真・恋姫†無双~夢空飛譚~   作:ジャックIOVE

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第二十話

 

 

黄巾の集団が燈殿の国を攻めてから数日、我々曹軍はやっとのことで陳留に帰ってきた。喜雨殿も私達と共にこちらに来ることになり今はまた農業研究の邑に留まっている。燈殿は華林殿に降ったもののまだ国が安定していないこともあり国に残っている。

喜雨殿を農具などを見に行かないかと誘ったが、お互い忙しいから無理。でも農具は紹介して後で何とかするから。らしい。確かに今は私も忙しい。あの量の黄巾を仕留め捕縛すれば収まるとも思ったがそう甘いものではないらしい。今でも黄巾の者たちの暴走は止まっていない。というよりも大集団で動くことは少なくなったが小集団での行動は増えてきている。だから我々将も大忙しというわけだ。

 

「もっと楽になると思ってたのに~なんでこんな忙しいんだーー」

 

「そうだね……多すぎる。」

 

隣の桜居は嘆いているがそんなことをしている場合ではないことも彼女は分かっている。

 

「桜居!もう敵勢はすぐそこだぞ。そんなこと言っている場合か!」

 

今も黄巾の者共を追っているが今回は春蘭殿、季衣殿、シャン殿もいる。

結構な戦力を割いているが相手は前程の大集団ではなく中集団ほどだが今回は官軍が主として動いているという情報が入り援護として向かっている。

そして少し前進していると官軍と黄巾が争っている。

 

「旗は張と、華になります!」

 

先頭を走る春蘭殿の兵の誰かが大声で叫ぶ。

 

「あの時の部隊か!」

 

そう曹軍が一拠点である砦を攻めていた時に私が見た官軍の中で士気が高く、強かった部隊か。たが戦況を見るに押されているな……有象無象のやからに押される部隊ではないはずだが……将に何かあったか?

 

「グラハム。」

 

そう考えていたが隣に来た春蘭殿が私を呼ぶ。

 

「何かな?春蘭殿。」

 

「前回の戦ではお前の不戦敗だったな。」

 

「旗を一番高いところに立てるだったか。確かに私はあの場にいなかった残念だが負けということでいいだろう。今話すことか」

 

「あぁ。そうだな貴様の敗けだな。しかし私も季衣に譲ってしまってな。しかもその後もあまり強い者とはやりあえなかったのでな少し暴れたりないのだ。だから」

 

「ここで勝負がしたいと?」

 

「あぁ確かに数は少ないが勝負でもすれば気分も乗る。どうだ?」

 

あまり戦場でそういったことをするのは控えたいが……春蘭殿はそうしてこそ真価を発揮するのだろうな。

 

「いいだろう。無力化した数でいいな。」

 

「お分かってるじゃないか。そういったやつは私は好きだぞ。よし!それでは我等は黄巾の部隊に突貫する。あんな有象無象のやから我等精兵が恐れることはない!掛かれーーー!」

 

「「「うをぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

「ははは。良いではないか!では私は本陣にでも向かうとするか。右も左も譲ろう!」

 

「お、おい!ずるいぞ!

えーい貴様らやつ一人に手柄をたたせるな!」

 

「隊長に続け!香風様は右翼をお願い致します。桜居もささっといくぞ!」

 

「了解~」

 

「んや~もうおいつけな……は、はい!頑張って追い付きます!」

 

相変わらずの私の友であるな。

そして戦は始まる。

やはり徒党を組んだだけの集団急な別の軍隊からの奇襲など考えてはいなかったのだろう。数人からの焦りの声が上がるとそれを境に混乱が広がっていく。すぐに本陣にたどり着くことはできた。

 

「名乗らせてもらおう!曹軍将グラハム・エーカーである!そちらの将にお会いしたい!」

 

こちらの兵に攻撃されては敵わん。実際ここまで来るまでの官軍の兵もどうしたものか判断しかねるようだった援軍に来たことを伝えるため名乗るすると。

 

「うちはここにおるでー!」

 

紫の髪をなびかせ、さらしを巻いた女性が馬の上から偃月刀を掲げこちらに向かってくる。そして馬から降りて私の顔を確認するなり

 

「あぁ!!あんたあん時の!」

 

あの時とは恐らく私が見ていた時なのだろう。だがこちらからはあまり詳しくは見えなかった。せいぜいこちらを見ているなどしか感じられなかった。だがこの覇気は覚えがある。あの時こちらを睨んでいたあの人物。

 

「そうか。あの時こちらを見ていたのは貴方だったか。」

 

「そうや。いやー誰か見とるなーと思って上向いたらあんな堂々と旗掲げてるなんてびっくりしたわー。」

 

気さくな女性だ。いつもなら長々と話すところだがそういった場合ではない。

 

「私の名前はグラハム・エーカー。これからはこちらに任せて早く後退を。」

 

「うちの名は張遼。助力感謝するで。ありがたく引かせてもらうことにするわ。

撤退やー撤退!うちらは下がるで!

ほな、またなーー!」

 

と声を張り全軍に伝えると一斉に撤退を始める。張遼自身もすぐさま馬に乗り去っていく。嵐のような女性だ。

それと同時に右翼左翼も撤退を始める。春蘭殿や、シャン殿も上手くいったようだな。

 

「隊長!敵部隊混乱から逃げ出すものも多くおりますがこちらに向かってくる者らも少なくありません。いかがなさいますか?」

 

「逃げている者は追うな。実力はこちらが上だが数は相手が上だ。無策で挑むなよ!」

 

「「「は!」」」

 

「それでは凪よ。久々の共闘といこうか。桜居も私達に会わせてついてこい。」

 

「了解!」

 

「え!ちょっと待って……って早いって大将!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、張遼。無事だったか。」

 

「何が無事だったか?やねん!あんたが突っ込むせいで戦線が崩壊してこうなってんで。しまいには囲まれて救援もとむーとかなに言ってんねん!こっちはこっちで手一杯ちゅうねん!」

 

「お、おう……すまん。」

 

「すまんですんだら援軍もいらんねん!

はぁ……まぁええわ。被害状況は?」

 

「やはり連戦による連戦で私達の隊も多くの被害を受けた。それ以外の隊はほぼ半壊と言った方がよいだろう。」

 

「あの、アホ何進が……いやあかへんあかへんそんなもん言ってる場合じゃない。

まぁとりあえず帰るで月がまっちょる。」

 

「あぁそうだな。

それにしてもあの軍は強かったな。」

 

「あぁ苑州の州牧の隊やろ。あいつ曹軍とか言うとったし。」

 

「あいつ?」

 

「あぁこっちに来た将や。名前は何て言ったけな……ぐら…?ぐらはえいか?やったけな?」

 

「ぐらはえいか?また奇妙な名前だな」

 

「なりはわりと歳いっとたな。でも中々強そうなやつだったで。」

 

「なるほどな。こちらに来た者は一応見たことはあったが誰だったか?」

 

「てか、こんな話してる場合いちゃうやろ!早よ戻らんと!」

 

「いやちょっと待って貴様のように我等は早くないのだぞ!」

 

「何言うてるんや!早よついてこんと置いてくで!」

 

 

 

 

 

 

 

「凪よ敵の残りは?」

 

「もうここにはいないかと……ですがよろしかったのですか?」

 

「何がだ?」

 

「ほぼ全ての敵を気絶させておりますが……」

 

「情報は多いいほうがいい。まぁいつもの通りうまくいかないだろうがな。」

 

この戦場で私が殺したのは3名それ以外は全て気絶または戦闘不能の状態にしている。

凪の疑問は最もである。戦場において敵を殺す度胸のない者程役に立たないものもいない。ただ今回は相手は素人捕まえるのは容易だったためこのようにした。春蘭殿との勝負にもなにも問題はないからな。

 

「よし。グラハム隊はこれより終結作業に移る。気絶しているものの確保、周りの警戒を半数ずつ別れて行え。」

 

「「「了解!」」」

 

 

「凪と、桜居は他部隊への連絡を頼む。凪は春蘭殿に桜居はシャン殿にたのん」

 

「お兄ちゃーん」

 

「シャン殿?」

 

いつものマイペースな様子ではなく少し焦った様子でこちらにかけてくる。

 

「春蘭様が敵を追いかけてわりと遠くまで……多分違う人の領地に入っちゃったかも……」

 

「なんだと!」

 

「それは本当ですか!?」

 

「うん。シャンの方が終わって見に行ったらもういなくてって遠くを見たら砂埃がたってたから、今ごろは……」

 

「厄介なことになったな……」

 

「隊長……何がいけないんだ?」

 

桜居よ……やはり軍だけの勉強ではなく政の勉強もさせた方が良かったか……

 

「桜居よ。どこか分からない軍の一部が旗を掲げ陳留の近くに来ていたらどうする?」

 

「攻めてきたなぁて思う。」

 

「そうだな今はまさしくそのような状況な訳だ。」

 

「………あ!」

 

「はぁ……

まぁいい今はすぐに追うとしよう。シャン殿と……凪のみでいい大人数で行くとさらに困惑を招く。」

 

「お供いたします。」

 

最悪戦争の火種になりかねない。まだそうなるには早い華林殿もそれは望んでいないだろう。

厄介なことになっていなければいいが……

そしてシャン殿に案内され春蘭殿の隊が通ったとみられる道をたどる。そして

 

「あら、お仲間の登場ね。」

 

「あ、兄ちゃん」

 

「む…グラハムか。」

 

どうやらこの領地の一部隊に見つかったようだがお互い事を構える様子はない。というか後ろには縄でくくられている黄巾の姿も見える。

その部隊の将は……将か?さすがにこの戦場でその格好は薄すぎではないか?

 

「そんなに私を見てどうしたの?」

 

「いや、どのようなお人か考えていました。失礼を。」

 

「まぁいいわよ。それであなたはなんのよう?」

 

「いえ我が軍の将夏侯惇がこちらの領地に誤って入ってしまったと報告がありそれを確認するため参りました。」

 

「そ。それで名前は?あとそんなに礼は尽くさなくていいわよ。私もこんな感じだし。」

 

「そうか。ならば名乗らせていただこう。曹軍将グラハム・エーカーである。」

 

「へぇ……将なんだ。少し歳はいっているけど祭を見てたらね……」

 

「何かな?」

 

「いいえ。なんでもないわ。それじゃあ次は私ねここの領地の主袁術で客将をしている孫策よ。」

 

「それでは孫策殿我等はどうすれば良いのかな?族退治まで手伝ってもらったのだ。ただではあるまい。」

 

こうなった今袁術というものに面会をするのは必須。捕虜などは当たり前のことだろう。

 

「え?何もしないわよ。というか私としてはもう早く戻ってほしいわよ袁術にばれたら私が怒られちゃうんだから。」

 

何と言う自由奔放振り!ここまで来ると清々しいものだ。恐らく袁術とやらはそんないい主ではないのだろうな。こういった武人は成りは適当だが中の芯はしっかりしているものが多いい。しかも孫策殿からは華林殿と似たようなににかを感じる。これは客将では治まらんな。

 

「わかった。では私達は帰らさせていただく。だが礼は尽くしたい。何か私にできることはないか?」

 

さすがにここまでされて礼の一つもしないのは私の矜持に反する。

 

「うーん。そうねじゃあ、私が喜びそうなことでいいわよ。」

 

笑顔で試してくるのも華林殿とあまり変わらないな。そして私は少し考えると。

 

「酒」

 

「え?」

 

「酒と言った。次会うときに良い酒を準備しておこう。」

 

そして起こる沈黙。隣にいる凪ですら『なに言ってるんですか?』といった表情を浮かべている。春蘭殿や季衣殿も一緒だ。

だが

 

「はははっはははっは……はぁ~お腹痛い。

あなた面白いわね!いいわそれでいきましょう。期待して待っているわ!」

 

といい部隊ごと去っていく。

私も帰ろうと振り向くが皆呆然としている。

 

「どうした?私達も帰還するぞ。」

 

「え、あうん、そうだな私達も戻らねばな。総員城へと戻るぞ!」

 

「ちょっと春蘭様待ってくださいよー!」

 

春蘭殿と季衣殿は帰還の準備にとりかかる。

 

凪も諦めたような表情で

 

「わかりました帰還しましょうか。お酒代はご自身で出してくださいね。」

 

と私より先に行ってしまった。

 

「シャン殿。私は何かしてしまったのだろうか?」

 

とシャン殿に聞くが笑顔で

 

「まぁお兄ちゃんらしかったし良かったんじゃない?」

 

と返された。

うむ。何か気にさわることでもしてしまったか?

少し考えるが何もわからなかったため凪のあとを追い帰還するのであった。

 

 

 

「あんたら何してるのよーー!」

 

我等の軍師の説教を聞くために。

 

 

 


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