真・恋姫†無双~夢空飛譚~   作:ジャックIOVE

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第三十九話

 

「それでいつ去るの?」

 

「軍の出陣の前日になる。」

「あら、思ったより遅いのね。貴方のことだから準備はしていると思ったのだけれど。」

 

「仕方あるまい。二つの準備を同時並行で行っているのだ。」

 

「あら殊勝なことね。」

 

私が離反することを華琳殿に告げた翌日。一日空けておけと命令された通りに空けてはいたのだが、私の了承がなければいけない案件も回ってくる。なので部屋で簡単な事務仕事を行っていたのだが……

少し資料から目を離し正面を見ると

 

「手が止まっているわよ。」

 

そう言いながら茶を啜る華琳殿が目に入る。その姿は誰もが見ても退屈にしているようには見えない。物珍しい者を見るような目で見ている。

 

「華琳殿は今日は何もしなくて良いのか?」

 

資料に目を通しながら尋ねる。

 

「えぇ、貴方と違って今日は空けといたのよ。」

 

「それならば私も空けていたとも。」

 

「今の貴方のどこが空けているのよ。」

 

机の上だけでなく机の下にも多くの書簡が置かれている。

 

「なに。これは後日でも良く誰がやっても良い雑多な作業だ。それを少し集めたに過ぎないさ。」

 

ただに暇な時間を過ごすことは性にあわない。なのでやっても問題がなく、やらなくても苦労をかけないようなものを集めたわけだ。まぁほとんどが私の隊の戦がおわったあとの装備や仕料の調達の確認だ。今はそれを手配するための書簡をしたためている最中なのだが。

華琳殿はそれをずっと見ている。かれこれこの作業を初めてからもう数刻は経っている。凪がいなくて良かった。凪は正直な性格だ、裏切る相手が目の前にいれば動揺が見えるかもしれん。華琳殿は予想はできているだろうがな。

 

「貴方は字が書けていなかった筈だけれど、達筆なのね。」

 

「確かにそうだ。だがとあるところで修行していたときこういった筆の扱いには慣れていたからな。」

 

「確か文字も読めなかった筈だけれど……」

 

「あぁそれは、良き先生が教えてくれたのだよ。懇切丁寧にな。」

 

最初は凪や秋蘭に教えてもらっていて、書類仕事は問題なかったのだが。それでは足りないと荀彧殿にしごかれたものだ。まぁ本や竹簡を多く読まされ模写をし間違えがあればいつもの罵詈雑言を吐かれるといったスパルタも涙目な教育方法だったのだが。

 

「成る程ね。良き先生に教えられたようね。にしてもやはり派手なものね。」

 

「そうだろうか?」

 

「ここは跳ねすぎ。何とか自身で調整して書いているようだけど文字には均衡があるのよ。」

 

「ふむ。そういうものか。」

 

「そういったものよ。」

 

「ではこうかな?」

 

「いえこうよ。」

 

というと私の筆をとり、正しい字を書き始める。書いている字は、とても綺麗なものだ。

 

「うむ綺麗だな。」

 

「そうでしょう。」

 

なんともそれが当たり前のように言う。流石は華琳殿完璧なものだな。そして武術にも、軍略にも通じている。あまりこういったことは言わないが彼女が正真正銘この軍の全てであるのだろう。しかもそれを関係性の深い者は愛で繋がっている。固いものだ。

この軍とはやりたくないものだな。

 

「また手が止まっているわよ。」

 

「申し訳ない。昼でには終わらすとしよう。」

 

「えぇそうして頂戴。昼食はもう予約しているのよ。」

 

「それは早く済ませなければな。というかいつもいる夏侯姉妹や親衛隊はどうしたのだ?」

 

「今日はおいてきたわ。貴女がいれば問題ないでしょう。」

 

問題はないのだが彼女らがどうなるか。彼女たちは愛で繋がり固いが、それがたまに傷となることも多くある。まるで信者のようになることがある。信者との決定的な差は明確な愛で繋がっているので暴動などはないだろうが、少し面倒なことにあうのも事実だ。何度罵詈雑言を吐かれ、何度斬りかかられたものか。

 

「まぁその点ではないのだが了解した。」

 

また連れてきてない理由としてはまだあるのだろうが。

そして、それから華琳殿は私の仕事が終わるまで何をすることなく見ているのであった。

途中で誰かが来たようだが華琳殿がいるのを察しどこかにいったようだ。恐らくは凪だろうな。

 

 

 

そして昼になり、昼食を取りに行くが場所は案の定いつもの店であった。

 

「いらっしゃい。あら曹操様、グラハム様。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」

 

そう言っていつもの女性に案内される。そしていつもどおりの注文を済ませ席に着く。

なにも喋らず時が進む。最初茶が運ばれ。それを口に運びながら待てばすぐに料理も運ばれてくる。それを食す。

 

「食べ終わったら買い物に付き合ってもらうから。それと貴方が行きたい所も決めておきなさい。でも私が楽しめない所は駄目よ。」

 

少し食べ進めた時期にそう話しかけてきた。

 

「買い物か……」

 

「何?不満?」

 

「いや、少し思っていたものと違ったのでな。これから死合おうと言われると思っていたからな。」

 

「失礼ね。私は春蘭ほど血気盛じゃないわよ。でも貴方が望むならしても構わないわよ。」

 

「いや、止めておこう。私が無事ではすまないだろうからな。」

 

「そうね。私も手加減できるかわからないもの。じゃあ早く食べましょうか。」

 

そしてまた無言のまま食べ始める。やはりその所作は美しいの一言だろう。恐らくは女性から見てもこの美しさは変わらないのだろう。その証拠に周りの女官や女の将などは皆華琳殿に尊敬以上の感情を持っている。そこで気に入られれば華琳殿の寵愛を受けることもできる。

だが一方男は周りに侍らせてはいない。親衛隊はあくまでも兵。他の関わることのある将や文官も周りの女性(主に春蘭、秋蘭だが)の圧によって皆仕事以外では近づこうとはしない。

そのような我等の主は今、周りに誰も侍らせず、天からきたとは言われているがただの将である男と二人きりで今日一日を過ごそうとしている。

何かある。そう考えざるを得ない。一日空けておきなさいと言われた時は華琳殿も何か予定がある上でのものだと思ったが……そうではない。この為だけに時間を空けてきている。やはり先に始末しようと……いや華琳殿ならば罪を公言しそれから私が逃げるか従うかを楽しむような少女。それはない。ならば何が狙いだ?いやここで考えすぎて怪しまれてはいけない。恐らく今日は最後まで付き合うこととなる。そこまでゆっくりと考えればいい。今は運ばれてきた食事を楽しむとしよう。

 

「今日も美味であった。代金は」

 

「いいえ。もう代金は受け取っていますよ。」

 

どうやら先に華琳殿が払っていたらしい。ここは年長者らしいことをしたかったのだが仕方あるまい。

 

「そうか。ではまた来させてもらおう。」

 

「はい。ぜひお待ちしております。それとグラハム様これを。」

 

そう言われ折り畳まれた紙を手渡される。

 

「成る程。すまない。」

 

「いえ。これからですよ。お願い申し上げます。」

 

「あぁ一度引き受けたのだ。約束は違わぬよ。」

 

そういい先に出ていた華琳殿と合流する。

 

「予定はすんだの?」

 

どうやら何かあることは予想していようだ。

 

「あぁ済んだとも。」

 

「そう。それじゃあ行きましょうか。」

 

といい連れてこられたのは

 

「うーん。どちらがいいかしら?グラハム貴方の意見を聞かせなさい。」

 

もちろん男性ものではなく女性ものの服屋ではあるのだが……華琳殿が持っているのはただの服ではない。手にしているのは下着である。私の時代ではブラジャーと言われていたものだが……この時代にも似たようなものがあるとは……

いや感心している場合ではない。

華琳殿は実際に自分の胸に当ててみて私に見せつけるようにしてくる。

 

「どうしたのグラハム?」

 

こちらを向く華琳殿。私は不意にあらぬ方向を向く。

 

「何よ。目線を反らして。私は貴方に聞いているのよ。」

 

これは何か言わなければ更に小言を言われるだろう。たしか手に持っていたものは白色の下着だったはず。

 

「似合うのではないか?」

 

「ならこちらはどうかしら?」

 

と今度は近くにあった黒い下着をとり、胸に当てる。

こういうことは、春蘭や秋蘭と共にやった方が楽しめると思うのだが……

だがここでどちらも似合うと言う私ではない。それは日本アニメーションにおいて学んでいる!

 

「ふむ。華琳殿であれば後者の方が似合うのではないか?」

 

「そう。ならこれを貰おうかしら。それから……」

 

といいまだまだそういった買い物はつづくのだった。

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくさまざまな店を回ったあと、夕食を適当に近場で済ませた。正直もっと良いところでも良いのではと思ったが華琳殿が言うにはあれで良かったらしい。豪勢なものでなく軽くですましたかったということだ。何かこれからあるのだろうか。また別の場所へ行くのだろうか?と考えていると。

 

「さぁ戻りましょうか。」

 

「了解した。」

 

といい暗くなりつつある道を歩く。

いつも通り我々は共に無言で歩いている。

この町の風景を見るのももうあと何回になるだろうか。町にこれ程長くいることはなかった。愛着が湧くのも仕方がないか。

 

「貴方、凪や栄華はどうするの?」

 

「凪はもちろん隊長の責務を果たさせて貰う予定だが……栄華殿はなぜだ?私の管轄ではないだろう。しかも裏切る身だ。別れの言葉など不要だろう。」

 

そうだ。私が決断したことはそういうことだ。どう憎まれようと構わんさ……その覚悟はできているとも。

そう、覚悟を示したのだが華琳殿はこちらをじっと見ている。

 

「貴方、やはり気付いてはいないのね。

ならそうね。少しこっちに来なさい。」

 

何故かと言ってはならないような雰囲気であった。なので大人しく近づくと、顔を引き寄せられ

 

「貴方は私に求めるべきものを気付かせてくれたわ。ならわたしも貴方が求めているものを気付かせてあげる。それは……」

 

 

 

そういった後二人の影は重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり彼も歪んでいるのね。」

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