「お兄ちゃんと一緒にお仕事楽しみ。」
「香風様、賊がいつ出てくるかわからないのですから降りられた方が……」
「まぁまぁいいじゃないですか副大将。香風様は大将に構ってもらえなくて拗ねてたんですから。」
「今ぐらいは全然構わない。シャン殿なら賊が来たところで問題ないだろう。」
「そうそう。んふ……」
我々グラハム隊とシャン殿は陳留周辺の邑に賊が現れたとのことで退治のために移動中だ。
最近賊がまた増えてきたおりその退治に我々は乗り出している。春蘭殿も秋蘭殿も華侖殿も城を出て退治に当たっている。その賊も現れる場所も頻度もばらばらであるが唯一の共通点は黄色の布を巻いているというところだ。世に言う黄巾の乱か……ただ便乗しているだけなのか。大きな意思によるものなのかまだわからんな。
ちなみに私は初めて外で馬に乗っている。徒歩でもいいのだが凪から
「隊長はよくても皆が遠慮してしまうのです!」
と言われ仕方なく馬に指導役としてシャン殿と共に乗っている。馬に乗れないこともないのだがシャン殿が私が乗ると言って聞かなかったためこのようなことになっている。本当に娘みたいだ。
シャン殿は私の前に座り満足げな顔を浮かべている。
そして少したつと邑が見えてきた。
「隊長そろそろ邑に到着いたしますので準備をお願いします。香風様もそろそろ降りられてください。」
「うぅ……」
「シャン殿。帰りはゆっくり帰れる。それまでの辛抱だ。」
「……はーい…」
シャン殿は仕方なく私の馬から降り自分の馬に乗る。
確か情報としては賊は約30。邑周辺に集まっているということだ。こちらの数は70少し少ないが向かう邑は他の邑よりも大きく自警団もいるとのことということでこのような少人数となった。
「何もおきなければよいが……」
「大将……そんなこと言うから何かおきるん……いや、おきるんです。」
と桜居が凪にすごまれながら言う。相変わらず丁寧な言葉で喋られると違和感がすごいものだ。
凪ももう少し仲良くしてくれればいいのだが。
「ねぇお兄ちゃん」
「どうしたシャン殿?」
「あれ」
前を指差して険しい表情を浮かべるシャン殿。
その方向には砂埃が待っておりその中には何人もの人が見えた。そして鉄同士が打ち合う音。
く……少し遅かったか!
「至急邑の長に使いを出せ!我々は即刻賊との交戦に入る!桜居は他の者を連れてついてこい!凪、シャン、私の三名は突貫をかける!」
「は!」
「うん!」
「了解!」
すぐに馬からおり全速力で駆け寄る。
敵の数は目測で200以上、義勇軍は100よりは少ないといったところか。だがなんとか持ちこたえている……どころか奮戦しているようだ。
「うをぉぉぉぉぉ!」
「せい!」
「てやーーーー!」
賊の何人かを横から蹴散らす。
「な、なんだあいつらは!」
「味方か?」
義勇軍側から声が上がる。これは名乗らなければな
「名乗らせ」
「この方は苑州の州牧曹操様の命で参られた曹軍、グラハム・エーカー将軍、徐晃将軍である。これより義勇軍の皆様に加勢する!」
「おーーーー!」
できれば私に言わせてほしかったのだが今はそんなことを気にしている暇ではないな。
そして目の前を見て黄色い布を纏うものを一人二人と徒手で相手をする。凪も徒手。我々は殺さないよう立ち回る。シャン殿は
「ち、ちかづくなーグェッ!!」
「ヒッ助けてくれーーーグハゥ!!」
「どーーーーーん」
シャン殿それは……殺してはいないよな。何人か潰れているような気もするがまぁ気にしない。
何人か倒すと桜居が率いる本隊が到着する。
すると賊どもは不利を悟ったのか散らばり逃げ始める。
「よし何人かは追跡を。残りは義勇軍の治療を優先。被害情報を報告。残党がいるかもしれん。周囲の警戒を怠るな。」
「「「は!」」」
これで賊退治は終わりを迎えた。
義勇軍も何人か犠牲者は出たが一人ですんだ。怪我人は少し多かったが。賊も20ほどの亡骸をおいて去っていった。幸い邑に被害が出ていない。
「ありがとうございます。あなた方のおかげでこの邑を守ることができました。」
今はシャン殿と共に邑長の家に招かれている。
「いえ、そちらの義勇軍あってこその被害の少なさ。私共も見習わなければならないと思っていたところだ。」
「いえいえそんなご謙遜を。」
「いやそんなことはない。どのような訓練をされているのかななかなか士気が高かったように感じたが……」
「あぁそれは恐らく旅芸人のおかげでしょうな。」
旅芸人?
「三日前までこの邑に珍しく三人組の旅芸人がおられたのですよ。その三人がとても愛らしく歌もお上手で我等邑の男たちは熱狂しておりましてね、皆やる気に満ち溢れていたのですよ。」
「歌での士気上昇か、確かに効果はありそうだな。それでその旅芸人とやらは?」
「いつの間にか居なくなっておりました。旅芸人でしょうからまた違う邑や町に向かわれたのでしょう。」
「そうか。他にはなにかなかったか?
………
………
長話をさせてしまったかな?なにか不足があったら書簡でも送ってくれ。」
「はい。ありがとうございました。」
と外に出て町をシャン殿と回る。
「それでなにか怪しいところはなかったか?」
「ぜんぜん。ただのいい人だと思うよ。」
「私もそうだ。うーむなら収穫はなしだな。」
邑の被害が明らかになかったことから少し疑ったが恐らく杞憂で終わるだろう。そのためにシャン殿を呼んだのだ。感性はすごいからな。
邑は少し気分が自分達の力で賊を撃退できたと高揚しているようだ。酒を飲む若者などがほとんどだ。
「おーい隊長さん!あんたも飲んでいきなよ!」
。
といった声も聞こえたが私達には行くべき場所があるから。
少し歩くと雰囲気が変わる布を被せられた遺体。今回唯一の犠牲者。それを取り囲むように恐らく家族が弔っている。先ほどとは違う悲しみが辺りを包む。だが他の喜びに浸っている人々に気を使いひっそりと行っている
見える位置まできて遺族に挨拶をする。なにかいわれるとも思ったがなにもなく頭を下げられる。勇敢な戦士に私は敬礼をおくる。シャン殿も真似をして敬礼をする。
これが私達に出来る敬意の表しかたとなるだろう。君の守ろうとした邑は守れた。安心して眠りたまえ。
「大将!」
「桜居か。追跡の件どうだった。」
「いや~それが……あいつら四方八方に逃げてて何人かは捕まえたけど多くは逃がしちまった。しかもあいつらなかなか口を割らなくてよ。だんまりを決め込んでやがる不甲斐ねぇ……」
「仕方あるまい。こちらも収穫はなかった。もう帰るとするか。」
「「はーい」」
間の抜けた返事をしてわたしに近づいてくる。
桜居の後ろからとてつもない早さで凪が駆け寄って来るのは見なかったことにしよう。
部下には厳しいのだな……
「報告は以上だ。」
その数日後将全員が揃いお互いの情報を共有する。
まぁ黄色い布を巻いている。自分達のことを黄巾と名乗るものもいる。手勢が増えている。襲われる回数も段々と増えている。
といった皆が知っていることだけであった。
「流石に多いいわね。何か他に情報はないの桂花。」
「は!
首魁は張角という者らしいというところまでは調べられたのですが……申し訳ありません。情報操作がなされているのか名前以外はわかりませんでした。」
「尋問をしても話さないのです。どれ程の忠誠心を持っているのか。」
「それほどまでの者なのかしら戦うのが楽しみね。」
華林殿よ少し不謹慎だ。荀彧殿や曹洪殿もそう思っているのか少し表情を歪める。荀彧殿は「あなたと意見が会うなんて最低」といった表情に切り替わっているが……
「わかっているわよ。流石に私もそこまで暇ではないわ。それよりもまた西南の方で黄巾がまた現れたらしいわ。」
「それなら私が行きます!」
「季衣……」
真っ先に手を上げたのは季衣殿であった。
戦力敵に申し分ない。経験についてもこの黄巾との戦いで積んでいる。
だが……
「季衣は最近私と出てばかりだ。流石に疲れもたまっているだろう。」
春蘭殿が言うとおりだ。最近の季衣殿は連戦による連戦を繰り返している。春蘭殿についていくとは別に華侖殿や個人でもついていき戦っている。体力があることは重々承知しているがそれでも限界がある。
「季衣。あなたは連戦で疲れているでしょう。今は休みなさい。」
「いいえ疲れていません。僕は困っている人たちを助けるためにここにいるんです。僕に行かせてください。」
「えぇそうね。私もそのつもりよ。でもね目の前の百の民のためあなたが命を投げ打ってはその先救えるはずの何万という民を見殺しにすることに繋がるの。……わかるかしら?」
「それじゃあ百の民を見捨てるってことですか!」
「そんなわけないでしょ!!」
華林殿は声を荒らげる。
「季衣殿、我々は仲間であろう。仲間が手の届かないところに手を伸ばすのは当たり前だ。」
「そうだぞ。お前が休んでいる時は、私達が代わりにその百の民を救ってやる。だから、今は休め」
「そうだぞ。姉者とグラハムの言うとおりだ。」
「そうですわ。季衣さんは自分の体も大切にしてくださいまし。」
私を含めた様々なフォローが入るがまだ季衣は沈んだ表情をしている。
「でも……」
「まだ無理をするときではないのよ。それにあなた一人に全てを背負わせるほどではないわ。我々には支えてくれる仲間がいるわ。こういう時には頼って上げなさい。そういうものを仲間というのよ。」
「はい…わかりました……」
季衣は渋々といったようだが納得はしたようだ。
その後西南の方向には秋蘭と柳凛が行くこととなった。
情報収集をかねたものになるといったところか。私も志願したが
『あんたは新兵の鍛練があるでしょう』
と荀彧殿に言われてしまった。
「私も不甲斐ないものだ。」
「はははあの時の兄ちゃんすんごい顔してたよ。」
「そうだったか?」
「うんうん。僕でもあんな顔しないよ。あー面白かった。」
今は会議も終わり城壁の上で季衣殿と共に雑談を楽しんでいる。
「やっぱり僕焦りすぎてたのかな……?」
「どうしたのだ急に。」
「華林様にも言われちゃったから……」
「いいや。悪くはないのだ。その心意気は良し。誰かを守るために戦うなど、普通の人にはできないさ。」
「でも……」
「ただその中に自分が入っていない事が問題なのだよ。」
「僕も?」
「そうだ。守る対象に自分をいれなければな華林殿が言ったように。百守れたとしても後の万を守れん。」
「でもそれって自分が生きるためなら他の人を見捨ててもいいことにならない?」
「いや。それを支えるために私達がいるのだよ。
季衣殿を心配しているものがいる。何かあったら悲しくなるものもいる。そういったものを守るにはどうすればいいと思う?」
「あっ……」
「そういうことだ。」
季衣殿は私が言いたいことにようやく分かったのか納得したような表情を浮かべる。
「全てを守るのは難しいことだ。だが自分が潰れてはそれも叶わぬよ。」
そうして季衣殿はめを閉じて考え始める。
少し時間がたち目を開け私の方を見る。
その顔はいつものような満面の笑みであった。
「兄ちゃんなんか年寄りみたいだね。」
急になにを言い出すかと思えば……気にしていることを
そして城壁の上にたち歌を歌い始める。
「なかなか良い歌ではないか。」
「これ?確か賊退治でよった邑で旅芸人の三人組が歌ってたんだ。名前は張角さんだったかな?」
「私もその話は聞いたことがあるな私が行った邑でも……
いや、少し待て今なんと言った?」
「嫌だから旅芸人の三人が……」
「いや名前だ!」
「だから張角って……あ!!」
そう、私達が賊退治をした邑で見聞きした旅芸人三人組の一人の名前が、先の会議で出ていた黄巾の首魁の名前と一致しのだ。
「これって偶然かな?」
「いや、偶然かもしれぬが可能性を否定できない。早く華林殿に伝えにいくぞ!」
「うん!」