「しかし早くもこうなるとは思わなかったがな……」
華琳殿と話した後通常の仕事を済ませ今は私室で個人の準備を進めている。ほぼ全兵が準備をするのだ急いでも一週間ほどかかるだろう。
「それまでには私の準備を終えなければな。」
悠長にまつ余裕はあるが。心の準備をしなければならない。これまで軍部の中で我を通したことは数えきれぬほどあったが、私が今からすることは裏切りにすぎない。正しいのがどちらかはわかっている。どちらが不利かなど明確。どちらを選ぶなど必然。その選択をもう私は間違えたくはない。だから私はあのように大見得をはったのだ。
いや、今はそう言ったことは考えることは止めとこう。もう覚悟は決めた。
戸棚を空け装備を磨き始める。今日はそうして落ち着こうと思った時に扉の奥から気配を感じた。
磨いていた装備をしまい。
「こんな時間になにようかな?」
と扉の向こうに声をかけると
「おや、ばれてしまったな。」
と秋蘭が部屋に入ってくる。
「もう夜も遅い。少し不用心ではないか?」
「なに、生半可な者が私を襲ったとしても問題はあるまいさ。それよりも」
というと恐らく酒の入った壺と私の部屋にある盃を2つ机におき
「別れ酒でもしようじゃないか。」
「………」
何故知っている?そう言葉が出かけたがあそこで堂々と宣言していたのだ。誰かに聞かれていたとしてもおかしくはないが。秋蘭が最初だとは思わなかった。少々厄介だな。
「そんな顔をするな。まだお前が華琳様に遣えている限りは手は出さんさ。」
「そうか……ではいただこうか……」
そして我々は椅子に腰を掛ける。秋蘭によって酒が盃に注がれる。盃を持ち上げ口に運ぶ。
これは美味いが……大分強いな
「おや?酒には弱かったか?」
「まぁそうだな。私が元いた場所では酒はあまりノンで来なかったからな。」
「全く娯楽がなかったのか?華琳様が言うにはお前は女との付き合いも未だにないときくが。」
「そんなことまで言っているのか……
まぁそうだな。私はずっと軍部で働いていたからな。幼年時代も軍について学んでいた。そのせいで遊びを知らぬまま育ってしまったがな。」
そういい辛い酒をまた口に含む。
やはり美味いが私にはきついな……
「そうか。ならここでの生活は楽しかっただろう。」
「そうだな。良き部下を持ち、友もでき、こういった娯楽まで教えてもらったのだ。私の人生の中でもっとも有意義だったといえるだろう。」
正直にそう思う。前の世界……ユニオンに所属していたときは我武者羅にもがいてばかりであったな。ただ
「前世も悪い人生ではなかったがな。」
「何をいうかと思えば、まるで死んだ経験があるような言葉使いだな。
しかしそんなお前が裏切るとは思わなかったがな。」
「それは仕方がないとしか言えんさ。ただ、意見が違ったそれだけだ。」
そうだ。ただそれだけの話だ。利を求めるか、正義を追い続けるかそれだけの違い。
どちらが正しいかと言われればどちらも正しいのだろう。
「何故知っているかとは聞かないのだな。」
「知っている者、予想している者はいるだろう。」
「そうだろうな。グラハム隊はどうするのだ。」
「凪か桜居が継ぐだろうな。彼女等も良き将になるだろう。」
「桜居?何故凪ではないのだ?必然的に凪になるはずではないのか?」
確かに必然ならばそうなるな。
「あぁそうる可能性もあるが、なにこれから分かるさ。」
「成る程そういうことかだが二人の損失は痛いな。
さて私は少し邪魔なようだから少し離れるとする。その酒は記念に貰っておいてくれ。姉者には飲ませられんからな。」
「ありがたく貰っておこう。」
といい戸棚にしまう。そして彼女は出て行こうとするが
「あぁ一つ聞きたかったことがある。」
最後に振り向いて私の顔を見て
「もし、お前が敵として私の前に立った時は容赦はしなくても良いのだな。」
「結構。その弓で眉間を貫いてもらって構わない。」
「そうか。それが聞けてよかった。」
といい、今度こそ部屋から出ていった。
「ようやく話が出来るな凪。」
「はい。そうですね隊長。」
と扉が開き凪が出てくる。私が今日来るように呼んでいたのだ。
「聞いていただろう?」
「失礼ながら。」
「そうか。」
無言の間が流れる。
「疑問はないのか?」
「ないと言えば嘘になります。ですが軍の一部にも華琳様の決定に内心反対のものはいます。」
「そうだろうな……では凪。君はどう思う。」
「私も反対ではあります。ですが……間違っていないことも事実。否定はできないかと。」
「そうだな。もしこの戦乱が終わればさらに世の中は荒れるだろう。武をもって正義となす時代の到来だ。」
「ですが我々はそのために戦っているわけではない……そうですよね隊長。」
「我々は生きるために戦う。ただ我々の選択は二つに一つ。自身の正義を曲げるか、自身の正義を貫くかだ。ならば答えは必然。」
「それが隊長の意思なのですね……」
「あぁ、不義であると罵られても構わない。」
また少しの間無言の間が続くが
「えぇ、隊長らしいですね。」
凪は微笑んでそう言った。
「私もそう考えます。」
「良いのか?凪の悲願は邑を守ることではなかったのか?」
「確かにそうです。今もその願いは変わっていません。でも隊長。私はこの判断が邑の守ることに繋がると考えています。真桜や沙和にも影響を与えることこができるでしょう。そして何より
私は貴方グラハム・エーカーを隊長としてグラハム隊に入隊したのです。隊長に副将がついていくことのどこがおかしいのでしょうか?」
「成る程。そうか。」
そして凪に近寄り頭に手を置く
「た、隊長!?何を……」
「本当に良き部下を持ったものだ。その献身感謝する。」
「い、いえ……それほどのことでは……」
「では、出発は軍の準備が終わる一日前の日没後行う。向かう場所は追って知らせる。いつでも出発できるよう準備しておけ。そして顔を明かすわけにもいかない仮面はこちらで準備しよう。傷を隠すことになるがすまないな。」
「いえ問題ありません。了解いたしました。ですが……」
「なにか問題が?」
「部隊を桜居に任せて大丈夫でしょうか?」
「問題はないだろう。桜居も将の経験を多く積ませたつもりだ。それに他の隊員からの人気も高い。」
「ですが……」
「心配するな。私達が育てたのだ上手くやるさ。」
確かに不安はあるがなんとかなるだろう。
さて明日からは少し忙しくなるな。皆と最後の時を過ごすとしよう。