「皇帝からの遣い……ですか?」
「あぁ、明後日来るとのことだ。私は一応参加することになっている。皇帝からの遣いが来る時は訓練や仕事も中断せよということだ。」
「わかりました。
それにしても今の皇帝が遣いをだすのですか。それほど重大なことなのでしょう。」
「華琳殿はあくまで形式上だろうと言っていたな。あと急だと少し苛立っていた。そこで邪魔だと思いここに戻ってきたわけだ。」
「無礼があってはいけないですから。気持ちが張り積めるのもわかります。
今あそこで寝ている者には見習ってほしいものです。」
「まぁ寝かしておけ。昨日は飲み過ぎだったからな。凪も大丈夫か?」
残党も日に日に減っていき、華琳殿が終息の宣言を出した。
そのおかげでこれから町は本来の活気を取り戻すだろう。
そして終息が宣言されてから隊ごとに休暇が与えられた。
それが我が隊は昨日であった。
日中はそれぞれの休暇を楽しんでいたが(凪と私は鍛練をしていたのだが)、夜は近くの店で酒をのみながら語り合った。もちろん私や凪、桜居も酒を飲んだのだが桜居は酒に弱いらしい。
少し飲んだあと急に呂律が回らなくなり私にもたれ掛かり寝てしまった。
そして凪も酒に弱かった。寝はしなかったが意識は酩酊しており自分で家に帰ることも出来ないと判断し、私の部屋に運びこんだ。もちろん私はこの部屋では寝ず私の部屋の隣にある倉庫で寝た。
朝は休みといっても定例の朝会はあるのでそれに参加し部屋に帰ってみれば起きて身だしなみを整えた凪と未だに私の寝床を占領している桜居がいる。
「自分は大丈夫です。昨日の記憶もはっきりと……まではいきませんがあります。ご迷惑をおかけしました。」
「構わんさ。」
といい何気ない会話をしていると
「僕だけどはいっていい?」
と扉を挟んで声が聞こえた。この声は喜雨殿か
「どうしたのだ?」
「少し困ったことになちゃってて……入ってもいい?」
喜雨殿が私に相談?
珍しいことがあったものだな……
「あぁ構わない。」
「じゃあ入るよ。って……本当に良かったの?」
少し訝しげな目で見られる。
「ん?どこかおかしなところでも?」
そして喜雨殿は目で凪と桜居を目たあと。
ため息をつくが
「まぁいいよ。それで話なんだけど……」
「こら!もう一人の御遣い!あんた拾ってから私達のことほったらかしにして!あんたには責任ってものがないの!」
「そうだーそうだー!」
「……はぁ。姉さんたち落ち着いて。」
と、天和、地和、人和というもと黄巾の首魁だったものが入ってくる。今では反乱の元となるため名を捨てて真名を名乗り確か新兵の募集などをさせるために頑張っていると栄華殿が言っていたが……予算も出ていると言っていたな。
入ってくる時に凪が少し顔を歪ませたがすぐに整える。
「もうあんな狭いとこいやなのよ!」
「もっといい生活したーい」
と急に言われても何があったのかはわからん。だが先に来た喜雨殿の話を聞いてからが先だろう。
「まぁ落ち着け。今は喜雨殿が先でいいか?」
「いや、この件なんだよ。」
「この件?」
そういい相談を聞くため城を出るのであった。
そして一つの小屋にたどり着く。
「ここは?」
「これがこの人たちのこれからの拠点なんだけど……」
「こんなところなのよ!こんなところ私達には似合わないわよ!」
「そうだーそうだー」
と地和と天和が文句を言う。ここに来るまでに聞いたことは、どうやらこの三人の監視を陳留に留まる短い期間私達の代わりに任されていたようだ。
そして彼女らは曹軍専属の旅芸人として、名前を数え役萬☆姉妹(シスターズ)と名乗り活動をしていると……
いや待て
「シスターズとはどこで聞いた言葉だ?」
少し流していたがシスターズとは私の国の言葉だ。外人は何人か町にいないこともないがここまで英語を話すものが来るとは考えにくい。恐らくは……
「なんか町の人たちが話してたのよ。姉妹という意味の異国の言葉らしいわ。そんなことより!こんなみすぼらしいところで私達にどうしろって言うのよ!」
「もっといいところで暮らしたいーー」
「ということなんだよ。僕だけじゃついていけなくて……そしたらもう一人の御遣いをだせって。」
私の疑問は早々に流されてしまった。
その小屋は町中の路地にぽつんとある。少し汚いもののある程度の大きさがある。この中で旅芸人がするような歌や踊りは問題なく出きるだろう。
恐らくはこの三人いや、二人のわがままなのだろう。
一人喋らない人和殿に目をやると諦めたように姉達を眺めている。
「ここを拠点にするだけだと考えれば悪くはないだろう。活動はまだ始まっていないのだから。」
「そうだけど……」
「活動が認められるようになれば自然と良い環境になる。貴殿らが稼いだ金は一定数は手元に残るのだろう。それで大きくしていけばいい。」
そう言い地和殿の方を見るがまだ足りないらしい。隣にいる人和殿がそう言っている。一番上の天和は大通りの方で走っている少年を見ている。
「それともそこまで人気がでないと踏んでいるのかな?」
「そんなわけないでしょ!」
やはり食って掛かってくるな。人和殿もそれがわかっていたのだろう。
「もうわかった。ならあんたはここで待ってなさい。すぐにお客さん集めて来るから!いいわね!さぁ姉さんもいくわよ!人和は準備をお願いね!」
といいボーとしていた姉を連れ町へ出ていった。
「これでいいかな?お二方。」
「うん。仕事はしてくれそうだし。」
「えぇ。姉さんたちもやる気が出たでしょ。それじゃあ私は講演の準備をするから。」
「いやここまできたのだ少しは手伝おう。」
「なら力仕事を任せるわ。私は喜雨さんと予算を話し合う予定があるから。」
おっと厄介なことになってしまったか?
そういい。しばらく掃除や舞台の準備をし終える。
中々の重労働であったが今日は何もすることがなかったことを考えると有意義であったか。
「グラハムさん。こっちは終わったよ。」
どうやら喜雨殿と人和殿も話し合いが終わったようだ。
「こちらも終わった。少し早いが茶屋で休憩でもと思うが二人はどうだ?」
「確かにお腹もすいたしね。僕はいくよ。」
「じゃあ私もいくわ。」
どうやらこの二人は息が合うらしい。
少し前までは敵だったというのに。姉二人のおかげであろうな。
そして三人揃い近くの茶屋に向かう。各々茶と軽い食事を頼み席に座る。
私達は静かに茶を飲むが
「騒がしいわね。」
「大分うるさいね。」
通りはとても騒がしい。いつもはこんなに騒がしくないのだが……まだ昼時にも早いはずだ。少し異常だな……
少し見に行くとするか。
「私は少し見に行く。二人はここにいるといい。」
と了承を貰い騒ぎのほうに言ってみると段々と声がしっかり聞こえるようになり……
「さぁーて次の曲いくよーー!」
「姉さん!そろそろやめないと本番歌う曲がなくなっちゃう!」
「えーお客さんたくさん呼ぶって言ったの地和ちゃんじゃない。」
「それでも駄目なの!それじゃあこれで路上での講演はおしまい。続きは夕方にあそこの通りにある小屋であるから皆来てねーー!」
「「「ウォォォォーーー」」」
天和殿と地和殿が夕方に行うであろう講演の客集めをしていた。
すぐに集めると言っていたが流石の行動力だ。客集めはうまくいっているようだな。
幾らか時間がたち周りの客が少なくなってくると地和殿があちらから近づいてきた。
「どうよもう一人の御遣い。私達の人気!」
胸を張って私に言ってくる。
「流石だ。正直に言うと少し嘗めていた。称賛に値する。確かにこれではあの小屋では足りないな。」
と素直に思ったことを言うと少し顔を歪め
「な、何よ急に……気持ち悪いわね……」
「それと私の名前はグラハム・エーカーだ。そこだけは覚えていてもらおう。」
「その名前が言いにくいから御遣いって言ってるんでしょ!もうちょっと何かいい名前ないの?」
「グラハム、隊長、兄ちゃん、グラっち様々あるが呼びやすいもので構わないぞ。」
「ねぇそんなことよりお姉さん疲れちゃった……」
「もう姉さん、歌いすぎだって。」
大分疲れた様子で天和殿が後ろから出てくる。
「あそこまで歌えばそうだろう。近くの茶屋で喜雨殿と人和殿がいる。ここまで実力を見せてもらったことだ。私がここは奢ろう。」
「わぁーーいグラハムさん大好きーー」
「ちょっと姉さん!そんなこと冗談でも大声で言わないでよ!」
といい二人を連れ茶屋に戻ると今度は違う方向に人だかりが多く出来ている。
「喜雨殿あれは……」
「そっちの人ごみがなくなってから集まり始めたんだ。」
「はぁ……そっちの人ごみはやっぱり姉さんたちだったのね。」
「そうだよーお客さん凄かったね。」
「えぇこれで今日の講演は満席よ!」
と三姉妹は揃うと姉妹らしく話し始める。
それよりもあちらは飲食店街のはずだが食い逃げでも……
ドクンッ
「……ツ!」
「どうしたの?」
私は何かを感じると喜雨を守るように立ち剣に手を当てた。守らなければならないと感じたから。喜雨殿は困惑しているようだが、私はさらに困惑していた。
なんだこの感覚は。
嫌な予感にしては明確すぎる。
そして寒気。足の震えが止まらない。武者震いにしてはこの感覚を私は知っている。
恐怖。
私はなにかわからぬものに恐怖を感じていると言うのか?
そしてわけもわらず喜雨殿をそれから守ろうとしていると。
そしてその感覚は段々と鋭利になり近づいているのがわかる。
そして人ごみの中から現れた一人の女性を見つけ感じていた恐怖はさらに増える。
彼女は私には興味を無さそうに悠々と歩いていく。
そして目の前を通る。
その時の時間は走馬灯のようにとてもゆっくりに感じた。
そして目の前を通りすぎた後
まるで呼吸を思い出したかのように過呼吸になりその場に膝をつく。
周りからの声は聞こえるが内容は頭に入ってこない。
久々に感じた。
これがかつて私が愛と勘違いしたものか……