トネリコの添木   作:鞍馬らす(男)

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アニメ放送記念ということで、久しぶりの投稿です。あれから急に忙しくなって、長い期間投稿できませんでした。ごめんなさい。これから頑張っていこうと思いますので、ぜひ楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。


東方の少女

 「はぁ!?何やってんのキミ!!」

 

 「バカそっちは危ねえって!!」

 

 「君、止まれっ!それ以上パレードに近寄るな!」

 

 突如走り出した少女に遅れて反応した三人が声を張り上げる。しかし、少女の足は止まらない。その代わりに、かろうじて無事な首をぶんぶんと左右に振る。

 

 「わ、わかってる!!分かってるのにっ、、、足が勝手にっ——!!」

 

 うわずった声でそう叫ぶ。異常事態を悟り、三人の少年達が同時に駆け出した。呆気に取られている他の新入生達を尻目に、彼らは全力疾走で少女の背中を追う—————が、途中で目に入ったパレードの光景に目を見開くことになった。

 

 「おいおい、、、あのトロール、こっちに向かってきてねえか!?」

 

 長身の少年が叫ぶ。その指摘通り、さっきまで議論を交わしていた対象が、大地を揺らしながらこっちに迫ってきていた。

 

 「ガルルルルゥ!」「グゥルルルルル!」

 

 ずしん、ずしんと音が響く中、異変を察知したのか、パレードの奥から2体の魔犬(ワーグ)が飛び出してきた。

 

 魔犬という魔物は基本的にどの種族も縄張り、群れを維持しようとする意識が強い魔法生物だが、この二匹も例に漏れず、飛び出した勢いのまま群れを乱そうとする不届き者に制裁を与えようと鋭い歯を鈍く光らせる。

 

 低い体勢から唸りを上げるようにトロールへと近づく顎が、遂にその皮膚を裂こうとした時、その思惑の悉くを薙ぎ倒すかのように、トロールの腕が振るわれた。

 

 「ウオォォォォヴ!!」

 

 地鳴りを伴う絶叫が収まったかと思えば、さっきまでフォード達の眼前にいた魔犬は2匹とも腹の中の臓腑を溢して横たわっていた。

 

 「あのトロール・・・すでに正気では無い!」

 

 「ほっといたら死んじゃうヤツだこれ!」

 

 異様な暴れようのトロールを見て躰を震わせるも、少女の足は止まらない。何故かはわからないが死に近づいていく少女を見て、ついに少年たちは腰の杖剣を抜いた。———先程抜いた白杖とは異なり、それは杖の役割を兼ね備えた片手剣である。戦い以外の機能を持たない杖剣を抜くということ、それはつまり戦いの開始を意味する。

 

 —————一方で、何らかの強制力によってパレードの方に走らされていた少女は、未だに自分が置かれている状況を理解できていなかった。

 

 「なにこれ!?・・・・・・止まって!とまってよぉ・・・・・あうっ!?」

 

 体感では悠久とも思える間、少女の意に反して動き続けていた両脚だったが、ふと、自分の本当の所有者を思い出したかのようにぴたりとその動きを止めた。足は自由になったが、急な制動でバランスを崩してしまい、、少女の体は前に投げ出され、ごろごろと転がった末に頭から草地に突っ込んで止まった。

 

 「・・・・あ、ぁあ・・・・・」

 

 「ゴァアアアアア!」

 

 ——————すぐに避難しなければ危険な状況だが、運の悪いことに、起きあがろうとした少女に待ち受けていたのは、捻ってしまったのか痛みを訴える右足と、眼前でその屈強な体躯をさらけ出したトロールだった。

 

 「遠すぎるっ!このままでは間に合わない!」

 

 オリバーが吠える。いくら魔法使いと言っても彼らはまだ卵、限界は存在する。呪文により快速で駆け出した少女とは開きがあり、呪文を放っても減衰してしまい意味がない。

 

 「あ・・あぅ・・ひっ・・ぁ」

 

 「立って逃げろ!今すぐ!」

 

 檄を飛ばされても少女は動けない。足の負傷以上に、恐怖で体がすくんで動かないのだ。呼吸すらままならない様子の彼女の眼前で、トロール緑がかった大きな足が、少女を踏み潰さんとばかりにゆっくり持ち上がっていった。

 

 今まさに、少女より巨大な足が振り下ろされる寸前——————

 

「喝ァッッッッッ!」

 

 ——————トロールと少女の間に舞い降りた影から裂帛の気合が放たれ、トロールに二の足を踏ませた。

 

 「立って逃げられるでござるか?」

 

 「ご、御免なさい。足が動かないの、、、」

 

 突如として降ってきた者の正体は、先程話題にしていたサムライ少女その人だった。体の状態を聞かれた巻き毛の少女が、申し訳なさそうな顔で最悪の結果を伝える。

 

 それを聞いた東方の少女は、一回だけ深く呼吸した後、特に焦った様子もなくくるりとトロールに向き直った。

 

 「——————然らばそのまま、そこでしばしごゆるりと待たれよ」

 

 続く所作で左腰の刀に右手を添え、おもむろに鯉口を切って抜刀した。

 

 「ぜぇっ、はぁっ、、、刀を抜いたぞアイツ!もしかして戦う気なのか!?」

 

 小女を追いかけていた三人のうち誰とも違う声に驚いてフォードが振り向くと、先程の眼鏡の少年が息を切らして追いかけてきていた。さらに間を置かず、これまた異変を察知したのか駆けつけてきた縦巻き髪の少女が迷うことなく四人の前に躍り出た。

 

 「馬鹿をおっしゃい!そんな真似、させるわけがないでしょう!」

 

 そう言うと縦巻き髪の少女は、腰の鞘から抜き放った杖剣の切っ先をトロールに向ける。

 

 「あたくしが注意を引くからその隙にお逃げなさい!——————雷光疾りて(トニトウルス)

 

 詠唱一節、杖剣の切っ先から迸った白い雷光がトロールに迫り、その胸に直撃した。———が、

 

 「っ!目線すら寄越さないなんて、、、」

 

 一撃を受けたトロールはというと、小揺ぎもせずそこにいた。

 

 「火力が足りてねぇ!俺たちも加勢するぞ!——炎熱盛りて(フランマ)

 

 「ふ、炎熱盛りて(フランマ)

 

 長身の少年と眼鏡の少年が後に続いてトロールに呪文を放つ。炎はトロールの肩と頬に着弾し小さな焦げ跡を作るが、依然として一切のダメージは無いようだった。

 

 「顔面に当てても効果なしかよ・・・。おい、何ぼさっとしてやがる!お前らも早く打て!」

 

 長身の少年が未だ呪文を打っていない二人に協力を促す。

 

 「・・・ダメだ。今の俺たちが習得しているのは基礎の一節呪文までで、それだとあのトロールにはダメージを与えられない!」

 

 「一節の攻撃呪文を何発放ったところで毛ほどにも効き目はなさそうだね」

 

 厳しい現実を告げながら、オリバーは、目の前の命を救うために必死に思考を回す。———どうしたらいい?

 

 思案をしているうちに、縦巻き髪の少女が痺れを切らした。

 

 「やむを得ません。近づいて目を狙って、、、なんですの!?」

 

 —————間一髪、そう言って駆け出そうとする少女の肩をオリバーが掴んで止めた。

 

 「待ってくれ、考えがある。君たち全員、起風呪文は使えるか!?」

 

 口に出した瞬間、伸し掛かった責任にオリバーの膝が震える。オリバーの質問に縦巻き髪の少女が眉根を寄せた。

 

 「そのくらいは当然。でも、風を起こしたくらいであれをどうにか出来ますの!?」

 

 「それだけじゃ無理だ。でも、全員の風を集めた上で工夫をすれば、その確率は上がる」

 

 当然の疑問に弱気を隠してオリバーが答える。・・・・ダメージを与える手段がない以上、策も無い状態で飛び込めば危険は増える。危険を避けながらこの状況を打開するにはどうすれば——————習得済みの呪文を洗い出して、彼は一つの解答を出した。

 

 「なるべく強い風を細く絞って、俺の合図で空中のあのあたりに散布してくれ。それを俺がまとめてトロールにぶつける」

 

 「その言い様——収束呪文を実践する気ですの!?初対面の相手となんて・・・それに、たとえあなたが余程器用だとしても、風をぶつけた程度では—————」

 

 「それを議論している間にあの子が死ぬ!この一回だけ、俺を信じてくれ!」

 

 強くそう言って杖剣を空中に向けるオリバー。その横顔を見て、縦巻き髪の少女は覚悟を決めて彼の隣に並んだ。

 

 「やる気だねぇ」 「マジかよ・・」 「うわわわ・・・」

 

 三者三様の反応を見せて、後の三人も隣に立ち、杖剣を空中に向ける。そうして全員の準備が整ったところで、オリバーは杖を振って合図を出した。

 

 「「「「吹けよ疾風(インペトウス)」」」」

 

 詠唱が響き渡り、空中の一点で風が唸りを上げ始める。それを正確に知覚したオリバーが叫ぶ。

 

 「いいか、これから何があっても呪文を止めるな!————笛吹き鳴らす(テイービア)

 

 その呪文と共に、渦巻く風が巻き取られて不可視の大笛を形作っていく。程なくして甲高い音をかき鳴らし始めたそれに、オリバーは杖を振って更なる干渉を加えた。このままでは耳障りなだけだが、風の通り道を調整することで、その音はいかようにも変化する。

 

 4人が見守る中で、響き渡る笛の音が少しづつ変化し始める。甲高く耳障りな音から、腹の底に響く唸るような重低音へと。ともなって彼らの全身が得体の知れない恐怖に震え始め、—————そのうち縦巻き髪の少女とフォードの二人がその正体を見てとり、驚愕の声を上げた。

 

 「これは—————竜の咆哮(ドラゴンボイス)・・・!」「警笛呪文の応用で!?よくもまぁこんな器用に・・・」

 

 「そう聞こえるようにした偽物だ!だが————紛い物でも竜は竜。どんなに鈍い生き物でも、生態系において自分より上位のものを無視することはできないだろう!」

 

 音の制御に集中しながらオリバーが言う。—————頑丈なトロールに直接ダメージを与えられないと言う結果から、彼は呪文の破壊力よりも衝撃力。「捕食者(ドラゴン)から逃げ出したい」という、全ての亜人種に備わる本能を揺さぶるという選択にかけた。

 

 その選択は功を奏し、竜の実在を錯覚したトロールはびくりと震え、その視線をオリバーの方へ向けた。作戦の成功を見てとったオリバーが叫ぶ。

 

 「奴の視線はこちらを向いた————君たちはそこから逃げろ!後はこちらが受け持つ!」

 

 これから始まるトロールとの鬼ごっこを覚悟しながら少年は言う。————が、そんな思惑を飛び越えたところで、東方(エイジア)の少女は動き始めていた。

 

 「ふッ—————!」

 

 彼女の両足が地を蹴り、その体が宙を軽やかに舞った。—————巨体を支えるために常に曲がりがちなトロールの膝を踏み台にして再度跳躍。そのまま肩をも蹴り、さらに上空へ。

 

 「オォッ!?」 

 

 流石にトロールも自身の体を駆け上る影に警戒を覚え、竜という架空の脅威より、今現在確実に迫る脅威に対処しようと丸太のような右腕をスイングする。少女の体よりも大きい手のひらが少女を叩き落とそうと迫る。確実に直撃するかと誰もが一瞬先の彼女の悲惨な光景を想像した時—————

 

 ——————「固く縛れ《コリゲシヨネム》!

 

 竜の咆哮が霧散すると共に、一節の詠唱が響いた。トロールの腕がほんの一瞬だけ硬直し、その手は少女の服を掠めるだけに終わる。少女の型破りな所業と、突如風の出力が目減りしたことに驚いたオリバーが周りを見渡すと、その隣でトロールの方へ杖剣を向けるフォードの姿があった。

 

 「ごめん、オリバー。呪文勝手に止めちゃって」

 

 「いや、英断だ。だが、あの娘はこの後どうするつもりなんだ!?」

 

 この状況に頭を悩ませるオリバー。竜の咆哮が霧散してしまった以上、彼女達が避難できるよう次の手を打たなければならない。—————生半可な呪文は効果がなく、精神の揺さぶりも一度途切れてしまった。彼女たちが潰される前にどうするか—————次の手を打つために回していた頭は、落下しはじめる少女が刀を大上段に構えたことで吹っ飛んでしまった。

 

 「斬る気か!?・・・あの、トロールを!?」

 

 オリバーが瞠目する。相手はあのトロール。巨体に硬すぎる外皮を持っている化け物だ。一年生の筋力では土台無理な行動のハズ。————そんな考えはお構いなしに、右腕を振り切って無防備な体を晒しているトロールの頭上に着地すると、

 

()ィィィィィィ!」

 

 渾身の気合いと共に、全体重と魔力を乗せた斬撃を、亜人種の脳天に見舞った。

 

 「———ガ———」

 

 ごぉん、と。丸鐘を丸太で打ったような音が響き、トロールが白目を剥いた。力を失った両膝がゆっくりと地面につき、とめどなく体ごと崩れ落ちる。

 

 その間、わずか数秒。想像の埒外の決着を、オリバーたちは言葉を失ったまま見届けた。

 

 呆然と立ち尽くす彼らの前で、地面に降り立つ東方(エイジア)の少女。

 

 その姿を目にして、オリバーの呼吸が止まった。——————髪が、真白(しろ)い。さっきまで青みがかった黒だったはずの少女の髪。それが今は、真逆の純白に染まって淡い光を帯びている。

 

 「無垢の純白(イノセントカラー)・・・」

 

 ぽつりと呟くフォード。その言葉は、オリバーにも聞き覚えがあった。・・・体内における魔力循環の力強さと、滞りなく魔力を通す水晶じみた髪質。その両方を備えた魔法使いにのみ現れる特異体質————極めて稀有な天世の祝福だ。

 

 戦闘を終えて落ち着いたのであろう。瞬きもせず見守るフォードたちの前で、少女の髪色が元の色に戻っていった。残心を解いた少女はくるりと巻き毛の少女の方へ向き直り、容態を聞いた。

 

 「怪我はないでござるか?」

 

 「え、あ、あぁ・・・・・」

 

 「ふむ・・・足を痛めてござるな。しばし待たれよ、今はあやつの頭蓋の硬さで手が痺れておるゆえ、背負うことができ申さん」

 

 そう言ってぶらぶらと両手を振って見せる少女。その目がフォード達を捉える。

 

 「ああ、そこの御仁ら。助太刀に感謝致す。おかげで千載一遇の好機を掴め申した」

 

 気さくな口調でそう言ってから、その顔がふと興味深げな表情を浮かべ、

 

 「時に————あの雄叫びはどなたが発したものでござるか?凄い迫力でござったな。拙者、入学式前に危うくちびるところだったでござるよ。」




アニメ最高だなぁ!オィ!
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