whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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※※Warning


前回の話と同じく
今回も劇場版最新作を匂わせる描写があります。


ネタバレNGの方はご注意ください。


白日夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―――88F 局長執務室前

 

 

 

 

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「…………」

 

白髪の老婆、ヴィクスン。

彼女は難解な扉の解錠暗号を読み解いていた。

残り僅か―――あと少しでファクター1の抹消タスクをクリアできるだろう。

 

彼女の表情に不敵な笑みが浮かんだその時、背後から慌ただしくこちらに向かってきているであろう足音が響き渡った。

 

 

「ちっ……」

 

背後から現れる人物。

1人は見慣れないドミネーターを手にしており、銃口をこちらに向けていた。

 

 

「間に合ったあああ!!」

「廿六木!!頼んだわよ!!」

「おうよ!!」

 

 

トリガーを引かせる訳にはいない。

ヴィクスンは傍らで待機させていた人型ドローンに指示を出し、奴らを抹消するようにと指示を出す。

 

「行け――」

 

狙いを定める危険なドローン。

それは後から現れた霜月もターゲットに捉え襲い掛かる。

 

 

 

「課長!!」

「ッ!何!?」

「逃げろ!狙われてる!」

 

 

激しい戦闘を繰り広げる廿六木とドローン。

しかし様子がおかしい。明らかにドローンは霜月を狙っている様子だった。

 

 

 

 

 

「狙い通りファクター1と2が揃った。」

『いいねえ。こちらも負けてられないよ。』

「タスクを終わらせる。報酬は更に上乗せだ。」

『勿論。……君の相方の分も多めに乗せておくさ―――』

 

 

ヴィクスンのデバイスに相方が死んだことを知らせる通知が届いていた。

 

この状況で黙っていられるわけが無い。

目的を果たすため止まる訳にはいかない。

 

 

「……"鉄槌を下す"。私が……必ず―――」

 

 

復讐に燃える女の瞳。

それは狂気に満ちていた―――

 

 

 

 

 

 

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―――地下駐車場

 

 

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広大な敷地の地下駐車場。

慎導と舞白は辺りを警戒しつつ歩みを進めていた。

 

そしてついに次の作戦へと移る。

 

 

 

「……聞こえるか。梓澤。」

『聞こえてるよ。』

「蹴りをつけよう。逃がしはしない。」

 

梓澤と回線を繋ぐ慎導。

その背後では銃を片手に様子を伺う舞白の姿があった。

 

 

『逃げる?何の話だ。』

「外務省だよ。」

『……はて?』

「誤魔化さないで。花城課長に何を持ち掛けたの。」

 

ふざけた発言をする梓澤に痺れを切らす舞白。半ば喧嘩腰で言葉を放ち怒りを見せる。

 

『2人で一気に畳み掛けないで欲しいなー。』

「そっちだって凄腕ハッカーがいるじゃない?2対2で対等でしょ。」

『まあ確かに……』

 

 

相変わらず呑気で余裕を見せる男。このペースにのせられれば終わりだ。舞白は慎導に視線を向けると再び背後へと戻っていく。

 

 

「父さんが俺に教えてくれた。"世界の秘密を教えてやる"。」

『それは何だい?』

「直接会って話す。」

『"世界の秘密"か。……いいねえ。胸が踊るよ。』

「私もあなたに聞かないといけないことがある。忘れてないでしょうね。」

『分かってるよ。君の親友のお話だ。』

 

 

それぞれの思惑がぶつかり合う。

いよいよ最終決戦が近い。ようやく全てか明らかになるのだ。

 

 

 

『なら……パスファインダーが灼君の相棒を殺したあとになるね?そして舞白ちゃんの親友も殺されるか。』

 

「そんなことはさせない。俺の相棒は必ずやり遂げる。」

「刑事課の課長を舐めたら痛い目見るわよ。」

 

『嫌な2人だ。本当に……』

 

 

実際の感情以上に大げさな表情を浮かべ"やれやれ"とため息を漏らす。

 

底知れない2人の妙な余裕……何と例えればいいだろうか。

やはりこの2人は違う。明らかに……ほかとは違う何か。

 

それがまさか、世界の秘密と繋がるのだろうか―――

 

 

 

 

 

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―――88F 局長執務室

 

 

 

 

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「―――ッ!」

 

 

重厚な扉が開かれる。

ヴィクスンは銃を片手にすべり込むように室内には入り込めば、目にも止まらないスピードで標的に銃口を向ける。

 

ソファに座っていた小宮。

ほんの一瞬、その表情が恐怖に脅えたその時―――

 

 

「ッ!?」

 

 

鼓膜を突き刺す凄まじい銃声音。

それは小宮を貫通した―――が、

 

 

 

「何!?どういうことだ―――」

 

 

撃ち殺したはずの小宮が姿を消す。

それはホログラムだったのだ。

 

 

「……チッ…、小賢しい真似を……!」

 

 

体制を立て直すヴィクスン。

この部屋に小宮が居るのは間違いないのだ。生体反応は自分の近くに……

 

 

 

「―――はっ!」

 

局長室の奥。細呂木局長が使用していた大きなデスク。その脇から何かがこちらに向けて飛んできた。微かに見えた女性の影にヴィクスンは反応を見せるも咄嗟の出来事に反応が鈍る。

 

 

「((クソっ……しまった!))」

 

反射的に投げ込まれたものに弾丸を撃ち込む。しかしそれが仇となりその物体から白い煙が噴き出された。

 

部屋中に炊かれるスモーク。一気に視界を奪われ、危険を察知したヴヴィクスンはゆっくりと1歩ずつ後退していく。

 

 

 

「ッ逃がすか!!」

「―――ぐっ!!」

 

漂うスモークから現れるイグナトフ。

隙をつかれた女は慌てた様子で必死に抵抗し、襲いかかるイグナトフに向けて応戦する。

 

 

「うっ……グハッ……ッ」

「次から次へと……さっさと都知事を渡せ!」

「……ッ……」

 

 

やはり只者では無い。

ピースブレイカーの残党……パスファインダー。

一つ一つの打撃がとにかく重く、気を抜けばまちがいなく殺される。あの外務省行動課を今の今まで何度も欺いてきた事実。イグナトフは窮地に陥る。

 

 

「((……上手く打破しなければ……そしてこれが……梓澤を欺く最後のチャンス!))」

 

 

脚を払われ床に倒れるイグナトフ。ヴィクスンは容赦なく馬乗りになり、手に持っていたナイフを幾度となく振り回す。

 

 

「……死ね!!!」

「く……うっ!!」

 

頬を掠める鋭い刃。

そんな危険な状況下で隙を見定めるイグナトフ。

 

 

 

刃を交わしつつ、イグナトフは右手をジャケットのポケットに入れ込む。そしてある物を手にしたその時、女の口目掛けてそれを押し込んだ。

 

 

「―――ッ死ぬのはお前だ!」

「!?」

 

ヴィクスンの口に先程の生体モニターが施されたリップを捩じ込む。

気味の悪い感触にヴィクスンは大きく体を揺らし、イグナトフから体を離した。

 

 

 

 

 

「今だ都知事!!」

「はいっ!!……ん……」

 

 

 

自身の唇に塗っていたリップを手の甲で拭う。

生体モニターがオンの状態のリップはヴィクスンの口腔内に。

 

―――これが梓澤を欺く、最後のチャンスだった。

 

 

 

「何だ……ッ、一体何を―――」

『犯罪係数――オーバー300――…』

 

 

変形するドミネーター。

その銃口は白髪の女の姿をしっかりと捉えていた。

 

「ぐっ……クソッ!!!!」

 

『慎重に照準を定め 対象を排除してください―――』

 

 

青く光るイグナトフの瞳。

そして閃光は女の体を貫き、瞬く間に肥大する体。

 

 

 

「ぅぅぅ!!!ぐがぁぁぁぁぁああぁぁっ!!」

 

 

鮮血が部屋中に飛び散り女の肉片が嫌な音を立てながら床や壁にへばりつく。

血に濡れたドミネーターを片手に息を荒あげる。耳を塞ぎ、瞼を強く閉じ物陰に隠れる小宮。

 

 

「……よし……後は―――」

 

 

計画通り、手順通り、何やらデバイスを手際よく操作するイグナトフ。

 

ここで失敗する訳にはいかない。

 

 

 

 

 

『――ヴィクスン。予定の時間だ。』

 

 

床に転がったイヤホンから梓澤の声が聞こえる。

ファクター1、小宮都知事の殺害。そのタスクの予定時刻だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「((頼むぞマカリナ!))」

 

 

ブラックボックスのコピーデータから取り出したAIマカリナ。それはイグナトフの目の前に現れると再び姿を変える。

それはヴィクスンへと姿を変え、声や口調など全てを模したものだった。

 

 

 

 

『……おーい。どうしたの?タスクは?』

「"都知事を殺した"。」

『うん、確認させてもらうよ。』

 

偽物のヴィクスンは都知事を殺したとハッキリ口にし、バイタルデータを送信する。

先程、口に放り込んだ生体モニター付きのリップ。あのアイテムを逆手に、小宮が死んだという偽装工作を行ったのだった。

 

 

 

手元に映し出される小宮のバイタルデータ。そこには大きく赤いバツ印が記され、間違いなく"小宮カリナ"が死んだことを意味していた。

 

"name Factor1"―――"Dead"

 

それを確認する梓澤。

彼は満足気に笑みを浮かべていたのだった。

 

 

『ご苦労さん。』

「義務を果たしただけだ。脱出する。」

『ああ。こちらも報酬の準備が出来た。あとは好きに復讐したまえ。それじゃ。―――』

 

 

途絶える通信。

そしてイグナトフは床に転がったイヤホンを手にすると鋭い眼光で睨み付け、踏み潰す。

 

脅威が消え去った室内。

血なまぐさい狂気に満ちた室内ではあるがもう命の危険はないだろう。局長執務室の最奥のデスクの下に隠れる小宮に視線を向け、微かに安堵を感じさせる声色で口を開いた。

 

 

「都知事。もう大丈夫です。」

「……はい。」

「ありがとうございました。……マカリナのお陰で窮地は免れたようです。」

 

ヴィクスンに成り代わっていたマカリナは再び姿を戻す。ひょこっとデスクから顔を覗かせる小宮をマカリナは真っ直ぐと見据えていた。

 

 

 

 

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―――46F 分析官ラボ

 

 

 

 

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「〜〜♪」

 

 

梓澤の呑気な鼻歌が通路に響く。男の歩調はどこか嬉しそうに跳ねており、全て予定通りに進んでいることに喜びを溢れさせていた。

 

そして向かう先は小畑の待つ分析室。

重厚な扉のロックを解除し、足を踏み入れる。

 

 

 

 

「小畑ちゃん。お待たせしました。」

「おせぇんだよ。アホ。」

「怒んないでよー。……ほら、全てが終わった。計画通りに。もうじき課長さんも片付くさ。」

「計画外のことも有りすぎだっての……報酬は多めに出せよ?」

「そりゃあ勿論。小畑ちゃんは最高だ……愛してる。」

 

「……うっせぇ、クソ野郎。」

 

 

分析室のモニターに映し出された情報を全て消去していく。ここで起こった全ての痕跡、自分たちの足跡―――ありとあらゆる全ての情報を消し去る。

 

 

 

目的を果たした2人。

都知事の殺害。そして逃亡手段。

 

 

しかし梓澤はまだ終わっていなかった。

 

 

 

「……てめぇ……梓澤。」

「なあに?小畑ちゃん。」

「…………」

 

 

男の顔にじんわりと微笑みが浮かぶのが小畑にも分かった。幸福と興奮の混じった、気味の悪い笑顔。

 

 

 

「―――いや。なんでもねぇよ。馬鹿。」

 

 

 

 

何かをあきらめるような、観念の臍を固めたという顔。小畑は彼に視線を向けることなく、分析室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

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―――局内 非常階段

 

 

 

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非常階段に轟く戦闘音。

巨体の人型ドローンは変わらず霜月を狙い続け、攻撃を止めることは無い。

 

 

「課長!下がれ!」

「ッ……」

「畜生!硬すぎんだろ!コイツ……」

「廿六木!後ろ!」

「うっ……!!」

 

 

スタミナ知らずのドローンだ。次々と猛威を振るうも威力は決して変わらない。打撃は機械の力そのもので壁や床に次々と跡を残していた。それを見る限り、まともに喰らえば命は無い事がわかる。

 

 

「廿六木!ドミネーターは!?」

「ダメだ!使い過ぎてイカれやがった!!」

「あぁ!もう!こんな時に限って―――」

 

 

狭い階段を下っていく2人。その後を追いかけるドローン。先にスタミナが切れるのは明白だった。

 

 

「((……ここで死ぬ訳にはいかないのよ!私は……私は―――))」

 

 

胸ポケットに収めていた銃を取り出す。

グリップをこれでもかと言うほど強い力で握りしめ、強く目蓋を閉じた。

 

 

「((私は刑事課のエースよ!……それにこんな所で死んだら、舞白に何言われるか―――))」

 

 

消耗しきった体力。

大きく呼吸を荒ぶらせ、階段を踏み外し膝を着く。

 

 

「……ぐっ……」

「課長!」

「蹴りをつけるわよ!廿六木!」

 

 

体の奥に武者ぶるいのような戦慄が電流のように駆け抜けた。霜月は立ち上がり、真っ直ぐと銃口を斜め上に位置するドローンに向ける。両手でグリップを握り直し、息を吐く。

 

眼光は激しく血走る。それはまるで何かが"憑依"しているようだ。

 

 

「((…………舞白。))」

 

 

"喰らいつく狼"

脳裏に血に濡れた舞白の姿が浮かぶ。

 

無数の屍の上に立つ白いあの娘。右手の義手で銃を握り、寂し気な背中をこちらに見せていた。

 

あの娘は……例えるなら孤高の白い狼だ。

考え方や生き方が世間一般の常識とかけ離れた"浮世離れした"あの娘。生まれつきの免罪体質、誰も知りえない孤独と生きてきたあの娘。

 

 

 

「((私がいなくなったら……あの子を理解出来る人は居ない!))」

 

 

放たれる弾丸。それはドローンに命中し大きく怯みを見せる。そして一心不乱に会談をかけ上がれば、霜月は体ごとドローンに体当たりした。

 

 

 

 

「刑事課を………なめるなぁぁぁぁぁぁぁあああ!」

 

 

階段の手すりを越え、ドローンは体の上半身を大きく乗り出す。そのまま落下すれば間違いなく鉄の塊は木っ端微塵だ。

しかし人間も同じく、この高層階から落下すれば肉片に成り代わるだろう。

 

「ぐっ……あぁっ!!」

 

 

ドローンに腕を捕まれ、一緒に落下―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オッサンをなめんなああぁぁぁぁぁぁ!」

 

廿六木の腕が霜月を掴む。そして片方の拳で容赦なくドローンを殴り落とすと霜月からてが離れ、勢いよく落下していくのだった。

 

 

 

 

鉄の塊が四方八方にぶつかる鈍い音。

漸く落ち着きを取り戻した2人は肩を上下させながら呼吸をし、腰を抜かすように床へと座り込んだ。

 

 

 

「はぁ……はぁ……あーーっ……危なかったぜ……」

「本当、……さすがに死ぬかと思ったわ……」

 

壮大な疲労感に襲われる2人。しかしその表情はどこか清々しくも感じる。

 

 

「……ははっ……案外課長もやるもんだな。見直したぜ。」

「何よそれ。私が弱いって言いたいの?」

「ただの生意気な小娘だ……なんて最初は思ってたが。……やっぱりあんたは強靭な"刑事課の課長"だ。ただもんじゃあねえ。」

「私だってやる時はやるのよ、なめないでよね?」

 

 

ニヤッと口元に弧を描く霜月。

それにつられるように廿六木も笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

「―――お疲れ、廿六木。」

「余裕だぜ。」

 

 

2人は拳を作り、こつんとぶつけ合う。

窮地を脱した2人に新たな信頼が生まれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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―――地下駐車場

 

 

 

 

 

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梓澤との合流地点に向かう2人。

暫く沈黙が続いていたその時、慎導が再び口を開いた。

 

 

 

 

 

「舞白さん。」

「……はい?」

 

慎導はその場に立ち止まる。そしてその後ろを歩いていた舞白も脚を止め、背中をじっと見据えていた。

何となく、ただならぬ雰囲気を感じる舞白。その予感は的中した。

 

 

くるりと振り向く彼の顔は真剣そのものだった。

 

 

「気になるんです。」

「…………」

「あなたは俺の父に会ったことがある。しかもただの顔見知りじゃない。何かしら関わりがあった――そうでしょう?」

「……何かと思えば……またその話ですか?」

 

 

半ば呆れたようにもとれる舞白の表情。微かにため息を漏らすと、気まずそうに眉を顰ませる。

 

 

 

「思い出したんです。2年前、出島で炯と舞ちゃんの結婚式を挙げた日の事。―――父が亡くなった日……」

 

 

2年前のあの日。

煌びやかな教会、そして披露宴会場の光景を思い出す慎導。そしてその場面に姿を現す"常守朱"の姿を―――

 

 

 

「父は突然、常守朱さんを式に招待しました。実際俺は彼女に会ってます。紹介もされた。」

「………」

「そして、あなたも招待された……"はず"なんです。…父が言ってました。"灼に会わせたい人がいたが彼女は来れなくなった"って。それは恐らくあなたの事だった。」

 

 

舞白も同じく当時の事を思い出す。

脳裏に霞むのは慎導篤志の姿だ。そして彼が自分の肩に手を伸ばす光景を―――

 

 

 

 

 

 

「……考えすぎじゃないですか?」

「いいや。合ってる。あなたの様子を見れば分かります。」

「どんな微細な"本心"も読み取るその能力。やっぱり怖い。見透かされてるみたい……」

「認めましたね。舞白さん。」

「…………」

「あなたも2年前の事件に絡んでる。そして常守さんとも何かを共有して、ここまであなたは行動を起こしてる。」

「証拠は?」

「定期的に常守さんと連絡を取り合ってるのは知っています。ただの知り合いなんかじゃない。」

「…………」

 

 

過去の常守との関係性。慎導は密かにそれを探っていたのだ。霜月さえも多く語らず、まだ分かっていない事も多い。しかし事実、彼女と常守は関係がある。

 

慎導のひとつひとつのその言葉。

慎導親子特有の圧を感じる。

 

"何を言っても見透かされる"

諦めを見せる舞白は口元を緩ませ、彼に言葉を投げかけた。

 

「では……私も教えてください。茗荷谷の酒屋で遭遇したあの日。慎導監視官は私をトレースしましたよね?」

「はい。」

「あの時、何を視たんですか?」

「………」

「……"誰を"、視たんです?」

 

 

"誰を"というワードに何故か心臓が妙な打ち方をする。

 

まるで見てはいけないものを見てしまったような。あの時、彼女の心の最奥に隠されているものを覗き込んだような感覚。盗み見したような罪悪感さえ感じていた。

 

ハッキリと顔を見た訳では無い。

ただ、不思議と奇妙な空気を纏う白い男だった事ははっきりと覚えている。

 

 

「((……彼女の最奥に眠るもう1人の人物……人格、……いや……あれは何なんだ……))」

 

今でもその姿が視えてしまいそうだ。

彼女の背後に立つ男。同じ白銀の髪を持つ線の細い男。

 

輪郭の整った女のような美男子。

矯正された目鼻立ちに、纏う空気は魅惑的だ。

 

 

┈┈┈

┈┈

 

 

 

「白い……髪をした男性だ。」

「…………」

「まるであなたに取り憑いているような……俺にはそう視えた。」

「―――そうですか。」

 

 

舞白は再び歩き始める。

立ち止まったままの慎導の真横を通り過ぎると、また暫くして戸惑ったように足を止めた。ほんの一瞬、彼女は俯く。

 

そして背後に振り向くと、慎導の瞳をじっと捉える。

 

 

 

 

「―――あなたのお父さん…"慎導篤志"さんとの関係。この事件が片付いたらお話します。」

「…………」

「あなたが追い求めている"真実"。それに繋がるかもしれない。」

「……はい。」

 

 

 

 

慎導も歩みを進め、舞白の横へと立つ。

肩を並べるふたりが見据える先―――

 

 

 

 

 

 

真っ直ぐとあの男がこちらを見つめていた。

 

 

微かに浮かぶ歓喜の笑み。無邪気な喜色に溢れるその表情からは男の本性を映し出しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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パスファインダーを始末し、エレベーターへと乗り込む狡噛。向かう先は梓澤が長らく居座っていたであろう39階の会議室。あの男の居場所は残念ながら特定できない。虱潰しに突き進むしか無かった。

 

 

 

 

 

 

『―――狡噛。首尾は?』

 

デバイスから漏れる女性の声。

舞白たちの言う通り花城から連絡が入る。しかし狡噛は特に警戒する様子もなくいつも通りに振る舞う。

 

 

「パスファインダーの男を倒した。俺は梓澤を追う。」

『……』

「お前が考えてる事は大体分かってる。……梓澤の仕掛けた罠にワザと嵌るつもりだな。」

 

 

舞白達とは違い狡噛の方が1歩上手だった。ただ単に花城が梓澤の逃亡の手助けをするはずが無い。だからこそ自分が先にあの男を捕らえる必要があった。

 

 

『―――ええ、その通りよ。奴の罠にあえて乗る。』

「公安局との間で綱渡りか……。間に立たされてる舞白の身も考えてやれ。」

『正義のための汚れ仕事、それが我々の役目よ。あなた達兄妹が1番得意でしょ?』

「だからとはいえ、また舞白に"あんな思い"はさせる気は無い。汚れ仕事を全うするのは確かに俺たちの仕事だ。……だがこれ以上、アイツに重荷を背負わせたくないんだよ。」

『…………』

 

 

39階に到着するエレベーター。

狡噛はそれ以上言葉を放つことなく一方的に通信を遮断する。

 

 

 

「ふー………」

 

 

煙草を手に取り、慣れた手つきで火を着ける。

それを深く吸い込むと目的の会議室へと歩き向かう。

 

人の気配も何も感じない会議室。

扉を開いた先はすでにもぬけの殻だったのだ。

 

 

「…………逃げられたか。」

 

会議室の1番前、大きな登壇スペースのデスクに転がる飲料水の入ったペットボトル。恐らく先程まで梓澤はここに居た。少し遅かったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその時、会議室の扉が開く音と共に室内に入る人物。その男は直ぐに扉をロックし、離れた先に立つ狡噛を見据えた。

 

 

 

 

「…外務省は梓澤との取引に乗った。」

「だからどうした?俺が奴を確保する。そこを退け"監視官"。」

「梓澤は灼が確保する。必ずやり遂げる。誰にも邪魔はさせない。」

 

 

イグナトフは鋭い目付きで狡噛を睨みつけていた。その反面、狡噛は特に冷静な表情を変えることなく、こちらに向かって来る相手を見据えていた。

 

 

「……ふー……」

 

 

手にしていた煙草を口に含み、煙を吐き出す。短くなった煙草を傍らのデスクに押し付けるとため息混じりの声色でイグナトフに台詞を言い放った。

 

「1人に頼りすぎるな。最後は"チームプレイ"がものをいう。」

「散々実の妹を使っておいて……あんたは今更何を言ってるんだ?」

「それは違う。俺はいつだって妹の行動を信じていたさ。それもまたチームプレイだ。」

「何をぬけぬけと……」

 

狭まる2人の距離。

イグナトフは拳を握り戦闘態勢に入る。

 

"何を言ってもムダだ"、直感で狡噛はそれを察す。

そしてふと、狡噛はイグナトフとある男の姿を重ねた。

 

あの男とよく似た端正な顔立ち。顔の一部が火傷で覆われた哀しき男の面影―――

 

兄と妹、弟と兄。

彼も同じく大切な肉親が居たのだった。

 

 

そんな目の前の彼の顔を見つめていると過去の出来事が脳裏で再生された。

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

"もしも百年がこの一瞬の間にたったとしても何の不思議もないだろう―――雨が降っている―――"

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

見下ろす男の面影。

雨に濡れ冷たい風に晒される中、あの男が口にした台詞が今も尚染み付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……兄弟か―――」

「何だ?」

「いいや。何でもないさ。」

 

 

狡噛もイグナトフと同じく戦闘態勢に入る。両手拳を構え、真っ直ぐとイグナトフを見据えた。

 

 

 

「――止めておけ、お前じゃ俺は止められない。」

「いや、止める。これが俺たちのチームプレイだ―――!」

 

 

薄闇の広大な会議室で2人の拳がぶつかり合う―――

 

 

 

 

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