whiter than white(PSYCHO-PASS) 作:鈴夢
※Warning
少しずつ今回の劇場版最新作を絡めた内容が出てきます。
お気をつけください。
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――公安局ビル エレベーターシャフト内
・・・・・・・・・
70階からエレベーターシャフトを利用し、ひたすらに下へ下へと降りていく慎導。万一に備えガスマスクを装着しているものの、命綱も無ければ身一つ。少しでも手足を滑らせれば即死は免れないだろう。
しかし彼は一切行動を止めることなく着実にに下層階へと向かっていく。
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「((…あと少し……))」
柔軟な体を活かし軽快に降りていく。均等に組み立てられているエレベーターシャフトの鉄の杭を1つずつ降っていく度に大きな音がシャフト内に響き渡っていた。しかしその度に何度も思う。"これを登ろうだなんて思いつかない―――"
「((やっぱり…良い意味でも悪い意味でも規格外すぎますよ、舞白さ―――))」
するとその時、慎導のデバイスが通話を知らせると驚いた反動で体のバランスを崩す――――が、直ぐに再び体勢を整えシャフトの柱にしがみつく。
『監視官!』
「雛河さん!通信を取り戻したんですね?」
『はい。なんとかシステムの3分の1を奪い返しました。それとダンゴムシでドミネーターを送っています。時間はかかりますが……』
「ありがとうございます。」
嬉しい報告だ。このビルのシステムの一部を奪い返した。となればエレベーターや防犯カメラも今後機能するに違いない。少なくとも自分が万一上層階に戻ることになったとしても"あの人"のように登る羽目にはならないはずだ。
『…それと…もう1つ報告が…』
「はい?何か…?」
『唐之杜先生が…』
不吉な予感。雛河の声色からしても良い報告でないことは違いない。
「志恩さんに何かあったんですか!?」
『敵の罠にハマって現在意識不明の重体です。なんとか舞白さんの処置もあって命を繋いでいる状況で………入江さんと如月さんが医務室に運んでます。』
「…了解です。雛河さん達は?」
『僕は作業を引き継いでます。廿六木さんが護衛に。課長には舞白さんか着いています。』
「分かりました。こちらは引き続きオワニーさんの元へ向かいます!」
唐之杜の負傷。しかし、それでも仲間達はそれぞれの役目を全うしていた。考えれば考えるほど苦しい事だがここで立ち止まる訳にはいかない。
慎導は込み上げる感情を必死に抑え、再び下層階へと向かうのであった。
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―――88F 局長執務室 フロア
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イグナトフと小宮。
2人は作戦通り上層階の局長執務室へと向かっていた。辺りを警戒するもどうやら敵の影はない。静まり返ったフロアを2人は恐る恐ると突き進んでいく。
「……大丈夫そうだ。俺から離れないでください。」
「ええ…」
「………ッ?」
するとその時。イグナトフのインスペクターの端末がメッセージを知らせた。それに気づくと後方の小宮に見られないようにポケットからそれを取りだし、メッセージ内容を確認した。
"応答願う"
たった一言。相手は時分をインスペクターに引き込んだ法斑静火だった。それに対しイグナトフは応答し、交互にやり取りを進めていく。
"何の用だ"
"都知事は人工知能マカリナのブラックボックスを常時持ち歩いている、その中身をこちらに送信しろ"
打ち込んだ応答に即座に返信が来る。しかし内容はかなり複雑で困難を極める内容だった。
イグナトフはそのやり取りに怪訝な顔を浮かべていると、背後の小宮が2人きりになって初めて台詞を放った。
「―――あの。あなたが私の護衛から外された件。それと、奥さんのことも聞いています…」
どこか申し訳なさそうな声色。細くか弱いその声を聞くと彼女の心境を直ぐに理解出来る。緊張、罪悪感、自己嫌悪―――様々な様子が伺えた。イグナトフはそんな彼女を横目で確認しつつ、手元は法斑に対してのメッセージを打ち込み続ける。
"なぜ?"
"君が知る必要は無い"
一方的な無理難題。それを押し付ける癖に相手は理由を話さない。自分勝手すぎる法斑のメッセージに苦渋の表情を浮かべるもイグナトフは小宮の問いかけに落ち着いて返答した。
「――どうして今、そんな話を?」
「私を守るなんて、あなたにとって苦痛では?」
「…俺があなたや仲間を裏切るとでも?」
「誤解です!そうは思ってません!」
「俺たちが入国者だとか、護衛の件だとか―――そんなことどうでもいい。」
小宮の言う通り。自分はイグナトフに憎まれている立場なのだ。数日前に彼を見下したような発言をし自分の護衛から外した。そして彼の妻の隔離に関して、あくまでも自分が直接的には手を下した訳では無いが全く関係がないという訳では無い。
罪悪感に苛まれる小宮。しかしイグナトフにとって"そんなことはどうでもよかった"
"この状況でどうやって?"
"それを考えるのが君の仕事だ"
そして止まることの無い法斑の催促。この状況下で何を考えているのか全く理解できない。命を狙われている都知事を守る上に小宮のAIのブラックボックスを拝借するなど…一体どうすれば良いのだ。
相手の返信に若干の苛立ちを見せながらも至って平然を装うイグナトフ。そんな中でも小宮との会話を止めることは無い。
「―――俺は刑事として犯罪者が笑って逃げ切る結末だけは絶対に許したくないだけだ。」
「…ええ。私も同じ考えです。」
脚を止めるイグナトフ。そしてそれに反応するように小宮も脚を止めた。長い通路の角。イグナトフはゆっくりと背後の彼女に視線を向ける。
もっともらしく、意を決した真剣な面持ち。
どことなく離れていた2人の気持ちが徐々に近づいていく気配が漂う。
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「((―――暗い穴を落ちていくみたいだ―――))」
地下駐車場まで後少し。
延々と続く下層階への暗闇の大穴。降りていく度に自分が闇に堕ちていくような不思議な感覚に陥っていく慎導。
虚ろな瞳で暗闇を見下ろす。
そして彼は必然敵にメンタルトレースを行う―――
その先に見えるもの。
闇の奥深く、深く深く……もっと深いところ―――
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長い通路の先。その先の大きな円盤型の扉。
広々とした空間。水面の中に無数の箱が見える。
橙色に染まるその場所は夕陽が照りつけているような不可思議な光景。
"その箱"は黒いモヤが掛かっており一体何なのか理解はできない。
「((…何だ……これは…昔の記憶…?))」
慎導はふとその目の前の光景から視線を離し、自分の手を握り、隣に立つ人物を見上げた。
「((―――父さん……?))」
"慎導篤志"の姿―――
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「ッ……ぐッ……
―――うっ!うわあぁあ!!!」
メンタルトレースの激しい代償。目眩と頭痛に襲われるとそのまま暗闇へと落下してしまう。
大穴に落ちる体。しかし幸いにも"底"までの距離は大したことは無く直ぐに地面に体を打ちつける。
冷たい鉄の床。ヒタヒタと頬に走る冷たい感覚と体をうちつけた痛みに顔を歪ませると、ゆっくりと体を持ち上げた。
「痛ッ………。危なかった…、潜り過ぎないようにしないと―――」
目を開けた瞬間。一面に紫色のガスが広がっている光景が目に入った。霧のように若干濃い空気のせいで視界はよくないがそこまで支障はない。しかし不気味な程に色を持ったその煙はあまりにも異様すぎる光景を作り出していたのだった。
「((梓澤の言う通りの"毒ガス"。オワニーさんがこれを吸っていたらかなり危険だ。))」
地下駐車場へと続く扉に手をかける。ようやく辿り着いたアン・オワニーが居るであろう駐車場。しかし油断はできない。扉の先にも何が待ち受けているか予想できない状況だ。
「………」
そっと扉を開ける。満車では無いがそこそこの量の車両が停められている駐車場。人気は全く感じられず、見たところ被害を受けたような人物も確認はできない。
しかし微かに聞こえる金属音、規則的な足音―――
「((あれは人型ドローン。さすがに罠はガスだけじゃない…か。))」
慎導の体格をゆうに超える人型ドローン。それは宜野座やイグナトフ、霜月達の目の前に現れたものと全く同じドローンだった。機械的な赤い目を光らせながら駐車場内を警備するように徘徊している。
「とにかくオワニーさんを見つけないと。…敵に察知されないように…」
恐れる暇もなく慎導はゆっくりと駐車場内に入り込んだ。物陰を上手く使い、足音には細心の注意を払いながら車両を1台1台確認していく。時たま近くを横切るドローンに緊張感を走らせるもなんとか順調に確認していく。
「……見つけた。」
駐車場の中央あたりに停められた白い車両。その運転席に座るオワニーを見つけることが出来た。あとは2人でドローンに見つかることなく脱出する―――ハズだったのだが…
「――ッ!?助けて!!!!」
「ッ!!」
気が動転したように声を上げるオワニー。それもそのはずだ、全く状況が理解できないまま閉じ込められていたのだ。仲間だと判断した人物が現れると反射的に声を上げてしまうのは仕方がない。
声とともに窓を拳で何度も叩くオワニー。慎導が声をかける間もなく、遠くから嫌な金属音がこちらに向かう音が響き渡る―――
「そこで待っててください!落ち着いて!」
「―――ッ!!後ろ!!」
車両内のオワニーを安心させようと声をかけたその時、オワニーは指を慎導の背後に差すと紫の煙から大きな人影が現れる。
「くっ!!」
ドローンは完全に慎導を敵とみなし幾度となく襲いかかる。
それを何とか交わしていき、周辺の車両間を跳んで登って走って―――それはまるで慎導が得意としているパルクールそのもの。攻撃する手段がなかなか訪れないのであれば一旦策を練るためにも逃げるしかない。
「((持ってる武器はスタンバトンのみ……対処しようにも意外とスピードが―――))」
離れたと思えば容赦なく近くの車両を軽々と投げ飛ばしてくる遠距離攻撃。近距離でも対処しようと思えば出来なくはないがガスが撒かれている以上マスクを破損してしまえば一環の終わり―――
「((ドミネーターが来るまで持ち堪えるしかない。……))」
今頼れるものはドミネーター。
雛河がこちらに送ってくれていることは間違いない。それを信じてひたすら耐えるのみ。
「ッ……ぐはぁっ!!」
不意をつかれ思いっきり腹部目掛けて蹴り飛ばされてしまう。体は宙に浮き、駐車場の壁に体が叩きつけられ激しく咳き込んだ。薄らと煙の先に映る大きな人影。ドローンはゆっくりとした足取りでこちらへと再び向かっていた。
「((…くそっ……なんとか打破しないと―――))」
ここでやられる訳にはいかない。逃げる事など容易に可能だが慎導は必ずオワニーを救出すると心に誓っていたのだ。
痛む腹部を右手で押さえ込み、ゆっくりと立ち上がる。そしてふと天井辺りから何かが動いたことを察すると慎導は目を細めその先をじっと見据える。
天井の通気口の蓋の隙間から無数の光の線が見える。あれはダンゴムシ…だろうか?丸い円盤の胴体から長い導線のようなものを出しており"何か"にグルグルと巻きついているようにも見える。
「((!?……あれは……"ドミネーター"だ!!))」
蓋の隙間からドミネーターを落下させるつもりだろう。それを見越した慎導は勢いよく走り出し、目の前に現れたドローンに躊躇することなく真正面から突っ込む。
「ぐっ…!!」
なんとか攻撃を交わすとそのままドローンの胴体を上手く利用し飛び乗る。真上の通気口に手を伸ばしたその時、タイミングよくダンゴムシ達はドミネーターを手放した―――
『―――対象の脅威判定が更新されました――』
ドミネーターのグリップを力いっぱい握りしめ、そのまま地面へと転がるように落下。呆気に取られたドローンはワンテンポ遅れた動きを見せ
背後で銃口を向ける人物に視線を送るが間に合わない。
『執行モード デストロイ デコンポーザー――対象を完全排除します――』
地面に転がったまま青い閃光を放つ。
その光は鉄の塊をあっという間に破壊し、目の前の脅威はほんの一瞬で消え去った。
「…ふぅ……危機一髪……」
汚れたスーツを払うようにその場から立ち上がり、ふと手元のドミネーターに視線を落とす。何とか切り抜けた危機的状況。相変わらずこの黒鉄の威力には頭が上がらない―――
なんて、考えている場合ではなかった。
そして先程見つけたオワニーの元へ再び踵を返す―――
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「もう大丈夫!怪我はありませんか!?」
「大丈夫です!!」
「そこにあるガスマスクを付けてください!車両の外は毒ガスが蔓延してます!」
「はい!」
車内に残されていたオワニー。慎導は助手席2置かれていたガスマスクを被るよう指示を出し、車両の外へ出るように促した。
どうやらオワニー自身に怪我などを負った様子は見られない。無事保護した安心感に自然と2人に笑顔が蘇る。
「ご無事で良かったです。」
「本当にありがとうございます…。あなたがいなかったらどうなっていたか…」
彼女の瞳に薄らと涙が見られる。余程恐ろしい体験をしたのだろうか。そもそも毒ガスが蔓延した駐車場に取り残され、外には危険な人型ドローンの徘徊…誰しもが恐れる状況下でオワニーは必死に耐え続けていた。
「オワニーさん。都知事があなたを心配してます。」
「……カリナが?ですか?」
「はい。ちょっと待っててくださいね…っと…」
慎導のまさかの言葉に驚きを見せるオワニー。
1度自分を切り捨てた人物。まさか小宮が自分を心配しているなんて驚きだった。
慎導はデバイスを操作し、とある人物に通信をつなぐ。そして画面上に映し出された人物にオワニーは目に涙を浮かばせながら笑を零した。
「オワニーさんを助けました!」
「――カリナ……」
オワニーの無事が確認できたその時。小宮の表情にも安堵や喜び、様々な感情が映し出される。
『アン!良かった…本当に…ッ』
「あなたも無事で良かった。カリナの事が心配で心配で…」
『私、本当にごめんなさい。あなたを危険な目に巻き込んで』
「バカね。私は何があろうとカリナの味方よ。今までもこれからも……ずっとあなたを支えるって言ったでしょ?」
『アン…………ッぅ……』
今までの蟠りが晴れたような瞬間。2人は再開した喜びを涙ながらに語り合う。
そしてその様子を傍らで見守るイグナトフと慎導。2人の表情も心做しか安堵感に包まれていたのだった。
『よくやったな、灼。』
「約束したからね?都知事と。」
ニッコリと満面の笑みをデバイスに向けたその時、ふと慎導の視線は先程までオワニーが乗っていた車内に向けられる。
ある"不可思議"な光景に疑問を抱いたのだった。
駐車場に蔓延している紫色の有毒ガス。それは車内にも充満している事がハッキリと分かったのだ。
しかしオワニーは車内ではガスマスクは付けておらず助手席に置かれていたのみ。彼女に予め解毒剤らしいものが投与されている様子も確認はできない。
"オワニーは車内から逃げ出すことも出来た"
"外には危険な人型ドローンの監視の目"
"あえて置かれたガスマスク"
彼女自身にも"選択肢"が与えられていた。
―――となれば―――
「間違えれば"死"……だけどその逆も……そうか!」
慎導は閃いたように突然声を上げる。その様子にイグナトフと小宮、そして目の前のオワニーは目を丸くし驚きを見せる。
「どうしました?」
「オワニーさん。この車にはどうやって?」
「…えっと……気がつくとここに。逃げようにも外にはガスが充満してるしあのロボットが居るしで。…ただ、ガスマスクが車内にあったので隙を伺っていたのですが……でも怖くて……」
怯えるように顔を覆うオワニー。先程までの恐ろしい状況を口にし、改めて恐怖を蘇らせた。その傍ら、慎導は車両をじっと見据えたまま脳内でここまでの出来事を網羅する。
「((逃げられる手段を用意して閉じ込めた。そして彼女の選択次第では1人でも助かっていた――))」
ガスマスクを身につけ、ドローンの隙をついて逃げることも可能。
しかし…何かがおかしい。
「―――炯、ひとつ試したいことがある。」
『試したいこと?』
「あぁ。この通信を課長たちにも繋ぐ。ちょっと待ってて。」
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―――70F サーバーフロア
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舞白、霜月、雛河、廿六木。
4人はサーバールームに集まり辺りを警戒していた。
すると暫くし、4人のデバイスが一斉に鳴り始める。
「―――慎導監視官?」
サーバールームの出入口付近で廿六木と共に立ち塞がっていた舞白は通信相手の名前を漏らすとそのまま応答することに。ほかの3人もそれぞれがデバイスに映る映像に視線を向けていた。
「お!監視官!秘書官の救出に成功したのか!?」
『はい!オワニーさんも俺も無事です。』
「よかった……ダンゴムシに運ばせたドミネーター…役立った…」
『雛河さん。本当に助かりました。ありがとうございます。』
良い報告にイグナトフ達と同じく安堵の様子を見せる4人。しかしほっとした様子もつかの間、一瞬で険しい顔つきに変化した慎導の表情。咄嗟に霜月は"嫌な予感"を察知していた。
『雛河さん。これは安全な回線ですよね?』
「はい。間違いなく。」
「何?何の話!?また変なことするんじゃないでしょうね?」
「まあまあ美佳ちゃん。落ち着いて…」
声を荒ぶる霜月の側へと踵を返し、呑気にニコニコと笑みを零す舞白。何となく嫌な状況に霜月は表情を固く強ばらせる。
『…いいですか?館内に充満しているガスはブラフです。人質はガスでは死なない。』
その言葉にあっけらかんとした表情を浮かべる3人。残りの1人…舞白は表情を変えることなく慎導の言葉に半ば納得しているような様子も見せていた。
「なんだと!?」
「ちょ……ちょっと待ってください!唐之杜先生はガスでやられたんですよ!?舞白さんも間違いなく毒物だって……」
『あれはブラフがバレないためのブラフだ。梓澤は人が選択を間違えたら死ぬよう仕向ける。だけど、そもそも人を殺す気は無いんです。――ですよね?舞白さん。』
最後に付け加えられた"舞白さん"というワードにイグナトフをはじめ通信が繋がれた全員が息を飲む。特にその張本人の隣に立っていた霜月は口を開けたまま隣の人物を見上げる。
「は…舞白?アンタ何か勘ぐってたの?」
「……まあ、なんとなく。」
『やっぱり。この話をした時の反応が明らかに舞白さんだけ違いましたから。絶対気づいてるだろうなって思いましたよ。』
「……あの男は"人が選択を間違えたら死ぬように仕向ける。そもそも人を殺す気はない"。慎導監視官の言う通りです。私も今まで、その場面に何度も出くわしてますから。」
そしてもう1つ。舞白が都知事関係者をエレベーターシャフトから救い出したあの時。舞白は別視点から"下層階の毒ガスはブラフではないのか"と既に予想していたのだった。
"21階まで落下したが毒ガスの影響は全くなかった"
"撒かれているとすれば20階以下"
"公安局ビルの構造上、空気循環、換気機能は20階ごとに制御されている"
"20階と21階、たった1階分の差分はあるものの毒物の気配は皆無―――"
唐之杜をあんな状態まで追い込んだ毒物。ほんの少しの、微量の粒子を吸い込めばさすがに分かるはずだ。しかし何も起こらなかった。自分も都知事関係者でさえも―――
『という訳で、今から俺が証明します。』
ガスマスクに手を伸ばす慎導。もう誰の静止も聞かないつもりだろう。
『灼!』
『慎導君!?』
「か、監視官!?」
「ちょっと!馬鹿な真似は止めなさい!」
「死にてぇのか!?小僧!」
全員が必死に止める。それもそのはずだ。あくまでも予想に過ぎない。実際、唐之杜が倒れた光景を目の当たりにした者からすれば有り得ない選択だ。
「やってみてください。慎導監視官。」
「舞白!――こンの2人とも……ッ!」
真っ直ぐとデバイスに視線を落とし、冷静に言葉を放った舞白。その横では鬼のような形相で無茶な行動を進んで行う2人を呆れながらにらみつけ、声を荒らげる霜月―――
『すぅーーーー……はぁーーーーー…』
紫の煙が漂う中、躊躇することなくマスクを外す慎導。そして大きくその場で深呼吸を行い、瞼を強く閉じる。
『―はぁー……。…少し臭うけど……大丈夫!』
ニンマリと会心の笑顔を目いっぱいに頬に浮かべる姿。
その光景に一同は大きくため息を漏らし、霜月に関しては今にでも腰が抜けて座り込んでしまいそうな雰囲気だった。
「…まさか……ここまでのブラフをかましてくるなんて…」
「美佳ちゃん大丈夫?」
「ッ!あんた達ね!さすがにここまでされると命が何個あっても足りないわ!」
「まあまあ。結果としてブラフって分かったんだし。一件落着―――」
「結果ね!?結果!!それまでの過程が無茶苦茶なのよあんた達2人は…」
さすが"免罪体質"の2人。
枠にハマらないぶっ飛んだ行動を起こすところはしっかりと共通していた。霜月はここまでの2人の行動を改めて思い返すと、"やはりこの2人は"とやけに納得してしまう。
『――とにかく、見破ったことがバレたら一般職員へ直接的手段に出る恐れがあります。』
「じゃあ、私は引き続き梓澤とは交渉するフリをすればいい訳ね?」
『はい。その間に梓澤を確保します。』
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―――39F 大会議室
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「かなり頑張るねぇ〜。想像以上だよ。」
『そう?あなたの想像力が貧困なんじゃない?』
小宮を待ち構える梓澤。しかし一向に彼女が現れる気配はなく、刑事課課長に半ば喧嘩を売られるような始末。
明らかに最初の頃と様子が違う。切羽詰まっていた危機的状況すら感じたあの時、今は謎に余裕さえ感じられる返答に梓澤の表情は曇っていた。
「へぇ。随分余裕があるじゃない?とにかく都知事の辞任宣言の収録。さっさとやってね?」
『あ、う!ちょっと!待ちなさい!』
疑念を抱いた梓澤は一方的に通信を切る。
「((―――ガスのブラフ。バレたな…))」
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―――70F サーバーフロア
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「…何よあの男。余裕なくなってきてる感じがよく分かるわ。」
どこか得意気に頬を緩ませる霜月。しかしその傍ではは眉を下げ、どんよりと呆れた顔をした舞白が居た。床に腰を下ろし、壁に背を預け、銃を手元で揺らしながらため息を漏らしていたのだった。
「ねぇ。さっきのワザとなの?」
「何が?」
「どう考えても、さっきの美佳ちゃんの"余裕気"な感じ。相手にバレてたと思うんだけど…」
「だってムカつくじゃない?あれくらい言ってやらないと。」
「((…美佳ちゃん…あなたも相当無茶苦茶だよ……))」
「何よその顔。」
「……不遇」
「不遇?」
自分の行動には毎度毎度グチグチと釘を刺すような発言をする霜月。しかしどうだろうか。先程の言動は対して自分と変わらない気がする。
ジリジリと詰め寄る霜月。舞白は口を尖らせ"プイッ"と言わんばかりの幼子の表情を浮かばせ視線を逸らす。
そしてその時、2人のデバイスから梓澤仕様のコミッサが現れる。
『―――課長さん。そして刑事課の皆さん。』
「何?聞いてるわ。」
『随分余計なことをやってくれたね?……これじゃ、大勢が危ない目に遭う。』
舞白の勘がまたもや当たってしまった。先程の霜月の様子から勘ぐった梓澤はここまでの状況を一気に読み込んだらしい。
「ちょっと待って!私たちが何を?」
『都知事をここに連れてくるのが嫌なら……"公安局で彼女を執行"するんだ。』
"自分たちの手で小宮を執行する"
あまりにも残酷な台詞に通信を聞いていた全員が眉を顰める。
「……それは……"殺せ"ってこと?」
『そんなこと言ってないよ?課長さん。俺は"試してるだけ"。都知事の命と大勢の人質の命を天秤にかけてシビュラ的な判断を下して欲しい。――それと、イグナトフ監視官。』
『…なんだ?』
通信の会話に割り込むイグナトフ。
そんな彼に梓澤はまたもや弄ぶような声色で言葉を放つ。
『パスファインダー。あいつら頭おかしいからね?みんな殺されちゃうよ?』
『貴様……!』
声をふるわせ怒りを露わにするイグナトフ。そして今度、梓澤の矛先は舞白へと向けられた。
『"外務省海外調整局行動課"の宜野座舞白ちゃん。君はよーく知ってるはずだ。君たちが追いかけてきたピースブレイカーの残党…あれが厄介なのはこの中で誰よりも分かってる。』
「……だったら何…」
『いいかい?"鉄槌を下されたくなければ"君も身の振り方を弁えるんだ。』
やけに強調される台詞。
舞白は無意識に歯を強く食いしばり、握っていた銃のグリップを強く握りしめる。その様子を傍で見守る霜月も同じく眉を顰めていた。
「嫌な台詞を使わないでもらっていい?」
『俺は何でも知ってる。2年前の出島の事件も、全てね。』
「その話も持ち出されるなんて予想外でした。そんなに私に興味を持ってくれていて嬉しい限りよ。」
『ふっ…。なんにせよ決断は早い方がいい。多分――』
舞白は自ら通信を強制的に落とし、映し出されていたコミッサを強く手で振り払った。
そして3角座りで座ったまま、頭を突っ伏し顔を隠す舞白。珍しく現場で心を揺さぶられ怒りさえも感じさせるその様子を見るのは霜月も久しぶりの事だった。
先程の通信を聞いていた2年前当時の一係―――霜月、雛河はピンとくるものがあった。"出島での事件" "ピースブレイカーの残党"。そのワードに異常なほど反応を見せる舞白。
まるで昔の嫌な記憶を掘り返された気分だった。あの男……梓澤は8年前の事件までも把握している奇妙な男だ。勿論出島の件もある程度知っているのは予想出来ていた。
嫌な記憶が蘇る。
このタイミングで―――本当に意地の悪い男だった。
「……舞白。」
そんな彼女の傍にしゃがみこむ霜月。震える義手の右手の上に自身の手を重ねるとゆっくりと彼女の顔が持ち上がる。
「―――ッ」
「大丈夫大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ。何でもないよ。」
上がる口角、穏やかな声色。先程まで感じていた空気感は一瞬で消滅し、いつもの舞白に戻っていた。しかし微細に感じる本音。霜月は分かっていた。
「……怒りという感情は全てを狂わせる。私が恩師に教わった言葉。だからこそ……今狂わされるわけにはいかない。」
ゆっくりと立ち上がる舞白。
その傍で霜月は珍しく心配気な視線を向けていた。
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―――地下駐車場
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「オワニーさんはここに隠れていて。エレベーターが動き出した今、この公安局内では逆に安全な場所です。」
「はい。」
「一応、ガスマスクは外さないで。」
「分かりました。……あの、聞きたいことが。」
「何でしょう?」
地下駐車場の端に存在する非常階段扉。オワニーをそこへ誘導し隠れるようにと指示する慎導。一連の話を終えたその時、不安そうにオワニーが口を開いた。
「カリナは公安局に複数の側近や関係者たちと訪れてます。……皆、無事なのでしょうか?」
小宮の側近、関係者達。それは舞白がたまたま救った人物達の事だった。うんが良くも悪くもその一行に同行することは無かったオワニー。しかし彼らは仲間だ。同じように心配していたのだった。
「はい。安心してください。全員無事です。違う階の安全な場所に隠れてますよ。」
「――よかった……本当に……」
「関係者の方々を救ったのは外務省の方です。……カリナさんの言ってたことが本当ならオワニーさんもその人物に会ったことがあるはずですよ。」
「え?」
「"白髪の刑事"さん。覚えてません?」
「…………」
「過去の討論会で襲撃にあったとか?突然カリナさんの身体検査をさせてくれって…確かそんな話だった気が…」
顎に指を添え考え込む仕草を見せる。するとオワニーも同じく腕を組み過去の該当する出来事を必死に思い出し、あの時の光景を脳裏に浮かばせた。
突如現れた公安局の女性。めずらしい風貌の持ち主。強引に小宮の服や身体検査をさせてくれと舞台上の装置の上で声をかけられた時のこと―――
「ッ!覚えてます。かなりお若い刑事さんで…髪の毛も作り物みたいに銀髪で……当時カリナと話したのを覚えてます。」
「若くて銀髪。間違いなく"宜野座舞白"さんですね。この事態が収束したらぜひ会ってみてください。とても良い方ですよ。」
緊迫していた状況を和ませるように笑顔を向ける慎導。ふた
そしてオワニーを非常階段扉の先に隠し、再び踵を返す―――
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―――88F 局長執務室 フロア
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変わらず警戒を怠らないまま通路を歩く2人。しかし先程と違う雰囲気を醸し出すイグナトフに背後から小宮が声をかける。
「どうしたの?監視官。」
「…いいや、何か引っかかったんだ。梓澤が焦って大きなミスをしたような……」
先程の梓澤の反応。イグナトフはやけに何かを感じ取っていた。今まで余裕を噛ましていたあの男から微かに感じる焦り。向こうも悠長にダラダラとこの事態を引き伸ばしたくないはず。そろそろ向こうにも何かの動きが―――
『イグナトフ監視官!パスファインダーとロボットが2人の元に向かっています!』
突如、雛河の荒れた声がデバイスから漏れる。普段の温厚な様子からは考えられない焦りようにイグナトフも小宮も心拍数が跳ね上がる。
「何!?見つかったのか!?」
『そんなはずは……高層階一帯の監視カメラはこちらが掌握してますから。』
「……変だ……目的もなく来るはずがない。」
『イグナトフ監視官!とにかく2人は局長室に立て篭って。システムを取り戻した今なら簡単には扉は開かないわ!』
迫り来る驚異から逃れるようにと霜月は即座に指示を出す。あくまでもシステムの一部を奪い返している。そう簡単にこちらも打破されるわけは無い。なんとか時間を稼ぐしかないのだ。
『だけど美佳ちゃん。向こうの要求飲むのは論外としてどうやって時間を稼ぐ?』
『嬢さんの言う通りだ。向こうは銃火器も持ってる。確実に稼ぐ方法がないと埒が明かねえぞ?』
舞白と廿六木の言葉に眉を顰める霜月。暫く考え込む姿勢を見せ、何か思いついたのか閃いたように口を開いた。
『……要求を逆手にとりましょう。私たちの誰かが都知事を殺したことにし相手にその確認をさせた上で奇襲をかける。』
『天才か!課長!!』
「――それだ!梓澤は当然その事も考えている。死体を確認するために接触する瞬間が向こうの弱点になる。」
だったらとことん相手の策にハマったフリをすればいい。都知事の命より複数の一般職員の命を選んだ―――そして問題はその手段ではあるが考えている時間は無さそうだ。
その鍵を握るのは小宮と行動を共にするイグナトフにかかっている。
『確かに……通信や映像だけでは確かめようがありませんね。』
「こちらに敵が向かっているのもおかしい。都知事の位置がバレるのが早すぎる。」
雛河の言う通りだ。死体確認は必ずそのものを確認しなければ確かめようは無い。そしてずっと不審に思っていたこと、なぜ小宮の居場所がバレ続けているのか?
イグナトフの疑問の言葉に舞白はボソリと口を開く。
『都知事に発信機でも付いてる、とか?』
『そうでもしねぇと居場所なんて分かるはずがない。監視官、都知事の持ち物とかに何か変なもんがあったりしねえか?』
「「ッ!!」」
2人の言葉に思わず見合うイグナトフと小宮。すぐその場でポケットに入れていたものなどをテーブルに並べ始める。
ハンカチ、手鏡……
女性が普段持っているような何も変哲のない持ち物ばかり。疑わしそうなものはなく、そもそも小宮も何も反応を見せない。見知らぬものがあれば本人が即座に反応するはずだ。
「…………ん?」
その中でやけに目を引くものがあった。
綺麗な淡いピンク色のリップケース。
イグナトフはそっと手を伸ばしそれに触れる。
「これは?」
「慎導君からのプレゼントです。このリップを貰って、そのお返しに香水を……」
「灼が女の子にプレゼント?アイツらしくないな……」
あの灼が女性にプレゼントを贈る。なんて事は聞いたことも見たこともない。それに"らしくない"のだ。彼が理由もなくそんなことをするとは到底思えない。
不審に思ったイグナトフは直ぐに慎導に通信を繋ぐ。
「―――灼。」
『何?どうしたの?』
「お前、都知事にプレゼントしたか?」
『え?プレゼント?なんの事――』
「また後で話す。切るぞ。」
"一体なんのこと?"だと言わんばかりの呆気に取られた表情。その一言と顔を見るだけでこのリップは慎導から贈られた物ではないと察した。
「口紅。梓澤からの物かも。」
「え!?」
「検査を抜け、都知事が身につけたところで生体モニターをオンにした――」
デバイスでリップそのものを成分検査することに。青いレーザーがリップを覆い、それは直ぐに雛河に送信された。
「雛河執行官。これを精密分析に。」
『了解です。直ぐに。』
「……都知事。敵の裏をかくのに、あなたの人工知能がいる。ブラックボックスはありますか?」
「マスターデータへのアクセスキーの事ですか?」
「はい。」
イグナトフの言葉に半ば躊躇の色を見せる。だが拒否する事もできないまま小宮は身につけていたネックレスを外す事に。
球体が施されたネックレス。赤と青の装飾に微かに光を帯びる。目を引くような妖しい雰囲気が漂うそのネックレスは異様な空気感を纏っているようだった。
「予備はありません。」
「お借りします――」
「…………」
「どうかしましたか?」
「ッ……そのネックレス。マカリナは私にとって大事な存在です。」
「大丈夫。必ず返します。」
掌に乗せられた重厚感さえ感じるネックレス。
イグナトフはそれを大切そうに握り、自身の懐へと収めるのであった。
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―――70F サーバーフロア
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『課長。俺はここで敵を迎え撃ちます。』
「オーケー。今ならサーバールームは雛河1人で大丈夫。私と廿六木執行官も上に行きます。挟み撃ちにしましょう。」
「了解だ!課長!」
局長室で敵を迎え撃つ準備に入るイグナトフ。そしてそれに加勢すると霜月と廿六木。意気揚々と声を上げる廿六木の傍ら、舞白は不思議そうに首を傾げる。
「ちょっと!私は?」
「あんたは慎導の所に行って。頼んだわよ。」
「……頼んだって……しかも何で今更慎導監視官のところに……」
いきなり何故?と口をぽかんと開けたまま霜月の背に視線を向ける舞白。霜月はイグナトフから拝借した小銃を握りしめると、そんな背後の友に視線を移す。
「上層階にはピースブレイカーの残党が向かってる事実。それにお兄ちゃんからも未だに連絡は無いし、運が悪ければもう1人も向かってる可能性だって考えられる。……頭数揃っていても奴らは危険。何があるか分からな―――」
長々と言葉を放つ舞白にため息を漏らす。霜月は体ごと向き直ると半ば強引に舞白の左肩を掴む。
「"あんたたち2人"なら上手くいく気がするの。」
「…え?どういう……」
「いい?これが私の選択。私は絶対間違わない。」
「美佳ちゃん……」
「ほら。あんたはシャフト使って降りれるんだし早く行きなさい。こっちも新任の監視官を失う訳にはいかないの。」
過去に何度か選択を誤ってきた舞白。しかし霜月は違う。
多少荒っぽく"自分勝手"な様子を見せることはあったが"好き勝手"に行動を起こすような人間では無い。舞白と同じく危険を顧みない行動力、そして彼女なりの信念。正義―――。状況判断に優れ、幾度となく危険な状況を打破してきたのは彼女もそうだった。
采配、選択をするセンスは舞白以上かもしれない。
「必ず2人で梓澤廣一を捕まえて。……勿論、その取り分は公安局側よ?」
「―――ふふ……美佳ちゃんらしい。うちの課長がなんて言うか。」
「ここは国内。私たちの領分なの。いい?」
「はぁ……了解。"霜月課長"。」
知的な皮肉を含んだ、抑制された舞白の笑み。
それに対し眉根を寄せて真剣な顔をする霜月。
左肩を掴む霜月の手に力が入る。
ようやく再会できたのもつかの間、再び離れる2人。
しかし両者の瞳には信頼の眼差しが光る。
血の繋がりよりも大事な"絆"。
そして再び別方向へと踵を返す―――
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