「っていってもあの二人どこまで行くんやろかい?」
「もう歩き疲れたの~」
私達は隊長と華琳様を追って裏山まで来ている。
「お前らは仕事はいいのか。」
「なのもう引き継ぎは済ませたわ。これ以上凪におこられたくないしな。」
「もう拳骨はくらいたくないの~」
さぼっていることに何ら代わりがないじゃないか。やはりもう一回ほど
「ま、まぁ凪さんも押さえてーや。凪さんも気になるんやろ?」
「そ、それはそうだが。」
私も気になる。真桜や沙和は恐らく浮わついたものを期待しているのだろうが正直あの二人がわりと近しい関係であることは周知の事実ではある。女性好きで有名な華琳様が男を連れて外を歩くのだ。噂が広がるのは必然と言える。だがそれはもうお付きの人ということで形がついてしまっている。正直二人が男女の仲かと言われたら頭を捻る。信用しあっている関係であること確かだがそこまで深い関係かと言われると春蘭様や秋蘭様と比べればそこまでではないなと誰しも思うだろう。
私が気になっているのは何故この裏山に向かわれたのかだ。この裏山は兵の訓練などで使う標高の低い山で頂上には少し広い開けた平地がある。入り口は兵で守られ許可がなければ入ることはできない。そんなところに二人きりでいって何をするのだろうか?
というか隊長と華琳様なら私達が近くにいることもわかっているはずだ。それなのにここまでついてくることを黙認している。本当に何をされるつもりでしょうか。
「お、平野に出たで……」
「ちょ真桜ちゃん!隠れないと駄目なの!凪ちゃんもかがんで!」
「わ!頭は止めろ!」
どうやら隊長たちが足を止めたらしい。平野の一角に荷物をおき少し話している。
「さぁさぁこんなところで男女が二人きりなにもおきないわけはなく……」
そう、真桜が冗談めかして言うと二人が動き始めた。
「動き始めたの!」
「こら!静かにしぃ!」
そして隊長と華琳様は一定の距離に離れてむきあう。どうやらまた何か話してるようだ。
「にしてもどうしてあの二人こんなところに来たんだろ?」
「そんなん二人でいちゃこらと……」
「でもそれならもっと良いところがあるの~こんな山奥よりずっと。」
やっと2人は違和感に気付いた。というか遅すぎるだろう。もう少し早く気付けばここまで……いや、結局この尾行は止めなかっただろう…
チッ……
「っ!!」
二人を見ていた視線を隊長たちに戻す。そこには先程と変わらずたちながら話している。
「な、なんや?今の……」
「変な感じがしたの……」
あの二人も何かを感じ取ったのだろう。
何かはわかってはいないようだが。あれはまさしく殺気の類いだ。まだちりついている。鍛錬では感じられない飲まれそうな空気。戦場ではよく感じるが、この場所では感じてはいけないものだ。そしてこの場でその空気をだせるのは二人だけ。
「…………」
「…………」
未だに無言でむきあっている。隊長と華琳様以外にあり得ない。
それは真桜や沙和も感じているのだろう。
「あれやばないか……?」
「嫌な感じなの~……」
そして二人は笑顔のまま互いの武器を手に取り構え……
笑顔が消えたと思うと
鉄同士がぶつかる音が連続して響く
日々よく聞く音。だがなにかが違う。一打一打の音が違うわけではない。纏っている空気が違う。
あれは試合ではないあれは死合なのだとわからせられる。
失礼だが流石だ、華琳殿。
『本気の死合をしましょう。』と言われた時はどうなるかと思っていたがなるほど失礼だが。私と近い実力を持っている。いや、私以上かもしれん。一国の王がここまでの実力を持つのだ流石と言わずしてなんと言うのか。
それにしても鎌という武器は良くわからん。まともに打ち合うといなされ体幹を崩してしまう。
なんとか対応はできているが他のことを考えている暇はないな。
一つ一つ打ち合いを丁寧に返していく。狙ってくるのは首や大腿。武器の形状上最も致命傷になるところをついてくる。ただの仕合ではないそう感じさせるには充分だ。
私もそれに答え二刀を振るう。だがそれは鎌の曲線を使いいなされ体幹を崩される。
「くっ……」
それを逃す華琳殿ではない。直ぐに攻めに転じ私を攻め立てる。呼吸を許すことのない連激。たが私も負けたままではいられない。適応していきまた打ち合いに戻る。そして激しく打ち合いを繰り返していき私が押し返していくが……
軽い……!
そう思ったのはつかの間、華琳殿の方に引き寄せられる。
右に持っていた剣を捨て蹴りを出す。それは鎌の柄で防がれるが距離は取れた。
華琳殿は平然と立っている。
「面白い……」
剣を両手に持ち構える。
即座に向かってくる華琳殿。今までとは違い一つ一つ躱していく。避けきれないもののみ剣でうける。
躱すとなると体力の消費も激しくなる。距離を取れれば別だがそうさせてくれる相手ではない。何度も躱し受けていくが段々と追い込まれていく。
「………」
「………」
「………」
私達三人は呆気に取られていた。それもそう私が隊長と慕う男と我等の主である華琳様が本気の殺し合いをしているのだ。誰もが呆気におられるだろう。私も良く新兵の鍛錬で死ぬ気で取り組めと言うことはあるがこれは……
「なぁ凪……?」
「……なんだ?」
「あれ止めたほうがいいんちゃうか?」
真桜の言うとおりなのだろう。真意がわからず目の前で殺し合いをしている。そうだ止めるべきだ……
「あ、隊長さんが!」
と沙和が叫ぶ
すぐにそちらを向くと隊長の一方の剣が華琳様の鎌にかけられ引き寄せられていた。
だが隊長は剣を手放し直ぐに蹴りをいれることで致命傷を避け距離をとる。華琳様もそれを鎌の柄で受ける。
「はぁ……」
「びびったわー……」
「怖かったの……」
安堵の声がもれる。あそこでなにもしなければ鎌は確実に首を捉えていただろう。
そんな危険な状況なのに隊長の口角はあがっている。
そして残った長い剣を両手で構える。
華琳様は追い詰めるため間合いをつめて斬りつける。それを大きく躱す隊長。そしてまたお互いに斬り合う。前と違うのは隊長が大きく躱すので広く場所を使っている。
あのままでは体力が先に尽きるのは隊長であり。明らかに不利なはずなのにどうして……
そうか!落ちた剣をどうにか使おうと……
だがそれに気付かない華琳様ではない。目を移していないのにどこに剣があるかを理解し隊長をそこにいかせまいと立ち回る。
それが続き隊長の顔から疲れが見えてくる。息もきれいる。そして隊長が振るった剣は鎌で引っ掛けられ手から離れ上空を飛ぶ。一瞬空を舞う剣に視線を持っていかれるが
「隊長!」
咄嗟に声が出る。このままでは隊長の命が危ない。
目線を戻すとその最中に移る大きな影。いやいい今は……
と目線を移すと。お互い武器を持たない二人が向かい合っていた。
何故?華琳様の鎌は?
何かが落下する音で我に返る。
落ちてきたのは隊長の剣。そして華琳様の鎌が落ちる。
いつの間に華琳様の鎌は手から離れたのか恐らく私が目をそらしている隙に隊長が内に入り弾いたのだろう。
そろそろ止めに入らなければ!
「これで満足かな?」
「えぇ、そうね。そろそろ貴方の可愛い部下が我慢できないでしょうから。」
その必要はないようですね。
「それで貴方たちは仕事をさぼってここにいると……」
「いやぁ……」
「う~……」
私達の死合が終わると凪と一緒に来ていた真桜と沙和を叱っている。
「まぁ当然ですね。ここまで来るにも他の兵に迷惑をかけていましたし。」
「それは凪も同じではないのか?」
「私になにも言わず、全ての仕事を終わらせ勝手に行った隊長には言われたくありません。」
「それは悪かった。だがいかんせん急だったものでな。」
確かに伝えておけばここまでついてくることはなかったかもしれないな。
「それでどうだ?」
「心臓に悪いので止めてください。」
「いやそれはできないな。」
「はぁ……わかっていますよ。」
すまんな凪よ。性分なのだ。
「ですがあそこまでするとは思っていませんでした。正直春蘭様との鍛錬を想像していましたので。」
「春蘭殿は優しいからな。」
「優しいですか……?いつも倒れるまでやっておられますが?」
「春蘭殿は一度友と認めた者に本気の殺意は向けん。裏切り者ならわからんがな。だから華琳殿は私と死合をすると言ったのだろうな。」
「確かに春蘭様が華琳様とあのように立ち回ることはないでしょうが……わざわざこんなことをせず、鍛錬でもよろしいのでは……」
「それは好みの問題だ。主に頼まれたのだ断ることもできまい。」
正直に言うと少し冷や汗をかいた。少しでも気を抜けば殺されていただろうな。
「隊長は最後何をしたのですか?」
「ただ近づいて鎌を弾いたまでた。」
「あのそういうことではなく……どうしていたのかと思いまして。」
「あぁそういうことか。ならばただの力業だ。鎌と今回初めて立ち回ったが自ら攻める武器ではなく守りの武器であることは形状からわかった。そして刃の形状故に至近距離では斬るまでに時間がかかることもわかる。」
「はぁ」
一応頷いて見せる凪。
「立ち会っていく上でさらに至近距離での脆弱性は目についたが、その場で回しいなし、柄を利用するなどして弱点を補っている。だが私の剣を弾いた時に隙があるのは確かだった。本当はあそこで反動を利用して斬るつもりだったが……上手くはいかないものだな。」
あれは反省すべきだ。私の感覚を少し鍛える必要があるな。
「……まぁ概ね理解しました。ですがあまり無理はしないようお願いします。隊長であることを忘れないでくださいね。」
少し心配をかけすぎたようだな。部下に心配をかけるなど上司としては失敗だな。
「心配をかけて悪かったな。
もう日も落ちる帰って夕食でも食べにいこうではないか。」
「そうですね。お供します。」
そういうと華琳殿も説教が終わったのかこちらに歩いてくる。
「そちらの話は終わったかしら?」
「あぁ。もう帰ろうと話していたところだ。」
「そうね。でも、この格好で城に戻るのは少し騒がしくなりそうなのだけれど。」
という互いの格好を見ると斬り傷が何ヵ所かあり少し土で汚れている。
このまま帰っては荀彧殿や、春蘭殿から何を言われるかわかったものではないな。
「少し時間をずらしたほうがいいな。近くに川がある。そこで洗い流すといい護衛は真桜と沙和で十分か?」
「えぇ。それでいいでしょう。じゃあまた誘うわ。」
といい正座していた二人をつれ川があるほうに歩いていった。
「……楽しそうでしたね……」
「……性分なのだろうな……」