皆さんの尽力により4時間という圧倒的なスピードで、小説宣伝を書き上げるよりも1500万という目標金額は達成されましたが、引き続きクラウドファンディングは開設されております。
この小説活動がどうかクラウドファンディングの募金活動が開始された事を知っていただく、ほんの一助になれれば幸いです。
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『1頭1頭と向き合い続けるために。引退馬たちに安心安全な新厩舎建設へ』
相変わらずの牧場一面を染める雪日和。山羊や牛たちの清掃を一通り終えたアオは、最近新しく買ってもらったスマートフォンの画面をマジマジと眺めていた。
「引退馬……ウチみたいにウマ娘が厩務員さんとして働いてるのかな」
アオは『馬』という旧字体の存在を知っていた。本来使われない漢字だが、地名などで現代でも残っている。由来は「速いウマ娘の足が残像で四本見えた」だとか。
なれば、先の見出しの意味も自然と理解できる。ドトウ達のように、牧場にすごしている者達が安心安全に暮らせるように厩舎を建て替えるという計画なのだろう。
アオは後ろを振り返る。塗装部分はペンキが剥げ、金属部分には茶色い錆が目立つ厩舎。
乾いた笑いが漏れた後、アオはこの職業が過酷なことを再確認してため息をついた。
牧場経営。牛乳や羊毛など畜産品を売却する酪農業、普段見られない動物を眺められる観光業、何かしらの理由で他人が所有する動物を世話する委託業など。牧場によっていくらか差異はあれど基本的な収入源はその辺りだ。
「ウチも搾りたてから作ったアイスクリームとか売ってるけど……」
正直、寒い地域だから売り上げ自体は芳しくない。美味しいとは評判だけど、わざわざそれ目的に買いに来る客はほとんどいない。せいぜい他の目的で寄ったついでに買ってくれる程度だ。
「どうしたんですかアオさん~?」
落ち込んだ素振りで座り込んで物思いに耽るアオを覗き込むドトウ。小学生のアオからしてみればドトウは存外、背が高い。
「あ、ドットさん」
しかしそこは命の恩人相手。全く物怖じせず、むしろドトウに声をかけられて嬉しそうに顔をあげ、「みてみて!」と言わんばかりにスマートフォンの画面を目の前にかざした。
「募金? 寄付? ともかく、他の牧場さんで厩舎の建て替えの資金を募ってるんだって。インターネットで!」
「あぁ、クラウドファンディングってやつですねー」
長年、異世界に囚われていたアオは首を傾げて「ハテナ」といった顔をしている。ドトウは微笑ましそうにしながら、彼女と肩を並べ説明していく。
「クラウドファウンディング……返品がある融資とか、あるいは寄付とか、一般の方々にインターネットを通じて広く支援してもらうこと……ですかねー?」
ドトウのそういった説明に寄付や募金などは政府やNPO法人などが企画して行う、一種堅苦しい活動とは一線を画した代物にアオは思えた。こういった牧場の厩舎の建て替えの寄付を募るなどは特にそうだ。
「ウチもドットさんの名前出して募金したらお金集まるかな?」
冗談ぶった言葉が返ってきて、ドトウはおっかなびっくりな表情を浮かべる。そしてアワアワと慌てながら口を開いた。
「そ、そんな。わたしの名前なんて出したら、むしろ新築の厩舎に穴を開けたりしないか皆さんが不安になられたり~……」
そのような言葉を並べ立てながら、ドトウは矢面に立つことを避けようとする。アオは、それが可愛いやらドトウらしいやらで笑わずにいられなかった。
「そ、それにこういう募金ってそう簡単に集まるものじゃ……」
自分自身から話題を逸らすように改めてスマートフォンの画面を見つめるドトウ。瞬間、表情が固まる。
アオは何事かと一緒に覗き込む。まず視界に入ったのは『目標金額1500万円』という文字。
「あぁ。そりゃ建物の建て替えだからね。それくらいは当然必要――」
続いて視界に入ったのは、"クラウドファンディングを開設した初日にその寄付金額を達成している"という事実。1500万円という巨額を超えてなお、寄付を志願する一般の人々は後を絶たずという気配である。
ドトウは唖然とした。こんな巨額が一昼夜で集まったという事実にも驚愕だが……寄付金が集まる気配がまだまだある事実に呆気になってしまう。最終的に1億円は超えるのかもしれない。
「ウチもクラウドファンディングってヤツをしたらこんなに大金集まるかな?」
アオが大真面目に思案顔で考えてるから、思わずしどろもどろで答えるドトウ。
「あー……うー……そもそもこんな短時間でこんなに集まることって滅多にあるわけじゃないと思うんです……」
こういう大金が集まるには、それ相応の責任が伴う。だからこそ慎重にしなければならないし、アオに"容易い集金手段"として考えてほしくなかった。
だが、慌てるドトウに真っ向から向き合いながら、アオは真剣な表情でドトウを見つめた。
「分かってるよ。大金が関わるからには、ちゃんと責任をもってやらないといけないんでしょう?」
それが当然の義務のように語るアオに、ドトウは少し、驚いた。
「何百万、何千万円も募るんだから、私腹を肥やすような使い方は当然できない。やったが最後。それだけ注目が集まってるんだから、一般人はおろか同業者からも関係者からも信用を失う」
子供の私だって、それくらい考えてると言わんばかりに言語化してみせた。アオは今年11歳になって間もないが、しっかりとその辺りの責務を考えるように示す。
「……」
ドトウは、アオの考えの続きを促すように黙り込んだ。アオはそれを受けてか、自分の考えを語り続けた。
「牧畜家が貧困に陥れば、その影響は手元にある家畜にも及ぶ。万が一経営難に陥れば、行く先はよくて他の牧場に譲渡、最悪は廃用(屠殺とほぼ同義)にせざるを得ない」
アオは顎に手をあて、ドトウに対して語りかけた。以前のドトウも目を逸らしていた事実だが、多くの家畜にとって屠殺は真っ向から向き合って考えなければならない問題だ。
「身も蓋もない話だけど、こういうお仕事ってお金があればあるほど"お金がないからと殺さずに済む動物"はいっぱいいる……そこまでいかなくても、"貧困で不衛生や不自由な環境に置かずに済む動物がこの世でありふれてる"のは事実」
牧場生まれの彼女は、小学生の身の上ながらにそう言い切った。ドトウは、複雑な感情を抱きながらもアオの言葉を否定するつもりはなかった。
一部の動物愛護団体の人達が声高に指摘する「家畜達は酷い扱いを受けている」というのは、ある側面においては事実だ。
ここはあえて、言葉を選ばずに書き記す。
雄の乳牛は育てばすぐに肉にされ、妊娠・出産を繰り返し牛乳をたくさん出してくれた乳牛もいずれは肉にされる。飼育料が底を尽きて、引き取り手もなければ、廃用の時期は早まる。
採卵種のヒヨコは雄だと判明した時点でミキサーにかけられ肥料かペットの餌になる。乳牛と違って、品種的に人間の食用肉に向かないからだ。他の家畜種も、部分的にはどうしても話題に出したくない残酷な側面はある。
そんな過酷な家畜の事情の中でも牧場関係者の多くが恐れているのは、特定の病気にかかった疑いがあれば厩舎丸ごとの動物の一斉処分という『家畜伝染病予防法』。
この辺りは鶏の鳥インフルエンザが代表的だ。一昔前は狂牛病(牛海綿状脳症)も問題となったか。人間相手ならば辛抱強く治す選択肢があるが、家畜は"罹患した疑いがある時点"で殺処分の対象だ。
天寿をまっとうするまで家畜を飼育するというのは、どれだけの資源が費やされるのか。病気にかかった疑いのある家畜達を処置しなければ、どれだけの甚大なリスクを抱えることになるのか。
もはや、そういう"命の選別"をしなければ家畜を人間社会に組み込むことは現実的ではなくなっている。
だからこそ、そういう過酷な選択を避ける為に。そうでなくても、彼ら動物を少しでもよりよい環境で過ごさせる為には、身も蓋もない事をいえば……苦痛を与えない屠殺の技術開発と運用、伝染病の予防や健康状態の維持、家畜にとって快適な飼育環境の改善など色々ひっくるめて「金がいる」。
猫や犬といったペットに近い動物達だって、お金があれば快適な生活を送らせたり、野良猫や野良犬に関わる多くの問題事もいくらかは解決に近づけるかもしれない。ある意味で一緒なのだと。傍らにいる最近家族になった猫と、昔からの相棒である老犬を横目で見てからアオは口を開く。
「そういう募金や寄付って、どうしても少なからずのやっかみや偽善なんて誹りを受けることだってあるかもだけど。額が増えれば増えるほど、そういう視線や、責任だったり責務だったりと対峙しなければいけなくなるとしても……」
そこでいったん言葉を区切ると。アオは真っ直ぐスマートフォンの画面を見据えて。
「そういう抑圧に負けちゃって"命は大切なものだ"って考え続けるのが嫌なら、そもそも牧畜家なんて目指してないから。たぶん、この画面の向こうの人達だってもうそういう覚悟も責務も請け負うつもりなんだと思う」
そう力強く言い切った。
ドトウはそんなアオの言動を見て、ただただ「この子はやっぱり牧場の厩務員の一員なのだ」と思うと同時に納得してもいた。
そうやって自分の行動原理が根底にあるからこそ、あの異世界での日々を諦めずに歩き続けたのだろうか。この世界に帰り着いたのだろうか。
「……自分で言っちゃててさ、やっぱドットさんやタイキさんの名前を看板にして、やるのは、ウチはやめとこうかな」
と、アオは唐突にそう言った。アオの論調を受けて段々乗り気になっていたドトウにとっては、少々肩透かし。タイキシャトルだって大喜びで牧場の寄付に名前を貸し出すくらいはやるだろう、とドトウは考えている。
「いや、ドットさんの名前に乗っかるくらいなら、アタシ自身さ、立派になってからの方が、相応しいかなぁ、って」
そう言って、アオは牧場の景色を見る。確かにオンボロではあるけど。まだまだやっていけてはいる。家畜たちにある程度不自由させないくらいには。
アオは「自分自身の手で立て直してみせたい」と将来への展望を想像させるかのように。無邪気に笑う。
「それにさぁ、なんとなく、この…………『ノーザンレイク』さんだっけ? むしょーにさ。応援したいんだよね。何故か。動物さん、大事にしてるのが伝わってくるっていうか」
アオは、照れ隠しのように頬を掻いて。逃げるように牧場厩舎へ戻る仕草をみせる。
「はは、知らない牧場なのになに言ってんだろアタシ」
そう言うとスマートフォンをドトウにひょいと渡して、錆の目立つ厩舎に向かっていく。
彼女の手の平に伝わってきたのはスマートフォン。なんとなしに、牧場や寄付についての説明内容をもっと読み進める。
──ノーザンレイク。ドトウは、その牧場にいる動物達の写真を見て、ハッと驚く。ドトウは夢うつつな感覚を覚えながら、ゆっくりと目をぱちくりと繰り返す。
シャトじいじと同種の動物、そして『鹿毛の体毛に強健な体つき。額からは大きくて白い流星が鼻まで綺麗に染め上げた、とても、優しい目をしていた動物』の姿が……あの出会った時と、あまり変わらない様子で目に映る。
「どうしたのドトウさん?」
遠巻きにアオのそんな声が聞こえてきて、ドトウはクラウドファンディングの支援総額の金額、そして、まだそれが増えていくのだろうという事が目に留まって、そして思った。
「あぁ。貴方は、貴方達はやっぱり……シャトじいじのように、誰かに"愛された存在"なのですかぁ……」
ドトウはそう感慨深そうにつぶやいて。愛くるしいトラ猫が牧場のボスのように写真に写り込んでる姿が何枚も投稿されていて、「彼も愛されてる一員なんだろうなぁ」と、思わず笑いが出てしまう。
こういう電子機器にも"山林の魔法"は影響あるのかなとドトウがなんとなしに考え、アオがそのページに接続できた理由について考えが及び、鹿毛の動物さんの写真をみて、いくらか合点がいき、ちょっと気恥ずかしくなったり、また笑いがこみ上げたり。そんな一日。
別の日にそのページを再び見に行こうとしたら、アクセスできなかったのは、たぶん、アオとドトウの想像と感想は、当たっていたのだろう。