プロレスこそが最強の格闘技?   作:ネコガミ

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第12話『山籠もりする少年とプロレスラー その2』

side:範馬刃牙

 

 

「よっ、刃牙君。元気にしてるかい?」

「ホキャァーーー!!!」

 

 笑顔で声を掛けてくる三浦さんに夜叉猿が威嚇をしている。

 

 そんな夜叉猿を見た三浦さんが困った様に苦笑いをしながら頬を掻く。

 

「えっと……刃牙君、その人が安藤さんでいいのかな?」

「えっ?あっ、うん」

「安藤さん、山小屋に住んでるって事はこの子の事も知ってると思うんですけど……この子、国から保護指定とか出てたりします?」

 

 保護指定?急にそんな事を言われて頭が混乱した。

 

「あっ、あぁ、出てるが……」

「うわっ、マジかぁ。そうするとケガさせない様にしないとなぁ。ほらぁ、怖くないぞぉ~」

「ホキャァーーー!!!」

 

 背中の大荷物を下ろすとそれからバナナを取り出した三浦さんは、バナナを夜叉猿に差し出しながらあやす様に話し掛けているけど、夜叉猿は警戒しているのか更に三浦さんを威嚇する。

 

「う~ん、どうしたものかな?そもそも何でこんなにこの子は興奮してるんだ?」

「「えぇ~……」」

 

 いや、どう見ても三浦さんを警戒してるじゃん。思わず俺と安藤さんは異口同音で声を出しちゃったよ。

 

「あっ!?」

 

 今まで威嚇をしていた夜叉猿が不意に三浦さんに跳び掛かった。けど三浦さんは事も無げに夜叉猿の攻撃を簡単に避けたり捌いたりしていく。……あんな戦い方も出来るんだ。

 

「こらこら、あんまりおいたをしちゃダメだぞ……っと!」

 

 しばらく夜叉猿の猛攻を避けたり捌いたりしていた三浦さんだけど、不意にタンッと何かの音が響くと同時に夜叉猿の身体がくの字に曲がり、三浦さんが拳を突き出した格好でいた。

 

 そして夜叉猿が地面に倒れて動かなくなると、三浦さんと夜叉猿の戦いが終わったのを理解した。

 

(見えなかった……)

 

 いつ攻撃したのかわからなかった。あれ、どうやってやったんだ?

 

「えっと、大丈夫だよね?」

 

 困った様に頭を掻きながら夜叉猿の様子を見る三浦さんの姿はなんか面白い。そう思ったらふと気付いた。身体の震えが止まっている事に。

 

「あぁ~……まぁ、大丈夫でしょ。安藤さん、何かこの子がここに来た理由とかに心当たりがあったりしませんか?」

「あっ?あぁ、おそらくは刃牙……というよりは勇次郎が関係していると思うが」

「勇次郎さんが?」

「あぁ、昔に勇次郎がそいつの番をな……」

 

 安藤さんがそう言うと三浦さんは天を見上げて頭を掻く。

 

「その頃の勇次郎さんは鬱憤が溜まってたんだろうなぁ……。えっと安藤さん、じゃあその番に関わるモノはあったりしませんか?」

「あぁ、ある」

「すみませんがそれを持ってきてもらえませんか?なんかこの子賢そうだし、もしかしたらそれが目的かもしれませんから」

 

 ドスドスと小走りで安藤さんがいなくなると、三浦さんはその場に座って片手に持っていたバナナを食べ始める。

 

「刃牙君も食べるかい?」

「えっ?えっと、いただきます」

 

 モソモソとバナナを食べながら思うのはさっきの三浦さんの夜叉猿の攻撃を捌いていた動きだ。なんていうか……そう、すごく綺麗だった。

 

「三浦さん、さっきの動き……」

「うん?あれかい?プロレスラーっぽくなかっただろう?」

「はい」

「あれは中国拳法の動きだよ。化勁って言ってね。主に相手の攻撃を流したりする技法ってところかな」

 

 バナナの皮をゴミ袋に入れた三浦さんが立ち上がる。

 

「その子も寝てるし安藤さんが戻るまで暇だから、軽くスパーリングでもして化勁を体験してみるかい?」

「っ!?はい!」

 

 急いで立ち上がった俺はジャンプしたりして冷や汗で冷えた身体を温める。

 

「ッシャ!お願いします!」

「はい、お願いします。よし来い!」

 

 三浦さんにパンチやキックを放つけど当たらない。片手で簡単に捌かれてしまう。受け止めるでも弾くでもない感覚……これが流すってやつかぁ。

 

 時折重心が崩れたところを軽く足を払われて転がされるけど、経験した事のない不思議な感覚が楽しくて仕方ない。

 

 どのタイミング、どの角度、どうやって流すのか。何度も体験して身体で覚えようとするが中々難しい。

 

「大事なのは型じゃなくて力の流れだよ。力の流れがわかる様になれば、流しの技術は意外と出来る様になるものさ」

 

 三浦さんの言葉を素直に受けて自分と三浦さんの力の流れを意識する。

 

(……っ!?こ、これかぁ~)

 

 言い表し難い何か、それが俺と三浦さんに目まぐるしく流れてるのがなんとなくわかる。

 

「う~ん、そう簡単に掴める様なモノじゃないんだけどなぁ」

 

 そう言って三浦さんは苦笑いをする。何でだ?

 

「それじゃ今度は身体を使った流しを見せてあげようか」

 

 そう言うと三浦さんは俺のパンチを受けた。けど、殴った感触がほとんどない。

 

「何だろ?力が三浦さんの中に入っていかない?」

「うん、良い感覚をしてるね。もう少し続けてみようか」

 

 パンチだけじゃなくキックも放つけど、どれも当たっても当たった感触がほとんどない。

 

 そして胸に向けて放ったパンチの1つを受けた三浦さんは、その場でクルリと回転したと思ったら肘でのカウンターを寸止めしてきた。

 

「これは耐えないのがポイントかな。耐えないって意外と難しいんだよ。人は自分に向かってくるものに対して本能的に反射を起こしやすいからね」

 

 三浦さんの言葉がほとんど聞き取れない程に直前の三浦さんの動きに衝撃を受けていた。その衝撃のおかげなのか自分の中から戦いのイメージが沸き上がってきて止まらない。親父の攻撃を無力化しながら反撃のカウンターを放つイメージが。

 

「み、三浦さん!今のもう一回!」

「いいよって言ってあげたいけど残念。安藤さんが戻ってきちゃったね」

 

 そう言った三浦さんが指差す方に目を向けると本当に安藤さんが戻って来ていた。思わず睨んでしまう。

 

「おっ?刃牙のやつどうしたんだ?」

「いいところを邪魔されておかんむりってとこですかね。それで、それがそうなんですか?」

「あぁ、これがそいつの番の遺骨だ」

 

 安藤さんは手に持っていた布にくるまれた物から丁寧に布を外していく。そして布が外れて遺骨が露になると、夜叉猿がガバッと上体を起こした。

 

「君が探していたのはこれかい?」

 

 気絶前の興奮が嘘の様に大人しい夜叉猿は、三浦さんが差し出した遺骨を大事そうに受け取るとゆっくりと去っていった。

 

「そうだ安藤さん、今日泊めてくれませんか?」

「あん?今日と言わず幾らでも泊まってけ」

「いや、学校がありますので明日帰ります」

 

 明日帰るのか……三浦さんは真面目に学校に行ってるんだな。

 

 その後、山小屋に移動して荷物を下ろした三浦さんとスパーリングをして1日過ごした翌日、山に入ってからの日課になっている朝の薪割りをしようと外に出たら夜叉猿がいて驚いた。

 

「おわっ!?……って、えっ?くれるの?」

 

 地面にあった息の無い熊に気付くと、夜叉猿はニカッと笑って熊を押し出してきた。

 

「おぉ~熊かぁ。夜叉猿、ありがとな」

 

 山小屋の中から出てきた三浦さんがそう言うと夜叉猿は一鳴きしてから去っていった。

 

「三浦さん……夜叉、いいやつだね」

「そうだね。さて、こいつを裏に運んで安藤さんに解体してもらおうか」

 

 そう言うと三浦さんは熊を軽々と肩に担ぎ上げた。……プロレスラーってすげぇな。

 

 

 

 

 安藤さんに熊肉の燻製をもらってホクホク気分での帰り道、山を降っている途中で不意に覚えのある気配が横に並んだ。勇次郎さん来てたんだな。

 

「消力か……使い手を見たのは初めてだ」

「俺の師父も使えますよ。まぁ、攻めの消力はともかく受けの消力はプロレスラーっぽくないので、めったには使いませんけどね」

 

 実は刃牙君に身体を使った化勁をやってみせている時に消力も混ぜていたんだけど、刃牙君は気付いた様子がなかった。まぁ、むしろ気付いた勇次郎さんがすごいんだけどね。

 

「それで、勇次郎さんから見て刃牙君の成長はどうですか?」

「まだまだだ」

 

 そう言う勇次郎さんだけど悪くはないといった雰囲気を感じる。素直じゃないなぁお父さん。

 

「あっ、そうだ。安藤さんから熊肉の燻製をもらってきたので、一緒に食事でもどうですか?」

「ふんっ」

 

 これはOKの意味での返事だな。よしっ、たっぷり食うぞぉ。

 

 山を降りると出口でストライダムさんがジープに寄り掛かって待っていた。いつもお疲れ様です。

 

 その後、勇次郎さんとストライダムさんと共に以前に行ったホテルで熊肉を中心にジビエ料理をたっぷりと堪能した。

 

「あっ、勇次郎さん。この余った熊肉の燻製を江珠さんへのお土産にしてください。お酒も進みそうですし、一緒に楽しんでくださいね」

「ふんっ」

 

 これは了解の意味での返事だな。夫婦仲が良い様でなによりです。




これで本日の投稿は終わりです。

なんか勇次郎がコミュ力不足なツンデレキャラな感じになってしまったが大丈夫だろうか……?

また来週お会いしましょう。

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