「燈殿!」
「あらグラハム様どうかなされたのですか。」
栄華殿に夕食の誘いの承諾を行った後に燈殿のもとに訪れた。丁度良く一人でいた。やはり言わざるを得ないのだ。
「燈殿すまない。そして本当に感謝する。」
そう頭を下げる。礼をしなければ私の気がすまなかった。
深々と頭を下げる。
「あらあら。見てしまわれたのですね。」
少し避難するような言葉だが。口調は楽しそうなものだった。
「あぁ、見させて貰った。故の今だ。」
「そこまで頭を下げなくて良いのに。」
そう言ったので顔を上げると。燈殿は窓から見える空を眺めながら言った。
「私は当たり前のことをしただけ。彼に愛され、彼を愛しただけよ。もう少し娘には構ってほしかったけれど。」
「そうか……」
懐かしむような表情で清々しく言う。もう気持ちの整理はすんでいるのだろう。
「そして最後に渡されたのが貴方に渡した書簡なんですもの。我が夫ながら気が狂ったのかと思ったわ。来るかもわからない相手への手紙を残すなんて。」
確かにそれは家族の最後の別れとしては……
「でもそれ以前にたくさん貰ったから。満足してるの。」
そう笑顔で言った。
これが……私の目指すものか
「最後に会っていかれますか?場所なら教えてあげますけれど。」
「いや、今の私では会わせる顔がない。このような元隊長など見たくもないだろう。」
「そう。なら夫の昔話も帰ってきてからになるのかしら?」
「そうなってしまうな。すまない。」
「いえ、待つのは得意なの。夫からの告白も何年も待ったから。」
「その話しは是非とも聞きたいな。」
「あら趣味が悪いんじゃないの?」
「彼がどのような人生をおくったのか気になるのでな。」
話を聞いてさらに私の心は晴れやかになった。燈殿の顔を見てわかる。良き人生だったのだろう。
「では私の要件は済んだ。私は急ぎやらねばいけぬことがあるゆえ失礼する。」
と、早足で出ていく。
「そこまで急がなくても良いのに……
でも覚悟は決まったようね。
ハワード様、どうかそちらで見守っていてあげてください。」
「グラハムさん、入りますわよ。」
そう声をかけて入る。中に入ると
「な、何ですの!?この書簡の数は!?」
「おう栄華殿。もうこんな時間になってしまったか。」
グラハムさんが座っている机の周りには多くの書簡が丁寧に置かれていた。しかも全て本に使うような綺麗な紙が使われている。
「何を書いていましたの?」
「いや、戦の前に認めようと思ってな。今書き終えたところだ。すまんすぐ片付けよう。」
この量の書簡を誰に送るのでしょうか?お礼状であれば竹簡で十分でしょうに。でもグラハムさんならやりかねませんね。
「では食事の準備もさせましょう。入ってください。」
そう言うと私が連れてきた侍女二名を入らせる。彼女らは食事の準備をし始める。彼は書簡を運んでいる。まぁ部屋の隅に追いやっている。すぐに使うのだろうか。
そして私の近くには彼がいつも持っている剣?にしては細身のものが置かれている。いつもは二本あるのに今日は一本しかないが調整でもしているのだろうか?
そう考えていると食事の準備が終わる。侍女は下がる。
「ほう……これは……」
グラハムさんが料理を見ながらそういう。
「これは流流さんが作ってくれたんですの。」
「成る程いつもと切り方などが変わっていたからな。美味しそうだ。」
「では食べましょうか?」
「あぁ、そうするとしよう。」
そして数分で料理を食べ終わる。
「いや、美味しかった。」
「そうですわね。流石流流さん。」
「それで、栄華殿出立前日にこの場をもうけているのだ。私になにようかな?」
やはり気付かれてはいますわね。流石の観察眼といったところでしょうか。
「はい。朝からいえ、数日前からお顔が優れていらっしゃらなかったので何かあったのかと思っていましたが……今のご様子を見るに杞憂だったようですわね。」
そう、朝までの様子はどこへやら、この部屋に来てからのグラハムさんの表情はなにか憑き物が落ちたような爽やかな表情であった。
「ははは、やはりばれていたか……私は隠すのが苦手らしい。」
「まぁ、私以外も気付いているかたもいらっしゃいましたしそうかもしれませんわね。
それで何について悩んでおられましたの?」
そう言うと空気が変わった気がした。何も変わっていない筈なのに何か圧を感じてしまう。この空気は感じたことがあった。
試合の空気であった。
何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか?そう思っていると。おもむろに私の前に一つの書簡が置かれる。
「こ、これは?」
「読むといい。」
彼は優しい表情で圧はそのままにそう言った。
その中に書かれていることを大人しく読むことにした私の顔は驚愕が隠しきれなくなってしまった。
「離反ですって!!」
思わず叫んでしまった。その書簡には、離反すること何故離反するのか事細かくかかれていた。
「私グラハム・エーカーは曹軍を離れ漢に協力することにした。理由は今回の連合に義がないことである。話し合いなど何ももうけずにすぐに戦など全て私利私欲のためではないかと私は考える。平和のため宮中を血に染めた董卓のほうが義があるのではないかと考えた。その後塾考を重ねた上ここを離れることにした。これは私を曲げないためでありここの者たちが悪いわけではないのは知っていて貰いたい。この理由で納得しないものもいるだろう。正直わかるものではないと考えている。その場合は私をすぐに追いこの首をとって貰って結構。私が通る道の地図を簡易的に記しておく。だが、理解してくれるのであればそのまま送り出すことを期待する。いずれ帰ってくるまでさらば。」
そのように書かれていた。信じられない。彼が、グラハムさんがここを裏切るなんて……こんな争いの世の中そういったことは常ではあるけれどでも……
そんなことを思ったが書簡の最後の一文が気にかかった。
「これからは個人に当てての文のようなものとなる。読むも、捨てるも自由だ。」
そう書かれているのに私が渡された物には次がない。
「わ、私は……」
声がつまっている。足もくすんで動かない。
グラハムさんが立ち上がり立て掛けてあった剣を手に取る動かないと……!
そう思い動こうとするが
その剣は私の前に置かれる。
そしてグラハムさんは私の前でしゃがみ。
「私は、そこに書かれているとおりここから離れる。どう思ってくれても構わない。が……栄華殿貴女には誠意を見せなければならないと思った。」
思ってもない言葉がでている私たちを、裏切っておいて綺麗事をと落ち着くと思えてくる。しかし次の言葉がまた私を狂わせる。
「栄華殿に愛された私はこれぐらいしか返すことができない。」
「………っ!!」
「この私は裏切り者だ。よってその剣で私の首を今切ってもらが問題はない。」
そういい首を私に差し出し、私の手を取り剣の柄に運ぶ。
この男は愛されたことの返しに命を差し出してきたのだ。なんて残酷な人なのだ。私が愛していることを知っていて命を差し出している。それがどれだけ辛いことなのかを知らないのか。
柄を持ち剣を抜く。久しくもつ重さ。命の重さ。
裏切り者ならばお姉さまや皆のためにも斬らなければいけない。そうなのに私は……斬れない。
そこまで重たいものは背負えない。恋をした相手を殺すなど……
だから私は……
貴方を奪うことにしましたの。
私も歪んでいたのですね。愛を知らない貴方のように。
「華琳様!華琳様!」
「なに桂花?そんなに焦って?」
「グラハムが軍を出たと!」
「あら結局皆にばらしたのね。昨日でもうお別れかと思ったけれど……」
「それに凪もいなくなっています!これでは軍に影響が……」
「あ、それは大丈夫よ。問題はないわ。そろそろ来る筈よ。」
すると謁見の間に入ってきた、白髪赤眼の少女そして、乱雑に切ったであろう短い金髪、碧の目慣れない装備を身につけた者が華琳に近づく。
「グラハム隊準備整いましたわ。」
「そう。
ならば今からグラハム隊の総指揮は貴女に任せるわ
栄華。」
「は!」
「桜居も支援してあげて頂戴。」
「了解いたしました!」
そして彼女らは何もなかったように出ていく。
腰には誰かが身に付けていた2対の剣を腰にそれぞれかけながら。