whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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最終章
あなたの選択


 

 

 

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好機ではなく、選択があなたの運命を決定付ける。

―――哲学者 アリストテレス

 

 

 

 

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―――厚生省シンボルタワー

ノナタワー―――

 

 

 

 

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雨が降る摩天楼の下。

一台の護送車が停ると3人の人物が降り立つ。

 

 

「………まさか、またここに来るなんて。」

 

ノナタワーに良い思い出は無い。

この摩天楼の地下奥底、この世界の真実が隠されたあの場所。二度と訪れたくないと考えていたほどだ。

 

「舞白さん?」

「…………」

 

 

じっとビルを見上げる舞白を見つめる慎導。

雨に濡れる彼女の横顔は驚く程に美しい。まるでその瞳の奥に染まるそれは"世界の全てを見据えている"。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃっ、合流地点で。」

「……しくじんなよ?…ボケ。」

「大丈夫。小畑ちゃんも気をつけて。」

「―――ああ。」

 

いつも強気で嫌味しか言わない小畑。しかし今は本気で梓澤を心配しているようにも見えた。しかし、だからといって彼は自分の目的を果たそうと行動を起こす。心配しても無駄だろう。

 

 

 

 

暫くすると小畑が運転する護送車はその場から姿を消す。

残された3人は横に並びノナタワーの出入口に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

そして……扉は開かれる―――

 

 

 

 

 

 

『ようこそ。慎導灼、宜野座舞白、梓澤廣一、―――』

 

 

無機質な女性の声。

舞白はハッキリと聞き覚えがあった。同時に懐かしさも感じる。

 

温度や色を感じない"シビュラの声"。

この声色を耳に入れるだけで心拍数がやけに速まる。これといった理由は無いが、まるで全てを見透かされて居るような気がしてならない。

 

 

 

「……ふー……ッ…」

「――大丈夫ですよ。舞白さん。」

 

小さく息を漏らす舞白の肩に手を伸ばす慎導。彼の幼げな優しい笑顔、舞白も不思議と緊張がほぐれていくのが分かる。

大丈夫……もう独りじゃない。

 

私には様々な路へと伸びる選択肢が与えられているのだ。

 

 

 

『―――そのまま真っ直ぐ進んでください。』

 

 

シビュラの声に導かれ、ゆっくりと歩みを進める3人。

 

梓澤は2人より半歩ほど早く歩き、嬉しさと興奮に充てられている様子が見て取れる。

 

 

 

「シビュラはいつだって正しい選択をする――」

 

 

梓澤のやけに落ち着いたその声色。しかし彼の背中から感じる昂り。それはまるで血けむりを浴びたように激昂しているようにも感じていた。

 

 

 

 

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―――地下施設

 

 

 

 

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向かい合う2人のコングレスマン。

これから代銀の身に起こるであろう事態を感じさせないほどに2人は落ち着き、静かに語らっていた。

 

 

 

 

 

「――君はいつ、私に勝てると確信した?」

「最初からずっとですよ。」

「君の養父、却一郎を追放したのは私と裁園寺だ。君の復讐は達成したわけか……」

 

若くしてコングレスマンに指名され、その月日はたったの数ヶ月。裁園寺は執行され、ついには長らく席を置いていたコングレスマンの代銀さえもあと少しで去る。

最初から法斑は復讐のために動いていたのでは、と口にした。

 

しかし当の本人はその様子はなく、相変わらず眉一つ動かす事無く代銀の言葉に返答した。

 

 

 

「"いいえ"。あなたの存在は私の動機と父の願いとも関係ありません。」

「……では、君の目的とは?」

「"ビフロストの破壊"。その為なら……自分の命すらどうでもよかった。」

 

 

"ビフロストの破壊"。その言葉に代銀は白けたような笑いを頬に浮かべた。最初からこの男の目的は"それ"だった。全く理解できない超越した応え。

 

 

 

『全アクションの破綻を確認―――ラウンドロビンからパージします。』

 

 

ラウンドロビンの淡々とした声が室内を響かせた。

 

そして代銀が腰を下ろす豪華な椅子に真っ赤な光が照射される。それは熱を帯びているのか、やけに熱気を感じさせるものだった。

 

しかし、気品のある老人は何一つ動じることなく"ゲームの勝者"に向け強い眼光を向け続ける。

 

 

 

「若いな、苛立たしい程に。君が作る社会を見られないのが残念だよ……」

「お会いできて光栄でした。代銀さん。」

「こちらこそ――」

 

 

刹那、代銀に向けてさらに強い光が照射された。それはまるで燃えるようだ。

 

無機質な空間に炎が突っ立ち、室内が朱と金色に染まる。

 

 

代銀は執行されたのだ。

その体は瞬く間に肉を溶かし、骨骨しい骸骨が露になる。人と形を成さない姿になっても"その老人は笑っていた"。

 

 

歓喜の鐘をつくような笑い、それは高らかな声を上げ不気味な程に笑い続ける。

 

そしてその肉体は完全消滅し室内にはただ1人だけが残される。

 

空席になったふたつの席をじっと見据え、法斑は変わらず停止した機械のように無表情を貫いていた。

 

 

 

 

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――ノナタワー地下20F

シビュラシステム 中枢部――

 

 

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長い廊下の先、開かれる円盤の扉。

 

歩き続ける3人。

 

その重厚な扉の先、一面に広がる異次元な世界。

 

人間の脳がひとつひとつケースに収められた不気味なその光景。

 

 

世界の真実――シビュラシステム――

 

 

 

 

「……あぁ……これが神だ……ッ!この世で唯一、この目で見ることができる―――神だ………素晴らしい………」

 

 

梓澤は歓喜に満ち溢れ、両手を大きく広げる。まるでそれは神か何かを信仰する熱心な信者そのものの姿だった。不気味な様子に気味悪ささえ感じてしまう。"あの梓澤"がここまで心酔している。

 

シビュラ=神

それを崇める彼の姿に理解できない舞白はその空間に足を踏み入れた時、険しそうに眉を顰める。

 

 

 

「…………」

 

 

舞白の瞳から色が消えていく。

それはまるで陽炎のようにゆらゆらと揺れ、生気を失っていくように。

 

 

冷徹な、知性を感じさせるような甘い匂い。それは舞白を包み込み、引き摺り込む。

 

 

背後に現れた槙島聖護。

男は舞白の両肩に手を添え、ゆっくりと体を屈ませると左耳に口を近づけた――

 

 

 

 

 

 

『――彼は自分の意志でシビュラシステムの真実を知る事を成し遂げた。』

「…槙島……」

『開かれた彼自身のパンドラの箱。パンドラの箱に入っていたものはこの真実そのものを意味するのだろうか。』

「…その箱に"希望"が残されているとは思えないけど。」

『どうだろうか。……それは彼の"選択"次第かもしれないね。』

 

 

艶めかしい声が舞白の鼓膜を支配する。

 

 

 

 

 

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――ノナタワー地下○○F

 

 

 

 

 

 

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霜月と"禾生壌宗"の姿がそこにあった。

地下へと続くエレベーター。それはまるで永遠に落ちていくのではないかと不安になるほど。

 

シビュラシステム中枢よりもさらに下層部――シビュラシステムですら認識できない最奥へ――

 

 

 

 

「こんな場所が?ノナタワーに……」

「存在していたが認識できなかったエリアだ。」

「認識できない……?そんな事があなた達に有り得るの?」

「我々も全てを認知している訳では無い。」

「……」

 

 

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『あなたは現在、唯一のコングレスマンになりました。新たな人員を指定しますか?』

 

最下層の一室に響くビフロストの音声。

その問いに、1人残された法斑はハッキリとした口調で声を上げた。

 

 

「"シビュラシステム"を指定します。」

 

 

『――その選択は推奨されません。本当に実行しますか?』

「実行します。」

『実行した場合、修復は不可能です。本当に実行しますか?』

「速やかに――」

 

 

 

 

『――移行措置を開始します。』

 

 

 

法斑はじっと上を見据える――

 

 

 

 

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「――此処だ。」

「…………」

 

 

エレベーターを降りた先に広がっていたのは長い通路。そしてシビュラシステムの中枢とは桁違いの重厚な大きな扉だった。

 

この先にあるであろう"敵"。

 

霜月はドミネーターのグリップをしっかり両手で握り直す。その表情は僅かな緊張感を感じさせるものの、至って冷静さは失っていない。

 

 

 

 

「お気をつけて―――」

 

 

凛とした声。まるで腹を括ったと言わんばかりの芯のあるものだった。

 

霜月はその先の部屋へと足を踏み入れた――

 

 

 

 

 

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重厚な扉の先。延々と続く長い通路。

霜月はグリップを握る手の力を弱めることなく無言でひたすらに真っ直ぐと歩き続ける。

 

 

 

「――ッ……」

 

 

全身の血が冷えわたって、動悸が高まる。

しかし不思議と恐怖は感じない。先に何が待っているのか、どんな敵が待ち構えているのか、さまざまな憶測が脳裏に並ぶもその足取りは速度を落とすことなく最奥へと突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あなたが……コングレスマンね。」

「はい、そうです。」

 

 

扉の先に待っていた者。

それはスーツを纏った男だった。

 

表情は無機質で何を考えているのか分からない。正に掴みどころのないという言葉が似合う人物だろうか。

 

 

そんな感情さえゆっくり考える暇もないまま、室内に男性を思わせる声色が響き渡った。

 

 

 

 

『――権利委譲手続き完了。新コングレスマン "シビュラシステム"を認定。』

 

 

 

刹那、霜月が手に持っていたドミネーターが点滅し、反応を見せる。そして同期するように隣に立つ局長の瞳も青く光りを放ち始めた。

 

 

 

『――ようやく会えましたね。併設型自動デバッグ診断・修復サブシステム。通称"ラウンドロビン"。我々はあなたを必要としない程に成長しました。これまでよく働いてくれました。感謝します。』

 

シビュラシステムの音声が応答するように言葉を放つ。そしてその場に佇む3人の頭上で光を放つホログラム。

 

"パノプティコンの監視塔"を連想させるような円柱型のシンボルマーク。そしてそれを挟むように左右から現れる"シビュラシステム"のマーク。

それは見事にパズルのピースの如く綺麗に当てはまり、まるで最初からそこに嵌るように作られていたようにも見えるほどだ。

 

まるでラウンドロビンがシビュラを"監視"していることを意味するかのように――

 

 

 

 

3人はそれを見届ける。

すると今度は目の前にモニターが映し出されると"別の3人が"そこには映し出されていた。

 

 

シビュラシステム中枢部に映る舞白、慎導、梓澤の姿。

 

法斑はようやく視線を霜月へと向けると言葉を放つ。

 

 

 

「あなたのご友人と部下もあちらに。」

 

「っ……舞白!…慎導監視官!」

 

 

ただならぬ雰囲気を醸し出す3人の姿。霜月は思わずその場で声をあげるのであった。

 

 

 

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