「慎導監視官、必ず戻ってきて。私の警護役なんだから。」
「はい。必ず。」
小宮は手にしていた非常用のガスマスクを手渡した。下層階……オワニーが居るであろう地下駐車場には毒ガスが蔓延している。そのマスクに想いを託すように彼に預ける。
「―――お互いの"ザイル"を手放しはしない。……無茶はするなよ、灼。」
「あぁ。」
"お互いに危険や困難を分かち合う"―――所謂、ザイルパートナーというものだ。強い信頼関係を築いていた2人にしか口にできないそのワードを聞いた舞白はその2人の関係性が垣間見え、微かに笑みを浮かべていた。
「舞白さん。炯達をよろしくお願いします。あなたがいれば安心だ。」
そして最後に慎導は舞白に言葉を放った。銃を片手に警戒する彼女の姿はまさに"傑人"という呼び名が相応しいほどに心強かった。安心して自分はオワニー救出に専念できると口元に弧を描く。
「慎導監視官。どうかお気をつけて。」
「はい。ありがとうございます。」
慎導は舞白に向けて右手を伸ばす。舞白もそれに応えるように義手の右手を差し出し2人は手を握り合う。
お互いに"自分と似ている不可思議な感覚"に気づいていた。
"従来の人類の規範に収まらないイレギュラーな人格の持ち主。他者に共感することも情に流されることもなく、人間の行動を外側の観点から俯瞰し裁定出来る資質を持つ者"。
生まれつき「罪人」であり「聖人」である存在。 ―――"免罪体質者"。
握手を交し、互いの瞳を見据え合う2人。言葉は発さずともその感覚を語らうようだった。
そして離れる手と手。
慎導は皆に背を向けるとエレベーターシャフトへと消えたのだった。
「―――よし。俺たちはサーバールームへ急ごう。」
「それより狙撃を何とかしないと。外から援護に回ってくれてる伸元さんが何かしらの手を打ってくれてるはずなんですけど……」
「一先ずそれを待つしか無さそうだな。」
「はい。他にも罠を仕掛けてくるかもしれない。警戒は続けましょう。」
「ああ。」
目的地を目の前に足止めを食らう4人。気の抜けない状況に再び緊張を走らせていたその時、イグナトフから何かの通知音が聞こえた。
彼が懐から取り出した端末。それは舞白が梓澤から渡された専用デバイスと全く同じ形状。舞白はそれに気づくも顔には出さずじっと様子を伺う。
「―――悪い。ちょっと待っててくれ。」
「監視官?」
その場を離れるイグナトフに声をかけ、不思議そうに視線を送る唐之杜。傍らでは壁に背を預け、何も発さず舞白はそれを見送る。
「………………」
3人から距離を取るイグナトフ。そして相手からの通話に応答すると嫌に温厚でのんびりとした男の声が発せられた。
『――どーも、新入り"サーティーン"。空港じゃ大変だったでしょ?』
「梓澤廣一。……代銀はお前のご主人様か。」
『持ちつ持たれずの関係だ。それはさておき、君が小宮カリナを処理すれば人質は解放する。その役目を放棄した怖いもの知らずの子がいてね?困ったものだよ、本当に……』
「宜野座舞白だな。」
インスペクターとしての職務を放棄した舞白。それを今度はイグナトフに擦り付けようとしているのだろう。まるで相手の心を弄ぶような撫で回す声色に吐き気さえしそうだ。イグナトフは怪訝な顔つきを浮かべる。
『彼女はインスペクターとしての仕事を放棄した。君はその仕事を放棄するべきでは無い。』
「そんな事をすると思っているのか?俺も彼女と同じだ。」
『ハハハッ……威勢いいね?いい返事をしないと奥さんはまた隔離室行きだ。舞白ちゃんねー…彼女は犠牲を覚悟に動いてるみたいだけど、アレは運がいいだけだ。下手をすれば義父も仲間も死んでいただろうに。』
「脅しのつもりなら無駄だ。」
『選択の問題だよ。自分じゃ何一つ決められない都知事か、君と奥さんに自由を与えてくれるビフロストか。――あんなお飾り政治家の為に相棒まで失うつもりかい?』
「……何?」
"相棒"という台詞に反応を示す。まるでどこかで全てを見透かしているかのような言葉はイグナトフの心情を掻き立てる。
『彼、今オワニーさんを助けに行ってるんでしょ?何の罠も無いと思う?大事な相棒を失った君を想像するだけで悲しくなる。涙が出そうだ。』
「……いいか、お前のふざけたゲームは直ぐに終わる。俺"たち"が終わらせる。」
わざとらしい演技じみた男の言葉を鵜呑みにするのは危険だ。それも罠の内なのは分かっている。捉えどころのないニヒリスティクな男の言葉に惑わされるわけにはいかない。
それを遮断するかのようにイグナトフは言葉を吐き捨てデバイスを再び懐へと忍ばせるのであった。
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「――見つけた。アレが伏兵か。」
宜野座は単身で公安局の隣に位置する高層ビルへと潜入していた。理由はひとつ。公安局ビルを乗っ取った犯人が仕掛けた伏兵――遠隔の狙撃ターレット。
それは薄暗闇で怪しく光沢を放ち、公安局ビルの70階に向けて照準が合わされていた。
「((どうやら照準は固定されてるな。近づいても問題な――))」
ターレットへ近づこうとしたその時、宜野座の背後から大きな重みのある足音が通路を伝って響き渡る。銃を構え背後へと視線を向けたその時、黒い大きな影がのっそりとこちらへ向かってきていた。
「……次から次へと……全く。」
現れたのは公安局ビルにも投入されている同型の人型ドローン。それはゆうに宜野座の身長よりも更に高く、強靭な肉体。一筋縄では倒すことは出来ないものだろう。
握っていた銃を即座に構え相手に何発も撃ち込む。しかしドローンには一切効いていないのか倒れる気配は無い。
間合いを取られる宜野座。するとドローンの猛攻撃に圧されていく。
「くっ…………ぐ…………!」
手にしていた銃を弾き飛ばされ丸腰状態に。重い一撃が次から次へと宜野座の体に狙いを定め放たれていくが此方もヤワでは無い。上手くそれを交わしていき何とか相手の動きを掴んでいく。
「((人型ドローンの急所。電源ユニットが仕込んでいるのは頭部――))」
幾度となく止まらない猛攻撃。しかし宜野座は冷静だった。相手は一筋縄ではいかないのは分かっている事だ。だからこそ冷静に相手の盲点を突く。
「((頭は弾さえ貫通しなかった。ならば比較的狙いやすい首を貫いて頭部をもぎ取る――))」
狙いを定め刺し貫くほど睨めつける。
刹那、ドローンの左手が変形し刃を剥き出しにするも宜野座は退くことなく間合いを詰めた。
頬に掠れる刃の感触。
それと同時に宜野座の鋭い左手がドローンの首元目掛けて突き刺さった――
「――便利なもんだ。」
自らを嘲るように目から口へかけて冷たい笑いが動く。失った左腕。機械仕掛けの肉体の一部も今となれば便利なツールのようなものだ。"ものは使いよう"だなんて、自虐にも程があるかもしれないが……
今は思う。
左腕を失ったあの時。それは舞白を救った事による代償――
「なかなか悪くない。……お前に感謝してるよ。舞白。」
ドローンの首から手を引き抜きそのまま頭を蹴り飛ばす。重厚感のある音を鳴らしながら床を転がる機械の頭。
そして傍らのターレットの電源を落とし、公安局ビルへと視線を向けた。
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――70F サーバーフロア
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「ん……?」
サーバールームへと繋がる通路の前で待機する4人。するとその時、イグナトフの監視官デバイスから通信音が鳴り響くとそれに応答する。
『――狙撃ターレットは今無力化した。』
通信は宜野座からのものだった。
サーバールームへと続く長い通路を阻んでいた狙撃ターレットを無力化。これで漸くシステムを奪い返せると4人の表情に明るさが戻る。
「宜野座君!ありがとう。」
「本当に助かりました。感謝します。」
イグナトフの隣から顔を覗かせる唐之杜。そして微笑を浮かべ、イグナトフは素直に礼を述べる。
『それともう1つ。役立つものを送った――』
「役立つもの……ですか?」
「……あれ!何かこちらに向かってきてます……」
役立つものと口にする宜野座に不思議な様子のイグナトフ。すると割れた窓から微かに機械音らしきものが聞こえ、2つの浮遊物がこちらに近づく。小宮は真っ先に気づくと指をさし、思わず声を上げたのだった。
2台の空撮ドローン。
恐らくは報道関係者が使うような業務用のものに違いない。その空撮ドローンは何かの物体を抱えておりイグナトフ達の前へその荷を下ろした。
『先輩からのプレゼントだ。』
それは2台のドミネーター。先程外で待機していた三係に宜野座が頼んでいたもの。
公安局ビルの外に群がる報道陣たち。それを逆手に取り、ターレット無力化後にビル内に送り込む――
それが宜野座の妙案だったのだ。
「助かります。これでサーバーを奪い返せる。」
『反撃開始だな。……唐之杜、頼んだぞ。』
「ふふっ。女神様に任せなさいな?」
更に士気が高まっていく。
その様子を背後から見守る舞白はどこかホッとした笑みを零す。するとそれに気がついたイグナトフは気を利かせ宜野座にある提案を持ちかけた。
「――舞白さんと話さなくて良いのか?」
『大丈夫だ。それに話せば長くなる。……後でまた直接話すさ。』
「(("ノブ兄"――))」
舞白は割れた窓から宜野座が居ると思われる高層ビルに視線を向けた。姿はもちろん目視では確認できない。だが、そこに居るというだけでやけに胸が高鳴る。
近くにいなくても同じ目的を果たすために肩を並べて共に歩いている。
"早く会いたい"
"彼の手を握りたい"
――直接会って、あの声で名前を呼んで欲しい。
「――ありがとう。」
無意識に漏れる小さな霞んだ声。
それを静かに小宮は見つめていた。彼女は傑人だと誰もが口にした。逞しく人間離れした超人だと。だが小宮の目の前の少女は人間らしさのある年頃の普通の"女の子"だと再確認したのだった。
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――46F 分析室ラボ
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公安局ビル内にドミネーターの反応。
使えるドミネーターは全て破壊したはず。……とすれば――
「――とうとうドミネーターが来た。」
室内に響く、小畑の不機嫌で投げやりな声色。モニター前のキーボードから手を離し、椅子に全体重をかけ脱力すると力なさげに天井を見上げた。
『…どうもしないさ。予定通り進行するだけ。』
「ファクター2の処理も手こずってる。どうもドミネーターとは違う反応が出てやがんだよ!クソがっ!」
『大丈夫、大丈夫。落ち着いて、小畑ちゃん。』
「鼠みてぇにしぶとく群れやがって。」
『俺たちは追い詰められる"猫"ってワケか……やだねぇ〜』
「呑気に言ってる場合か!このクソ野郎!!大体"あの女"が居るせいで計画が全部崩れてるだろーが!てめぇの采配ミスだからな!梓澤!」
『まあまあ。想定の範囲な――』
一方的に遮断された通信。
苛立つ小畑を他所に余裕気で呑気な梓澤。
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「うーーん……弱ったねぇ。」
小畑と同じく椅子に深く腰かけ、体を脱力させる梓澤。会議室のテーブルに両足を乗せ天井に視線を送る。
「やっぱり、君たちは最高に面白い。慎導灼くんに宜野座舞白ちゃん。――例えるなら、そう。アチーバー?ソーシャライザー?いいや、エクスプローラーか……はたまたキラー…………」
ゲーミフィケーションの要"バートルテスト"に用いられるカテゴリ名を呟いた。
"単独行動と集団行動のどちらを好むか"。そして"関心の対象がゲーム自体か他プレーヤーか"という2つの基準を使って、ゲームのユーザーを4種類に分けるという心理テストの様なものだ。
しかし梓澤は分かっていた。
"彼ら"はそんな簡単な枠にはハマらない。
「プレイヤーとして最高だ。俺も久しぶりに弾むよ。」
梓澤の顔にじんわりと微笑みが浮かぶ。それは幸福と興奮の混じった笑顔だった――
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