キリトさんが現代のFPSに限りなく近いFPSをプレイしたらどうなるのかな?というふとした疑問から書いてみました。FPSゲームをプレイしたことない人にもわかりやすいように書いていくつもりですので、常識的なことへ文章を割くと思われますが、ご了承下さい。
――ガンゲイル・オンライン。
俗にGGOと略されるこのゲームは、プレイヤー達が銃と鋼鉄が支配する世界で最強のガンナーを目指し日や腕を競い合う
FPSという外部からは敷居が高そうなジャンルではあるが、実銃が登場しているためガンマニアやシューティングゲーム好きが集まり、GGOは通信料3000円を取る割にはかなりの人口を誇っているVRゲームとなった。
そんなGGOに、薄暗い一本道を1人で歩く大男の姿があった。
彼のアバターネームは《ヤマト》。背は190センチ以上あり、焦げた栗色の外套でその巨躯を包み隠している。
だが、唯一外に皮膚を露出させている顔に浮かんだ表情は彼の歩いている廃墟染みた光景のように落ち込んでいた。
今年24になるヤマトはFPS歴およそ6年のベテランだが、GGOの成績はあまり良いものではない。と言うのも、VRということを除いても、GGOは今まで彼がプレイしてきたゲームとは色が違い過ぎているからだ。FPSゲームと思いGGOを始めた彼だったが、その実態は剣と魔法が銃と光学銃に代わっただけで、本質的には彼の求めていた物ではなかった。尤も、それは彼の
今日もボスドロップで手に入れたレアな新武器を使うためにGGOの首都であるSBCグロッケンの地下に広がる最高難度のダンジョンに気まぐれで潜っていたのだが、どうやら新武器はお気に召さなかったようだ。
――重い足取りで総督府である
周囲の人間から見れば、ボロ布のような外套を纏い、死んだ目で空を仰ぐ大男の姿は、まるで戦争から帰ってきて自分を見失った兵卒のような姿だ。そんなヤマトに、赤い短髪の女性アバターが声を掛けてきた。
「何やってんの、こんな場所でさ」
「サクラか……」
焦点が合ってなかった目に光が戻り、声を掛けてきた赤髪の女性アバターに顔を向ける。
彼女は『ある事件』をきっかけに知り合ったヤマトの現実世界の友人で、GGOでは《サクラ》という名前で活動しているプレイヤーだ。背中には無反動砲の『カールグスタフM3』が掛けられており、体の前には
「ヤマトってさ、GGOだといっつも辛気くさい顔してるよな」
「まぁ、そう……だな。Mobモンスターを相手にしてる時は多分もっとマシなんだけど」
「ま、アンタの好きなジャンルとはちょっと違うからねぇ。――そんなヤマトに朗報があるぞ」
ニッと八重歯を見せたサクラの顔を覗きながら、ヤマトは眉間にシワを作りながら首をひねった。
「《
「バトルワールド、か……。昔やってたFPSと似てる名前だな」
「そりゃそうだ。開発チームが一緒なんだから。VRになってシステムが大幅に変わったのもあって、タイトルも変わったんだよ。でも安心しな、ゲームルールは昔のままだ」
それを聞いたヤマトはホッと安堵し胸を撫で下ろす。
また昔のように、仲間とともに縦横無尽に戦場を駆け巡る事ができるのだと思うと、懐かしさのあまり涙が零れそうになった。
「アタシも知ったの最近でさ、もうオープンβ開始から暫く経ってるみたいだけど、どうする?」
「行くに決まってるさ」
「言うと思った」
すくっと立ち上がると、ヤマトとサクラはほぼ同時にログアウトし、ポリゴン片が霧散するエフェクトと共にSBCグロッケンから姿を消した。
――そんな2人のいた空間を見つめる者が、1人いた。
目に付きやすい薄いブルーの髪は全体的には無造作なショートヘアであるが、額の両側から細い房を無機質な金属の髪留めで纏めている、印象に残りやすい髪型をした少女アバターの背中には、その華奢な体とは似ても似つかない大口径狙撃銃である『PGM ヘカートⅡ』が担がれている。
(バトルワールド、か……)
『
◇◆◇
「バトルワールド……?」
初めて聞く単語に、制服姿の黒髪の少年、桐ヶ谷和人は紅茶の入ったカップを置いて首を傾げた。
彼は史上最悪のデスゲーム、《ソードアート・オンライン》の75層で《ヒースクリフ》こと茅場晶彦の正体を見破り、見事討ち取ることでゲームをクリアに導いた『英雄』である《黒の剣士 キリト》の現実世界での姿だ。
彼は今、国の機関に務める役人から仮想世界での問題解決に協力を依頼されるようになった希有な人物だが、現実世界での彼はまだ16歳の少年に過ぎない。趣味でゲームも嗜めば、恋人と甘い一時を過ごしたりもするし、友人(特にSAOで知り合った仲間たち)とハメを外すこともある。
今から1週間ほど前、キリトはGGOで開催された第3回
その際に彼の
今日は死銃事件に関して――主に、新川恭二について――の事情聴取が東京都文京区の警察署であったので、その帰りにたまたま見つけた静かな喫茶店に詩乃が誘ったのだ。
総務省の役人、菊岡が銀座の店で奢るほどの物ではないにしろ、繊細で甘い生クリームが広がる詩乃の口の中でアクセントとして僅かな酸味を出してくれる苺の乗ったショートケーキは甘めの紅茶にとてもよくマッチしていた。
店は静かで、小さな音量で流れているジャズも心地良い。隠れた名店を見つけたと思いながら、詩乃は和人の質問に答えた。
「うん、そう。昨日GGOの総督府でそんな名前のゲームがオープンβテストをしてるって言ってる人がいたの」
「『フィールド』だったら知ってるんだが。昔大人気だったって言うFPSゲームがそんなタイトルだったはずだ。俺はプレイしてないけど」
「何でも、VRになってシステムに大幅な変更が施されたからタイトルを変更しただけって言ってたから、リメイクみたいな感じなんだと思う。その後寝る前に少しだけ調べてみたんだけど、昔のFPSに限りなく近いゲームなんだって」
詩乃の説明に、和人は「へぇ~」と興味深そうに頷きながら紅茶に口を付けた。
「つまり、あれか。俺もそのオープンβテストに参加してくれってことか」
「ん……っ!?」
考えを見透かされ動揺した詩乃は盛大にむせ返りその場で
「おいおい、大丈夫か?」
「……うるっさい!」
涙目で顔を上げて和人を睨む詩乃だが、如何せん自分が勝手に動揺してむせただけのためにそれ以上何も責めることが出来ない。しかし幸いだったのは、この店内にいるのが自分たちの他に店長の男性だけだったということか。
ふと詩乃がカウンターの向かい側でグラスを拭いている店長に視線を向けると、それに気づいた店長が暖かい笑みを送り返してきてますます恥ずかしくなり、瞬間湯沸し器のようにポンっと赤面し俯いて顔を隠した。
「……で、何でまた俺なんかを誘おうとしたんだ?」
そろそろ話を進めないと一向に核心に辿り着かないと思った和人は、俯いている詩乃にそう問いかけた。
詩乃は熱い紅茶を多めに口に含んでそれを一気に飲み干して気を落ち着かせてから、一呼吸置いて和人に向き直った。
「その……最近GGOにログインしてると、変な輩に後を着けられたりするようになってて…………」
「ストーカーか。確かに、BoBで優勝したし
和人と詩乃の仮想世界の
単純に、有名人を追いかけているつもりのプレイヤーなら害はないと思われるが、これが組織的なPKプレイヤーたちの情報収集の一端なのだとすれば、シノンが持っている『ウルティマラティオ PGM ヘカートⅡ』や『H&K MP7』を筆頭とするレア武器などを奪うためにシノンの行動パターンを記録している可能性がある。
いくらBoB優勝者と言っても、シノンは狙撃手として能力値を振り分けている。移動中を狙った
しかし、和人には分からない所が一点だけあった。
「それと俺を誘うのに、どういう繋がりがあるんだ?」
そう。ストーカーはあくまでシノンがされていることであり、キリトにはそういった心当りがないのだ。『護衛してほしい』という頼みならともかく、『一緒に別のゲームに来てほしい』というのは違和感がある。
「だ、だって、初めてやるゲームに1人で行くのって何となく不安だし……。それにああいうゲームって誰かと一緒にやる方が面白いから……」
「あ、何となくそれわかる」
和人自身、似た体験はつい最近もしている。
アルヴヘイム・オンラインのプレイヤーデータをコンバートして初めてGGOにログインした時、あの男なのか女なのか見分けがつかないアバターになって気が動転していたせいでかなり紛れていたが、自分の知らぬコミュニティに足を踏み入れる直前というのは特にMMOゲームの経験が少ない人ほど不安な気分にさせられてしまう。経験豊富な和人ですら僅かばかりは感じる。しかしそこから一歩前に出れば、見知らぬ世界への興味と期待が上回り、そんな不安など無かったかのように心が軽くなるのだ。
そして、ゲームというのは1人で黙々とプレイしていくのもいいが、誰かと冗談を交わし合ったり協力して先に進むのもまた面白いということも彼はよく知っている。だからこそ、和人はどうして詩乃が自分を誘ったのかやっと理解することができた。
詩乃は和人たちとは違う学校に通っている。そこでも友達はいるのだが、銃で敵を撃つゲームなどしているはずがなかった。
詩乃自身、女の子がこういうゲームをやっているのはかなり珍しいと自覚していることは和人も承知しているので、自分を通じて知り合ったアスナたちは誘いにくいことだろう。それに対し自分はGGOで協力し大敵を討ち取ったこともあるので、白羽の矢が飛んでくるのにも納得がいった。
「……まあ、俺も昔のゲームがどんな感じだったのかは興味あるし、いいぜ」
「ホント!?」
「ああ。となると、帰ったらすぐβ版のインストールしないとな。他にもちょっとやることがあるから、夜からでいいか?」
「うん。私も宿題や夕飯の準備とかあるから」
「なら、待ち合わせは9時にするか」
「それなら大丈夫。忘れないでね!」
ニコッと明るい笑みを送った詩乃は、満足気な表情で少し冷めてしまった紅茶を啜ると、ショートケーキをフォークで切って口に運び、またその絶品の味に頬を緩めてしまう。
和人はそんな詩乃の姿を見ながら、どうせ自分の奢りなのだから自分もケーキを頼んでおけば良かったと少し後悔するのだった。
◇◆◇
月の灯に照らされた闇夜のフィールドを、ヤマトは数人の仲間とともに駆け抜けていた。
木々の間を縫い、茂みに身を潜めつつ走り続けるその姿は、まさしく狩りをする狼そのものだ。
――が、彼らの足はほぼ同時に、突如として止まる。
空を切るローター音、月明かりを鈍く反射する黒鉄のボディと風防、そして――――自分たちに向けられた30ミリ
アメリカ軍の保有する攻撃ヘリ『AH-1Z バイパー』。低空飛行で20メートルほどの距離をホバリングしたそれは、ヤマトたちが散開するとほぼ同時に火を噴いた。
仲間の1人が直撃し、死体となった彼の体と装備はヤマトの前に吹っ飛んだ。
ヤマトは自分の装備を捨て、彼の装備を拾い上げると、すぐさま対戦車ランチャーを構え、機銃を放ち続けるバイパーの操縦席に狙いをつけ、引金を絞った。
バックブラストの轟音と爆風が、バイパーの機銃の音と着弾の衝撃にかき消される。
が、撃ち出された1発の無誘導弾はバイパーの正中を捉え、爆音とともに墜落し、炎上した。
「腕は衰えてないな、ヤマト」
「いや、相手のヘリが油断してくれてたからさ。上手いヘリ乗りだとあんなに上手くはいかない」
苦笑しながら仲間に答えると、そのすぐ後に視界に「あなたのチームの勝ちです」というポップアップが勝利BGMと同時に浮かび上がる。
チケット差は19。かなりの接戦であったことは容易に想像がつく。
チャットに『GG』と打ち、ヤマトは隣の仲間たちにはにかみながら口を開いた。
「さあ、次の戦場に行こう」
ぐだぐだした駄文に付き合っていただきありがとうございました。お目汚しですが、次回もよろしければご覧下さい。