whiter than white(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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※Warning

劇場版PPPに繋がるシーン有り。
ネタバレ注意です。







黙示する者

 

 

 

 

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ノナタワー 地下○○F――

――ビフロスト 中枢部

 

 

 

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時は戻り――

 

 

舞白、慎導、梓澤の状況をモニター越しで確認した霜月。局長指示の元彼らの元へと踵を返し中枢部に残された2人。

 

 

消滅したビフロストの元、禾生と法斑は口を開く。

 

 

 

 

 

 

「あなた達は……面白い。」

「君もな。これからどうしたい?」

「自分は基本的に凡庸な人間です。普通に暮らせればそれでいい。」

「――そんな君に任せたい仕事がある。」

「引き受けます。」

「悩まないのか」

「はい。但し条件があります。」

「何かね?」

 

 

シビュラシステム相手に怯むことなく、相変わらずの思慮のない顔の法斑。そして"任せたい仕事"を提示され中身を聞くことなく引き受けると口にする男。

 

恐らく、シビュラが考えていることが分かっているのだろう。法斑は"その仕事"を引き受ける代わりに条件を突きつける。

 

 

「確認したいのですが……宜野座舞白。今後彼女はどのように?」

「あの娘とは個人的に"ある約束"をしていてね。」

「ある約束、とは?」

「君に開示するつもりは無い。…そして、今回の件で宜野座舞白を野放しにしておくことは"我々にとって危険"だと判断した。よって、直ぐにあの娘は常守朱と同じく拘留する。」

「……それはあまりにも乱暴ですね。あなた達らしくない。」

 

 

約束を交わしているシビュラと舞白。

勿論それを無理やり聞き出したとしても彼らは答えないだろう。

 

その約束とやらが脅かされているのか否か、シビュラは舞白を拘留すると口にした。舞白の経歴にあった通り"厚生省機密機関"との関わり。彼女は生まれつきの聖人、免罪体質者。しかも都合よく槙島聖護の思想まで取り憑いているかのような思想をも持っている。

 

これ迄の貴重なレアケース。システムが野放しにするはずがない。だからこそ法斑も彼らに易々と手渡す訳にはいかなかった。

 

 

「――それで?君の条件とは?」

 

 

禾生の探るような目が法斑へと真っ直ぐと向けられた。

 

 

 

「……今の話を元に1つ条件を追加させて頂きたい。先ず1つは常守朱の解放を。」

「我々が保留していた事態に決着をつけてくれると言うのかね?」

「結果的には。」

「この社会は今までの君の生活に比べればかなり不自由だぞ。」

「その不自由さを期待しています。不自由で自由、本当の人生とはそういうものかと。」

「やはり君は変わっている―――」

 

計り知れない男の思想。

それを嘲笑うかのように女の口元が微かに持ち上がった。

 

 

「そしてもう1つ。宜野座舞白について。彼女は拘留すべきでは無い。」

「…何故そう考える?」

「彼女は常守朱と似ているようで大きく違う面を持ち合わせている。……そんな2人がこの世で為すべきことを為す。」

「………………」

 

法斑は表情を変えぬまま、淡々と語り始めた――

 

 

 

 

 

「システムに矛盾を感じ怒りさえ覚えている、しかし同時にシステムが望まれる社会の継続を望んでいる。物事を良しとしてそのものを受け入れ、その色相は曇らない常守朱――」

 

 

男はモニターに映し出された舞白をじっと見据え、微かに目を細める。

 

 

「枠に嵌らないイレギュラーさを兼ね揃え、膨大な知識量と深遠なる洞察力を持ち、高いカリスマ性を持つ。そして免罪体質者であり強い信念と責任感を持った宜野座舞白――」

 

 

銃口を手にし、それを顬に突きつける舞白。法斑はそのモニターから視線を外すと再び禾生へと目を向けた。

 

 

「自分は……そんな"彼女たち"に期待しています。」

 

 

 

 

シビュラシステムはやがては市民に正体を公開するべき時が来ることを自覚しているだろう。その時にシステムと市民の橋渡しをする役割が必要だと同時に感じているはずだ。

 

 

常守朱と宜野座舞白。

彼女達ならその橋渡しを担ってくれるだろう――

 

 

 

 

「"こちら"で責任をもって彼女を管理します。それで如何でしょう?」

「――その件については再度考えさせてもらう。膨大な再計算が必要だ。」

 

 

禾生は法斑に背を向け踵を返す。

そんな彼女の本音は分からない。ただ、シビュラを信じて待つしか選択肢は無さそうだった。

 

 

 

 

「どうか前向きなご検討を――」

 

 

法斑も同じく踵を返し、彼らの元へと急ぎ向かう――

 

 

 

 

 

 

 

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ビルの間から朝日が昇る。

無数の窓を、太陽が順番に光らせていく。

 

 

雪から雨にうつり変わった街の空。

そして雨は止み、アスファルトの地面は光を放つ。

 

 

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――公安局ビル

 

 

 

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メインエントランスの扉から姿を現す2人。

舞白は気持ちよさそうに体を伸ばし、霜月はそれを隣で見守っていた。

 

 

 

「うーーーーん……いい気持ち。」

「呑気ね…相変わらず。」

「雨が上がって夜明けが訪れる。事件も一件落着。こんなに清々しい日なんて久しぶりだよ。」

「まだ事件は完全に終わった訳じゃないわよ?梓澤の聴取も、それに外務省が捕らえた小畑千夜の聴取……まだまだ仕事は残ってるわ。」

「まあ……私は外務省だし。公安局の領分には手出し出来ないから……」

「アンタね!やる事やらかして後は全部公安局に丸投げなんて有り得ないから!」

「だって美佳ちゃんがいつも言ってることでしょ?」

「くーーーっ!……アンタの課長に抗議させてもらうわ……」

「ちょっとそれはご勘弁。なんでもやります、霜月課長。」

 

 

弾んだ調子の声がこだまする。2人の沈滞した心のなかで、花火のようにはじけて、眼のまえを不思議と明るませる。陽の光のように――

 

 

 

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聴取の為、法斑静火を都内某ホテルへと移送。

そしてその後、舞白、慎導、霜月は再び公安局ビルへと戻ってきた。慎導はビル内に残っていたイグナトフ、そして小宮、一係の元へと姿を消し、残った2人は薄闇から覗く陽の光を見上げる。

 

 

未だに混乱は続いている様子だった。救急車両などが複数台ビルの近くに停車しており物々しい雰囲気なのは変わりないが、大惨事には至っていない。

 

サイレンを鳴らし、赤いランプを点滅させる多くの車両。次々とビルから脱出した公安局員達やその関係者たちがセラピーなどの救急対応を受けていた。

 

その光景を例えるなら―――昔の刑事ドラマや映画の最後のシーンでよく見るような光景だろうか。安堵し仲間同士で手を取り合い、互いの無事を確認し合う人々――

 

 

ふと舞白ら背後に目をやると公安局ビル内のエントランスにてイグナトフと小宮と再会する慎導の姿が確認できた。

 

舞白は思わずそれに笑みを浮かべ、その光景をじっと見据える。

 

 

 

「良かった。慎導監視官、ボロボロだけど元気そう。」

「アンタも随分ボロボロよ?直ぐに手当を受けなさい。」

 

霜月はポケットからハンカチを取り出すと舞白へと手渡す。彼女らしい可愛いデザインのハンカチに思わず再び笑みが溢れると、それを頬にゆっくりとあてがった。

 

「……そっか。私頬っぺた切っちゃってるんだ。」

「それ以上傷増やしたらみんな心配するわよ。」

「これくらい何ともないよ?怪我には慣れてるし、これくらい――」

 

 

じわっとハンカチが赤く染る。それを見て申し訳ないなあ、と心の中で呟いて視線を前に向けたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ほら。アンタにも迎えよ。」

 

 

 

 

 

 

昔のドラマや映画のラストシーンにありそうな光景。小説にもこんなシーンがよく描かれていた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――伸元さん。」

 

 

人ごみの中に紛れ、こちらをじっと見据える人物。距離はかなりあるはずなのに、なぜか直ぐに分かってしまった。

 

会いたくて会いたくて堪らなかった最愛の人。何度も何度も……幾度となく傷つけてしまった最愛の人。

 

 

 

 

 

「舞白……。」

「……ッ……」

 

 

2人は同時に前へと歩き始める。時たま人の体にぶつかりながらも、2人は視線を外すことは無かった。

 

やっと再会できたその時を待ちわびていたかのように。手を伸ばす先の光景がやけに遅く感じる。ゆっくり、ゆっくりとスローモーションのような動き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――宜野座舞白。あなたを拘束させて頂きます。」

 

 

刹那、その間に立ち塞がるスーツ姿の男たち。

あっという間に宜野座の姿は見えなくなり、舞白の体は無数の手に雑に押さえつけられ、濡れたアスファルトの地面に倒れ込む。

同時に辺りには警備ドローンが現れ、それを見た一般職員たちは驚いた声を上げ辺りから離れていく。

 

 

「―――ぐっ……」

 

既に体力など持ち合わせていない舞白は抵抗すること無く、鈍い痛みに耐えるのみ。両手は後ろ手に組まされ手錠のような拘束具を取り付けられるヒンヤリとした感触を手首に感じた。

 

 

 

 

「!?ちょっと!待ちなさいあなた達!何者!?」

 

すぐ後ろで霜月の噛み付くような声が響き渡る。

 

 

「何なんだ!?一体!!」

 

前方では怒りと苛立ちを含んだ宜野座の声がハッキリと聞こえていた。

 

 

「われわれは厚生省の者だ。……身分証もある。」

 

ひとりの男が霜月に向けて身分証を提示する。

そこにははっきりと厚生省名前が記されていた。

 

 

「厚生省……機密機関――」

 

霜月は小さなか細い声でそれを呟く。しかし、上位組織だからといって自由にさせる訳にはいかない。

 

霜月と宜野座は止めるように男たちに掴みかかるも行く手を阻まれる。あと少しで届くはずだった彼女との距離が再び離れ、宜野座は焦りや怒りの感情を顕にしていた。

 

 

「私は厚生省公安局刑事課 課長の霜月です!話を聞いて!!彼女を拘束する理由は無いはずよ!」

 

男たちに掴みかかる霜月。しかしその相手は引き下がる様子はなく、霜月を冷たい視線で見下ろすのみだった。

そんな親友の姿と夫の姿に舞白は微かに諦めの笑みをこぼし、地面に押さえつけられたままゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「―――あなた達は……厚生省の人達ですよね?……ッく……"容疑者幇助"……ッ…ですか?」

 

 

舞白は分かっていた。

しかしここで本音を口にし、暴れてしまえば本末転倒だろう。

 

 

容疑者幇助、もしくは他の容疑に掛けられたとしてめ仕方がないことを実際に行ってきた事実。しかしそれは"建前だ"

 

 

"厚生省機密機関"

8年前、こうなるはずだったのだろう――

 

 

 

「あなたの言う通り"容疑者幇助"。行方を晦ました上に無断で外務省と厚生省のシステムにハッキング、クラッキング。国防省からも申し出があった。履歴を追ってみた所、あなたが起こしたことで間違いないですね。」

 

冷酷な男の声色。

さらに強く地面に押さえつけられると舞白は力なく声を上げる。

 

「……う……ッ…」

「他にも、"幾らでも君を拘束する理由"がある。」

 

 

ドローンで上手く見えない。しかし舞白が拘束され苦しんでいるであろう事実に宜野座と霜月は納得がいかないと声をさらに荒あげた。

 

 

 

 

 

「今回の事件に関しては私たち刑事課一係と外務省行動課に権限があります。……厚生省の人間だからといってそこに踏み込む権限は一切無いはずよ!」

「直ぐに離れるんだ!……貴様ら――ッ!!」

 

 

今にでも飛びかかりそうな2人。

騒然とする野次馬達。

エントランスから騒ぎを聞きつけた慎導達も驚いた様子でその中に紛れていた。

 

 

「((ここで事を荒立てる訳にはいかない。……どうせ狙いは私の体質――))」

 

 

 

「――ッ……ぐ……ぅう…………」

 

押さえつけられる体を無理やり起こす。どこにそんな力が残っていたのかは自分でも分からない。体全身が鉛のように重いはずなのに、その体は男たちの腕を押し返し、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「……大丈夫です。自分の"罪"は認めます。」

「舞白!アンタ何言ってんの!?」

「逃げませんから。どうか事を荒立てないでください。……セラピーを受けている方々を刺激したらサイコハザードも起きかねません。」

 

疲れきった表情の最奥から無理やり笑顔を引き出す舞白。今にでも倒れそうな状況に舞白を知る人物達の表情が曇っていく。

 

 

 

 

 

「大丈夫大丈夫。……ごめんね?」

 

 

そのまま警備ドローンに囲まれ護送車へと連れられていく舞白。足はおぼつかず、何とか歩けているような状態だった。

 

その後ろ姿を見据える霜月。

やけに胸騒ぎがしてしまう。

 

2年前の――常守朱のあの時の光景が目に浮かぶ。

 

 

 

 

 

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"一係をお願い。美佳ちゃん――"

 

 

 

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状況は違えどあの時をもう一度再生しているようだった。

 

 

霜月はゆっくりと無意識にドミネーターを手を伸ばし銃口を舞白へと向ける。

 

 

 

 

 

 

『――"犯罪係数0" 執行対象ではありません――』

 

 

霜月だけにその音声が響く。

青く光る瞳に映る彼女の背中は遠くなっていった。

 

 

 

「ッ……何で……」

 

 

 

彼女の犯罪係数は外務省権限で計測不可のはずだ。ここ数年、彼女の色相や犯罪係数はもはや未知数といっても過言では無い。

 

 

 

 

「――――ッ!!納得いかないわよ!」

 

 

 

 

霜月はその場に膝から崩れ落ち、手元からドミネーターが地面へと転がる。

 

そしてその横で、霜月の背中に触れる宜野座の表情も痛恨の色に溢れ、唇を強く噛み締めていたのだった。

 

 

 

「……っ……く……」

 

 

それはまるで、2年前の常守朱の時と同じ光景だった。

 

 

 

 

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