キリトさんが戦場へ行くようです。   作:出川タケヲ

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第四話

 

 

 

 

「うおおおおお!」

 

 雄叫びを上げ、キリトはM16の引き金を絞った。眩いマズルフラッシュが靡く黒髪を照らし、銃口の先にいた兵士は彼に気づいた時にはもうキルされた後だった。

 ヤマト達に教わりながら着実に基本を身につけていったキリトは驚異的なセンスで成長していった。とは言っても、まだまだ新兵であることに変わりはなく、まだまだヤマトやサクラには遠く及ばないのではあるが。

 

 ――場を制圧し、拠点のゲージがこちら側に傾きだす。場所は敵本陣側に位置するE地点。広めのキャプチャーエリアと2階建ての建造物が3棟、囲うように建っているエリアだ。

 

 既に相手のチケットは10を切っていて、チケットの差はおよそ200。拠点も過半数を抑えているためにキリトたちの勝利は確実なものとなっていた。

 しかし、ここは敵の本拠点からも近い最前線。すぐにUS軍が奪還に動き、息つく暇もなく戦闘が再開した。

 

 とは言っても、敵が大勢迫り来る下のフロアはヤマトとサクラが抑え、キリトとシノンは二階から飛び出してきた敵を撃ち下ろす簡単な作業だ。敵が防衛する拠点の占拠よりは容易い。

 

 

『二人とも、外の様子はどうだい?』

「だいぶ減ってきました。もうあと四、五人程度です」

 

 キリトの隣で狙撃していたシノンが、無線でヤマトにそう答える。

 

 

「もう勝負は着きましたか?」

『流石にここから逆転はムリだろうね。でも、油断しちゃダメだよ。何があるかわからないから』

『まあ、ここでキャンプしてたらそうそう死ぬことはないさ!』

「ハハハ、そうですね」

 

 US軍の残りチケットは3。対するRU軍は211で、拠点も過半数を抑えている。この状況からの逆転はほぼ不可能と言っていい。

 

 敗色濃厚、かつ待ち伏せをされているとわかり、US軍の攻撃は勢いを失っていた。だが……ここで、誰もが予想し得なかった事態が発生する。

 

 

 外から、キリト達が立て籠もっていた建物の中に何かが投げ込まれた。それは凄まじい勢いで白煙を噴出し、瞬く間に室内に充満し、二階にまで達した。

 

 

(スモークグレネード……!)

 

 キリトが下の階の異変に気づいた、その時だった。

 

 三人の兵士が階段を駆け上がってきたのが見えた。だが、その見えた瞬間、隣にいたシノンが倒れた。

 

 

「えっ?」

 

 目を丸くするキリトだったが、彼がM16を構えようとするよりも早く、突然現れたUS兵はキリトの額を撃ち抜いた。

 

 仰向けに倒れながら、勝利のファンファーレとリザルトがキリトの視界に表示される。『あなたのチームの勝ちです』。

 

 

 

 ――しかし、キリトはその勝利を素直に喜ぶことができなかった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 BWは、試合が終わると1分間のインターバルを挟んで次の試合が開始される。その間に自分の成績を確認したり、装備の変更をしたりすることができるのだ。

 キリトとシノンは先程の試合でランクが6まで上がり、それぞれ新しいガジェットをアンロックしていた。キリトはグレネードランチャー、シノンはC4爆薬だ。

 

 二人はとりあえずといった様子で新しいガジェットを装備するためメニューを開いた。ガジェット枠は二つしかないのでさっきまで使っていたガジェットの片方と交換することになるが、二人は大して悩まず除細動器と双眼鏡を捨てた。

 如何せん、初心者のキリトはすぐに死んでしまうせいで除細動器を使う機会が少なくなる。シノンの双眼鏡も、スコープで遠くはくっきり見えるのであまり使う理由はなかった。

 

 シノンはこれで車両相手に幾分かは立ち回れるようになったため上機嫌であったが、それとは対照的にキリトの顔色は優れないものだった。

 

 

「どうしたの、キリト。浮かない顔して」

「さっきの試合の最後の連中がちょっと、な。何て言うか……動きが俺達と違いすぎてたんだよ」

「たまたまじゃない? スコアボードだとIDは中位よ」

 

 シノンはメニュー画面で最終スコアボードを表示して最後に二人を倒した相手のIDを確認する。BWではキルされると自分をキルした相手のIDなどの情報を見せられるので、自分を倒した敵がどのくらいの成績なのかもすぐにわかるのだ。

 

 

「いいやシノン、連中はヤバい」

 

 そう割って入ってきたのはサクラだ。その一歩後ろにはヤマトも控えている。

 

 

「アタシもヤマトも()()にやられた。スモークの展開時間、アタシらの位置や反応速度まで把握してやがった。恐ろしくこのゲームに馴染んでやがる。厄介だぜこういうのはよ」

「連中……? ってことは、まだ他にもいるんですか」

 

 キリトの問いかけに、ヤマトは無言で頷いた後、静かに続けた。

 

 

「見覚えのあるIDが三人いた。その昔、このゲームの前身であったタイトルでアジアチャンプになった日本チームの主力……つまり、プロゲーマーだった人達だ」

「プロ!?」

 

 キリトは思わずと言った様子で声を荒らげた。

 プロゲーマーと言えば海外で活躍しているせいで日本人には実感が薄いが、少ないながら日本国内にも企業と契約し収入を得ている人間は昔から存在する。

 ネット上で動画を投稿するなどしてタレントのような活動をしている人は数多くいるが、彼らとプロの間には決して埋められない溝がある。

 

 何キロも離れた敵の頭を撃ち抜く奇跡の一撃も、たまたま撃った砲弾がヘリに直撃するような偶然もない。

 基本的な動作一つ一つが、恐ろしく正確で速い。故に、真似をしようとしても真似できない。それがプロの動きなのだ。

 

 彼らは広告のために動画を投稿したりしていることが多いため、キリトも以前それを目にしたことがある。ハッキリ言って興味のないジャンルだったため内容はうろ覚えであるが、それでも、到底人間が操作しているとは思えないような動きだったことは覚えている。

 

 

「ログを見ると、彼らは途中参加……それも、試合が終わる数分前に来たみたいだ。それでこのスコア、SPM(分間スコア)は飛び抜けてるだろうね」

「システムが変わったと言っても、強い奴は強いんだな。厄介だ」

「立ち回りの勘ってのがあるからね。そういう嗅覚が鋭いんだよ、きっと」

 

 ハハ、と笑みを浮かべながらヤマトが言うと、彼はすぐメニューを開いた。操作からしてメッセージが届いたのだとキリトは悟る。

 だが、そのメッセージを読んだ途端、ヤマトの雰囲気が変貌した。そして、彼は凶暴に口角を上げながら、呟く。

 

 

「だめだなあ……次の試合も、勝ちたくなっちゃったよ」

 

 言い終える頃にはいつものヤマトに戻っていた。だが、一瞬だけ見せた闘争心溢れる表情は、キリト、そしてシノンとサクラも見逃してはいなかった。

 

 

「俺も、勝ちたいです!」

「当然じゃない、誰が好き好んで負けようとするのよ」

「ハハハッ、よく言ったぞシノン! そういうのは嫌いじゃないぜ!」

 

 豪気に笑いながら、サクラはシノンの背中を叩く。シノンは前によろけつつも、その表情は決して悪くない。

 

 

「ごめんね、勝手な都合に付き合わせちゃって」

「そういうのは言いっこなしですよ。だから、気を遣わないで下さい」

「そうだね……それじゃあ、行こうか!」

 

 1分間のインターバルが終り――――次の試合が今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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