whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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裏切りは突然に

 

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些々河哲也との接触から2日後

 

 

 

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外務省東京本庁

―――行動課オフィス

 

 

 

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特別捜査官の4人はそれぞれのデスクへと集まり、課長の花城はその傍らで4人を見下ろす。それぞれのデスクに、ここまでの事件の流れや各情報が載ったものをモニターに写し出すと、花城は口を開く。

 

 

「あれから別部隊が調べたところ、証拠となるトランスポート社の違法帳簿を入手。これで、些々河も与根原も言い逃れはできないわ。」

 

4人の前に2人のID情報が表示されると共に、入手した帳簿が現れる。間違いなく彼らトランスポート社は、違法なサブプライムローン詐欺を行い、金儲けを企んでいたらしい。

 

 

「それと……。どうやら、掴んだ情報によると、あなたたちの古巣の刑事課一係が与根原と接触しているわ。それに、被害者のリック・フェロウズの配偶者とも……。案外早かったわね?」

 

花城はニコッと口角に笑みを零すと、捜査官の4人は顔を見合わせる。

 

 

「ちょうど良かったな。公安局は与根原を軸に捜査。俺達は些々河を追うことが出来た。」

 

「新任の監視官とやら、なかなか手強そうですね」

 

宜野座は隣の須郷と視線を合わせれば、2人はそのように言葉を発す。そしてその言葉に続けるように、舞白と狡噛も口を開く。

 

「彼らの行動からして、些々河の情報も掴んでるはずですよね?

偽装事故の一連の流れは、ある程度掌握済…」

 

舞白は姿勢良く椅子に座り、花城へと視線を向けていた。

 

「……問題は、この一連の流れを設計した黒幕だ。狐を操る本星……」

 

狡噛は背もたれに深々と腰掛ける形で、2人のIDを睨みつけるように視線を落とすと、グッと眉を顰めていた。

 

 

「まあ、私たちが用意した出島のトラップ企業に、まんまと騙されてくれてる様子だし。あとは些々河から全て聞き出すのみよ?舞白社長さまさまね?」

 

「……課長、本当にあの時は絶対楽しんでましたよね?誰よりも」

 

はぁーー、と呆れ笑いを浮かべ、息をつく舞白に、花城はクスクスと笑みを浮かべていた。

 

そして今度は、とある施設の防犯カメラ画像を写し出す。

 

「それと、数刻前に某マンションにて、些々河と与根原の姿を確認。どうやら与根原は、些々河が手引きしてる別の"どこか"に逃げるみたいよ?」

 

狡噛は真剣な眼差しでその画像を見つめると、ふとある事を呟く―――

 

「――消されるな。与根原は。」

 

花城を含む他の4人の視線が一気に狡噛へと向けられる。

 

 

「消される?……だが、コイツらは学生時代から繋がりのある旧友だと聞いているが?」

 

宜野座は狡噛の発言に対し疑問を抱く。すると狡噛兄妹はお互いに目を見合せると、先に妹の舞白が口を開いた。

 

「一連の偽装事故、そしてトランスポート社が行ってきた悪事を知るのは些々河と与根原のみ―――」

 

そして続けて、兄の狡噛が言葉を発す。

 

「――この前のトラップ企業の接待に、些々河しか現れなかった時点で怪しいとは踏んでいた。旧友といっても、所詮ビジネスを行う一人の人間に過ぎない。裏切りのリスクのある芽は摘んでおいた方が得策だからな。」

 

舞白と狡噛の言葉に妙に納得してしまう3人。

 

 

「甘い蜜だけ啜って、あとは裏切る……ですか。嫌な関係性ですね。」

 

「旧友と言えど、元は赤の他人。潔く不要になったら切り捨てる。……狐たちならやりかねないな。」

 

やれやれ、と言わんばかりの反応を見せる須郷と宜野座。

そして花城は咳払いをし、改めて4人へと視線を向ける。

 

 

「作戦は予定通り今夜決行よ。対象の些々河は有明空港に現れる。航空機に搭乗したところで身柄を押える。……狐の彼には、聞かないといけないことが山ほどあるわ」

 

舞白はデスクの上に置かれている些々河の名刺に視線を向ける。いよいよ、本星である"狐"のひとりを取り押さえることが―――

 

 

「些々河の確保は私と須郷で行うわ」

 

花城は須郷に視線を送ると、須郷はこくりと頷く。舞白は自分の名前を呼ばれないことに不思議そうにすると、名刺から花城へと視線を動かす。

 

 

「課長、私はそっちじゃないんですか?あくまでトラップ企業の社長という"てい"で接触したのは私ですし。」

 

また同じように変装をして、確実に些々河を航空機に乗せるのが妥当では無いのか?と意見するも、花城は首を振るう。

 

「舞白、狡噛、宜野座。あなたたち3人には別の役割があるの。……特に、舞白。あなたは刑事課の課長と仲がいいでしょう?」

 

花城の言い回しに察した3人。

なるほど、と手のひらに拳をポンッと叩くと、舞白はニッと笑みを浮かべる。

 

 

「―――足止め、ですね?課長」

 

万が一、面倒なことになった場合の切り札としての判断だろうか。霜月と腹を割って話せるのは間違いなく舞白だった。

 

 

「公安局に些々河を奪われる訳にはいかないのよ。彼らも些々河を追っているのは間違いない。……彼らに持って行かれたら、全てが水の泡よ」

 

やっと"狐"を捕らえることができる。易々と公安局に引き渡すつもりなど花城は考えているはずがなかった。

 

「もし、空港に公安局刑事課の人間が現れたら、あなた達3人はそれを制止しなさい。勿論、銃火器の使用は禁止よ?相手に怪我を負わせない程度にね?」

 

「「了解」」

 

舞白、狡噛、宜野座は花城の指示をすんなりと聞き入れる。公安局刑事課の人間……、監視官、そして執行官。彼らもそれなりに身体能力は高い。万が一複数人を相手にすることになれば、こちらも本気を出さなければ押さえ込むことはできないだろう。

 

 

 

「ところで、舞白」

 

 

一旦話が終わったと思ったのもつかの間、花城は"そういえば"と言いたげに舞白にとある事を問いかける。

 

「あなた些々河に何を吹き込んだの?」

 

「……はい?」

 

一旦話が終わったと思ったのもつかの間、花城は"そういえば"と言いたげに舞白にとある事を問いかける。

 

 

 

「何を吹き込んだって……特に、何も……普通に取引を…」

 

問いかけに"全く意味がわからない"と言いたげな舞白。すると花城は些々河から舞白宛に送信されたメールを見せる。

 

 

"貴方のような美しい方に―――"

 

"後日食事でも―――"

 

綴られていたのは明らかに好意的な言葉ばかり。そもそも些々河は与根原と"そういう関係"でもある、と耳にしていたため、女性にはそこまで興味が無いのでは?と内心思っていた。

 

しかし、恋愛対象、肉体関係はどちらでも女性は対象のようだった。

 

 

「明らかにあなたに好意を寄せてるみたいだけど―――」

 

「……あー、ちょっとだけ、心当たりが……」

 

舞白が誤魔化すような発言をすると、宜野座は頭を抱え、ため息を漏らす。

 

「……舞白」

 

「そんな変なことをした訳じゃないですよ?ちょっとその気にさせただけで…」

 

"違うから!"と目の前のデスクの宜野座に訴えかけるも、どうやら若干不服そうな宜野座。

 

 

「まあ、その甲斐あって些々河は隙を見せてるんだから、良しとしましょう。ねえ?宜野座」

 

 

「…俺に振るのはやめてくれ、課長。」

 

変な勘違いをされている、と舞白は慌てると必死に宜野座に訴え続ける。

 

 

「大体、あの人が私の太股触ってきたり―――」

 

 

「「太股!?」」

 

男性3人が同時に反応すると、更に言葉を発しづらくなる舞白。これは余計に墓穴を掘ってしまったと後悔することに。

 

 

「完全に下心丸出しだな」

 

「……((これは任務、任務だ―――))」

 

「何て大胆な…」

 

狡噛、宜野座、須郷がそれぞれ勝手に話を大きくするような態度を見せると、舞白は思わず席から立ち上がり、両手を震わせる。

 

 

「もう、その話はいいですから!早く今夜の準備に取りかかりましょう!…さ、先にお昼頂きます!」

 

"失礼します!"と小走りで、恥ずかしそうにオフィスから出ていく舞白に対し、花城は可笑しそうに小さく笑みを零し。男性陣達はそれとなく気まずい雰囲気を醸し出していた―――

 

 

 

・・・・・・・

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・・・・・・・・・・・・

 

 

時は数刻遡り、午前8時―――

 

 

 

公安局ビル 55F

―――課長室

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

広い空間の奥に置かれた大きなデスク。そこへ席を置いているのは刑事課長の"霜月"。そしてそのデスクの前に佇むのは新任監視官の2人―――

 

慎導とイグナトフだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監査機関へ リーク?」

 

霜月は目の前に佇む2人に"何を今度は言い出すの?"と半分呆れた様子で2人をじっと見据えていた。

 

 

「はい。多くの機関が宅地の値上がりや、急激な株価の変動に気づいているはずです。」

 

イグナトフは表情を変えることなく真っ直ぐと霜月を見つめ、今まで調べてきた些々河と与根原が行ってきたサブプライムローン詐欺についての経過を口にする。

 

 

そして、隣で同じく、神妙な面持ちで霜月に視線を向けるのは慎導。

 

「リックさんが残したデータの評価報告を、局長許可の下、送らせてください。…俺たちが暴いたと分かれば尻尾を出します。」

 

要するに、彼らは微かに掴んだ詐欺の情報を元に、監査機関へ調査依頼を出し、逃げようと企んでいる些々河と与根原を引き摺り出してやろうという魂胆だった。

 

しかし、2人の発言に対し、霜月は厳しい口調で言葉を発する。

 

「楽観的すぎる。データは捏造だと言われて証明に失敗したら?」

 

そして彼女は2人に指を指し、眉を顰める。

 

「――あなたたちが深刻な規定違反を犯したことになる。」

 

半ば強引に情報を盗み出したようなもの。万が一、その情報全てが嘘だったとすれば、立証困難となり、逆に公安局が責任を負いかねなかった。

 

 

しかし、彼らは怯まない。

 

 

「俺の責任です」

 

「"俺たちの"です」

 

 

慎導に続き、イグナトフが言い放つ。

安易にも聞こえるその言葉に、霜月は大きなため息を吐けば、デスクに片肘を付き、呆れたように2人へと視線を送る。

 

 

「ハァーー…

…あなたたちのクビで済む問題?」

 

最悪、それを許可するとなれば、課長の霜月も全責任を背負わされる羽目になる。

霜月は2人を睨みつけるように見つめ続けるも、2人の真剣な眼差しは色褪せるようには見えない。

 

配属されて数日の新任監視官の2人の行動に、ずっと振り回されっぱなしの霜月。つい先日には、着任早々、救助現場でイグナトフは不用意なドミネーター使用に、慎導は高濃度汚染水に接触―――

そしてトランスポート社、関連省庁、ドローン管理局、おまけにメンタルケア施設からクレームが殺到する程に彼らは無茶苦茶な捜査を実行していた。

 

常守、そして舞白に…今度は目の前の新任監視官の2人。振り回されっぱなしで、霜月のメンタルケア剤も日に日に摂取量が増えていくばかり。

 

しかし、そんな"彼ら"には少なからず共通点があった。

 

"一刑事"として、事件に食いつくその姿。

 

新任監視官の2人の真剣な眼差しに、ふと常守と舞白の表情を照らし合わせると、再び霜月は今日一の深いため息を吐き出した。

 

 

 

 

「…オーケー、やりましょう。」

 

 

霜月の言葉に、2人の監視官は姿勢を正し、敬礼すれば互いに口を揃える。

 

 

 

 

「「ありがとうございます」」

 

 

 

霜月はこの2人に賭けていた。

そこまで言うなら、やってみろ、と

 

 

常守や舞白が、もしこの課長という立場にいたとすれば…、彼女たちは間違いなく、彼らの行動を肯定しているだろう。

 

 

「((…先輩、舞白。…あなたたちなら、そうするわよね?))」

 

 

吉と出るか凶と出るかは分からない。

しかし、彼らの瞳から溢れる力に、霜月は反対する術など見つからなかった―――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

とあるマンションの一室にて、2人の男の姿があった。

 

1人は酷く脅え、1人は何事もないかのように平然としていた。

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「ああ……ぁあああ……」

 

「落ち着け、与根原」

 

「か…監査だぞ…

…データが公安に渡ったんだ…」

 

些々河は余裕な様子で、向かいのソファに座る与根原を宥めるように声をかける。しかし、その声は彼には届くはずもなかった。

 

 

「始末したんじゃなかったのか?」

 

「…なしうる対処は全て講じた。

そもそも、お前の管理ミスが招いたことだぞ?与根原」

 

些々河の身勝手な発言に、俯いていた与根原は声を荒あげると、相手の男に食いかかるように詰め寄る。

 

「えっ お…俺のせいだってのかよ!?」

 

ぶるぶると激しく手を震わせ、かなり動揺する与根原。その様子に呆れたようなため息を吐けば、些々河は冷たく言葉を続ける。

 

 

「財産をまとめろ。総務省のコネを使って、出島に支部を構える外資系の企業に移籍すれば、公安も簡単には手を出せん」

 

出島に支部を構える外資系の企業―――

それは行動課が仕掛けたトラップ企業の事だった。

 

 

 

「…サイコパスが…悪化してるんだ……うぅ…う…」

 

与根原は限界が来たのか、クシャクシャと髪の毛を激しく掻き回すと泣き声をあげ始める。日に日に悪化していくサイコパスにひどく恐怖を感じているようだった。

 

そんな旧友に相変わらず冷めた口調で些々河は言葉を発する。

 

「しっかりしろ。俺たちはいいことをしたんだ。―――」

 

ゆっくりと立ち上がり、窓から外の景色を見下ろすと、微かに笑みを浮かべていた。

 

「大勢にボーナスと家を与えた。死んだ会計士も破産する連中も、社会の仕組みを理解出来ん羊どもだ。」

 

 

 

 

 

「―――俺たち"狐"の責任じゃない」

 

淡々と話を勧める些々河に、与根原は更に項垂れる。

 

 

「俺はお前みたいに、メンタルタフネスじゃないんだよお…」

 

「…この件に、俺が関与した証拠は無い。」

 

「ちょっ……」

 

些々河の突き放すような発言に目を見開く与根原。そして些々河は携帯型のデバイスを取り出し、与根原にとある情報を送り付ける。

 

 

 

「住所を送った。そこに行け、あとはそいつらが動いてくれる」

 

まるで突き放すかのような様子に、耐えられない与根原。

"嫌だ、嫌だ、やめてくれ!"と幼子のように些々河へしがみつくも、相手は突き放し続ける。

 

 

「人は罪悪感から逃れるため、生贄の顔を見ずに済むマクロ経済を発明した―――だが、俺は違う。"いつでもだれかを犠牲にできる"」

 

必死に些々河へと縋り付く与根原。しかし、それを簡単に振り払うのは旧友である些々河だった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあな、与根原―――」

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出ていく些々河。

 

それを追うことができない与根原は、1人で泣き叫ぶしか無かった―――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

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