「グラハムではないか。久しいな。」
午前の鍛練が終わり廊下を歩いていると秋蘭殿が声をかけてきた。
恐らく今帰ってきて報告はすませたのだろう。
「秋蘭殿ではないか。本当に久しいものだ。そちらの遠征は上手く行ったのか?春蘭殿や華林殿に会えなくて気が気でなかったのではないか?」
「それは今からいくらでも埋め合わせができるさ。
遠征は上手くいったが……」
「なにか問題が」
「いや、貴様ならいずれ聞くだろう。
華林様が苑州の州牧になることになった。」
「ほうそれは良いではないか。」
州牧とは確か州で一番地位の高い役職なはずだ。覇道のための一歩となるだろう。
「だが……」
「だが……?」
「これを提案してきたのが陳桂なのだよ。
これまでの遠征も他の国が私達に降るのも全てあのものの策略だと思ってな」
確かに陳桂殿ならばそのことを考えて今まで行動していたやもしれん。そして大きくなりすぎた国を叩き手に入れる。常套句だな。
だが
「それでも華林殿はその話を受けたのだろう。」
「わかっているではないか。
華林様はどんな策があろうともそれを食い破ると。
少しこの判断は危ういとも思ったが」
「それを何とかするのが私達家臣の役目であろう。」
「………」
「なんだそんな驚いた顔をして」
「いや何でもない。姉者見たいなことを言うなと思ってな、少し驚いただけだ。」
「あそこまで戦い好きではないのだが……」
「姉者と同じような顔で死合うのだ。ほぼ同じではないか。」
そこを言われると厳しいものがあるな
「そんな顔をするな。大丈夫だ。貴様には姉者のような可愛さはないぞ。」
「私に可愛さなどあっても誰もうれしくわないだろう。それに可愛さなら春蘭殿、シャン殿、凪で間に合っている。」
「華林様は可愛くないのか?」
秋蘭殿はこういったからかい癖があるのが厄介だ。澄ました顔のままなのでたまったものではない。
もし華林殿に聞かれていたらと思うと冷や汗が出てくる。
結局この後何を言ってもからかわれるなら正直なことを言うか。
「華林殿は可愛くないとはいわんがそれほどではない。」
「ほう……」
「そこまで怒気をだすな。可愛さならの話だ。
華林殿は美しいという言葉が似合うと思うがな。私はあれほど美しい者を知らんさ。」
「確かにそうだな。私も華林様ほど美しい者は見たことがない。
だがグラハムがそのような目で華林様を見ているとは警戒しなければならないか?」
今日は機嫌が良いようだ。いつにもなくからかってくる。私も話を合わせるか。
「それもいいと考えたのだが。華林殿を落とすには先に秋蘭殿を落とさなければならぬな。どうだろうこれからお昼でも」
「なんだ?口説いているつもりか?」
「もちろん。」
といい右手を前に出す。
がその手は秋蘭の左手によって下ろされる。
流石だ。わかっている。
「フッ……振られたな。」
「ふふ…七番目程なら構わんよ。
だが昼からの買い物に付き合ってくれるなら少しは意識してやらんこともないな。姉者も仕事なのでな荷物持ちがほしかったところだ。」
「ならばぜひ同行させてもらおう。」
丁度昼からは何もない労うのも良いだろう。
といい買い物に出かけるためお互い準備をしにいくのであった。
「何をしてたんだ秋蘭とグラハムは?」
昼飯に秋蘭を誘おうと探していると、グラハムと話しているところだった。
何を話しているのだ?
「どうだろうこれからお昼でも」
「なんだ?口説いているつもりか?」
「もちろん。」
といいグラハムは右手を前に出す。
がその手は秋蘭の左手によって下ろされる。
本当に何をしているのだ?
「フッ……振られたな。」
「ふふ…七番目程なら構わんよ。」
最後の部分は声が小さく聞こえなかった。
話が終わったのか二人は別々のほうに歩いていったのだ。
「うーむ……何かモヤモヤするのだが……何故だ?」
「あ、春姉!」
「春蘭様ーー!」
う~む
「春蘭様?」
「お、おぉ、華侖と季衣ではないかどうしたんだ。」
「お昼に誘おうとしたっすけど……」
「何かあったんですか?」
「いや、それがな……」
今見てきた秋蘭とグラハムのやり取りを私が見聞きした範囲で言った。
「えっそれって……」
「おぉ、季衣はわかるかあれがなんだったのか。」
「えぇーー!グラっち秋姉のこと好きだったすか!?」
「なに……」
「だから秋蘭様を好きだった兄ちゃんが秋蘭様に告白して……」
「許さん……」
「もしかして春蘭様しっ」
「許さんぞ私の秋蘭を奪おうなどといくらグラハムでも許さん!」
大切な秋蘭を奪おうなど!奪おうなど!
「あぁあぁあぁああぁ!?」
「ふぇ!?」
「きゃ!?」
奇妙な声を上げ春蘭は走り出す。
そしてグラハムを探し出す。右往左往怒りに任せ城の中を暴れまわるそんななか
「なによあのばか!?」
「なんなんですの!?」
「しゅ、春蘭様!?どうされたのですか!?」
「春蘭様!?鍛練の時より怖い顔をしてどうしたんです!?」
「春蘭さん!?」
「うわぁ……どうしたの春蘭様?」
「どうしたのよ春蘭」
数々のものを巻き込みながら
春蘭は事情を早口で皆に喋り回り秋蘭とグラハムを探す。
もう町にでた二人を探して……グラハムが振られたことを言いふらしながら。
「さて、買い物をすますぞグラハム。最初はここだな。」
買い物にでて最初に来たのは
「ここは……」
女性もののアクセサ…こちらではなんというのだ?飾り物
でいいのか秋蘭はあまりこういったものはつけない。誰の物かはすぐわかる。
「華林殿へか?」
「あぁ、忙しくて土産も買うこともできなかったからな。何か渡せたらいいと思ってな。」
そして物を選ぶため考えこむ。
「………………」
黙って真剣な顔をする。
店主がどう声をかけたものかと困っている。一応こちらは自分で選べると言って店主を下がらせる。
周りも秋蘭のことも私のことも知っているのだろう。後ろからも視線を感じる。
「うむ。これと……これか……」
「決まったか?」
少したち秋蘭が2つの首飾りを手に取る。一つは青い宝石が埋め込まれているもの。もう一つは曹軍の印である骸骨のもの。
本当に何故骸骨が印となっているのだろう。兵の兜ですら骸骨だからな……
「いや、2つで迷っていてな……グラハムはどう思う。」
「私か?あいにくと私はそういったものを選んだことがないのだが……」
「まぁそんなに深く考えるな
一応男からの意見もほしいのでな。」
「そうか……ならそちらの青いほうだな。瞳の色と同じであるしな。そして華林殿は他にも骸骨の装飾品はいつも身に付けている。いつもとは違った物を身に付けるのも楽しみに繋がるだろう。」
「ふむ。確かに……いつもとは違う華林様………ふふ」
秋蘭殿その顔はやめたほうがよいぞ。変に緩みすぎて不気味だ。店主も顔がひきつってきているぞ。
「よし店主。これをもらおうか」
と言って最初の買い物は終了した。
「次はどこへいくのだ?」
「次は食材だな。いい場所はわかるか?」
「それならば市場にいくとしよう。私の知っている店がもっともある場所だな。だが、何故食材を?」
「華林様と姉者に今日の夜は夕食を作ろうと思ってな。」
休みをもらってまで主君や姉のために尽くすとは……
よき愛だ……
「よし!荷物持ちでも何でも今日は私が引き受けよう!」
秋蘭殿から少し変な目で見られるがそれを無視し市場に向かう。
途中の会話は何気ないものをする。
お互いの近況、仕事の成果、秋蘭があっていなかったものの近況。そして春蘭の可愛さ……
やはり淋しかったのではないか。
少し遠回りをしたせいかその雑談は長く続いた。
失敗したときの春蘭、成功したときの春蘭、戦場での春蘭、事務仕事中の春蘭。
各春蘭殿の可愛さをこと細かく語る。
そして
「やはり姉者は可愛いな。」
そう結論をつけた。
そうだな。目的地はもうすぐだ。
「あそこを右に曲がれば目的地だ。」
「そうか。遠回りしたかいがあったな。よく話せたよ。」
角を右に曲がった瞬間私達は家屋の屋根に登る。
そして私達の後ろにいた者のなかから二人に目星をつけ
上から押さえつける。他の人達は驚いているが押さえているのが私達だと気付くとさっとその場から去っていく。
「さて、このものたちは何者だろうな?まさか賊どもの生き残りか?それにしては……」
「秋蘭殿。まぁ落ち着け。それで何をしていたか聞いてもよいか?」
「は……はい夏侯淵様、隊長……」
「隊長……こいつらはグラハム隊の者か。賊にしては隠密が上手いと思ったがなるほどそういうことか。だが何故グラハム隊が隊長であるグラハムと私を尾行するのだ?」
「「それは……」」
二人の隊員は口ごもる。
だが表情は何かを隠してはいるが、ただいいづらいだけだと見える。何も裏切りやらそういったものではなさそうだ。
そう考えていると隊員の一人が口を開く
「あの……とても申し上げにくいのですが……」
「構わん。言ってみろ。」
「は!
城内で隊長が夏侯淵殿に迫りひどく振られたという噂が急速に広まっています。」
「「なに…?」」
私と秋蘭殿は同じ表情をする。
あれを見られていたのか流石に調子にのりすぎたか……
見られたのは荀彧殿か?いや華侖殿の可能性も……
「そしてその話を聞いた後に隊長が夏侯淵様と外にでた所を見た兵がいまして。少し心配になりグラハム隊独自に全員動いております。許可はは楽進様から得ています。」
「ふふ、なかなか面白いことになっているな。さてグラハムどうしようか?」
「こういった噂は不和の原因にもなりうるからな早々に解決したほうがよいだろう。わかった一応貴様らは戻って事実無根だと言え。後で私も「いたっすーーーーー!」ぐはっ……!」
「あ、華侖様がお兄ちゃんに刺さった。」
どうやら華侖殿が私に飛び込んできたらしい。
そしてシャン殿よ……できれば止めてほしかった。
「グラっち大丈夫っすか!春蘭から聞いた後栄華から聞いたっす。凄い悲しいっすよね?何かしてほしいことないっすか?何でもいってほしいっす!」
まさか発端は春蘭殿か……
それはまぁ想像できるな。
恐らく私達のやり取りを見た春蘭が皆に言いふらしたのだろう。
「ということでお兄ちゃん。」
「なんだシャン殿?」
といい腕を広げ
「今日はシャンたちに甘えていいよ?」
といい頭を抱いてくる。こんな男が幼女に抱き締められているとどこか犯罪臭がするものだな……
というか離れん!腰に抱きついている華侖殿も頭を抱き締めているシャン殿も力が強い。というかシャン殿それでは口が塞がれて息が……
「華侖、シャン。離れてやれ。それではグラハムもやすらげないだろう。」
「おっとそうだったす。」
「わかった秋蘭様。」
秋蘭の一言で解放される。
その後二人に事情を説明する。最初は私が気を使っている
のではないかとまた心配している表情をされたが何とか誤解をとくことに成功した。
「まぁ、良かったっす。グラっちが傷ついてなかったからいいっす。」
「シャンたち心配したんだよ。」
「悪いことをした。紛らわしいことをしてしまったなこれからは控える。」
「なかなか好かれているではないか。だが、その噂はシャンがいっていた通り姉者が?」
「うん。春蘭様が凄い怒ってシャンの所に来て、グラハムはどこだーー、って言ってた。そしてお兄ちゃんが振られたって話も凄い早口でいってたよ。多分他の人達も同じだと思う。」
ん?怒って
「何故怒っていたんだ?私が振られていないならまだわかるが……」
この妹ありて姉ありだ。この姉妹は深い愛で繋がっている。そこで嫉妬が生まれるのは仕方ないかもしれんが
もしや
「姉者なら一部を切り取って私を取られたと思ってもおかしくはないかもな。」
「心の内を読まないでくれ。確かにあの春蘭殿なのであれば……」
「でもめちゃくちゃ怒ってたっすよ。
ほらあんなふうに……」
私の後ろを指差す華侖殿。
後ろを振り向くと
「グラハム……」
な、なんだこのどす黒い覇気は!?というかあの黒い煙はどこからでている!?
そして抜き身の大剣を構え切っ先を向け
「グラハムーーーーー!!秋蘭は渡さんぞーー!!」
なんだあの早さは!?あれが春蘭殿の真の力とでもいうのか!?
「あぁ、私のために激怒する姉者……」
悦に入るな!
というよりも先き春蘭殿だ。あの一撃恐らく受けきれずに私の得物が折れるであろうな。
だが、ここで怯む私ではない!
「さぁこい!貴様の愛の一撃このグラハム・エーカーが受け止めてみせよう!」
「グラハムーーーーーー!」
「春蘭ーーーーーーー!」
叫びと共にお互いの武器がぶつかるが脅威的な力で後ろに吹き飛ばされ塀に激突する。
「グラっち!?」
「お、お兄ちゃん!?」
体の至るところが痛いが立ち上がる。
「流石だと…いわせてもらおう……春蘭…殿……」
そして私は意識を失った。
その後は春蘭殿を秋蘭殿が押さえて誤解を解き。
城内の噂も華林殿の計らいで何とか消すことができたが、たまに女官が噂するのを聞くのはずっと先の話だ。