「三浦さん、俺の下段蹴りを止めたアレですけど、何ですか?すっげぇ痛かったですけど」
「あぁ、斧刃脚のことかな?」
克己君との組手が終わった後、俺と克己君はシャワーを浴びてから鎬先生の所へ行き、それから独歩さんの案内で見覚えのある料亭で飯を食い始めた。
そして飯を食い始めると克己君から質問攻めにあっている。それに俺が答えるんだけど克己君の好奇心は中々収まらない。
「サッカーのサイドキックみたいな形で踵を使って蹴るから一見地味なんだけど、使い手によっては一撃で相手の脛を砕くことも出来る技だね」
「そして克己相手に使ったみてぇに迎撃にも使える代物ってな。他にも応用がありそうだな?」
独歩さんは時折こうして注釈を入れてくれたりするけど、だいたいは克己君同様に好奇心を満たしにくることが多い。
強さに対する貪欲さは筋金入りのものを感じるね。
「えぇ、サッカーのトラップみたいに相手の蹴りの威力を吸収した後に、そのまま相手の足を踏んで崩したりもしますね」
「なるほど?」
二人は箸を置くと立ち上がって座敷の端っこで動きを確かめ始める。それを尻目に俺は箸を進める。うん、美味い。
「ちょっと失礼」
「折角食ったのを戻すんじゃねぇぞ。そんなんじゃ身体を作れねぇからな」
「言われなくてもわかってるよ」
しばらくすると限界まで食べたのか克己君は苦しそうに席を立った。
克己君が座敷を出ていくと独歩さんがため息を吐く。
「あいつは食が細くていけねぇ」
「頑張って食べた方だと思いますけどね」
「俺が若い頃には酒を飲んで胃をバカにしてたらふく食ったもんだが、立場上そうするわけにもいかんのがなぁ」
「猪狩さんも同じことを言ってましたね」
「食わにゃ強くなれねぇからな。空手に限らずプロレスに相撲と、日本の格闘技界じゃ少なからずあったやり方だな。まぁ、今の御時世にそれをやってバレたらうるせぇからなぁ。やりたくてもやれねぇのが現状だ」
だからこそ一度の食事で済ませず何回にも分けて細かく栄養補給をするやり方が現代の主流なんだけど、幸いと言っていいのかわからないが俺は猪狩さんと会ってからは量を食うに困ったことはない。
「それで良意、どうよ?」
なんで猪狩さんといい独歩さんといい主語が抜けるのかな?まぁ、勇次郎さんと比べたらわかりやすいけどさ。
「端的に言って天才ですね。師父が言ってた種類に分別するなら『思念』の天才ってところかなと」
「種類?」
「えぇ、師父が言ってたんですけど、武の道には主に3種類の天才がいるそうです」
食後の焙じ茶を飲んで喉を潤してから言葉を続ける。
「『身体』の天才、『感』の天才、『思念』の天才の3種類の天才です」
「なるほど……確かにそうかもしれねぇな」
身体の天才は文字通りに恵まれた身体を持った者のこと。感の天才は身体操作や力の流れ、意識の感知等に優れている才を持つ者のこと。そして思念の天才は……イメージをする才能に優れている者のことだ。
身体と感と比べて思念?となる人が多いが、イメージが人の身体に与える影響はかなり大きい。まぁ、実体験してみないと理解や納得がしにくいけどね。
「組手の後半で迎撃が多かったのは克己の才が理由か?」
「はい、今はまだ大丈夫そうですけど、イメージのコツを掴んだら自身の耐久力の限界を超えた一撃も放ちかねないかなぁって」
「それほどか……俺も克己は天才だと思っちゃいたが」
そう言うと独歩さんは腕を組んで唸り声を上げる。
「組手の後半の方が明らかに克己君の動きにキレがありましたからね。ああいうメンタルにパフォーマンスを左右されやすいタイプは思念の才を持った者の場合が多い……って、これも師父の受け売りですけどね」
「お前の師匠は随分と物知りだなぁ」
「130歳を超えて尚も現役の中国拳法家の妖怪爺ですよ。あれ?もう140いってたかな?」
老いてもなお盛んどころの話じゃないもんなぁ。なんせ100歳を超えて子供作ったりしてるしあの師父は。春成さんは元気にしてるかな?
「とりあえずは克己にもっと部位鍛練をさせるしかねぇか」
「それが一番いいですね」
「素直に言うことを聞けばいいんだがな」
そう言ってつるりと頭を撫でる独歩さんだが、あまり不安には思ってなさそうだ。今日の組手に手応えを感じてくれているんだろう。
克己君も戻ってきてそろそろお暇しようかという頃、ピシャッと勢いよく座敷の戸が開けられた。
その開けた人物は……。
「……独歩!何故儂に報せん!?」
徳川の爺様だった。
独歩さんに目を向けると面倒だと思っている雰囲気なのがわかる。
「いやいや、今日は政府のお偉いさんと会談だとかおっしゃってたじゃないですか」
「そんなもん後回しで構わん!」
「いやいや……」
あーあー、独歩さんも面倒な人に捕まっちゃったなぁ。
ご愁傷さまと思いつつふと思い付いたので克己君に声を掛ける。
「克己君、夏休みの予定は空いてるかい?」
「はい?空いてますけど」
「それじゃパスポートはあるかな?」
頷いた克己君に俺はニッと笑顔を向ける。
「それじゃ俺と1ヵ月の海外旅行と洒落こもうか。もう1人誘うつもりだけどね。あっ、旅費とか諸々の金は俺が出すから心配しないでいいよ。アメリカと中国に行く予定だから、親しい人にお土産のリクエストだけ聞いておいて」
そう告げると克己君はポカンとしたが、面倒な徳川の爺様に捕まる前に克己君を連れて逃げるのだった。
独歩さん、ゴメンね♪
これで本日の投稿は終わりです。
感想返しが滞っておりますが読まさせていただいております。いつも書き込みありがとうございます。
また来週お会いしましょう。